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「ル・パルク」、優美で高雅な舞台に酔いしれるの巻

アンジュラン・プレジョカフというコレグラフ(振付師)と、私は一度も共感できたことがない。もう5年も6年も前に観た「ル・パルク」は、ラストのパ・ドゥ・ドゥにはうっとりしたものの、バレエに陶酔していなかった私にはなんだかシュールでよく分からないまま終わってしまったし、一昨年の「カザノヴァ」には頭の中がクエスチョンマークで一杯になり、昨年の「アノンシアシオン」も、だからなんなのよぉ〜!?という感じで、まあつまり、私にとっては相性のかなーり悪いコレグラフ。2年前の再演時には、「いいよ別に。前観たとき、好きじゃなかったし」と、行かずにおいた「ル・パルク」を、今年はきちんと観てみよう。あれから6年。見かただって変わっているでしょう。

17日(日)、19日(火)

「クラヴィゴ」ほどとは言わないけれど、これはこれでやっぱりそんなには人気のないらしい公演。初日なのにねえ。ダンサーの姿はちらほら見えるけどさ、さすがに。おや、この存在感のある眉毛はどこかで目にしたことあるぞ、と、眉毛から顔全体に視線を移すと、あ、エルヴェ・モローだ。舞台でなくてもやっぱりこの眉毛に視線がいっちゃうんだねえ(笑)。顔がちっちゃくってびっくり。いつも、お尻の大きさに気をとられていたから。5〜6年後には、うまくすればエトワールにだってなれる才能を持っているエルヴェの横に立つボー・ギャルソンが気になる。彼もダンサー?知らない顔だ。それともエルヴェのお友達?かっこいいねぇ。

parc広大なオペラ・バスティーユにはちらほらあいている席も目につき、じゃあ、と、3列目の中央に座ってみる。アントラクトなしの95分は、お尻が結構疲れる。そう言えば、初めて「ル・パルク」を観たとき、てっきりアントラクトがあると思って、なじみの鮨屋で太巻きを作ってもらって持ってったっけね。アントラクトのないまま結局オペラ・バスティーユでは食べられず、「ハヴァニタ・カフェ」に乗り込んで、タラのコロッケ食べながら、こっそり太巻きをつまんだ。懐かしいねえ、Oさん。そんなことを思い出しながら、姿勢を楽にして、横のあいた席にオペラグラスとデイジードゥーを置いて、現れた指揮者に拍手を送る。

モーツアルトの様々な曲をバックに、バロックの濃厚でうつろな香りが漂う、現実なのだけれど、どこかしら非現実を感じる舞台。全三場の前後にはさまれるウルトラモダンな音が、雰囲気をちょっとシュールにしている。ル・パルク。題名の通り、公園を舞台に繰り広げられる、典雅な貴族たちの集まり、なのかなあ?プログラム読んでないので、主旨がイマイチ分かってない。知り合い曰く、parc「舞台を観て、なにが言いたいのかがすぐ分かるよ、プレジョカフの作品って」らしいのだが、残念なことに、私には彼の言葉(コレグラフィー)が理解できないらしい。「クレーヴの奥方」や「危険な関係」的な舞台、と表現されるのに心から納得しないまでも、うんまあそうなんだろうなあ、と否定は出来ない。つまりは、よく理解していないんですね(笑)。ロココの香り漂う、あくまで優雅な、でもちょっと壊れた世界。

parc全6公演の初日は、オーレリーちゃんとロラン・イレールが飾る。以後、ゲスト出演のゲランとヤン・ブリダール、マニュエルとモランというカップルが2回ずつ踊るスケジュール。本来「ル・パルク」といえば、ゲラン/ロラン、というくらい、この2人がベストらしい。そしてまた、雰囲気は少し変わるものの、オーレリー/ブリダールの組み合わせも、これはこれで妙なる魅力を持っている、というのが、ちまたの評判。今回だって、その組み合わせでいければよかったものの、そこはまあ、そうなると、どっちのカップルが初日を取るかで大喧嘩でしょう(笑)。ロランが初日を取るのは明らかだし、そうなると、引退したエトワールに現役エトワールが初日を譲るのか!?という、大問題に発展してくる。どっちも譲れないよなあ、やっぱり(笑)。そんな訳で、苦肉の策として、パートナーの交換。これが吉と出るか凶と出るかを確かめに、ある意味ワクワクしながら幕が上がるのを待つ。

オーレリーちゃんが見事だ。今夜の公演の感想を一文で、と言われれば、ためらわずにこう答える。優美、気品、美しさ、あでやかさ、強さ、、、。オーレリー・デュポンというダンサーが兼ね備えている美徳を全てさらけ出したような踊りに、うっとりし、感動し、感嘆し、胸を締めつけられる。すごく久しぶりだ、完璧なオーレリーちゃんを味わうのって。今シーズンはまだ、エクの「ジゼル」と「ラ・バヤデール」のニキアしか踊ってないし(ほんと、踊ってないねえ。怪我したわけじゃないのに、どしたの?)、ジゼルは純粋無垢なおばかさん的要素が欠けたし、ニキアにはなよなよとした美しさが欠けていた。こういう、高貴で凛とした美しい役こそ、オーレリーちゃんにはピッタリだよ。2場、3場のパ・ドゥ・ドゥなんて、感涙ものだ。高雅な気品の中から激しい感情が滲んで、ジワジワと会場に広がっていく。いやあ、“堪能”という言葉はこういうときに使うんだね、きっと。まさに、オーレリーちゃんを堪能だ。

ロラン・イレールも、さすがの踊り。この役は俺のもんだぜ!とばかりに、こちらもまた上品と気品の権化の中に色気をちょっぴり忍ばせて、舞台をクールに盛り上げる。エトワールの中でも偉大な存在のロランだけれど、私は、あまり感動したことないんだよね。癖がなさすぎるというか、私にとっては、あまり光らないダンサー。もちろん、文句のつけようはないけれど、どこか華やかさというかカリスマ性にかけるような気がしてしまう。こんなこと言ったら、ちまたに溢れるロランのファンから大ブーイングが出そうだけれど(笑)。parcま、レストランと一緒で、ダンサーだって好みの問題だもんね。誰が一番なんて、間違っても言っちゃいけない。今シーズンは、夏の怪我を引きずって「ノートルダム・ドゥ・パリ」にもでなかったし、「ペトルーシュカ」だってカデールを差しおいて初日を取ったくせに、3度くらいしか踊らなかったし、そう言えば最近あんまり見てなかった。ソツのない、いたってノーブルで美しい踊りを繰り広げるロランがオーレリーちゃんとこんなに相性いいのには、ちょっとびっくりした。まあ考えてみれば、ロランみたいな癖のないダンサーは相手を選ばないだろう。見事なエトワール・カップルの踊りを満喫する。

主役2人以外に、取りたててみるべき役がないのが、この作品の特徴?各場の始まりとエピローグで、この作品に重要なエッセンスを与えている4人のジャルディニエ(庭師)を踊っているアレッシオ君とニコラ・ノエルの、正確でシャープな動きには舌を巻くし、8組くらいの男女に主役2人を合わせた群舞の動きも、なかなかかわいい。一場のシンメトリーが美しい椅子取りゲーム、二場のコケティッシュなコルセットでの踊りなどは、それなりに見ごたえがあるけれど、時々飽きちゃう場面があるのは、コレグラフィーのせい?それとも、95分という長い長い一幕のせい?ひょっとして、群舞のダンサーたちの質のせいかしら?よく分からないけど、息を呑むすばらしいパ・ドゥ・ドゥや印象的なシーンの合間に、どうしても飽きてしまう長いパ・ドゥ・カトルなどが入っているのは、やっぱり残念だ。

群舞については、特に話をするようなことはないけれど、一つだけ。この公演で、ようやくミテキちゃんが復帰してくれた♪ 最後にミテキちゃんを観たのは、1年半以上も前、2000年7月の「ジゼル」での村娘だった。赤ちゃんができて翌シーズンは全て棒に振り、5月にはジャドという名のかわいらしい女の子を産んだらしい。12月の「ラ・バヤデール」で影の1人を踊るのが復帰後の初舞台のはずだったのだけれど、怪我をしたらしく名前は消えてしまって、今夜ようやく、また舞台でミテキちゃんの姿を見ることができた。どうでもいい役なのが残念だけれど、ま、これからまた少しずつ、ね。記憶に残っていたとおりの、呆れるほどに長くて優美な彼女の腕にうっとり見惚れる。きれいだなあ、、、。

とまあ、そんなこんなの95分。バレエのあらゆるパ・ドゥ・ドゥの中でも、トップクラスに入るロマンティックで美しいラストのパ・ドゥ・ドゥに胸を熱く焦がし、エピローグのひんやりとしたジャルディニエの動きに心を落ちつかせ、幕が下りるのを息を殺して見守る。

オーレリーちゃんに尽きる今夜の舞台。作品全体を気に入った、とはやっぱり言えないけれど、部分部分の美しさとオーレリーちゃんとロランのすばらしさで、ひどく満足のいく日曜日の午後となる。

parc同じキャスティングの火曜日は、日曜日に勝るとも劣らない、オーレリーちゃんの熱いダンスに再び溺れる。ロランもいいねえ。たった2回しか観られずに残念だ。二場のミテキちゃん、帽子の下のカツラがブロンドなのが気になる。昨日は、ちゃんと黒だった。髪の黒色がブロンドの下に見えて、なんだかこっけい。かわいそうに、、、。

日曜日に思ったけれど、近すぎる場所よりも、ある程度離れたところから見た方が、舞台の美しさと構成がよく分かる作品だ、これ。日曜日の3列目よりも今日の16列目の方が、観がいがある。ワガママ言わせてもらえば、もちょっと中央よりの方がよかったかな。ま、来週に期待しつつ。いよいよ次回は、ロランよりもずっと楽しみにしてるブリダールの主役の日。もっとも、相手がゲラン女王様ということもあって、ブリダールが固くなってしまうかも、、、。持ち前の、コケティッシュな雰囲気を、舞台で存分に出してほしいなあ。女王様の「これはわたくしのためのバレエよぉ!」という存在感に負けずにね。

おそらく、ゲラン/ブリダールを2回観て、私の「ル・パルク」はおしまい。マニュエルもきっとこの役をとても素敵に踊るだろうけれど、モランがこの役をやるのは勘弁してほしい。考えただけでも、ちょっと、、、。オーレリー、ゲランと、この役にぴったりはまるダンサーを見たあとに、モランで締めくくるのは、消化に悪そうだ(笑)。ま、よっぽど気が向いたら、ね。とりあえずは、ヤンとゲランを楽しみに。そして翌週からは、いよいよカデールがコレグラフィーを手がける「ユールヴァン」が始まります!

dim.17 mer.19 fev.2002(02年2月)
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