8.シュノンソー城 |
霧に煙る中、高くそびえる並木の間を歩いて行くと、2匹のスフィンクスに守られたシュノンソー城は川の上に佇んでいた。
川面には館が映り込み、広い庭には丁寧に刈り込まれた木々の回りに、華やかに咲きそろった春の花花が植えられていた。庭のむこうに有る小屋は、といっても随分立派な建物だけれど、以前読んだことの有る池波正太郎のエッセイに添えられた自筆のイラストに描かれたものに違いない。門から館まで真っ直ぐ続くアプローチは先が見えず、両側には広大な敷地が拡がっている、にもかかわらず館は川の上。まことに不思議だ。しかし、設計者は端正なその姿を川面に映したいが為にわざとこのような工法をとったのかと思うほど美しい。
華やかな屋内は外観にも劣らないが、地下に有る厨房や兵士達の食堂は更に興味深い。400年以上も前に作られたとは思えぬ合理的、能率的な設計は今でも直建築誌のグラビアを飾れそうだ。
9.ツールからシノン |
ツールの町は近代化が進んで、遠くから見てもモダンな建物が並んでいるのが見える。それでも、町の中心に行ってみれば大聖堂の高い塔が見えてきた。
小さいながらも城も有り、聖堂の回りは歴史のある落ち着いた町並みだった。そろそろ昼も近づいてはいたがまだ少し早い。それに今まで比較的町中のレストランで食事を取っていた。ここはひとつ田舎の家庭料理を食べてみたいな等と思い車をさらに西に向けた。
次なる目的地はシノン城、わざわざ地方道を通ってゆくことにする。
しばらく行くと小さな村に通りかかった。役場らしきものにインフォメーションのマークを見つけたので何の気無しに寄ってみると閉まっている。なあんだと思いながら車に帰ろうとすると、初老のおじさんが英語で話し掛けてきた。で、しばらくこのあたりのことを教えてもらった。シノン城への道や由来、シノンワインのことなどなど。面白そうなので、シノンを尋ねた後、近くのクラヴァンという村に行きワイナリーの見学としゃれ込む事にした。
そのおじさんに礼を言った後、走り出してすぐいかにも田舎のレストランというか食堂を見つけた。ボードに本日の定食60フランと書いてあった。やけに安いなと思いつつ中に入ってみるとご近所らしき人々が食事していた。ワインをのみつつみな同じ物をたべているようで、しかもうまそうだった。
ムニュをたのむと頼みもしないのにどんとワインと水が出、ついですごい量の前菜が。これがやけにうまい。みんなでワインをがぶがぶ飲みながら食べてしまうと、主菜がどん、付け合わせがどん。
鳥を煮込んだものらしいが味わい深くてとってもうまい。奥を見るとサーヴしてくれてる奥さんらしき人が一生懸命作っていた。ワインが空になるとすかさず新しい瓶がどん。さらに様々なチーズとデザート、コーヒーをいただくともうお腹はぱんぱんになってしまった。でお勘定をお願いすると、本当に一人60フラン。あのワインから何からみんな入っているらしい。どうせお互い良く分からないが、あちらはフランス語、こちらは日本語とフランス語ちゃんぽんで話していると何と無く分かってくるから不思議だ。せいいっぱいごちそう様を言って店を後にした。
10.シノン城そしてアンジェ |
正直に言うとちょっと酒気帯び運転をしてしまった。いや、もちろん主に飲んだのは女性陣だが、これはいけないと思いつつ慎重に運転することにした。
先ほどのおじさんの教えに従い、車のいない道をとことこ走るとすぐにシノンの町に着いた。立派な駐車場があるが車は2〜3台しか駐まっていない。城に行くと城門のアプローチの橋の下に投石機が置いてある。門のある塔以外は少し荒れており、激しい戦いの後をほうふつとさせる。
ジャンヌダルクゆかりのこの城はこのあたりに多いシャトーと違いきらびやかさはなく、いかにも実用的な城だった。それだけに見晴らしは良くシノンの町並が隅々まで見渡せる。川のほとりに広がった尖った屋根の町並みは、まるでブリューゲルの絵の様でいつまで見ていても我々をあきさせなかった。
しばし、シノンの街を散策した後、クラヴァンの村を目指した我々はフランス語に苦労しつつあちこち尋ねてまわり、一軒のワイナリーを紹介してもらった。おとなしそうなそこの若主人は快く見学させてくれ、生まれてはじめてテイスティングなるものを経験させてもらった。ここは赤専門で、何種類か味わったうち一番美味しく感じたのはやはりその若主人のおすすめと同じものだった。さっそく帰りの荷物のことも考えず6本ほどわけてもらった。
そろそろ夕方も近づいたので今夜の宿はアンジェに取ることに決め、途中ソミュール城などにも心動かされつつ先を急いだ。
アンジェは古い城壁の残る、中規模の居心地の良い街で、インフォメーションで予約してもらった最新設備のアメリカンタイプのホテルで久しぶりにアーバンな夜を楽しんだ。