homeホーム

グルマン・ピュスのレストランつれづれ


ゴー・ミヨ 2000年 評

色も形もちょっと変わった、「ゴー・ミヨ」2000年の発売日です。

忙しくて本屋にも行く暇がなかった金曜日。日付が変わった夜中過ぎ、シャンゼリゼのヴァージンまで行って、ようやく購入。眠たい目をこすりながら、明け方近くまで、辞書を引き引きページを繰る。

millauさて、どこから話しましょうか。やっぱり、今年新しく出来た項目から、かしら。料理のみを、20分の幾つ、で評価をする「ゴー・ミヨ」の最高点は19点。以前は19.5点、というのをつけていたけれど、数年前から19点を以って、最高ランクとしている。そんな「ゴー・ミヨ」が今年は、《トック2000》という項目を作り、18件を挙げた19点レストランの中でも、全ての面において限りなく完璧に近い店を9件取り上げている。

ピレネーの麓、 美食の粋を極めたような、崇拝してやまないゲラールさんの「レ・プレ・ドゥージェニー」モンテカルロにふさわしい、華やかで優雅そしてゴージャスな、世紀末の寵児デュカスの「ル・ルイ・キャーンズ」恐ろしいまでに完璧な料理を実現する、同じデュカスのパリの店「アラン・デュカス」神々が食するにふさわしい作品を作り上げる、ベルナール・パコーの「ランブロワジー」高度な技術とセンスが光る「ギ・サヴォア」美食の地方アルザスでひときわ輝く、確固とした技術で王道をひたはしる、ウェスターマンさんの「ビュルイーゼル」とにかく美味しい、混じりけなく美味しい、誰が食べても美味しい、リヨン近郊ヴォナ村の「ジョルジュ・ブラン」行きたい思いは募るばかりの、ブルターニュきっての美食の殿堂、香辛料の魔術師「オリヴィエ・ロランジェ」有名は有名。食べに行った事はないけれど、そんなに行きたくもない(笑)、“星に憑かれた男”ロワゾーさんの「コート・ドール」

初めの4件については、今更言いたいことは何もない。料理のみならず、雰囲気、セルヴィスともに、これ以上のものを探すことはまずもって不可能な、間違いなく現在最高のレストラン達。レストランに行く、という行為が、こんなにも幸せなことか、と、心の底から感じさせてくれる。

「ギ・サヴォア」。彼はすごい。今、乗りに乗っているシェフだ。98年の「ゴーミヨ」までは18、17点をうろうろ。99年についに19点に昇格し、今年は《トック2000》に選ばれた。有り余る才能をもてあまし気味だった数年前に比べ、美しく研磨されたダイヤモンドのような料理を作っているんだろうな。また行ってみたいな。

この夏に初めて訪れた「ビュルイーゼル」。料理の選択ミスだったのか、私にとっては心から感動する料理ではなかった。まあ確かに、ガルニのキャベツとベーコンの旨さには、目をむいたけど。あ、デセールは最高美味しかったっけ。

ブランさんは相変わらず、押しも押されぬ大料理人。数年前の夏に食べた、「ブレスの鶏のリゾット」、「鶏、鴨、鳩のポトフ」の滋味に富んだ強烈な美味しさは、ねっとりと豊潤な「シャトー・クリネ」の腰の抜けるような味とともに、はっきりと印象が残ってる。(最近、美味しいポムロル、飲んでないなあ、、、)

「ゴー・ミヨ」の秘蔵っ子、オリヴィエ・ロランジェは、遅くになってから料理の世界に入った、面白い毛並みの料理人。ブルターニュの海の傍らで、世界を旅して探し出した香辛料を使った魚料理を、素晴らしい邸宅で出している。ずっと前から興味を持っているのに、毎年毎年行きそびれている。来年の夏こそ、行けるかな。

株式にも上場し、パリにも2件のビストロを出した、実業家のロワゾーさん。行った事もないし、特にコメントしたいこともない。

《トック2000》に選出されなかったとはいえ、フランスきってのレストランであることには間違いのない、他の19点たち。

シェフが変わったばかりにもかかわらず、クエスチョンマークでなはく堂々の19点をもらった「タイユヴァン」。南の香りとともに「ブリストル」からやってきたデル・ビュルゴが、風格あるこのレストランと、どんなハーモニーを奏でているのか、興味ある。

ブーラヴォ!ヒューヒュー!と、拍手をしたのは、シャンパーニュの故郷ランスにある、ボワイエさんの「レ・クレイエール」の19点昇格。去年の9月に、料理、セルヴィスともに最高級のものを味合わせてくれたレストラン。今年の4月に再訪して、素敵な2夜を過ごした。お料理の方は、9月の方が感動があったかな、という感じではあったけれどセルヴィスは、相変わらず素敵だった。

20世紀のフランス料理界の大きな流れを作った「ラ・ピラミッド」。現在活躍している料理人達の原点に繋がるフェルナン・ポワンの店だった、この、歴史に残るレストランが19点に昇格した。伝説となったポワンの香りは、まだこのレストランに残っているのだろうか?フランス料理を考える時に、避けては通れない「ラ・ピラミッド」。ここに宿っているはずの、フェルナン・ポワンとマドの精霊を感じに、近いうちに行きたいレストラン。

ミーハー的に惚れまくっているギ・マルタンに続き(元気かなあ、、、)、2000年の《シェフ・ドゥ・ランネ》(今年のシェフ)に選ばれたのは、予想通り、カンヌの「ラ・ヴィラ・デ・リス」のブルノー・オジェ。99年の「ゴー・ミヨ」でもべた賞めされていたこのレストラン、点数は18点のままだが、「19点獲得を急ぐことはない、21世紀は彼に腕を広げている」と、33歳の若いシェフを大絶賛。

あーん、去年の年末、それに今年の2月にコートダジュールに行った時、絶対に絶対にこのレストランに行きたかったのに、年末は予約いっぱい、2月は工事中で行きそびれてる。夏に行った時は、モンテカルロとグラースにうつつを抜かして、カンヌに行く暇はなかったし、、、。来年の夏こそは、絶対に絶対にこのレストランで食べるんだ!

でも、もちろん、「ラ・ヴィラ・デ・リス」を押さえて、私のコートダジュール・レストランリストの初めに名前が載るのは、「ルイ・キャーンズ」とともに、グラースのアントワネットちゃんの所。18点をキープしている、ジャック・シボワの「ラ・バスティード・サンタントワーヌ」。

この世のパラダイスのような、優しい香りに溢れたゆりかごのようなこのホテルレストランに、昨年末に出会って以来、私はこのホテルレストランに夢中だ。いっつもニコニコで優しい秀才努力型ジャッキーのそつなく美味しいお料理と、ヴィロードのような毛並みと真っ青なロンパリ気味の目を持つ、つれないアントワネットちゃん。みんなが、「可愛くないわねえ」というこの猫ちゃん、私は溺愛している。出来ることなら、一生、このホテルの敷地の中で暮らしたい。コートダジュールの太陽とオリヴィエのざわめき、グラースの香り、くすぐったいくらいに居心地のいい、私を夢中にさせたホテルに包まれて。木漏れ日注ぐテラスでの最高のプティ・デジュネ(朝食)に気だるい午睡。アントワネットちゃんの散歩に付き合って、夕食に降りる用意。ジャッキーの料理を味わいながらの、いつまでも暮れない夏の夕暮れ、、、、。これ以上に幸せな気分を味わえる場所を、私は他に知らない。床のタイルから、バスルームの石鹸、プールの門まで、私はこのホテルに惚れきっている。あーあ、ロト(宝くじ)、当たらないかなあ。

コホン。パリに話を進めましょうか。

エヘヘン。なんて、私が自慢することじゃないけれど、「ジャマン」が17点に上がった。去年16点、一昨年は15点。97年秋の開店以来、着々と一歩ずつ頂点に向かって歩いている。だいたい、何で初年度に15点しかつかなかったのか、理解に苦しむよ。

まあ確かに、「ゴー・ミヨ」向きの料理ではないけどね。それを証拠に、「ミシュラン」は初めからずっと、このジョエル・ロビュションの面影を引きずるレストランに二つの星を与えている。昔の「ジョエル・ロビュション」みたいに、パンをおみやげにくれるようになった「ジャマン」。一歩ずつ確実に、栄光目指して頑張って欲しい。心から応援しているレストランなのだから。

ついでなので、ロビュション関係をまとめて列記しよう。「アストール」の18点は変わらず。ロビュション色が一番濃く残っているこのレストランは、世紀末の最高の料理人であるジョエル・ロビュションが恋しくてたまらなくなった時、いつでも、泣きたい心を慰めてくれる。

こちらもロビュションの弟子、「プレ・カトラン」のフレデリック・アントンは《将来期待のシェフ》に選ばれた。評価は去年と変わらず17点。うっそうとしたボア(ブローニュの森)に佇む白亜の館。このテラスでの食事は、思ったほど実現できなかった、今年の「パリのテラスのお昼ご飯」シリーズの中でも、ひときわ鮮やかな印象を残した。今年中に、何らかの形でシャンゼリゼにあるレストランに復帰する、と噂が流れている、生きながら伝説となったジョエル・ロビュションのエスプリは、日本やNYなど、世界中に息づいている。

ようやくリニューアル・オープンした、プラザ・アテネの「ル・レジャンス」は、クエスチョンマーク。「訪ねようとした時に、工事だった。残念、、」と、「ゴー・ミヨ」は書いている。本当に残念。えんえんと続いた工事のせいで、今年度は評価なし。去年までついていた18点が、2001年に戻ることを期待しよう。

オーナーシェフから雇われシェフへと、珍しい変貌を遂げた、エリック・フレション。19区にあった超人気の彼のレストランは、彼の弟子が料理、奥様がセルヴィスを担当して、カジュアルなワイン・バー的なレストランになったという。味の方は変わらず美味しい、とあったが、どうなっていることやら。で、雇われシェフとなったエリック・フレションが入ったのは、「タイユヴァン」に移ったデル・ビュルノの後任として「ブリストル」。この、パラスホテル(宮殿みたいな高級ホテル)の、イタリアン・ルネッサンス的な美しい中庭を持つメイン・ダイニングを預かることになった。

味?まだ試してない。しばらくいいや。夏にいきたい、このレストランには。パティシエ(菓子職人)も変わってしまったこのレストランの評価はもちろん、クエスチョンマーク。

行きたくて行きたくてよだれを垂らしそうなクエスチョンマーク・レストランがある。こちらも、2年という果てしなく長いリニューアルを経てようやく再オープンの(2000年に向けて、リニューアル工事が本当に多かったね、今年は)、オテル・ジョルジュ−サンクの「ル・サンク」。「タイユヴァン」から移ってきたフィリップ・ルジェンドルがシェフ、フランス屈指のソムリエの1人であるエリック・ボマール、という、目が眩むようなきらびやかな二人のスターを要しての、堂々のオープン。12月中旬から開業予定。行きたい!行きたい!!行きたいったら行きたい!!!

ここ数年の傾向だが、ホテル・レストランの躍進がすごい。昔は、ホテルのレストランというのは、大した事なかったのだが、ホテル経営者が、レストランの存在価値の重要性に気付いてきた。結果はごらんの通り。なんで19点がつかなかったのか、不満たらたらの「レ・ゼリゼ」、「ル・レジャンス」、「アストール」、それに「アラン・デュカス」だって、みんなホテルレストラン。「ル・サンク」も再高級レストランの一つに仲間入りすること間違いないし、「ブリストル」だって負けていないだろう。「クリヨン」にはドミニク・ブシュが采配をふるう「レ・ザンバッサドウール」があるし、バルザックには一応3つ星の「ピエール・ガニエール」が入っている。「ゴー・ミヨ」では、「ま、1回は行っておけば?」みたいに書かれたこのレストラン。確かに1回でいいや、って感じ。2回も行ってしまった私は一体なに??まあでも、このレストランも賛否両論。きちがいみたいな料理だもんね。好き嫌いがあって当然か。それにしても、めっきり老け込んでしまったガニエールは痛々しかった。

とにもかくにも、パリを代表する超高級ホテルは、今や最高級レストランの住処になっているのだ。

可愛いレストラン達に話を移しましょうか。

まずは「イヴァン」。今年ついに、14点に落ちてしまったこのレストラン。メトロの中で、コメントを読んでて大笑いしちゃった。「ベルギーの金髪のちっちゃな王子様であり、(フンフン、これは毎年同じ。夜のパリの王子様、って書かれたこともあったわね)パリの(そして以前はサン・トロペでも)パップ」、、、、。パ、パップ!?爆笑。おかしすぎるよ、でもこれ、すごくよく分かる!

パップとはいわゆるパップ様、つまり法王。ローマ法王なんかの、「法王」です。確かに、イヴァンって、夜のパリの法王様的だあ。パップという言葉には、リーダー、とか絶対権力者、っていう意味もあるみたいだけれど、いずれにしても、「法王」のイメージが幅を利かせている、ローマ・カトリックなこの国では非常にポピュラーな言葉。すごいなあ、「ゴー・ミヨ」、よくもまあ、こんなに笑える言葉をイヴァンに使ったなあ。さすがだ。「昔やっていたようなことは、もう、放棄したのだろうか、、、。いずれにしても、このレストランにやってくる、ショービズな人々やビューティフル・ピープルは美食の粋を要求しないのだろう」と続けている。

そうだね。確かに料理の味は落ちている。エルヴェがいた時代は本当に美味しい料理だった。シェフが変わり、食材にかける経費も減らし、料理を考えるのも、今はもうイヴァンじゃなくて、シェフ・フレデリックがやっている。最近の「イヴァン」の料理を食べては感じていることだけれど、「イヴァン」っぽくない料理が出てくるようになった。まあ、それなりに美味しいは美味しいけれど、昔みたいな、完璧に私の好みにであったあの料理達への感動は、もう、味わえない。エルヴェ、どこにいるんだろうなあ。

ま、そんなことは、気にしちゃいけない。味が多少落ちたって、「イヴァン」は「イヴァン」なんだもの。あの怪しく華やかな雰囲気を楽しみに、私はこのレストランに行ってるんだもんね。

エリックさんの「レ・ブキニスト」が14点に上がった。「ギ・サヴォアのビストロの中で、一番いい」って。「ゴー・ミヨ」も評価してる。同感!南風のここの料理、美味しいもん。セルヴィスは、超楽しい以外の何物でもないし。あんなに楽しませてくれるレストラン、なかなかないよね。ノエルの前に、行ってこよっと。

最近のお気に入り「ル・ドーム・デュ・マレ」は14点。納得。パキエさんとファブリスの「ロ・ア・ラ・ブシュ」も14点。妥当。

去年の年末の話題をさらった「アルカザール」13点。へえ、「ゴー・ミヨ」なら14点くらい付けるかな、って思ってたけど。パリの料理界に爆弾を落とした、デュカスプロデュースの「スプーン フード&ワイン」14点。「ゴー・ミヨ」らしい評価。同じくデュカスプロデュースの「ルレ・デュ・パルク」14点。ふん、まあ納得。昔愛した味とは、全く違うものだけれど。またまたデュカスプロデュース、イタリア料理の「イル・コリティーユ」15点。どうして?あれになんで、15点も付けられるの?よく分からない。オヤジがイケてるんだかイケてないんだか分からない「ル・ディヴァン」も、ちゃんと掲載されてる。12点。偉いぞ。

この一年間で、パリそしてフランスのレストランシーンは、また新しい面を見せ始めている。同じ状況でいることは非常に珍しい、そして難しくもあるレストラン。なぜなら、シェフは、経営者は、メートルドテルは、いつも考え、次の段階に進もうと思っているから。それがいい方向に変わるか、悪い方に行ってしまうかは、分からない。

一つ言えるのは、レストランは常に動体だ、ということ。動きながら、方向を変えながら、時の流れに乗って、レストランは自身の歴史を作っている。変わりゆくものだからこその、その時その瞬間のレストランの輝きと交歓したい。残らないものだからこそ、つかの間の印象を、大切に覚えておきたい。

「ゴー・ミヨ」2001年版が出るまでのまた一年、心ときめかせてレストランの門をくぐり、巡り合えた幸せを忘れないように、日記を書いていこう。


ven.5 nov. 1999


インターネットで英語版ゴー・ミヨを手に入れるならここに入手法方がIn Association with Amazon.co.uk


back to listレストラン紀行の初めに戻る


homeA la フランス ホーム
Copyright (C) 1999 Yukino Kano All Rights Reserved.