26日
「ドン・キショット」の初日から10日が過ぎ、ようやく空席が目立たなくなったオペラ・バスティーユである。おっきい子組その1(ニコラ/アニエス)は今夜がラスト。月曜日の感動を再び見せてくれるかな?
見せてくれなかった、、、、、、。ま、こんなもんだ(笑)。
もちろん2人ともすばらしい。でも、あの夜にくらべると、気迫と緊張感が足りない。なんとなく流してる?もう精根使い果たしちゃったよ〜と言わんばかりに、あのビシビシした熱気が伝わってこない。今夜こそ本当に、ニコラはアニエスを頭から落としそうになって会場は思わず息を呑む。(違う意味で息をたいよ(笑)!)アニエスの出来も、月曜日に比べると9割かな。ニコラの出来?7割。それにしても、2人のタイミングが全然合わないのには、がっかりしちゃう。
今夜のエスパーダはドゥラノエ。もやは彼の特徴となってしまった怪我から開けて間もない。病みあがりの調子はまーまー?バールの、身体的にも技術的にもケチのつける隙間のないエスパーダを散々堪能したあとだけに、どうしても分が悪いよなあ。あのボサボサの髪、ヤダ。なんといっても、ヌレエフ・ダンサー。表現力は悪くないんだ。でもやっぱり、バールの、ビシッとスマートなマタドールの方がいいよなあ。(おお、珍しいこともあるもんだ!バールを素直にほめるなんて!)ドゥラノエのお相手は、奥様のデルフィヌ。一緒に見るの、久しぶりね。安心感がある、この2人が一緒に踊ると。
ドレイフュスの女王を踊るマリ−アニエスちゃんは、例の2幕のグランド・ジュッテで今夜も会場に拍手を強いる。いやもう、ほんとにすごいったら!キュピドンのレテティアは相変わらずひらすらにキュートだし、ドゥモワゼル・ドゥヌールのファニーは、相変わらずリズミカル。お二人とも、お上手ねえ。ふたりそろって大好きよ。マチューを筆頭にコールの子達も、相変わらずかわいくて(例外も少数いるが)、いやいやいい舞台だ。
でも、今夜は実は、あんまり舞台に集中できなかった。横に座った“人たち”の“せい”と“おかげ”で。1幕がはじまる直前、私の横にドカッと腰を下ろしたのは、パトリス・バール。オペラ座の主任教授であり、(一応)振付師でもあるかつてのエトワール。ち、同じバールなら、ジャン・ギヨームの方がまだよかったよ。と舌打ちしながら、暗くなる会場を眺める。このバールがまた、始末が悪いったら。となりの友達と小声で会話を交わしながら、舞台のダンサーたちのダメだしに余念がない。うるさい!ダメだしなら、練習中にやってよ。おまけにしょっちゅう体を動かして、その振動がこちらに伝わってくるし。なんてこったい、全く、、、、。ダンサーたちをどうにかする前に、自分の作品をどうにかしなよ。ダメだしする価値おおありじゃない、あなたの作品。バールに翻弄されて1幕が終わり、アントラクトはぐったり休憩。やえやれまいるね、、、。同じ横なら、同じ列のもう少し中央よりに座ったプラテル様の方がずっとよかった。
2幕開始のベルがなり、そろそろまたバールがくるんだなあ、、、とげんなりしながら会場にぐるりと視線を泳がす。
と、あれ?あれあれ??あの、遠くにいるのは、アレッシオじゃなあい?広大なバスティーユの、私の席は舞台に向かってかなり右側。そこから、左端の入り口にたたずむ黒いセーターの小さな人影に、ピピピ!と反応。あわててオペラグラスを向けてみる。おおお〜、やっぱりアレッシーだ〜!見に来てるんだね。こっちに来ればいいのに、、、と思っているうちに、アレッシオは左の隅の席に落ちついてしまい、同時に私の右側に大きな人影がやってきて、バールがどかりと腰をおろす。ああ、私って不幸、、、。
2幕が終わり、フォアイエに出ると友達に遭遇。
「アレッシオ来てたね」
「知ってる。さっきのアントラクトで気づいた」
「一幕からいたよ」くうぅ、なんてこった、、、。一幕がはじまる前に気がつかなかったとは、自分が不甲斐ない。
「多分空いてたよ、彼の横」
「ほんとですかっ!?」
3幕開始直前、アレッシオが座っていた辺りの席の横が確かに空いている。も一つとなりの人がコート置きにしているのを、「空いてますか!?」と、『空いてないとは言わせないぞよ〜』みたいな顔して尋ねて、めでたく席をゲット。嬉々として座り、一番はじのまだ空いたままの席に座る人を待つ。こないなー、こないな〜、こないな、、、きた〜っ!期待と喜びにあふれた顔で迎える私に、アレッシオは「ボンソワー」と、座りながら(バールとは座り方まで違う〜)ニッコリ挨拶してくれる。か、かーっくいぃー!
「ボボボボボボンソワー」うっひゃー、アレッシオだ!アレッシオだ!!アレッシオだー!!!カデールは別格としておくと、私が一番好きなダンサーがアレッシオ・カルボン。2年チョイ前に発見して以来、彼のファン。去年の3月に、スジェになったばかりのダンサーだけれど、その端正なお顔(イタリア人だねえ♪)、品のある立ち振る舞い、美しい姿勢、そしてその跳躍とスピードに、私は惚れている。こんなチャンスを逃しちゃいけない。生まれてはじめて、大好きなダンサーとお話をしてみる。ちょっと高めで、張りのあるやさしげな声で、アレッシオは話す。きっちり目を見てくれて、笑顔を浮かべながら。ふあぁ、いい男だなあ。これがまた、カデールに似てるんだよねえ、こころなしか。今シーズンはもう、5月の「春の祭典」を踊るだけだって。つまんないの、、、。
夢のような数分が過ぎ、照明が落ちる。あああ、もうはじまっちゃうのぉ?電気系統が故障しちゃえばいいのに、、、。もう少し、アレッシオとお話していたいよぉ、、。そんな祈りもむなしく、チャラララ ラ ラ〜と3幕の序曲がはじまってしまう。
うー、舞台に集中できない。左に座るアレッシオに神経が集中してしまう。
「ああ、アレッシオが腕を組み変えた!」
「おお、アレッシオが足を組んだ!」
「ああ、アレッシオが拍手してる!」
「おお、アレッシオが笑ってる!」レテティアとニコラのヴァリアシオンにそれぞれ、よく通る耳に心地よい声で「ブラヴォ!」を飛ばす。レテティア、すきなんだ?そう言えば、1月のサン・クルーのガラでも一緒に「ロミオ〜」と「海賊」をやったっけね。
拍手しながら話し掛けてみる。
「ほんとにすばらしいわね、あなたの仲間達」
「うん、そうだろう!」形のいいあごが薄暗がりの中でこちらを向いてくれる。
カーテンコールになってからも、関係者にしてはめずらしく、しばらく席に座ったまま拍手とブラヴォ!を送り続けてからスッと席を立つアレッシオを見送る。ある意味で、一生忘れない公演だったね。
4日
ウィリアムの所で食の快楽に溺れている間に、レテティアがエトワールになってしまった2日。本人を筆頭に、誰もが仰天したエトワール誕生(そうは言っても、私はレテティアが大好き。ほんと、おめでとう!これからは、たくさん躍らせてもらえるといいねー(笑))の瞬間を逃し、今日4日は、「ノートルダム〜」、「ラ・バヤデール」に続く3度目の正直で、今度こそエトワールに!と、悲痛なくらいに応援されているマリ−アニエスちゃんがキトリ・デビューをする日。
満席のオペラ・バスティーユには、今夜、一種独特の雰囲気が漂っている。レテティアがエトワールになった今、今宵こそはマリ−アニエスも!という、興奮とも緊張とも取れる空気が流れている。照明が落ちる。指揮者への拍手が起きる。前奏曲が流れる。プロローグが終わる。シールドが上がる。マリ−アニエスの登場まであと3秒。神様、お願い。マリ−アニエスに祝福を、、、。
燃えるような赤い衣装に身を包んだマリ−アニエスが舞台に跳び込んでくる。あきれるばかりに印象的で力強い、圧倒的な存在感をさらけ出しながら。スタートから、やる気まんまんだわ、彼女。ああ、そんなに足を上げなくてもいいってば、、、。ああ、そんなに派手に動かなくてもいいんだよ、、、。後半に体力残した方がいいよぉ。思わず苦笑してしまうくらいの、はでやかで有無を言わさぬ迫力をみなぎらして、彼女は踊る。うーむ、ジョゼより足上がってるよ、、。
やっぱり大技だなあ。体が熱くなるすごくステキな踊りなのだけれど、扇の広げ方もイマイチだし、どうしても繊細さは欠ける。すごーくいいけれど、やっぱりコンテンポラリーを躍るダンサーなのかも、、、と、会場をねじ伏せた感のある迫力満点の1幕に続き、2幕のふつうさ、そして3幕のくじける場面を目にして、考え込んでしまう。確かに、アニエスやオレリーは、迫力と上品さを同居させられる。遊びながらも、あくまでもエレガント。マリ−アニエスの遊び方は激しすぎるんだ。まあ、その熱いほとばりが、彼女の踊りの魅力であるのは確かなのだけれど、特にアニエスが得意とする(オレリーはまだあんまり出来てないと思うのだけれど)、役によって自分の雰囲気を変えていく、という「技」がまだまだなんだよねえ。
でもまあ、そんなことは、エトワールになってから少しずつ覚えていけばいいじゃない。確かにテクニックに不安なところはある。確かに、パートナーの問題もある(ニコラのバカ!)。でも、でも、もういいじゃない。こんなに観客を熱くさせてるんだよ。こんなに印象的なんだよ。エトワールにしてあげてよ、、、。
バジルを踊るジョゼも、今夜の主役はマリ−アニエスだからねっ!と、パートナーシップにも熱が入る。でもいかんせん、ジョゼではマリ−アニエスには細すぎだ。かなり無理があるよなあ。重たいマリ−アニエスを持ち上げてグラグラするシーンもチラホラ。まあでも、そこはなんてったってエトワール。かわいいヤンちゃんがプラテル様を持ち上げてグラグラさせるのとは、本質的に意味合いが違う(笑)。根がお上品なジョゼ。おちゃめな演技が、ほんの少しわざとらしく見えてしまうのが残念。やっぱりバジルは、天然ボケで笑いの取れるニコラが一番合ってるなあ。ニコラとマリ−アニエスの舞台だったら、どんなにか迫力のある舞台になったことだろう。とは言っても、テクニック的にはさすがのジョゼです。全然悪くない。十分にステキだ。これに文句つけたら、やっぱり怒られるよね。
ファニーのキュピドンは、文句なしにお上手。このダンサー、ほんとにリズミカルで軽くて上手い。来年こそは、プルミエールになれるよう、心から祈る。コゼットの女王様はイマイチ。なんだか緊張してた?全くつまらない女王様だよ。未来のエトワールなんだから、もちょっと頑張りなさい。
デュケンヌのエスパーダは、思っていた通り、、、、。力ばっかり入っちゃってる。下手じゃないし役作りが悪くもない。でも、上手くないし、役作りが良くもない。ま、こんなもんだ、デュケンヌの実力は。
ダンスーズ・ドゥ・リュは、3年ぶりに舞台復帰したナタリー・リケ。ふわぁ、きーれいーだねー。今幾つ?30半ば?なんてまあ、美しいんでしょう。好きだなあ、こういうお顔。大きなミスをしてしまったのも笑って許せる。テクニック的に見事とは言わないけれど、雰囲気をしっかり持った、決して悪くないダンサーなのでは?「ストラヴィンスキー」の方でヴィオロン・コンチェルトを踊る。一度くらい見てもいいかな。相手がロモリ、というのがなんだけれど。
マチューの首は相変わらず美しくセクシーで、アドリアンの口元のしわはいつもながらに魅力的で、セバスティアンの踊りは毎度のごとく熱い熱い(笑)。女の子に目をむければ、ミリアムかわいいし、シアラヴォラは美しいし、ジュリエットは色っぽいし、ドロテは元気いっぱいだし、いやいやほんと、この公演のコール・ドゥ・バレエは最高だね。
マドゥモワゼル・ドヌールを踊った、ドロテ・ジルベールに注目。この半年くらい、すごく評判の高いドロテ。入団してまだ2年目のカドリーユだけれど、年末のコンクールでコリフェになれなかったことに対してブーイングが出たほどの逸材。顔と名前が一致しない私に「コールの中で一番上手い子だよ」と、みんなが言うけれど、それでもなかなか識別できなかったドロテを、今夜初めて、意識して見る。こりゃ上手いわ、、、、。少なくとも、カドリーユの踊りじゃない。長い手足(特に、手だね)が、嬉しそうに跳ねる。飛び切りの笑顔がそれに添えられる。そんな感じかな、ドロテの踊りって。とにかく、嬉しそうに元気いっぱい踊るんだ。性格のよさが顔ににじみ出ている。ほんとにいい子らしく、だれからも好かれるという、珍しいダンサー(笑)。マニュエルも可愛がっていて、この夏の公演に連れていくらしい。
3幕のパ・ドゥ・ドゥで、イマヒトツ乗り切れなかったマリ−アニエス。力尽きたのか、やっぱりもともとこういうテクニックは苦手なのか?これはダメかも、今夜は、、、と危惧した通り、会場が明るくなっても、カーテンの向こう側では拍手が起らなかった。この夜、アーティスト出入り口には、大勢のマリ−アニエスのファンが詰め掛け、出てくるマリ−アニエスを嵐のような拍手で迎えたという。
体がとっても熱くなった、とてもいいキトリだったよ、マリ−アニエスちゃん。
8日
マリ−アニエス/ジョゼの二日目。初日の4日にノミネ(ノミネート)がなかったので、今日もきっとなにも起らないだろうなあ、と諦めの気持ちでバスティーユに赴く。
会場には、マリ−アニエスちゃんの旦那(ブイヨン)、ジョゼの奥さん(アニエス)とアレッシオくん、若手ダンサーたち、オレリーとマニュエルまで来てる。おおアニエス、私と席代わってちょうだい!こっちの方が、あなたの旦那がよく見えるわよ!アレッシオの隣の席を、私に譲って〜。オレリー/マニュエルは、会場の最高にいい席に収まってる。生意気な!アニエスやアレッシオは端っこに座ってるというのに。
そう言えば、マニュエルとバンジャマンが別れた、というのがもっぱらの噂(笑)。ついに、バンジャマンはマレのアパルトマンから出てしまったとか、、。でもって、マニュエルはオレリーとのよりを戻したらしい。だから、最近一緒に踊ってばかりなんだと。確かに、年末の「ラ・バヤデール」で久しぶりにカップル復活させあとは、「ドン・キショット」、「ヴィオロン・コンチェルト」と続いてる。
おまけに、マニュエルときたら、レテティアもキープしているらしい。「ドン・キショット」も、もともとはマニュエルと一度だけ踊る予定だったし、マニュエルの影響力でエトワールになったともささやかれている。ま、どこまでホントなんだか(笑)。そんなことはどうでもいいいい。さ、マリ−アニエスちゃんを応援しよう。
土曜日に比べ、ずっと落ちついていい感じなったマリ−アニエス。あのど迫力を少しなくした変わりに、安定感はずっとある。上手いよ、感動的だよ、魅惑的だよ、、、。もういいじゃん。イジワルしないで、エトワールにしてあげてよ、ガルさん。こんなに観客を魅了してるんだよ。嵐のような拍手とブラヴォーが聞こえないの?見ていて、もう痛々しいよ、、、。涙がじんわり溢れてくる。
昨日、一昨日は、ガルニエで「ヴィオロン・コンチェルト」を躍らされているマリ−アニエス。こちらでも、女王、ダンスーズ、キトリ、そしてこの後またさらに2回の女王を踊る。もちろん「ヴィオロン・コンチェルト」を間に挟みながら。こんなにこき使われて、怪我しないのが不思議なくらい。(もっとも、11月にはあまりのハードスケジュールに、ついに怪我してしまったが。)どうしてこんなにいじめられなくちゃいけないの?
マリ−アニエスをエトワールにするにあたって、オペラ座バレエ総裁のブリジットさんは、もう前からOKを出しているらしい。NOと言っているのは、オペラ座総裁のガル。なにが気に入らないの?男っぽい体つき?高すぎる背?不安定なテクニック?「マリ−アニエスの2匹の犬は(彼女はいつもこの2匹と一緒)、ガルとすれ違う時に噛みつけばいい!」と言った人がいたけれど、同感。ソウダソウダ、ヤッチャエ、イヌドモ!
2幕のグランド・ジュッテでは、今宵も拍手を浴びる。なんて高くダイナミックな跳躍。デュルシネ(キトリ)のグランド・ジュッテで拍手を浴びたのは、マリ−アニエスだけ。アニエスにもオレリーにも拍手は沸かなかった。
3幕のパ・ドゥ・ドゥも今夜はなんととか成功。相変わらずフエッテは、アニエスらに比べるとイマイチだけれど、十分だよ。ああ、また涙が溢れちゃう。
ジョゼは、土曜日同様、妙に楽しいバジルをソツなく踊る。んー、んー、んー、、、。すっごく上手いし大好きなダンサーだけれど、ヌレエフはやっぱりダメだ。迫力に欠けるのかなあ。ソローもデジレも全然だったしなあ。ああでも、ドロッセルマイヤーはなかなかよかったっけ。
コゼットは今夜は頑張った。うん、その調子。ガンバレ!ガンバレ!ファニーとドロテは土曜日同様チャーミング。ドロテにはまいったね。
今夜のお楽しみは、ヤンちゃんの復帰ダンス。怪我しちゃってたヤンちゃん、「ドン・キショット」の前半は棒に振って、この間からようやくマタドールの1人で舞台復帰。でも、なんか間のびした踊りで、体の線もちょっと太くなり、ナイフもまっすぐに立てられず、と、なんだかなあ?なできだった。ヤンちゃんの時代もついに終わったか?下にかわいい子がゾクゾク控えてるしねえ、、、なんて思ってしまったが、今夜のヤンちゃんは一味違う。1幕のマタドールは、土曜日同様つまらないけれど、2幕のジタンがすばらしい!久しぶりに、ふんわりと空中に浮かぶヤンちゃんならではの跳躍を堪能。思えば、今から6年も前、ロビンスの「フォーシーズンズ」で牧神を演じたヤンちゃんのこの跳躍を見て、バレエに心打たれたんだっけね。初めて覚えたダンサーの名前が、ヤン・サイズだった。当時は、彼もエトワールだと信じ込んでいた、バカモノだったね、私(笑)。いやいや、いいですよぉ、今夜のヤンちゃん。こういうのははまり役。ヤンちゃん好きである自分を、ひさしぶりに思い出してしまった。
会場の興奮と熱気が拍手に形を変えてマリ−アニエスに注がれる。とてもいい舞台だったよ、本当に。とびきりの感動と興奮をありがとう。マリ−アニエス・ジロは、タイトルのないオペラ座のエトワールだ。
9日
天国から地獄。昨日と今日の公演を比較すれば、こう言うほかないでしょう、、、。
まあ、もともと全く(キトリに)それほど(バジルに)期待していなかったけどさあ、、、。今夜の公演は、モラン/ジェレミーのカップル。ジェレミーはもちろん初めてのバジル。うん、それは分かるよ。でもさあ、モラン!あなた、まだ踊ってなかったの、キトリ?この年になって(39歳)、今さらキトリデビューする、普通?あんな体力必要な役、無理だってば、あなたには。フレエフ・ダンサーの端くれとして、ヌレエフ物は全て踊ってから引退、といきたかったんだろうけど、見てるこっちの身にもなってよ、、、。
で、想像通りのつまらなさで1幕が開ける。なんてまあ、存在感のないキトリ。なんてまあ、迫力とテクニックに欠けるキトリ。今までの3人が、揃いも揃って鮮やかだった分だけ、ほんとにショックなくらいにモノトーンなキトリ。もう、体力がついていかないんだろうなあ。辛そうな顔して必死に踊るモランを見ているこっちが辛くなってくる。それでも、2幕、3幕は、ごまかしごまかし無難に乗り越えている。なんの感動もないけれど。フィナーレを迎えた時には、やれやれ、やっと終わったねー。お疲れさまでしたっ!って感じだ。せめて、マニュエルが踊ってあげるべきだったと思う。で、ジェレミーとレテティア。その方が、ずっといい組み合わせじゃない。
まあ、モランには何も期待していなかったから、別にいい。問題は、ジェレミーだ。一昨年のコンクールでだんとつトップでプルミエに昇格したジェレミー・ベランガールは、オペラ座の未来をしょってたつ逸材。のはずなんだけれどねー、イマイチ駄目なんだよね、このごろ。駄目、というのではない。出演させてもらってないんだ。
そのコンクール後になにを踊ったかというと、「真夏〜」のパックでしょう(これはよかった。すごーくよかった!)、「ロミオ〜」でマルキュッシオを一度でしょう(これは、まずかった、、、)、シーズンが代わって「放蕩息子」でしょ(見損なったけど、カデールよりいい訳がない)、「ラ・バヤデール」ではイドル・ドレでしょ(20秒しか舞台に出ない!)、、、、。ああ、「ユールヴァン」では、しっかりと主役を踊ってくれたね。あれはおみごとでした。でも、それだけ。まあ、背の問題もあるのだろうけれど、2位上がりのパケット氏が、ちゃくちゃくとエトワールへの道を歩いてるのに(実力もないくせに!)比べ、ジェレミーは、なんとなくかやの外なのだ。ヌレエフの王子様系なんて、踊ったの見たことない。なんだか心配だなあ、、、。
という危惧は大当たり。仕方ないんだろうな。日頃、パートナーがいる役を躍らせてもらうことが少ないので、どうしてもパ・ドゥ・ドゥのできが悪い。相手がモランというのもあって緊張しているのかもしれないけれど、んー、だめだなあ。表情が硬すぎる。ジェレミー、もともと硬派な顔立ちなんだから、もっと笑わなくちゃ。どう考えても、これ、バジルじゃないでしょう。ソロのヴァリアシオンが抜群なだけに惜しい。ほんと、1人で躍らせたらすごいよ、この人。1幕のヴァリアシオンでも会場を魅了するけれど、3幕にいたっては、観客に、ため息とも喘ぎともつかない声を出させる。頭がくらくらするような、人間離れした跳躍や回転。このシーンだけなら、ニコラを超えてる!といっても、誰も文句は言えないだろう。
しかしなあ、、、、。遊びの部分もなんとなく硬いし、やっぱり役作りとしては失敗でしょう。今日で、バジルは全て出そろったわけだけれど、一番はニコラ、に落ち着くね、やっぱり。で、マニュエル、ジョゼ、ジェレミーと続く。(バンジャマンは見られなかった。)ディストリビューションの順番通りだ(笑)。しょせん、そんなもんだよね。第一ディストリビューションにかなう他の配役って、まずない。
ジェレミーはやっぱりモダン、コンテンポラリーの人間なんだなあ。キリアンとかフォーサイスとか躍らせると、人間とは思えないもの、ほんとに。でも、そんなこと言ってられない。もっともっとクラッシックも身につけて、パケット氏なぞに負けずに、すばらしいエトワールになって欲しいものだ。
それにしてもものすごい跳躍。つまらなさに眠りかけていた会場が、一気に覚醒したもん(笑)。ようやく興奮することが出来た瞬間だった。このシーンだけ見に、14日もまた来てもいいかなあ、他の部分は我慢するから、、、、と、思わせるような、見ごたえのあるシーン。
女王を踊るシアラヴォラがとてもいい。もともとが、品の固まりみたいな優雅で手足のながーい体を持ったダンサー。冷ややかで細い表情も役にぴったり。フエッテ・アティチュードで失敗してしまったのが残念だけれど、最後のグランド・ジュテでは、マリ−アニエス以来はじめて、わずかながらに拍手が沸く。ま、モランのあとだからねー。拍手も出やすい。でも、確かに高くてきれいな跳躍だ。
ミリアムのキュピドンは、ひたすらにかわい〜。ミリアム、顔がそのままキュピドン、って感じなんだもん。ジュリエットのダンスーズが、あまりに期待はずれで残念。テクニックはもちろん、雰囲気までガラガラに壊れてる。どしたの?雰囲気だけはあるダンサーなのに。ヤンちゃんのジタンはますます好調。この分なら、エスパーダも期待できるかも。
今夜の思いがけない喜びは、エルヴェ・モローのエスパーダの出来のよさ。(もっとも、ほかが駄目な分だけ、よさが目立った、という話もあるが、、、。)もちろん、ある程度期待はしていたけれど、こんなによく似合うとは思わなかった。この1年で、ホントに上手くなったね、エルヴェ。この役、とてもエルヴェ向き。笑わずに、ひたすらカッコつけて踊ってればいいという。それにしてもいい感じだなあ。これじゃあ、アレッシオが2位でスジェになったのも納得せざるをえないなあ。(今ごろ、ガルニエで「春の祭典」踊ってるんだろうけれど、これがまた、始末に終えないくらい、アレッシオに似合ってないんだよなね、、、。)体のラインもいいし、顔も悪くないし、確実に将来のエトワール。今夜しか踊らないのがとても残念。デュケンヌこそ、一度でよかったよ。
そして、今夜もう一つ楽しみにしていた、モロリー・ゴディオンのガマッシュについて。年末のコンクールでスジェに上がったモロリー。小柄なダンサーで、タイプで言えば、エマニュエルとかベラム系。「ノートルダム〜」の頃からどんどんいい感じになって来て、コールの中心でもある。でも、彼がガマッシュみたいなお笑い系の役をやるダンサーだとは知らなかった。ねえねえ、自分で望んだの?それとも、ディレクションから「君が適役!やってみな!」って言われたの?かなり興味あるなあ、そこの部分(笑)。なかなかよく出来た、楽しいガマッシュです。
さて、これでまた、「ドン・キショット」も一段落。あとは来週の、レテティア/マニュエル、そしてロシア人/ジョゼで、ついにラストを迎えます。レテティアとロシア人を楽しみにしつつ!
26 avril, 4,8,9 mai 2002(02年5月)