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「ドン・キショット」あ、ドン・キホーテか!

「ドン・キショット」の初日に間に合うよう、日本からパリに戻ってきた。

なにもそこまでして、初日にこだわらなくても、、、とも思ったけれど、でもだって、今回の「ドン・キショット」、初日のディストリビューションがすごーく魅力的なんだもの。あ、でも、愛しのカデールが出るわけじゃない。彼は、こんなバレエはもう踊らない。ようは、柄じゃないんだ、この手のバレエ。ヌレエフ物を踊るなら、アブドラムとかチバルト、でなければロスバルト?いずれにしても、王子様系の役はもう踊ってくれない(踊れない?)カデールである。ああ、でも、バジルみたいなチャーミングな役なら、いまだってカデールに似合いそうなのに、、、。ジークフリートやデジレ、ロミオなどは、確かに彼にはメそうだけれど、あの遊び心たっぷりのバジルならば、、、。一度でいい、カデールが現役王子様だった頃に、彼のバジルを観てみたかったなあ。はぁーっ。後悔先に立たず。将来に後悔を残さないよう、今踊る人たちをしっかり観よう。

quichotte「ドン・キショット」の初日をぜひとも観たい理由は、ニコラ。このダンサー、去年の夏にロミオの初日で怪我をして以来、パリではろくな役を踊ってくれなかった。(あくまでも、“パリでは”だよ。) カジモドもアルベリッヒも棒に振ったあげくにソローを断り、ロビンスの牧神で、ゆらゆら舞台を歩いてみただけ。そのあとは、「クラヴィーゴ」で久しぶりにニコラらしい雰囲気をチラリと見せてくれたとはいえ、公演の合間にロンドンに行ってしまう程度の力の入れ方。バンジャマンと比べてどっちがいいか、分からなかったくらいだもんね。「ユールヴァン」では、どうしようもないヒースクリフを演じてくれて、ジェレミーの方がずっとよかった、と不評を買い、ついに、オペラ座脱退説までまことしやかに飛び交う今日このごろ。

実際、まだニコラかどうかははっきりしないが、近いうちに、オペラ座から大物ダンサーがいなくなるらしい。しかも、下手すると複数とか。ニコラと奥さん(クレル−マリ・オスタ)じゃないか?というのが大方の憶測。「まあ、いまだってニコラなんて、ろくにパリで踊ってくれないし、奥さんにいたっては、いたっていなくたってどうでもいいし、、、」と、オペラ座ファンは、もうすでにニコラがいない状況に慣れているのか、いたって冷静な反応。逆に、「もしいなくなるなら、ニコラと奥さんであって欲しい」という感すらある。そうだよねえ、もしこれがジョゼとアニエスのカップルやオレリーちゃんのことだったりすると、大パニックになるよ、オペラ座は。一体誰がオペラ座を去るのか、戦々恐々と動向を見つめる今日このごろである。

さて、そんな訳で、ひょっとしたらパリを去ってしまうかもしれないニコラの、久しぶりのヌレエフ作品となる「ドン・キショット」。跳びすぎては怪我をしてばかりのニコラ。2日目、3日目は怪我しちゃって踊れない可能性も高いので、初日をきちんと観ておかねば!と、オペラ・バスティーユに駆けつける15日は月曜日。

ヌレエフ作品、出演はニコラ、というのに、オペラ・バスティーユには空席が目立つ。ヴァカンス時期だもんね、仕方ない。3年前の冬、ガルニエで一度だけ観た「ドン・キショット」。バレエに興味があまりなかったのと席が悪かったのとで、音楽も踊りも、なーんにも覚えていない。ニコラとピエトラが踊っていたはずなのに、、、。なんとまあ、ザンネンなことだ。あんな後悔はしないよう、今宵はしっかり舞台を記憶に刻み込もう客席には、ブリジットさんはもとより、ジョゼ、バンジャマン、ブシェ、ブイヨンなどなど、ダンサーたちの顔がずらずら。やっぱりみんな、初日は見に来るんだね。で、カデールは?来ないよねえ、やっぱり、、、。

相変わらず、なんちゃってオケのパリ国立オペラ座管。このオケに感動できる日って、いつか来るのだろうか?もっとも、指揮者がいいと、結構ちゃんと聴けるんだけれどね。コンロンが振ったりオザワが客演する時なんかは、「ねえ、いつものあの音はなあに?」と真剣に尋ねたくなるくらい、きちんとした音を出す。今日?力抜ききってるよ、、、。ま、いいけどね。もう慣れたよ、この音にも。

quichotteさて、舞台。オペラ・バスティーユで「ドン・キショット」を初めて上演するにあたって、舞台と衣装が一新した。前の舞台や衣装を全然覚えていない私にとっては、舞台はまあまあ、衣装は2〜3を抜かして最低。前の舞台を知っている人たちに取っては、舞台も衣装も最低、と、いたって評判が悪い。舞台は分からないけれど、確かに衣装はよくないよね、これ。1幕はそれでもまあまあ。イケてないのはマタドールたちの、目に強烈な緑の衣装。これはないでしょう、いくらなんでも、、、。2幕のジタンたちの衣装はなかなか素敵。ドリヤードの世界の衣装は、揃いも揃ってニュル(最低)!あ、キュピドンの衣装はかわいいかな。3幕、主役2人のクリーム色の衣装も気に入らないけれど、悲惨なのはドゥモワゼル・ドノゥールたちの、やけに品のない衣装。あんなの着て踊らなくちゃいけないなんて、かわいそうだ、、、。なんて言うのかなあ、ゴージャスできれいなのだけれど、エレガントでないし品もない。そんな衣装が多いんだ。ダンサー達も嘆いているらしい。分かるよ、その気持ち。

ま、そんな衣装は横においておいて、踊りに目を移しましょうか。

まずニコラですね、やっぱり。重たい体が、さらにまたちょっと重たくなったように見えるのは気のせい?ううん、そんなことないらしい。あとで2〜3人に意見を求めると、みんな頷いてくれた。まあ、あの重みが、踊りに迫力を加えているのだからいいけどさ。テクニック的には、まあまあかな。大拍手をもらっていたけれど、ニコラが本当に絶好調の時は、もっと高い、もっと速い、もっと感動的なダンスを披露してくれる。8割くらいでしょう、実力出してるの。もっとしっかり、全力をあげて踊ってよぉ〜。昔は、心の底がゾワゾワとうごめいて、体が興奮するような踊りを見せてくれたじゃない、、、。そうは言っても、十分すばらしいテクニック。それに加え、ニコラらしい、天然ボケがたっぷり加わったバジルの役作りは、さすがだ。小さな遊び心をたくさん組み込み、ほんとに観ていて飽きないバジル。演技の部分に、踊りに得た拍手と同じくらいの笑いを得ている。ニコラにピッタリだ、このバジルという役は。ジョゼにできるのかねえ、こんなとぼけた役が。硬派のジェレミーもしかり。技術は2人とも文句ないけれど、演技面でちょっと心配。

quichotte初日のキトリは、なんとアニエス・ルテチュス。ニコラにアニエス?それはそれは、、、。なかなかお目にかかれない組み合わせに、肩を竦める。いろいろあるんだよねえ、舞台裏では。マリ−アニエス/ジョゼという組も後半踊るけれど、本来なら、アニエス/ジョゼにマリ−アニエス/ニコラでしょう、体の線からみても。そこはほら、でも、奥様が「マリ−アニエスなんかとまた踊ったら、離婚よ〜!」とでも言ったのかもしれないし、ね。なんてったって、今度こそ3度目の正直でエトワールにノミネされるかもしれない、マリ−アニエス。奥様としては、ニコラの横でマリ−アニエスがエトワールになるのは、屈辱この上ない話だろうし。

とまあ、いろいろ舞台裏の訳もあって、ニコラとアニエスというカップルが出来上がった。アニエスみたいな大きなダンサーがどんな風にキトリを演じるだろう、と興味津々で観てみるが、思っていたよりもずっといいじゃない。こんな、かわいい演技ができるんだ、アニエス?いつも、クールな役ばかりだから、知らなかった。彼女が、こんなにチャーミングだったなんて。床のリノリウムがすべるのか、大きなミスが出てしまったのが残念だけれど、ま、そんなのどうでもいい。1つ2つのミスなんて、ぜんぜんかまわないよ。ニコラとの相性はどうしたってイマヒトツだけれど、ヴァリアシオンや演技は見ごたえたっぷり。いやあ、本当にお上手でかわいいキトリだわ。

今夜、そんなアニエスを食ってしまったのが、ドリヤードの女王を踊った、マリ−アニエスちゃん。2幕に少し出るだけの役なのだけれど、アニエスに続いて同じ踊りをするシーンで、アニエスには出なかった拍手がマリ−アニエスちゃんには沸いてしまった。だってだって、ほんっとにみごとなグランド・ジュッテ(っていうのかな、あれ?)なんだもん!ニコラより高いよ、あの跳躍は。そして完璧な水平。しかも、確かに空中で制止した!うん、あれは確かに制止したよ。男顔負けの、パワフルで圧倒的な跳躍を目の当たりにして、会場はたまらずに拍手とブラヴォー!を飛ばす。あーあ、アニエス、かわいそうにねえ、、、。まあでも、仕方ない。圧倒的だもの、マリ−アニエスが。この5秒ほどのシーンを観るだけでも価値のある夜だ。登場したときは、なんだかモタモタした踊りで、やっぱり彼女はクラシックはだめかなあ、、、と、ちょっと心配だったけれど、あの跳躍を観てしまっては、だれも彼女に文句を言えないだろう。いや、ほんと、背筋が冷たくなるようなテクニックだ。

エスパーダは、我らがなんちゃってエトワールのジャン−ギヨーム・バール。悪くないよ、危惧していたよりは(笑)。それどころか、すごくいい。役にあってるんだね。バールのバジルなんて死んでも観たくないけれど、エスパーダみたいな、感情がなくてひたすらにカッコイイ役は、ほんとお似合い。体の線は完璧だし、顔だっていいし(好みでないけど)、テクニックはくさってもエトワールだし、ほんと、ほれぼれするような闘牛師。ニコラ、アニエスと並んで踊るシーンなんて圧巻。なんとまあ、ゴージャスなエトワールたちでしょう。しかしまあ、エトワールなのにエスパーダ役をあてがわれちゃうなんて、かわいそうなバール、、、。後半は、ドゥラノエとカール君、そしてエルヴェ・モロー、ヤンちゃんにデュケンヌ、とスジェが踊る役なのに、、、。知っていなくちゃ、だれも彼がエトワールだとは思わないだろうなあ。「この人、すごく上手いねえ!」とは思っても。オフィシアルマン(公式には)プルミエール、オフィシゥーズマン(非公式には)エトワールのマリ−アニエスちゃんを含め、いやいや、ほんと、すごぶる贅沢な出演者だわ、これ。

レテティアのキュピドンはひたすらに可愛らしいし、ファニーのドゥモワゼル・ドゥヌールは、あくまで軽やかでリズミカルですばらしいし、デルフィヌのダンスーズ・ダン・ラ・リュも悪くはない。惜しむべくは、ジェレミーが怪我してジタンを踊れなかったこと。ヤンちゃんもドゥラノエモ、みんなして怪我しちゃったものだから、なんと、ジタンの役が、代役のキムくんに回ってきた。初めての大役に挑むキムくんは、まーまー、かなあ。しょせん、カドリーユだし、こんなもんでしょ。この役、ドゥラノエやジェレミーがいいだろうな。残念、観られなくって。

怪我人続出のおかげで、マチュー・ガニオがジタンの仲間だけでなく漁師も演じてくれるのは、不幸中の幸い。いやあ、かーわいいよねえ、ほんっとに。サラブレットであるマチューは、昨年の秋から舞台にちょくちょく立っている。優しそうな顔も好みだけれど、なによりもあの首がすごーくセクシーだ。今回の見所は2幕のジタンの踊り。首を上下に振るシーン、必見ですね。最高に美しい首だ。その他、コールには、セバスティアンやアドリアンも入っていて、マチューと合わせ、私にとっての若手かわいい子3人組みが総出演とあって、もう、どこを観ていればいいのか分からない〜!と嬉しい悲鳴。アレッシオを含め、ほんとに私はちっちゃい子好きらしい、、、。みんな、もう少し背が高ければいいのにねえ。

ニコラとアニエスの相性がイマイチなのと、ニコラの不完全燃焼、アニエスのミス、怪我人による代役の多さに加えて、失敗の衣装。それだけのマイナス要因がありながら、舞台全体としては、なかなかいい出来栄え。なんてったって、ドン・キショット役のディディエール(彼なしでは、オペラ座はさぞかし苦境に立たされるだろう)、サンチョ役のロック、そしてガマッシュ役のケヴァルが、そろって味のあるすばらしい演技を披露してくれる。ケヴァルなんて、まさにコメディアンだ。ひたすらに楽しくて、笑いに溢れ、見所満載、とってもチャーミングなヌレエフの作品。久しぶりに、ゴージャスで華々しいバレエを堪能。カーテン・コールで、滑って転びそうになるマリ−アニエスちゃんに、どっと笑いが起きて、今宵最後の笑い納めとなる。

17日

quichotteさて、今日は、マニュエルとオレリーちゃんの初日です。ニコラたちに初日を譲ったこちらのお二人は、テレビ撮影をされる。数ヶ月後にはテレビで、追ってヴィデオでも、彼らの舞台を楽しめる。ニコラたちと対照的に、こちらはベスト・カップルのお二人。しかも、かたやフレエフの秘蔵っ子、かたやキトリを踊ってエトワールの座を獲得している。この2人の「ドン・キショット」が悪いわけない。

で、まず、オーレリーちゃん。いいですねー。まさにキトリ!きっぷがよくて威勢がよくて、チャッキチャキの江戸っ子踊り、っていうイメージ。華やか、というよりは、鮮やか。強烈な印象を観客に与える。テクニック的には、アニエスの方が上手。こうやって比べるとよく分かる。でも、オーレリーちゃんはテクニックもある程度あるうえに、雰囲気でももっていけるダンサーだ。しかも、キトリははまり役。いやほんと、抜群!

マニュエルはねー。ちょっとくじけ気味?ニコラの方が、愛敬があってかわいいバジルだったなあ。(ま、ニコラの場合、あれは演技でなくて、地のボケ加減のおかげ、ということもあるけれど、、。) フロロやソローで与えてくれた感動がイマイチ足りない。なんて思いながら始まった1幕だけれど、時が経つにつれてどんどん踊りもこなれてきて、3幕を迎えることには、拍手に会場が割れる。オーレリーとの相性は問題ないし、見ていて安心、この2人は。全体を通して、月曜日よりも私は今日の方が好みだな。バールのエスパーダは相変わらず品があっておみごとだし、今日はダンスーズを踊るマリ−アニエスちゃんとのパ・ドゥ・ドゥーも豪華絢爛。

マリ−アニエスと役を交代したデルフィヌの女王様は、こんなもんかね。マリ−アニエスの圧倒的なテクニックの印象が強烈だっただけに、あくびが出る。それにしても、今日のオレリーとデルフィヌの踊りを観たあとでは、マリ−アニエスのあのシーンにおける圧倒的な存在感を、改めて感じる。ほんと、男顔負けの跳躍だった。来週が楽しみだなあ、またあれが観られるんだ〜。この人、みごとに印象的な踊りを見せてくれる。クラシックの演技の部分、特にしなやかな動きに、どうしてもモタモタした垢抜けなさが出てしまうのが、つくづく残念だ。大技をやらせれば、彼女にかなう人はいないのに。キトリはどうかなあ、結構似合うと思うけれど、あの敏速な動きができるかどうか。まあ、ジョゼとの公演日を楽しみに。3度目の正直で、こんどこそエトワールだ!がんばれ、マリ−アニエスちゃん!

今夜のジタンはカール・パケット。なんだか、この役がとーってもつまらないものに見えるんですけど、、、。これだったら、キムくんがやるのと、大差ないじゃん。これがフィルムに残るのかと思うと、かなりイヤ。ああ、ジェレミー、どうして怪我なんてしちゃったの!?ニコラ/アニエスの日よりも、全体的に安定感と自然な雰囲気に溢れた今夜の公演。オレリーとマニュエルに心からの拍手を送る。

22日

ついにニコラが本気を出した。心が震えた、ゾワゾワと。

マニュエルに負けられない、と思ったのだろうか。それともただの気まぐれだろうか(多分、そうだろう)。なんだっていい。とにかく、ニコラがようやく全力を出しきって踊ってくれた。この人が、その力をいかんなく発揮すると、感動が生まれる。ありえないものを目にするような、人間がその限界を超えてしまった瞬間に立ち会うような、まさに、夢が現実になった時みたいな感動。

跳躍、回転、演技、リフト、、、、。なにからなにまで、どこからどこまで、今夜のニコラは会場中を興奮の渦に巻き込んだ。あんなもの見せられちゃったら、興奮するしかないじゃない。感動するしかないじゃない。心が震えて体が熱くなる。息を止めて、ニコラのテクニックを凝視する。

ふわぁ、、、、。すごいよなあ、ニコラ・ル−リシュってやっぱり。こんな感動を与えてくれたのは、もうずいぶん前のことだったから、その強烈な印象をほとんど忘れかけていたよ。こうやって、目の前で舞台狭しと跳びまわるニコラを観ていると、本当にゾクゾクする。前から2列目という席が手に入ったことに思わず感謝。このダイナミックな踊りは、至近距離で観るに限る。ニコラの熱がこちらにビシビシと伝わってくる。

そしてアニエス。ニコラのやる気が伝染したのか、今夜のアニエスは、まさに完璧。演技にはますます脂が乗り、テクニックにはより一層磨きがかかった。すーごーいー!の一言。こんなアニエス、初めて観た。4度に1度の割合でドゥーブルを挟んだ3幕の32回転なんて、頭がくらくらする。より興が乗ったニコラとの相性も、抜群。おいおい、先週の2人はなんだったの、、、?

バールは相変わらずソツのない演技。美しくエレガンスに溢れている。こういう役なら、バールを観ていてもイヤじゃないなあ。マリ−アニエスちゃんは、今夜もアニエスの直後のヴァリアシオンで拍手をゲット。アニエスだってもちろんすごいけれど、マリ−アニエスちゃんの迫力には、会場から拍手を沸かせる凄みがある。今夜は多分、今シーズン中、最高の舞台の一つとして記憶に残るだろう。ごくたまに、こんな夜がある。舞台が魔法にかかってしまったように思える、すばらしい夜が。

横の席に座る日本人の女の子たちの声が聞こえる。
「バジルの人、なかなかよかったよね。」 なかなか(笑)?あの人は、世界でも1〜2を争うバレエ団のトップ・ダンサーなんです、一応。しかも、今夜は珍しくも実力をしっかり見せてくれた。
「でも、あの髪型、よくないよねー。カッパみたい。」 う、それには反論できない。少しずつ髪が後退しつつあるニコラ。そもそも顔だってよくないのだから、ますます体裁が悪い。ま、許してあげてよ。テクニックと演技がすばらしい、ということで。
「キトリの人、すごーいきれい!幾つだろう?女優になれるよね!」 なれる、なれる。ケロンパー、みたいな顔しているけれど、アニエスは独特な美しさを持っていて、それが舞台ではすばらしく映える。
「闘牛師の人、かっこよかったねー。でも、このプログラムの写真、ヤダ。うまいよね、彼も。え、エトワール?」 うん、見てくれはいいダンサーだ。うん、プログラムの写真はヒドイ。うん、エトワールなんだよ、あんな役やらされているけれど(笑)。横の会話を楽しく聞きつつ、心の中で答えてみる。彼女たちは幸せだ。こんな、年間150を超える公演の中で、一番感動が生まれた夜のバレエを楽しめて。

23日

舞台って不思議だ。全く同じ人が踊っても、できが全然違う。ニコラとアニエスが、先週よりも今週の方が抜群によかったのにひきかえ、マニュエルとオレリーちゃんの今夜は、先週に比べ、間抜けたものになってしまった。

マニュエルはあいかわらず1幕2幕のエンジンがかからないし、先週抜群だった演技力が今日は欠落。オレリーちゃんは、まあまあよかったものの、3幕の32回転を途中でミス。初日に見せてくれた強烈な輝きが、ちょっと薄れていたかな。今夜の踊りは、フィルムに残す価値はあまりないなあ。土曜日はどうだったんだろうね、この2人。

その他の人たちは、ますます踊りも演技もこなれて来て、いい感じ。マチュー、セブとアドリア、コールのかわいい3人組みは今夜もその美しいお顔を楽しませてくれるし(うまいかどうかは、また別問題、、、。)、ファニーやオスタの踊りもいい。今夜が最後のバールのエスパーダも見ごたえたっぷり。いやあ、テクニックはほんといいですね、この人。金曜日のニコラとアニエスの最終日には、パケット氏が踊るんだぁ、ヤだなあ、、、。

quichotteいつも変わらずろくなものでないオケにも、不出来の衣装にも慣れた(笑)。(衣装同様、大不評をかっている舞台は、私はそんなにイヤじゃないけどね。前がよっぽどよかったんだろう。特に2幕後半については、みんな嘆いている。)音楽も少しずつ覚えてきたし、見所も代々把握した。金曜日のニコラたちでひと区切りした後は、いよいよ後半。オスタ/ペッシュは見られないけれど、まずはマリ−アニエス/ジョゼ。そして、ジェレミー/モランは“ジェレミーを観るために”一度は見たいし、レテテイアが一回だけ予定されているキトリ(相手はマニュエル)は外したくないし、フィナーレにはジョゼとロシア人ゲスト(ダイアナ・ヴィシュネヴァ、って読むのかな?)が待っている。この時には、マリ−アニエスちゃんがまた女王様を踊るし、ヤンちゃんもエスパーダを踊る予定(お願い、怪我治してね。)。来週から、カデールをはじめ、エレオノーラやアレッシオ君、ステファン・ファヴォランにセリーヌ・タロンなど、好みのダンサー達がずらり勢揃いする「ストラヴィンスキー特集」もはじまり、バレエ公演が重なる。カデールを逃さずに、かつ「ドン・キショット」をたっぷり楽しむべく、しっかり予定を組まなくてはね。パリ国立オペラ座って、ほんとに素敵なカンパニーだ!

15,17,22,23 avril 2002(02年4月)
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