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「アニエス・ルテチュスとオペラ座の仲間達」他、優雅なテクニックがあなたを魅了する

10日

カデールの「ユールヴァン」に頭を使うな喜びを見い出した2月終わりから3月上旬。やっぱりカデールはすごいなあ、と、コレグラフとしての彼の才能を満喫した翌日には、明快単純なガラを見に行く。パリ郊外、アンガン・レ・バンで行われた、「アニエス・ルテチュスとオペラ座の仲間達」。1月にサン・クルーで行われたガラ公演と半分同じ顔ぶれで、半分同じ演目。目的?そりゃもちろん、アレッシオ♪

アレッシオの今日のお相手はエレオノーラ。ふん、レテティアの方があってる、アレッシオには。背の高さにしても踊りのタイプにしても。元気いっぱい、とにかくおどるわよっ!的なレテティアのパワーがエレオノーラにはない。アレッシオも相手がエレオノーラだと、なんとなく引き気味?前回同様「ロミオ〜」と、もう一つはジャン−ギヨーム・バールが学生の頃のエレオノーラとジェレミーのために振り付けた作品。名前、忘れた、、。なんだか、ふーんという、とりたてて熱くならない作品。バールらしい、おりこうちゃん振付で、テクニックを見るにはいいけれど、アレッシオにはおとなしすぎる。ジェレミーだと、こんな作品でも物に出来ちゃうんだろうね。アレッシオ、やっぱりジェレミーには敵わないのかなあ。で、ジェレミーはどしたの?なんでここにいないの?エレオノーラとの破局説がまた浮上!?

agnesメインのアニエスのお相手は、なんとパケット君。ジョゼはどこにいっちゃったんだろう?パケットと踊るアニエス、初めて観るよ。はっきり言って役不足だけれど、まあ、背はあるしリフトも上手いから呼ばれたんだろうね。「ラック・デ・シンニュ(白鳥の湖)」に続く、チャイコフスキーの「グラン・パ・ドゥ・ドゥー」は、おみごとなリフト。すばらしいテクニックを優雅に披露するアニエスを盛り立てている。アニエスにはため息が出る。来シーズンの「ラック・デ・シンニュ」は見逃せないね。

とびきり小さな舞台で、踊りも限定されてしまったのがイマイチだったけれど、まあ、アレッシオの顔を観に行った、ということで。ポカポカ陽気の日曜日、湖のほとりのオペラハウスで過す、のんきな休日だ。

11日

agnes今週から「コッペリア」が始まる。今日は、AROP主催による、ガルニエでの舞台練習の見学だ。ジェネラル(ゲネプロ)の前、まだまだ練習段階の舞台を観るのって、すごーく面白い!いいなあ、こういうの、もっともっと企画してくれるといいのに。舞台に立つダンサーたちは、ほとんどみんなレッスン着。舞台装置は一応きちんと設定されている。モランとデュケンヌ、それにロモリが舞台に立っているのを、ドゥラノエやパケットらが観客席に見に来てる。「ボンジュー、メザミ!(やあ、みんな!)」と、たった10人ほどの私たち観客に手を振って挨拶してくれるドゥラノエ、サンパだねえ。またまた怪我しちゃって、彼のフランツが観られないのが残念だ。結構楽しみにしてたのに、モラン・ドゥラノエ・ロモリの古い子組のキャスティング。パケットくん、たとえデュケンヌでも、しっかり参考にしてね。今回も1度、フランツを踊る予定なんだ、彼。外さなくちゃ、その日は、、、。コレグラフのパトリス・バールによるダメ出し、細かいハーモニーの打ち合わせなどを挟みながら、少しずつ物語が進行していく。こういう風に、作品は完成していくんだなあ、というのがすごくよく分かる。うしろのほうでファヴォランが練習していたり(ようやく怪我から復帰!?うれしーよー!)、端のほうでヤンちゃんが退屈そうにしていたり、普段の顔のダンサーたちが面白いったらありゃしない。気がつくと3時間が過ぎていて、舞台稽古は終了。いやあ、なんて楽しい午後だったんだろう。木曜日からの公演が楽しみね。

14日、15日、16日、22日

で、「コッペリア」が始まった。まず結論を言うと、“なんだかつまんなーい。間違いなく、今シーズンでいちばん見ごたえのない作品”になっちゃったかな。

agnesまず振付。パトリス・バールの「コッペリア」は、クラシックでオーソドックスなベースに、コッペリウスの存在を強く加えた、という感じ。パスポートや舞台稽古では気付かなかったけれど、通しで観るとなんだか飽きちゃう踊りばかりダラダラと続く。群舞の人数の多さも不必要に思えるし、2幕の、ひたすらにスワニルダが踊るだけのシーンもあくびが出る。まあねー、この前が「ユールヴァン」、「ル・パルク」、「クラヴィゴ」と、なんとなく哲学して難しい、シュールな世界のバレエばかりだったから、こんなに頭を使わなくていいバレエにびっくりしちゃったのかもしれない。シーズン最初の「ノートル・ダム・ドゥ・パリ」からずっと、悲劇かそれに類する作品ばかりで、これがシーズン初めての、素直で幸せな作品で、なんだか意識が付いていかないのかも。それにしてもなあ、、、。比べちゃ悪いけれど、やっぱりヌレエフとかマクミラン、リファーら、巨匠たちの振付とは比べ物にならない。なんだか、バカにされてる?みたいな印象を受けてしまう。

次、配役。これは最悪。振付より始末が悪い。分かるんだよね、でも。エトワール達が「ヤダ、こんなの踊りたくない!」って言うのが(笑)。だって、ほんとにつまらないんだもん、どの踊りも。強いて言えばコッペリウスかなあ、少しは演じがいがあるのは。そんなわけで、エトワール達はほとんど全員、マリインツキーのインターナショナル・フェスティヴァルに、これ幸いと出かけてしまい、パリに残ったのは、なんちゃってエトワール氏のバールとジョゼ、それにモランのみ。初日は、デルフィヌ、バール、ジョゼで幕を開ける。

デルフィヌ、久しぶりに初日をもらえて嬉々としている。力いっぱいスワニルダを踊るけれど、まあ可もなく不可もなく?プルミエール・ダンスーズらしい踊り、とでもいいましょうか。決してエトワールの踊りじゃない。エル・ジャポンだったかな、彼女のインタヴューが載っていて、「私はタイトルはなくても、ほとんどエトワールとおなじよ」なーんて言っていたけれど、嘘だよそれは。彼女の踊りは、オーレリーやアニエス、ううん、マリ−アニエスに比べたってやっぱり落ちる。テクニックの問題はともかくとして、パッションがないもの。悪いダンサーではないけれど、つまらない。どんな役で観ても、私は彼女にピンとこない。

バール?なんだかなー。笑っちゃうくらいにつまらない。これはでも、J−G・バールの責任というより、振付をしたP・バールの責任だと思う。ほんっとにつまらない役なんだもん、フランツが。2幕なんて最悪。パ・ドゥ・ドゥーに出てくるだけ。あとは存在の意味なし。これ、エトワールの役?今回も、バール以外はプルミエとスジェがフランツを踊るけれど、なんだかバールがかわいそうだ。なんちゃってエトワールになってもう2年?ワガママな他のエトワールたちが踊りたがらない役が、全部バールに降りかかってきて、それを、文句も言わずにこなすバール。彼の踊りは全然好きでないけれど、ひょっとしたら、この人、いい人なのかもしれないなあ。一度、お話してみたい気がする。こんな、エトワールの沽券にかかわるような役を躍らされて、辛いだろうにねえ、、、。

agnes初日、唯一見ごたえがあるのがジョゼのコッペリウス。ジョゼってすごいよー。昨シーズンの「カス・ノワゼット」以来、私の中でジョゼの株がぐんぐん上がっているけれど、今夜また最高値を更新!という感じ。今シーズンは、「ノートルダム〜」のフロロで恐ろしいまでの存在感を見せてくれた後、エクの「ジゼル」ではスマートなイラリオンがよかった。強いて言えば、「ラ・バヤデール」のソローはイマヒトツだったけれど、「シエラザード」はため息を吐くばかりだった。グラン・クラッシックよりもモダンやコンテンポランのジョゼが好きだ。カクカクッとした踊り、ドロッセルマイヤーを思い出すね。哀愁を漂わせながら、空気を切り裂くような鋭利な動きがすばらしい。観客がどよめく。唯一1人で気を吐いていたジョゼに脱帽。彼だって、マリインツキーのフェスティヴァルに参加してる。合間を見て、パリに戻って来てるんだ。ありがとー、ジョゼ。戻って来てくれて!

主役2人がどうでもいい分、フランツとスワニルダのお友達がなかなかよい。フランツのお友達は、チボーやゴディオン。スワニルダのお友達は、ファニー、ドロテにイザベル・シアラヴォラなどなど。可愛らしくておちゃめな彼らの動きは微笑みを誘う。群舞には、ヤンちゃんやモロー、ジュリエット・ジェルネやエミリー・コゼットらをはじめ、だれが誰だか分からないくらい大量のダンサーが動員されている。とりたてていい動きをしているわけでもなくどうでもいいかなー。

音楽?頼むよ、ほんとに、、、。レオ・デリベが作曲した音楽自体は、耳に心地よくてバレエらしいきれいな旋律。悪いのはオケなんだ。オペラ座管はバスティーユのオペラに取られてしまい、こちらはオーケストル・コロンヌ。相変わらず、耳障りな音を出してくれる。ズンチャカチャッチャ〜ッ!って、ブラスバンドじゃあるまいし、その下品な音は許してちょうだい、、、。とまあ、どうにもこうにもの公演。言ってみれば、学校の学芸会みたいなんだよね。振付もダンサーも音楽もみんなそろってイマイチ垢抜けない。深みがない、と言ってもいい。

オケはその後、日を追うにしたがって少しずつよくなってきたけれど、反比例してダンサー達は日に日に絶望的。二日目はモラン、デュケンヌにロモリ。もう40に手の届きそうなモランには、踊りっぱなしのスワニルダはさすがにきつい。細かな演技はさすがの貫禄だけれど、2幕なんて、観ているこっちの方がドキドキしちゃう。だいじょうぶかなあ、最後まで踊りきれるかなあ?って。見疲れしちゃう。デュケンヌは、日程変更の調整不足もあるのだろうけれど、やっぱりへたくそ。ロモリには、ジョゼが出したようなコッペリウスの哀愁を見せることが出来ない。

三日目は、ひさしぶりにヤンちゃんが主役の舞台。2ヶ月ぶりに観るヤンちゃんは、やっぱりかわいくってすてきだけれど、ほんとに下手ねえ、と思わず感心してしまう。これだけ下手なのにみんなに好かれるなんて、ヤンちゃんの人徳ってすごいなあ。まあ、顔だけ見れば、このカンパニーきってのボー・ギャルソンだよね、やっぱり。お相手のアヴェルティーは悲惨だ。大きな失敗までしてしまい、後半踊る予定をキャンセルしてしまったらしい。ヤン・ブリダールのコッペリウスはまあまあかな。だいたい、あんなに踊らなくちゃいけない役を年寄りダンスーズにやらせるのが間違ってる。安心して観られそうなの、オスタだけもん。こんな役こそ、レテティアちゃんとかフィアット、あとはもっと若いパワーのある子にやらせればいいのに。

とまあ、日に日にどんどん悪くなっていく公演。3日目を見た後には、これに比べれば初日は天国だったなあ。やっぱり最後にもう一度ジョゼを見ておくか。このままだとイヤ〜な思い出だけが残っちゃうよ、と思ってしまい、最後にもう一度、デルフィヌ、バール、ジョゼの公演を観て「コッペリア」を終了。まあねー、可愛らしい作品ではあるのだけれど、まったく感動がなかったね。パリ国立オペラ座の舞台とは思えない、あさはかな公演。彼らの実力を全く感じられない作品だ。多分、今までにみたバレエ公演の中で一番つまらなかったかも。あ、去年の「ノスフェラチュ」は別にして、ね(笑)。あれは、つまらなかった、というより、理解不能だった、、、。一度しか見なかったから、あまり言えないけどさ。踊らなかったエトワールの皆様、マリイインツキーはいかがでしたか?

16日、17日

agnesシネマテーク・フランセーズで、ヌレエフへのオマージュと題して、二日間に渡り映画が上映される。ろくでもない「コッペリア」より、どう考えてもこっちの方が見ごたえあるでしょう、と、オスタ/ペッシュの配役にちょっと心残りをしつつも、トロカデロへと向かう。死を目前にしたヌレエフが、ロランやマニュエルたちに「ラ・バヤデール」を振り付けているシーンを経て、彼の死後の「ラ・バヤデール」の抜粋。年末にバスティーユで観た「ラ・バヤデール」よりも、スクリーンにうつる「ラ・バヤデール」の方に胸が熱くなるのはどうしてだろう。今まで気づかなかったよ、「ラ・バヤデール」がこんなに感動的な作品だったなんて、、、。マーゴ・フォンテーヌとフレエフが踊るマクミランの「ロミオとジュリエット」。30年くらい前だよね、これ。若きアントニー・ダウエルがベンヴォリオを踊っているのにはびっくり仰天。

その他、同じくロイヤルの「くるみ割人形」、ミュージカル「王様と私」、ノエラ・ポントワとシャルル・ジュードと踊る「ペトルーシュカ」、「レ・シルフィード」、「海賊」、「アルマンとマルグリット」などなど、ドキュメンタリーと作品を取り混ぜ、ヌレエフ尽くしの二日間。大風邪を引いてしまいふらふらになりながらも、5作品を堪能。元気だったら、全部観たのに、、、。スクリーンのヌレエフのすばらしさに、要所要所で観客から拍手が沸きあがる。生で観る「コッペリア」よりも、スクリーンに写るヌレエフのほうが、ずっとずっと感動的だ。なんという希有なダンサーだったのだろう。彼の舞台に触れる機会を得なかったのが悔やまれる。ヌレエフの意志を受け継いできたパリ国立オペラ座も、ヌレエフ・ダンサーが次々と引退し、彼のカラーが失われつつある。女性エトワールは、もうモランだけだ。カデール、ロラン、マニュエルがいなくなってしまう前に、彼らからせめてヌレエフの残り香を感じたい。

フレエフがこの世を去って、来年で10年になる。

mars 2002(02年3月)
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