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グルマン・ピュスのレストラン紀行


ラ・フェロヌリ (La Ferronerie)

先週の月曜日、授業が終わって嬉々として外に飛び出し、すぐ近くの「ラ・フェロヌリー」へと急いだ。お腹を「ラ・フェロヌリー」モードにして店に辿り着くと、[改装工事のため休業中。10日にオープン]と、そっけない張り紙が一枚。

う、嘘でしょ、、、。がっくりと肩を落とす。完璧に「ラ・フェロヌリー」体調でやってきたのに、ひどすぎる、、、。絶望感にとらわれつつも、「マチュ・ピチュ」に場所を変えてお昼。久しぶりの「マチュ・ピチュ」も美味しかったよ、相変わらず。でもねでもね、「ラ・フェロヌリー」にいけなかったショックは大きかったよ。

ようやく「ラ・フェロヌリー」の工事が終わった、翌週の月曜日。先週よりも更にお腹を整えて、店へと足を運ぶ。

salleおお、やってるやってる!1時を過ぎた小さな「ラ・フェロヌリー」は満員御礼。先週一週間、イライラしながら待ちあぐねていたんだろうなあ、みんな。席が空くのを待つ間に、カルトを吟味。ブッフ・ロティやアニョーのカレー風味などに心を引かれながら も、前回目をつけていたmagret「マグレ・ドゥ・カナール、黄桃添え」に決定。

「OK、席用意できたよ。どうぞ」1人で忙しそうに立ち回っているセルヴールの手招きで椅子に座る。

くうぅ、やっぱり旨いよ、ここ。美味しい、っていうより旨い!柔らかく、かつ程よい歯ごたえも残る鴨の胸肉は、噛むほどに肉汁が口の中に広がり、深いコクを残す。甘く焼かれた黄桃がこのコクに絶妙にマッチ。ガルニのグラタン・ドゥフィノワは、ジャガイモのホクホクの甘さにニンニクの香りが溶け合って、これがまた傑作!くうぅ、本当に旨い。

なんてことないカラフの赤ワインが、またよく合うんだ、これに。先週一週間のストレスがじわじわと解消されてゆく。

デセールは、「ポワールのクラフティー」。いかにも、家で作りました、って言う感じのクラフティーは、生地の部分が美味しいな。

すっかり満足して、席を立つ。

「この間一緒に来た子は元気?彼女は来ないの?」とセルヴール。
「元気よ、彼女。この前、来たんでしょ?今度ジャズバーに一緒に行くことになってるんだって?」
「そうなんだ。近いうちに行こうね」
「OK。また今度一緒に来るわね」
「待ってる。じゃ、近いうちにね」
「うん、あ、近いうち、じゃなくって、明日のお昼、また来るの、私。席、予約した方がいい?」
「昼でしょ?必要ないよ。じゃ、また明日ね」
ウインクで送り出してくれるセルヴールにバイバイして、満ち足りたお腹と心を抱えて外に出る。

で、翌日火曜日。

小雨が降る中、「ラ・フェロヌリー」に到着。
「やあ、いらっしゃい!またあの友達と一緒じゃないんだ?」
「彼女は、お昼、忙しいの。実は昨日、彼女と一緒にご飯だったんだ」
「え?なんでここでじゃなかったの?」
「だって、、、」
「なんてこった!ここで食べなきゃ駄目じゃないか!」
「すみません、、、。近々、また来ます、、」

昨日より数分早い到着の今日。私たちが席について5分後には満席。10分後には、ウェイティング客が5人ほど現れた。店内はワイワイガヤガヤ大賑わい。昨日はなかった「ジャンボン・ペルシ」をアントレに半分ずつ分けて、「ブダン・ノワール」をプラにする。

「どうしてこのレストラン、知ったの?」とお隣のご夫婦。
「ゴーミヨで見つけたんです」
「目がいいわ、あなた。ここを見つけたのは掘り出し物よ!」
最近、イングランドのガイドブックに載ったらしくってアングレ(イングランド人)が多くなった、とつぶやくマダム。そういう訳だったのか。いつも、このレストラン、英語が飛び交っていて不思議に思ってたんだ。いかにもフランス人しか来ない、って感じの小さな普通のビストロの雰囲気でたくさんの英語を耳にするのは面白い。

「エ・ヴォアラ!ボナペティ!」ウィンクしながら、アントレの「ジャンボン・ペルシ」をテーブルに置く、セルヴール。半分に切り分けて、嬉々としてカトラリーを手にする。

はあぁ、、、。ほんっとに美味しい、この、ハムとパセリのゼリー寄せ。昨日はまだ、仕込んでなかったらしくカルトに載っていなくて、がっかりだったけれど、今日まで待った甲斐があったよ。パセリの香りの高さ、ハムの味の深さ、ゼリーの濃さ。パーフェクトですね!

boudinプラのブダンも、ブラヴォ!真っ黒な血のソーセージはちょっと癖があるけれど、私はこの味が結構好き。しかも「ラ・フェロヌリー」のブダンは、これまた旨いんだ!添えられたジャガイモのピュレも素朴ながら絶品だし、ブダンのお約束、リンゴのソテーもなかなかお上手。

「んんーん、、、」と、この日何度目かの満足の溜息をついていると、同じ物を食べていた反対側のテーブルの人たちが、
「おーいしいよねー、これ。最高だよね!」と幸せそうな笑顔を向けてくる。
「ほんとに、美味しいですよね、ここ」と私も幸せな笑顔をお返し。

デセールは、「ババ・オ・ラム」。苺のソースを敷かれたお皿にババが2切れ。「ラムは好きなだけ、かけろよ」と瓶がそのまま置かれる。ドボドボドボとふりかけて、ババをつつく。まあまあ。このレストラン、料理の美味しさに比べて、デセール、駄目なんだよね。元々がお料理のシェフが、片手間にデセールもやってます、って感じかな。

料理の名前を見た限りでは、どこの家ででも作るような、いわゆる典型的な家庭料理たち。この家庭料理をとてもとても上手く作ったものが、「ラ・フェロヌリー」の料理だ。素朴この上ない小さなサルでの、素朴この上ないお料理達だけれど、文句無しに旨い!

ここ、本当に名店だよ。

お昼の食べ過ぎで、夕食はパス。9時過ぎに、おしゃれして、オテル・リッツの「ヘミングウェイ・バー」に飲みに行く。ここのバー、大好き。従業員も楽しくてプロ意識を持ったセルヴィスをしてくれるし、雰囲気もとってもいい。リッツの中を通っていけるのがまたいい。

お昼の延長線で、今夜はラムベースのカクテルに限定。果物をたくさん使ったエキゾチックな甘目のもの、次いで、お気に入りの、カネル(シナモン)とミエル(蜂蜜)を使った強めのもの。大ぶりのグラスにバラやランをあしらって作ってくれる美味しいお酒を堪能しながら、カウンターで楽しいお喋りの時間が流れる。

ホテルを出てコンコルドまで歩く。パリで一番好きなこの広場は、いつもながらに光のきらめきに溢れている。広場の向こうに赤く光るエッフェル塔の灯が、ふ、と消える。え?ああそうか、もう1時過ぎなんだ。

楽しい時の過ぎるのは本当に速い。


lun.10 mar.11 mai 1999



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