17日(金)
いよいよ、「ドン・キショット」もフィナーレを迎える。今夜は新エトワールのレティティアとマニュエルの日です。
15回の公演を擁する「ドン・キショット」の主役カップルは全部で7組、総勢12人が予定されていた。ずらりと挙げてみようか。
アニエス/ニコラ 3回 (初日)
オレリー/マニュエル 3回 (テレビ撮影)
クレル-マリ/バンジャマン 2回
マリ-アニエス/ジョゼ 2回
モラン/ジェレミー 2回
レティティア/マニュエル 1回
ヴィシュネヴァ(って読むの?ロシア人ゲスト)/ジョゼ 2回
これが当初の予定表。これ見ただけで、オペラ座の問題、というか内部事情というのか内紛というのかが、よく分かってしまう。なぜ、ニコラとアニエスでジョゼとマリ-アニエス?なぜ、モランとジェレミー?なぜロシア人?そして、なぜレティティアが一度しか踊らないの?内部はドロドロなオペラ座である(笑)。
結局は、クレル-マリ・オスタの怪我によって、アニエス/ニコラが4度踊ることになり、バンジャマンが一度しか踊らないことになった。2週間もあとの出演予定で何の準備もしていなかったレティティアが、幕の開く48時間前に「きみ、バンジャマンと踊りなさい」と言われ、準備もままならぬまま踊ったあげくに「きみ、エトワールになったからね」と告げられ、本人も周りも多いに驚愕する事態となってしまった。当初の配役とスケジュールを見ると分かるように、本来ならばレティティアは17日にマニュエルの横でエトワールになるよう予定されていた。エトワールになる時の相手ダンサーは、エトワールであるのが通常だ。例外、あるのかな?知らないなあ。だったら17日まで待てばいいじゃない、との意見もあるが、どうもエトワールの任命は、その役を初めて踊る日、というのが通例らしい。
そんな訳で、フライングエトワールになったレティティア・ピュジョル。オペラ座幹部からはあまり気に入られていないようで、今シーズンもほとんど躍らせてもらっていないかわいそうなダンサーだけれど、私は大好き。彼女のエトワール任命は、意外な喜びでした。
2日の夜を逃しているので(だって、オスタが踊ると思ってたもの、、、。レティティアとバンジャマンなら、とても見たいキャスティングだったなあ。)、今夜が一度きりのキトリ byレティティア。結構ワクワク。似合うと思うな、キトリ。オキャンでかわいらしくって。テクニックは抜群だから1幕と3幕のヴァリアシオンも楽しみだ。
相変わらずなんちゃってオーケストラのオペラ座管の音はこの際忘れよう。すっかり惚れきってしまったミンクスの旋律を心地よく耳にしながら、プロローグを終えて、1幕に入り込む。友達がワラワラとみんな集まった中、さあ、レティティアの登場です!ジャジャジャッジャジャーン♪
あはは、レティティア、髪の毛染めちゃってる。スペイン娘らしく黒髪にしたかったのかな?きれいな金髪が、栗毛色になってておかしいよ。ダンサーが髪の色を変えるとろくなことがない。エレオノーラがエスメラルダを踊った時の変な黒髪も気持ち悪かったし、ヤンちゃんがフォエビュスを踊った時の、べったり張りついた金髪はあまりの恐ろしさに椅子から滑り落ちた。見なくて幸いだったらしいが、ロビンスの「牧神~」のヤンちゃんも、無理矢理金髪にしていたとか、、、。みんな、地毛で行きましょうよ!
さて、レティティア。おーおー、なんと嬉しそうに踊ること。そりゃ嬉しかろう、本人が一番びっくり仰天したエトワール任命の役だもの。キトリはこれから一生、彼女にとって特別な役になるんだね。しかしまあ、見ていて微笑ましいなあ。喜びが体中から発散しているよ、このキトリ。「嬉しいのよ~!幸せなのよ~!私は、これを踊ってエトワールになったのよ~!ラララララ~!」というレティティアの興奮がたっぷり伝わってくる。1幕のパ・ドゥ・ドゥで、バジルに片手でリフトされるシーン。あまりに長いリフトで(たっぷり5秒は続いた!)間が持たなくなったのか、舞台袖に顔を向けていたレティィアが、クルッと顔を会場に向ける。ニカッと喜びいっぱいの笑顔で。「か、かわいすぎる、、、」思わず、横に座る友達に呟く。周囲にも、苦笑というか忍び笑いがワサワサワサと広がる。いいなあ、こんな幸せそうなキトリ。なんだか幸福感がフツフツと湧きあがってくるよ。
テクニックは言うことないですね、さすがはレティティア。1幕のカスタネットのヴァリアシオンはピンと張りがあって見事だし、3幕のフエッテにいたっては、トリプルを2~3度挟む大技をやってのける。ドゥーブルとトリプルの数の方が1回転の数より多かったでしょう!?会場大興奮、私は息を呑んで友達の腕を握って顔を顰めさせてしまう。ゴメン、痛かったね。でも、あまりにレティティアがファンタスティックで、、、。
欠点を言えば、やっぱり表現力なのかなあ。アニエスやオレリーのキトリと比べると、やっぱり人物描写、というかキャラクター掴みが弱いかも。まあ、このレヴェルになるともはや個人的な好みなのかもしれないけれど、私はやっぱりアニエスのキトリが一番好きだったかな。上品さとかわいらしさが同居した、雰囲気のあるキトリだった。まあ、何はともあれ、興奮と幸せをたっぷりくれるキトリであることには間違いない。ああ、1回じゃ物足りない。もう2~3度、レティティアのキトリを見たかったな。
でも、今夜のスターはでも、レティティアではなくてマニュエルなんですね、これが。どしたんだろ、彼?これ以上ないくらいに張り切ってる。オレリーとの初日もかなーりよかったのに今夜のマニュエルは、ちょっとすごいよ。「ヌレエフは俺のもんなんだよっ、分かったか!?」みたいな気迫を感じる。ジョゼやジェレミー、非フレエフダンサーを続けてみた後だけに(ニラコも見たのは、もう3週間も前だし、、、。)、あまりのヌレエフ的な踊りに思わず「はい、ヌレエフはやっぱりあなたのものです、、、」と妙に納得。レティティアのファンキーでパアッとした踊りに合わせているのか、今夜のマニュエルの踊りも、とにかく明るくダイナミックでかっとんでる。1幕の例の5秒以上続いたリフトは、他のどのバジルがどうやっても敵わないくらいの圧倒感を持った完璧なリフトだったし、2幕のヴァリアシオンや変装しての踊り、3幕のパ・ドゥ・ドゥ、ヴァリアシオン、酒場の踊りを含め、もうすべて言うことなし!4月22日の、あの一生忘れない公演のニコラにはどうしても劣ってしまうけれど、かなりすごい感動。今シーズンの中では、「ノートルダム~」の初日のフロロに次ぐ出来だ、今夜のマニュエル。すごいですねえ、頭が下がります、ほんと。そして、年甲斐もなく大いに張り切りすぎたダンサーは、3幕で怪我をして、フィナーレは踊らずに引き上げてしまったのでした。
今宵は、とにもかくにも主役の2人につきますが、一応その他の面々も語りましょうか。
かなり楽しみにしていたジェレミーのジタンは、こんなもんかしら?確かに上手いのだけれどイマイチ存在感が、、、。やっぱりこの役はヤンちゃんのものでしょう。でも、この衣装、ジェレミーによくお似合いだわ。バジルの衣装の100倍似合ってる。
マロリー・ゴディオンのガマッシュは、こなれてきていい感じ。マロリー、すっかりこっち系の役に落ちついてしまったねえ。今後が楽しみ。
コゼットの女王様は、ぜんぜんダメだー。どしたのコゼット?こんなに固くなっちゃって、、、。将来の有望株なのに、これじゃ困るね。
メラニー・ユレルのキュピドンはヤダ。メラニー自体、特に好きでないダンサーな上に、キュピドンという役が全然似合ってない。キュピドンはやっぱり、可愛いダンサーが踊らなくちゃダメだよ。あの、しわがたくさんの顔で微笑まれたって、なんだかおどろおどろしい、、、。いやだなあ、来週もメラニーがキュピドンなんだよね。ホントならレティティアのはずだったのに、オスタの怪我が長引いて、レティティア、ガルニエで踊らなくちゃいけなくなっちゃった。
トリオのなかでは、今日もドロテが光り輝いている。これからも、たくさんソロを躍らせてもらえるといいね。なによりも、年末のコンクールで、今度こそコリフェに昇格だ!まだ18歳?17歳かな?コールに入って2年目。この期は、将来有望株がたくさんいる。
ドゥラノエのエスパーダとナタリー・リケのダンスーズ・ドゥ・リュは、別に~。ナタリーの美しさにうっとりするくらい。テクニックはダメだけれど、なかなか雰囲気あっていいダンサーだと思うな。カデールと並ばせたら結構合うのでは?
コールの子達は、相変わらずすばらしい出来で、このバレエカンパニーの新の実力は、エトワール達のすばらしさもさることながら、このコールの質の高さにある、としみじみ感じる。誰をとっても(というのはさすがにおおげさだけれど)、かなりのダンサーが、ソリストとしても活躍できる実力を持ってるよ。
今夜はマタドールの1人を踊るマチューは、1幕ではあのかわいい顔がよく見えないのが残念だけれど、2幕ではジタンの1人として、相変わらず最高にセクシーで美しい首の動きを披露してくれる。2幕の一番の見所は、私にとっては連日連夜、このマチューの首ですね(笑)。
そして、今夜最高におかしいのは、我らが可愛いヤン・サイズ。前半は怪我で欠場、後半やっと出てきたと思ったら、なんだかあんまりパッとしない日々が続いてたけれど、この間のジタンで復活の兆しを見せてくれてホッとしていた。今夜はね、かなり元気いっぱい。ラスト2回、エスパーダを躍らせてもらえるヤンちゃんにとって、今夜は、エスパーダの予行練習日なのかしら?なんだか後ろの方で、いかにもヤンちゃんらしい、ばかげておかしい動きをたっぷり見せてくれる。あまりの面白さに、主役のパ・ドゥ・ドゥに集中できないよ~。いやあ、久しぶりにヤンちゃんらしい動き(決して、踊り、ではない)を堪能できて、なによりです。
2幕2場、ドレフュスの場面に移行する部分で、舞台装置が壊れてしまい、かなり辛い状態で2場を迎えてしまったのは、これも愛敬。ダンサーの移動の様子、舞台の動かし方などがよく見えて、かえって楽しかったくらいだった。
そんなこんなで、今夜もまた、ワクワクドキドキしあわせいっぱいの楽しい「ドン・キショット」を堪能。レティティアの笑顔とヤンちゃんの気張った顔を思い出してはニヤニヤしてしまい、メトロの中で変な人になってしまった夜でした。
20日(月)
ついに「ドン・キショット」が終わってしまう。45日に渡って全15回。私にとっては10回目。記録だ。こんなにたくさん見た公演は今までにない。最高でも、2年前の「カス・ノワゼット」の8回だった。どうしてだか全く理解できないのだけれど、なぜかチケットの売れ行きが悪かった「ドン・キショット」。おかげで私はこんなにたくさん見られて嬉しかったけどさ。
そんな「ドン・キショット」も、さすがに週末はチケット入手が難しい。後半、週末、しかもロシア人ゲストの日、ときては仕方ないのだけれど、土曜日は結局チケットが取れず、シクシク泣きながら家路に着いた。ああ、ヤンちゃんのエスパーダが見たかった、、、。ロシア人じゃないもん、私の目的は。ヤンちゃんの晴れ姿が見たかっただけのに、、、。
で、仕切りなおしの月曜日。土曜日のヤンちゃんは、期待通りのへたくそさと面白さを見せてくれた、と話を聞いており、思いは膨らむばかり。ひどく早めに会場入りして、ディストリビューション(配役)を開いてヤンちゃんの名前を確認してニッコリ。よしあとは直前の怪我がないことを祈るだけだ。
この公演とは相性がよかったらしい。嬉しいことに、毎夜、かなりいい席でバレエを楽しんできた。最悪だった席は、ニコラたちの3日目、パトリス・バールの横になっちゃった時。場所はよかったのだけれど、いかんせん、横がよくなかった。まあそれも、3幕にはアレッシオの隣に行ったしね♪最高だった席は、ニコラたちの2日目かな?2列目、ちょっと奇数側。今夜は気合入れていい席を選んである。ど真ん中、前から2列目。オペラ・バスティーユの1列目はあまり好きじゃない。フットライトの位置が高くて、1列目中央よりに座ってしまうと、ポワントゥ(つま先)が完全に見えなくなる。これはかなり欲求不満、特にクラシック作品では。1列目でも横の方だと少しはましなのだけれど。オペラ・バスティーユは3~5列目の中央がいちばんいいと思うな、私は。このあたりだと、指揮者の頭も邪魔にならないし。今日の私の席は、ほんと言うと指揮者が邪魔。前の方で踊られると、ポワントゥもほんの少し隠れる。まあでも仕方ない。ここでなければ、一列目か、同じ列のもう少し奇数側、2日目のニコラを見た席になっちゃうもの。会場には、ダンサーがたくさん。みんな、ロシア人を見に来るんだね、やっぱり。
指揮者の背があまり高くないのを喜びながら、でも1列目のオジサンの頭がおっきいのをちょっと悔やみながら、大好きになってしまった作品の最後の夜を嬉しさと寂しさを混ぜながら楽しむ。
やっぱりヤンちゃんの話からはじめないとねーっ♪完璧だ!技術が、じゃない、笑わせるシーンが。これでこそ、ヤンちゃんだ。登場からおかしかった。チャ、チャ、チャッチャチャチャ~、チャ~チャ、チャッチャッチャ~、とマタドール達が舞台に現れる頃からすでに、私の視線は、舞台左手に隠れているヤンちゃんを探す。マチューやエルヴェら、8人のマタドールの踊りがひとしきり終わって、さあ、ヤンちゃんの登場だー!目を見開き、口をへの時に結び、気合たっぷりで舞台に飛び出すヤンちゃん。振付通りに踊りをこなすのに必死だよ。あの一生懸命な顔がかわいいいんだよね。どうにかこうにか無難に踊り続け、さあ、フィナーレ。もうすぐ終わり、という辺りで、ブンブン振り回していたマントが(ちなみに、バールはブンブンではなくてスッスと振り回していた)ヤンちゃんの顔にからみつく。
「クッ、、、、」笑いをかみ殺すのに苦労する。なんでまあ、こんなにも期待どうりに面白いことやってくれるんだろうか、このダンサーは。どうにかことなきを得てフィナーレを決める。ちょっと厚味が出た気もしないでもないが、ヤン・サイズというダンサーの立ち姿の男らしい美しさにほれぼれする。やっぱりヤンちゃんは、オペラ座一美しいダンサーなんだなあ。少なくともあと2年くらいは。まじめな顔して踊れば踊るほど、なんだかとってもおかしいことになってしまうヤンちゃん。2幕には登場シーンがなくってとても残念だわ。ま、おかげでマチューやセバスチャンに集中できるけれど。1幕なんて、もうヤンちゃんしか見られない。後ろに控えるマチューなんて眼中外。ゴメンネ、マチュー。でも、やっぱり今夜はヤンちゃんを見に来てるから。
3幕の酒場のシーンでは、ジョゼと並んでどうなることかと思ったけれど、どうにかこうにか。それでも、駆け込んでくる女の子を方にリフトするシーンは、お決まりのグラグラ・ヤンちゃんをしっかり披露してくれるし、グラスの投げ方には、ほんとに声を出して笑ってしまう。おまけに、あのすばらしいパ・ドゥ・ドゥをジョゼとロシア人が踊っているずっと横の方で、じっとしてればいいものを、なんだか面白い表情してみたり、エマニュエルにちょっかい出して彼を困らせてみたり、とどのつまり、とてもとてもヤンちゃんらしいすてきな踊りと動きを見せてくれるのです。ラストのファンダンゴ(スペイン舞曲)では、かわいく麗しい顔を精一杯気張らせて、うっとりするような視線を見せてくれるしね。
いやあ、やっぱりいいよね、ヤンちゃん。「コッペリア」がかなりつまらなかったし(踊りも笑いも)、「クラヴィーゴ」はベルリン行っちゃって踊ってくれなかったし、年末の「ラ・バヤデール」でのインディアン・ダンス以来の、ヤンちゃんらしいヤンちゃんにすっかり満足。次は、ベジャールの「コンクール」だ。見たことないけれど、ロックスター役のヤンちゃんは、それはそれは見事らしい。期待しましょう。カールが踊る日はどうでもいいけれど、ヤンちゃんが踊る日は全部見たいなー。土曜日を見逃したのが本当に悔やまれる、ヤン・サイズらしい今夜のヤンちゃんにブラヴォ!
さて、じゃあ、主役の話にいく?どっちからにしようか、、、。じゃ、まあ、とりあえずジョゼから。
おりこうさん、お上手、お上品。ジョゼらしいバジルが今夜も舞台を跳びまわる。悪くはないんだけどなあ、すごーく上手いし。ヴァリアシオの美しさは、飛び切りだよね。今夜はしかも、マリ-アニエスとの時よりも調子いい。そりゃそうだ、あの夜は、リフトするのがほんとに大変そうだったし、失敗もしてたもの。今夜のキトリはちっちゃいからね。軽々持ち上がる。
すごく素敵だし、美しくて感動もできるけれど、やっぱりあの天然ボケしたニコラのバジルが脳裏をかすめてしまう。ま、ジョゼは、バジルをやるにはあまりにもエレガントなダンサーなのですよね。
マリインツキーからゲストでやってきたディアナ・ヴィシュネヴァは、そのテクニックで会場を魅了する。ははは、うますぎる、、、、。すごいよ、ほんと。開脚すれば、シルヴィー並みのシックス・オクロック(180度開脚)をわけなく完成させるし、フエッテを回れば、扇を持った片手を頭上に上げたまま、ドゥーヴルを交えてクルクルクルリン。すごーくうまいのは認める。はっきり言って、パリの女性ダンサーが誰も敵わないテクニック。アニエスとオレリーとマリ-アニエスとレティティアのいいところを全部集めたようなテクニック。
でもなあー、なんか違う。なんて言うんだろう、ちょっと俗っぽいというか下品なキトリなんだよねー。バジルとの遊び方、他のダンサーとの接し方が、なんとなく目につく。なんだかね、「今夜は、あたくしが主役なのっ!他の人たちは私を盛り上げるためにいるだけなのよっ!」っていう雰囲気がありありなんだ。そりゃね、他のカンパニーからのゲストなのだから、パリの子たちの持っている雰囲気と違うオーラを発するのは分かる。でも、「ラ・バヤデール」の時のスヴェトラナ・ザハロヴァは、そんな風に思わなかったしなあ。テクニック的にも情緒的にも、ザハロヴァを見た時には、本当に背筋がゾックリとしたけれど、今夜のヴィシュネヴァには別にそんなの感じない。作品の違いもあるのだろうけれど、体にねっとり絡みついてくる熱い感動が来ないんだ。ひたすら上手にテクニックを披露しているだけ、という印象なんだよね。
ものすごくいいのは分かるし、それなりに「おおおぉ~」と感動もするのだけれど、ザハロヴァが見せてくれた、この世のものと思えない、熱い情感がないのかな。あの時は、オレリーもものすごくよかったけれど、それにましてザハロヴァがいい、と思ったのに、今回は、アニエス、オレリー、マリ-アニエスやレティティアの方が、キトリとしてはやっぱりいいなあ、と感じてしまう。なーんかね、あの独特の遊び方、というか自分なりの解釈が、かわいいというより品がなく見えてしまう。まあでも、すごいよ、さすがです。ロシア人のテクニックの高さには脱帽します。ガラとかでパ・ドゥ・ドゥの抜粋見るにはいいのかも。でも、私は全幕からの抜粋は嫌いだ。全幕はきちんと全幕で、細かい配役も含めて丸ごとを楽しみたい。でなくちゃ、作品を見てるって言えなくなっちゃう。ダンサーを見てるに過ぎなくなっちゃう。それは作品に対して、なんだかとっても失礼な気がしちゃうんだ。私には、彼女はむかないのかもね。
今夜はとにかくこの3人。あとは、女王を踊ったイザベル・シアラヴォラがまあまあだったかな。本当なら、この2日はマリ-・アニエスちゃんがもう一度女王を踊るはずだったのだけれど、ストラヴィンスキーとの掛け持ちでさすがに故障してしまって、こちらを下りてしまって、とっても残念だー。楽しみにしてたのに、、、。イザベルは、フエッテ・アティチュードはまた失敗しちゃったけれど、あの体の線の美しさだけで女王を踊れるね。今夜も、2幕のグランド・ジュテで拍手をもらう。とうぜんヴィジュネヴァにも拍手は出たけれど、女王の役で拍手を得たのは、マリ-アニエスちゃんとイザベルだけ。あの足の長さには、ちょっとびっくりしてしまう。
ナタリー・オーバンとエミリー・コゼットのお友達役もなかなかいいし、デルフィンヌのダンスーズ・ドゥ・リュもソツなくお上手。そして、コール・ドゥ・バレエは今夜も本当にファンタスティック!
しみじみ思う。パリ国立オペラ座って、ほんとうに質の高いバレエ団だ。今回の「ドン・キショット」だけでも、ロシア人をゲストに呼んだとはいえ全部で7つもの配役が用意され、ジェレミー/モランを抜かせば、どれもかものすごいレヴェルを保った。バンジャマン/レティティアは見なかったけれど、バンジャマンもかなりよかったらしく、あの夜のエトワールが誕生するならばバンジャマンの方だ!とささやかれたほどだ。
アニエスは上品でおちゃめな、オレリーは華やかで優雅な、マリ-アニエスは迫力たっぷりであでやかな、レティティアはおきゃんでテクニックがすばらしいキトリを、それぞれ見せてくれ、そのどれもが本当にすばらしかった。
バジルを見れば、これ以上のバジルは存在し得ない、と思わせた、迫力、テクニック、表現力ともに神がかっていた(一晩だけだったけれどね、、、)ニコラは、間抜けで素直でファンキーなバジルを、ヌレエフダンサーは彼以外にありえない、完璧なヌレエフの申し子ぶりを見せてくれたマニュエルは、クールで笑えるバジルを、そしてダンサーとしては、私はニコラやマニュエルよりも最近気に入っているジョゼは、品がよくてチャーミングなバジルを、それぞれ見事なテクニックと表現力をもって楽しませてくれた。
ごめん、ジェレミー。やっぱりちょっと今回は、落ちるでしょう、この3人に比べると。モラン?論外。まあ、かわいいのは確かだったけれど。
エスパーダに目を移せば、完璧以外に言葉が見つけられなかったジャン-ギヨーム・バール。すばらしい才能を改めて見せてくれたエルヴェ・モロー。そして、ヤンちゃん(笑)。今となっては叶うすべもないけれど、この役をやってた頃のカデールを見てみたかった。どんなに品よく美しいエスパーダだったことだろう。ああ、想像しただけでクラクラしちゃう。
ダンスーズ・ドゥ・リュでは、デルフィヌがさすがの貫禄だったし、リケだって悪くない。マリ-アニエスちゃんは最高だった。
ドレフュスの女王では、マリ-アニエスちゃんのグランド・ジュッテを一生忘れない。デルフィンヌもよかったし、イザベルも素敵だった。
キュピドンでは、オスタとレティティア、ファニーの3人が、全くもって文句のつけようのない、可愛らしさとテクニックを兼ね備えていた。
ファニーやドロテのドゥモワゼル・ドゥヌールやトリオもすばらしいかったよね。
ジタンは、ヤンちゃんを筆頭に、ジェレミー、カール、そしてキム君も悪くはなかった。
男の子では、マチュー、セバスチャン、エマニュエル、マロリーにアドリアンら、女の子では、ドロテやミリアム、ジュリエット、ファニーにイザベル、ナタリーらを擁したコール・ドゥ・バレエは、ただただ見事で、このカンパニーのコール・ドゥ・バレエの実力にかなり感動してしまった。だって、コールの半分は、「ストラヴィンスキー特集」に取られてるんだよ!なのにこの上出来さ。すごいよなあ。ため息ついちゃう。
なんだか、パリ国立オペラ座というカンパニーの実力をまざまざと見せつけられた45日間だった気がする。この秋には、大物がいなくなるらしい(小物もちょこちょこと脱退する予定)パリ国立オペラ座。誰がいなくなってもかなり悲しいけれど、誰がいなくなっても、そんなに痛手を受けないんだろうなあ。怖いくらいにすごいバレエ団だね、ほんとに。夜毎、ワクワクと幸せをたっぷりくれた「ドン・キショット」。ヌレエフ作品の中でダントツに好きになってしまったね。
ven.17, lun 20 mai 2002(02年5月)