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グルマン・ピュスのレストラン紀行


テラス・ミラボー(Terrasse Mirabeau)

料理のイメージとはちょっと違う、シックな店内久しぶりに会った友達が、なかなかいい感じの店がオープンしてるんだ、とランチに連れて行ってくれたのは、シックなカルティエ16区。セーヌ川に程近い広場に面した、界隈の雰囲気に馴染む、品のよい落ち着いた店。実力派シェフ、ミシェル・ロスタンのビストロで8年間シェフを務めたピエール・ネグレヴェルニュがオーナーシェフ。寒い寒い寒い寒い、ほんとーに寒い昼下がり、ハラハラとというよりはドサドサと風に吹かれて舞い落ちるプラタナスの葉を眺めながら、体の心からあったまる、おいしいお料理をいただく。

伝統的な、ビストロで出てきそうな料理を、自分なりに解釈して軽い味に仕立てる。というのが、シェフ・ピエールのヴィジョンなんだそうだ。なるほど、カルトに載る料理は、鶏レバーのテリーヌ、根セロリのサラダ、鶏のクリーム煮など、ほっこりした懐かしさを感じる皿が多い。シェフの一押しという、「鴨のパテテリーヌ」と「仔牛胸肉の煮込み」をいただく。

鴨のパテテリーヌ。仕事は丁寧かつ誠実、あっさりとおいしい!どこの総菜屋にもありそうな、鴨の肉とフォアグラのテリーヌをパテに包み込んだ1品。見た目はなんてことない作品なのだけれど、上品な肉の味といいきっちり焼きこまれたパテの出来具合といい、なんとも言えない奥深い味わい。こういうクラシックを、確かな腕を持って誠実においしく作ってくれる料理人さんて、そういえば少なくなったよね。上出来!

トロントロンの仔牛のむな肉見るからにおいしそうな姿をして、すごぶるいい匂いを立てながらやってきた仔牛ちゃんも、アントレ同様、シェフの誠実さと生真面目さがよーく分かる料理だ。ナイフが必要ないくらいに、トロントロンに柔らかくなった仔牛は、後でシェフに聞いたところ、10時間以上も煮込むんだと。歯に当たるか当たらないかくたいでホロリと崩れ、ねっとりした脂としっとりした肉が口の中でおいしく融合する。傑作!つけあわせが、いろいろぐちゃぐちゃしてなくてニンジンの煮込みだけ、というのも好感が持てる。大好きなニンジンを嬉々として頬張りながらも、大大好きなジャガイモがピュレになって添えてあってもいいかな〜、なんて、ついつい考えてしまうが、量的にはこれで丁度ピッタリ。ピュレはまた、他のところで食べればいいよ。

プリンちゃんはおいしい。ケークちゃんはまずい。おやつは、「クレーム・キャラメル」。プリンですね。古風な密封瓶に入れて焼かれたプリンは、優しく甘くとっても好み♪下にしいてあるカラメルが焦げていなくて透明に近いところも、なんともいいなあ。添えられているカトルカー(パウンドケーキ)は全然おいしくないけれど、プリンがこれだけおいしいので、全然問題なし!味見させてもらった、プージョランのパンを使ったパン・ペルデュ(フレンチ・トースト)もなかなかのでき。アツアツに、ヴァニラアイスクリームを添えていただくのは、かなり幸せ。

素材、味、形、テクニック、全てにおいて、いわゆる奇抜だったり才気ばしっていたり、興味深かったり、個性的だったりする点は全くといっていいほどない。でもそれが、シェフ・ピエールの人柄なんだろうな。これ!といって特徴がない料理を、シェフ自身は、こんな方向性で本当にいいのか?でも僕にはこれしかできないし、、、と、ちょっぴり不安に思っているのを、「いいんだよ、こんな方向性で!すばらしいよ!変わらないで!」と、友達と2人、シェフのモラルを盛り上げる。

控えめで分かりやすく、そして、どこまでもしみじみおいしい。そんな素敵な家庭料理的な作品を、クールシックな空間でいただくミスマッチ感が、これまた魅力的。
「テーブル、クロスがかかってないのがまた素敵。空間によくあってる」と言うと、
「ほんと?嬉しいな。クロス、かけたほうがいいって、みんなに反対されたんだけど、絶対に使いたくなかったんだよ」とシェフ。

心温まる気取らないおいしい料理と、洗練された空間とサーヴィスをあわせもつ「テラス・ミラボー」。ご馳走様でした、とてもおいしかったです。またぜひ、食事に来ます!


mer.17 nov. 2004



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