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「ストラヴィンスキーの夕べ」名曲と華麗な舞

「ドン・キショット」に夢中になっていた間に、ふと気がつくと、ガルニエで上演されていた「ストラヴィンスキー特集」が終わってしまった。3回しか見られなかったよ、なんてこった!でもまあ、しかたない。いとしいカデールは怪我で出演しないし、ものすごい人気でチケットは取りづらいし、1つめの作品はあんまりよくないし、おまけに、キショットがあまりに気に入って、二つの公演が重なる夜はオペラ・バスティーユに向 かってしまったもの。3度も見られてラッキー、と言わなくてはいけないよね。

5日(日)

stravinsky初日は昨夜。私はもちろん、オペラ・バスティーユでマリ−アニエスちゃんに酔いしれていた。熱いキトリに感動し、ノミネ(任命)がなくてがっかりした一夜があけた今日の午後は、久しぶりのガルニエ。「コッペリア」以来だからひとつき以上来てなかったんだ。かわいくないオペラ・バスティーユに通っている最中だけに、パレ・ガルニエの美しさが目にしみる。いつ見ても、ほれぼれするように美しい劇場だ。夕べの初日と同じキャスティングでマチネが始まる。

ストラヴィンスキーの音楽を使った3人の振付家の作品を集めたこの公演は、ダグラス・デュン(ドン、って読むのかな?)の「ピュルシネラ」で幕を開ける。この振付家の作品を見るの初めてだけれど、なに、これ?80年にこのバレエ団のためにできた作品なのだけれど、なんともつまらない、というか、あきるというか。がらんとした空間にライトの変化だけで舞台を演出する、あっさりとした効果。パールがかったピンク、むらさき、青、緑と変化していく照明はきれいで好みだけれど、肝心の踊りが、、、。総勢20人ほどのダンサーが入れ替わり立ち代わり、ソロで、デュオで、トリオで、てんでバラバラに舞台で体を動かす。普段着もしくはパジャマのような衣装で。モダンバレエといえばあまりにもモダンバレエなんだろう。なんだか、ものすごくできの悪い「パ/パー(フォーサイス)」って感じだ。(フォーサイスに「比べるなっ!」と怒鳴られそうだけど。)作品自体に力がないうえに、上演時間が長すぎる。38分だよ、この動きを見続けること。さすがに勘弁してほしい。15分なら絶えられるけれど、それ以上は苦痛。

おまけに踊るダンサーたちもいまひとつ。本当だったらカデールとオスタが主役をやる予定だった。カデールだったら、この始末の悪い作品を、もう少しまともなものに見せてくれただろうに。かなりの存在感を持つダンサーでないと、間延びしっぱなしのこんな作品を観客にアッピールできない。ドゥラノエでは、あまりに役不足。目力のないダンサーには、逆立ちしたって踊りきれない役。失意のオスタに代わったのはレティティア。彼女もなあ、、、。エトワールになってはじめて立つ舞台だけれど、んー、やっぱり雰囲気にかける。上手い下手は関係ないもんね、こういう作品。いかに観客に訴えられるか、がポイントになる。

主役2人でこのありさま。その他大勢はおして知るべし。誰これ?この子はどこの子?名前も知らないような、下っ端のダンサーたちがうじゃうじゃ出てくる。そんな子たちに、存在だけで“魅せる”動きをしろ、っていうのが無理ってもんだ。こういう作品は、かなり上出来なダンサーをそろえないと、ほんとにあきてしまう。

これだけはすばらしい、ストラヴィンスキーの透明な旋律に心救われる思いで、「これは音楽会。舞台のきれいな音楽会を楽しみにきてるんだ」と自分に言い聞かせながら、どうにかこうにか38分を過す。

stravinsky20分の休憩のあと、今日一番楽しみにしていた、バランシンの「ヴィオロン・コンチェルト」が始まる。なにが楽しみかって、この作品のファースト・ディストリビューション(第一配役)の顔ぶれがものすごいんだ。アニエス/ロランとオレリー/マニュエル。顔ぶれの豪華さもさることながら、ロランとマニュエルの直接対決、という、非常に珍しいシーンが楽しめると、前々からおおきな話題と興味を持たれていた。どんな戦いをくりひろげてくれるのか楽しみだ〜。ワクワクしながら幕の開くのを待つ。

バランシンはきれいだ。

シンプルな舞台に光があたると、黒いストッキングにレオタード姿のアニエスが4人の男の子を従えて立っている。きれいだなあ。なんて美しい姿なんだろう。アニエスは完璧なバランシン・ダンサーだ。うっとりする。人間の体の美しさを納得するには、バランシンという振付家の作品を見るのが一番だろう。よくもまあ、と思うくらいに、ひとつひとつの動きが恐ろしく美しい。

続いて、こちらも典型的なバランシン・ダンサーであるロランが、黒いタイツに白いティーシャツという衣装で4人の女の子に囲まれて登場。いやぁ、きれい!ほんとにまあ、立ち姿を見ているだけでほれぼれするね。次は、オーレリーちゃんの登場。透明感のあるバランシンの世界にはちょっと熱すぎるような気もするが、あでやかで美しい登場シーン。最後にマニュエルが、輝くようなオーラをはなちながら舞台に現れる。ここまでがプロローグ。各ダンサーとも、パリ国立オペラ座が誇る、とっておきのエトワールたち。さすがに鮮やかに存在感だ。

続いて、アニエス/ロラン、オレリー/マニュエルのパ・ドゥ・ドゥになるのだけれど、アニエスとロランの美しさに感動。目が夢中になってしまうよ、あまりにきれいな体の動きに。アニエスのしなやかな肢体、長い手足。ロランの腕と手の動き、首のかしげかた。すごい!すごい!!すごーい!!!なんだか、背筋がゾクゾクしてくる。信じられないくらいに美しいものを目の当たりにして。バランシンが生きていたら、この2人を見てなんと言うだろうか?彼はいなくなってしまったが、彼のエスプリはこうやって、あまりにも見事に伝えられている。「人間の体は、そのままで、ものすごく美しいものである」全くそのとおりだ。なんという眼福。息をするのを忘れそうになりながら、人間美に魅せられる。

オレリー/マニュエルもさすが。めりはりのある動きに雰囲気のあるオーラ。とてもすてき。でも、アニエスとロランの、ピュアで神々しいばかりの美しさに敵うわけもない。体のラインの問題なんだよね、そもそも。バランシンは肢体を選ぶ。

さて、問題のマニュエル vs ロラン。これはものすごかった。期待通り(笑)。ロランがくるくる回りながら袖へ下がるのと入れ違いに、これまたくるくる回りながら舞台に出てくるマニュエル。このくるくる対決は、マニュエルの勝ち。ロランの倍くらいの速度で回ってたでしょう?「俺を見ろよ!俺だよ、俺!」って感じ(笑)。でも、マニュエルに軍配が上がったのはそこだけだったね。舞台に4人が立ち、ほとんど同じ振付をヌレエフの秘蔵っ子2人が踊るシーンは圧巻。うわぁ、イヴァル同士の気迫がビンビン伝わってくる。すごい迫力。ドキドキするなあ。

なんでも、彼らの対決シーンは、さかのぼれは83年初演の「ライモンダ」のベランジェとベルナールまで下がるらしい。ライモンダのお友達という設定のこの役を、ヌレエフはロランとマニュエルのために創造したということだ。それはそれは、、、。さぞかし気合いの入った対決だっただろうなあ。今をさかのぼること20年近く前。まだ、二十歳にもならない血気さかんな未来のエトワールたち。想像しただけで笑っちゃう。その時は、どっちが勝ったんだろう?以後、彼らが同じ舞台に立つシーン自体とても珍しい現象で、たまに競演するとしても、「ノートルダム・ドゥ・パリ」のフロロとフォエビュスのように全く違うタイプの役だったりするので、こうやって同じ衣装で同じ動きをするのは、本当に「ライモンダ」以来の希有な機会らしい。

stravinskyマニュエル/ロラン対決を見られる、というので、この配役の公演日のチケットはめちゃめちゃ入手が困難。「ピュルシネラ」と「春の祭典」はともかく、「ヴィオロン・コンチェルト」だけは配役をきっちり選ばなければ見る価値が全く違ってくる。

ロランの魅力を再確認しちゃう。昨夏の怪我以降、大きな役はもう踊らなくなってしまい、今シーズンは「ペトルーシュカ」を3回ほどと「ル・パルク」を2度踊っただけだった。「ル・パルク」はさすがの出来で、ロランはまだ過去の人になっていないんだ、ということをまざまざを感じさせてくれたものの、ほぼ全ての舞台で踊り狂っているマニュエルに比べると、この1歳の年の差がつらいのねえ、、、と、しみじみ思ったものだ。でも、今夜の「ヴィオロン・コンチェルト」で、ロランの底力を見せつけられる。こんなにも美しくバランシンを踊れるダンサーを、私は他に知らない。

パリで言えば、「アポロン」でブノワ賞を取っているバールやジョゼあたりが、バランシン・ダンサーと言えるのだろうけれど、私はやっぱりバランシンはロランで見たい。初めて彼の「アポロン」を目にしたときの感動は、今もって心に残っている。アポロンその人がガルニエに舞いおりてきたような、神々しい美しさだった。

美に圧倒された24分。全部で16人いたはずのコールの子達には、一瞬たりとも視線を向けることができなかった。主役4人を追うのにあまりに夢中になりすぎて。アニエスとロランに心からうっとりし、しみじみ幸せな24分。ああ、これこそ、1時間くらい続いてくれればいいのに、、、。マニュエル/ロラン対決はロランに軍配が上がり、幕が下りるのでした。

さて、この公演の目玉は、ラストの「春の祭典」である。フランス人は、びっくりするくらいピナ・バウシュが好きだ。特に彼女の「春の祭典」は、フランス人を虜にしている。彼らにとっては、“祭典”といえばそのままピナのそれを指す。

初日のエリュ(選ばれた人、生け贄)を踊るのは、ミテキちゃん。2月の「ル・パルク」でようやく舞台復帰をはたしたけれど、いまいちだったね。でも今夜はかなり期待がもてる。この作品がオペラ座のレパートリーに入ったのはいつだっただろう?10年くらい前なのかな、多分。その時、初日にエリュを踊ったのがミテキちゃんだった。なんでも、当日の午後になるまで、ミテキ、オレリー、もう1人誰だったか忘れちゃったけれど、この3人のうち誰が踊るのか決められなかったのだそうだ。結局ミテキちゃんが初日を踊り、「祭典」とピナは、彼女の最も好きな作品と振付家となった。

3年前のシーズンに一度見ているけれど、誰がエリュをやったか、ぜんぜん覚えていない私である。あの時は、官能的な振付にドキドキし、舞台に土を敷きつめるユニークな舞台設定をおもしろいな、と思ったっけ。

アントラクト(休憩中)から土敷の作業が始まる。10人ほどが、トロッコで舞台に土を運び込み、丁寧に全体に広げてならしていく。作業時間はトータルで10分ほど。すっかり土が敷かれ、プリミティヴで暖かな雰囲気に舞台が変わる。作業を終えたスタッフに、観客から拍手がおくられる。舞台袖にはスポットライトが設置され、場が整った。あ、ロランが来た。すばらしかったさっきの舞台を思い出す。舞台の上でも美しいけれど、その辺にいても美しいダンサーだ。最前列の席に優雅に座る。あ、「ヴィオロン・コンチェルト」のヴィオロニストも来た。こっちは5列目くらいのはじの席に、特に優雅さは漂わせずに腰を落ち着ける。会場の照明が落ちる。オケピットの照明もなくなる。闇がしばらく会場を覆ったのち、「祭典」の世界が静かに浮かび上がる。

熱い。人間の動物本能が刺激される。理性を失ったようにダンサーが踊る。恣意的に創り出された動きであることを忘れる。「血沸き、肉踊る、って感じだ」と友人は言っていた。私は、「解き放たれた本能のおびえと叫び、そして祈り」、とでも説明したいかな。ダンサーも、これは踊りがいがあるでしょう。ものすごいテンションだ。ピナを愛するパリのダンサーのなんと多いこと。この作品に出られたダンサーは、よかったね。特に、同じ公演で「ピュルシネラ」に出さされた運の悪い人たちは、さぞかしうらやましかろう。

ミテキちゃんがすばらしい。恐れ、おののき、苦悩。これらの感情を、熱く熱く見せてくれる。見事な復帰。夏には「コンクール」でもアダを踊れるかもしれないし、いよいよ本格的にダンスの世界に戻ってきた。エレオノーラもいいなあ。後半、彼女がエリュを踊る夜が楽しみだ。

男性陣は、大柄なダンサーたちがやはり見ばえがする。ロモリ、ヤン・ブリダールは言うことなし。ヴァンサン・コーディエ、ギヨーム・シャルロ、それにカールくんだって悪くない。対して、アレッシオのような小柄なダンサーはどうしても不利。迫力と雄々しさで勝負だもんねえ、この作品。ロモリくらい、こわい顔しているダンサーの方が似合ってる。アレッシオ、「ドン・キショット」に出られればよかったのにな。あっちの方がアレッシオの美点を堪能できたわ。

バレエ、というよりは、マニフェスタシオン(表現、表明、発現、とでも訳そうか)である作品。「祭典」に限らず、ピナの作品はピナのカンパニーで見なくては本質を理解できない、とみなが言う。なんとなく分かる気がする。パリの子たちが踊る「祭典」もすばらしい。でも多分、まだまだきれいすぎるんだろうなあ。もっと激しく、もっと暴力的に、もっと本能的に、ピナのダンサーたちは踊るんだろう。いつか見てみたいものだ。

優雅で品のあるオペラ座の観客は、すっかり興奮してしまい、ありったけの拍手を、ミテキちゃんと他の、土にまみれたダンサーたちに注いでいる。確かにすばらしい。でも私にとっては、今夜はやっぱり「ヴィオロン・コンチェルト」につきるけど。

14日(火)

チケットが取れなかったり忙しかったりで、先週は「ストラヴィンスキー」を見に来られなかった。今日も、ガルニエは笑っちゃうくらいの長蛇の列。ダメだあ、こりゃまた、今夜もチケット取れないな、、、。開演1分前、ほとんど諦めながらも列に並んでいると、年まだ若いにーさんがやってくる。
「公演、見たい?」
「見たいわ。でも、いくらのチケット持ってるの?高いのは買えないの」
「あげるよ。おいで、こっちに」列から離れた私に彼がくれたのは、レセ・パセ(通行証)の紙。オペラ座の警備員とか関係者がよく手にしているパス。
「アンフィだからあんまりいい席じゃないけど。はい」
「え?あ、メルシー・ムシュー、、、」お礼を言う頃には、もう階段を上って中に入ってしまっている彼。誰だか知らないけれど、ありがとー!

アンフィ・テアトルなんて高いところにいく機会はめったにない。5階?おお、すごい!天井が低い、装飾が簡素だ。そう言えば、3月に「ユールヴァン」を見たとき、一度、知らない女の人がやっぱり5階の席をくれたっけ。5階は人からもらうチケットで来るところなのだろうか。「ピュルシネラ」が始まっているけれど、別に急がない。見られなかったからって、そんなに悲しむような作品でもないし。ゆっくり配役を確認し、お姉さんに案内してもらってそっと席につく。アンフィ、悪くないなあ。席もいいんだろうね。2列目の中央。思ったよりも舞台は遠くない。1列目や2列目なら、かなりいいじゃない。ダンサーの顔を見るのは無理だけれど、舞台構成はよく分かるし、シャガールの天井画やシャンデリアは細部までじっくり楽しめる。どうせ今日は、顔みたいようなダンサーはほとんど出ないし、なかなかいい席をもらっちゃったね。嬉しいな、見られて。にーさんに、きちんとお礼を言いたいな。

stravinsky「ピュルシネラ」、正面で見ると、それほどは悪くないかもね。この間は、ちょっと横から見ちゃったからいけなかったのかしら。こうやって舞台全体を正面から目にすると、それなりに構成らしきものがあるのがよく分かる。ま、そうはいっても、やっぱりくだらない作品である。今日もまた、ストラヴィンスキーの旋律にうっとり聞き惚れ、音楽会モードで40分弱を過す。

それでも今夜は、主役を踊るセリーヌ・タロンに目を奪われる。相手のジルさんをはじめ、その他大勢はどうでもいいけど、タロンが見事だ。やっぱり上手だなあ、こういう役。キリアン、エク、フォーサイス系を踊らせると、タロンはほんとにすばらしい。そこだけ別に生きているような、うねうねと動く長い腕や足。首の表情。エクの「ジゼル」で初日のジゼルを取ってしまうくらい、ああいうシュールな表現力を必要とする役には、彼女は適役。カデールの「ユールヴァン」でのネリーもとてもよかった。レティティアよりも見ごたえある、こういう役なら。なんやかんやいって、それなりに楽しめる今夜の「ピュルシネラ」である。

アントラクト中ににーさんを探すが見当たらず。ちぇ、きちんとお礼言いたいのに。肩をすくめながら、「ヴィオロン・コンチェルト」へと心を戻す。っていってもね、、、、。別に今夜は、どうでもいい。この作品、とにもかくにも初日の配役で見なければ意味ないもん。ロモリ/リケとデルフィヌ/ステファン・ファヴォラン。本当なら、ステファンでなくてカデールのはずだった。ひどいよ、カデール、怪我しちゃうなんて。「ピュルシネラ」と「ヴィオロン・コンチェルト」、二つに出るはずだったカデールを、夜毎うひゃうひゃ楽しむ予定だったのに、、、。ああ、あの人の踊る姿を見なくなって、もう4ヶ月近くになる。

でもね、ステファンが、思っていた通りなかなかすばらしい。もとより長細くて優美な体はバランシン向き。そういう意味では、カデールは顔の美しさはバランシンだけれど、体に関してはちょっと不利だったかも(笑)。10月からずーっと怪我で出てこられなかったステファン。3月の「コッペリア」でなんとなく復帰していたけれど、別にパッとしてなかった。でも、今夜はいい。きれいにお化粧しちゃって、ピュアな色気が漂ってる。きれいだねえ、ステファン。踊りも頑張ってるじゃない。マニュエルに比べられるはずもないけれど、体のラインの美しさという武器を持ってなかなか見ごたえのある踊りだ。嬉しいな、ステファンが完全復帰してくれて。年末の「シエラザード」に出られなかったのは、本当に残念だった。来シーズンはたっぷりとステファンを見られますように♪

デルフィヌはどどうでもいい。リケは、その美しさがバランシンにはお似合いだけれど、いかんせん、アニエスのすばらしさがまだ脳裏に残っている。どうしても比べてはため息ついちゃう。

ロモリは、これ、犯罪でしょう?バランシンを踊らせる、彼に?天国で泣いてるよ、偉大なアメリカ人振付師はきっと。ロモリほどバランシンにミスマッチな男もいないよなあ。ああ、マリ−アニエスの旦那もダメだと思うけれど。美しいダンサーぞろいのオペラ座にあって、彼らは“バランシンが似合わない2大ダンサー”でしょう。見なかったことにしましょう、これは、、、。たしか本当なら、ヤン・ブリダールも「ヴィオロン・コンチェルト」踊るはずだった。彼もなあ、、、。バランシン、じゃあないでしょう。本質的に美しさとエレガンスを持ったダンサーでなくては、バランシンは踊ってほしくない。降ろされたのか降りたのかよく分からないけれど、なにはともあれ踊らないことになってよかったと思うよ、私は。だーい好きなダンサーだけれど、バランシンでは見たくない。初日の配役と比べることは間違ってもできないけれど、8ヶ月ぶりに、すてきなステファンの姿を見ることができただけで、満足満足。でも、ホントはもっと近くで見たかったなあ、彼だけは。ああでも、ロモリを近くで見る勇気は私にはない。ここでよかったのかもね。

「祭典」はまあまあかな。今夜は、ジェラルディン・ウィアールがエリュを踊る。彼女、好きじゃな、私。スジェの中でも、特に光ってないし、なんでエリュ、躍らせてもらえるんだろう?ミテキちゃんとエレが、今夜もとってもいい感じ。ロモリはやっぱりこちらが合ってる。カールくんが今日もイヤじゃない(笑)。すごいなあ、進歩だね、カールくんを最近、あんまりイヤに思わない。構成もよく分かっていいのだけれど、やっぱりこういう熱い舞台は近くでダンサーの熱気を感じたい。エレがエリュを踊るときには、ぜひ近くで見たいものです。

それなりにいい夜だったけれど、気持ちはやっぱり「ドン・キショット」に残ってしまう私。ガルニエを去りながら、さ、明々後日はレティティアのキトリだわ!と心踊ってしまうのでした。

21日(火)。

昨日で「ドン・キショット」もようやくラストを迎え、ようやく「ストラヴィンスキー特集」に集中できる。なんやかんやいって、こちらも今夜が最終日。

ガルニエはダンサーたちでごった返してる。「ドン・キショット」に出ていたダンサーたちは、今まで全然こちらを見に来られなかった。ほんっとに躍らされてたもんねえ。ようやくラストを終えて、今日はのんびりお休みタイム?セバスチャン、ドロテにジュリエット、モロー、「祭典」の頃には、マリ−アニエスちゃんやブイヨン、ブシェの姿も見え、あっちもこっちもダンサーだらけだ。印刷所がグレーヴ(ストライキ)でもやっていたのだろうか?今夜の配役表は、普通の紙に適当にコピーしてみました〜、みたいな、いたくみっともないもの。紙質は悪いし、大きさもかわいくないし、おまけにコピーする順番を間違えたか、どこから読んでいいのか分からない。なんともおまぬけな配役表である。

ドゥラノエ/レティティアの「ピュルシネラ」は、もうどうでもいい。無理だって、この2人には。あーあ、本当ならカデールのはずなのにぃ、、、。彼が踊ってくれれば、絶対、この作品、もう少し楽しく見られたはず。せめて、タロンが踊ってくれてればなあ。レティティアは大好きだけれど、この作品じゃあ、彼女のよさを感じられない。そしてまた今夜も、「私は音楽会に来ているの〜、演奏会に来ているの〜」と自分に言い聞かせながら、38分を過す。重ねて言うが、音楽は見事。なんちゃってオケのオペラ座管も、金管が入らなければかなりお上手。歌もいいしね。

そう言えば、先週、パリ国立オペラ座のオケに関するコンフェランスに行ってきた。会場はなんと、ガルニエのオケピット。思い思いの席に座って(私は、ヴィオロンセロの1番手の席♪)、オケを管轄している偉い人のお話をたっぷり楽しんだ。バスティーユとガルニエとの移動の難しさ、オケの編成について、楽器の種類、配置のあれこれ、、、、。すごくおもしろい話を聞きつつ、目の前には、オケピットから見上げるガルニエの優美な姿が広がる。この場所から見るガルニエが、こんなにも壮大であでやかだったとは、、、。最後には、奥の打楽器のスペースまで降りていったり、指揮台に立って振る真似したり観客にあいさつする真似してみたり、すごく楽しい2時間を過した。

今夜の「ヴィオロン・コンチェルト」は、マリ−アニエス/バール、オレリー/マニュエルです。「ヴィオロン・コンチェルト」の公演は、なかなか波乱含みだった。最初の悲劇は9日に起った。誰もが、マニュエル/ロランの3度目の対決を楽しみにし、わけても、ロランのこれ以上ないくらいに美しいバランシンを見るのをワクワクして待っていた。配役表にもしっかり彼の名前がアニエスのそれと共に記載されていた。「ピュルシネラ」の38分を耐え抜いて、観客は待ち焦がれていた。美しい人が舞台に現れるのを。幕が上がった。アニエスの美しい肢体がひとしきり動き、袖に消えた。さあ、ロランが出てくるぞ。ロラン!ロラン?ロラ、、、、ロ、、、、ロ、、、ロモリだぁ、、、。

ひっどいよね、いくらなんでもひどすぎる。この夜、私はオペラ・バスティーユで、モランにため息つきつつもモローのエスパーダとジェレミのヴァリアシオン部分に拍手喝采していた。でも心の中では、あーあ、「ドン・キショット」を優先したばかりに、ロラン/アニエスは結局一度しか見られなさそうだなあ、と、ちょっぴりガルニエに思いをはせていた。それがこのありさまだ。思わず胸をなでおろす。よ、よかった、、、血迷ってガルニエに行かなくて。

悲劇なんてものじゃない。ロランからロモリ、しかもバランシン、相手はアニエス。悲惨だ。ディストリビューに名前が載っている主役クラスのダンサーが直前に変更になる場合、係の人が「AAAがBBBに代わります」と告げるのが普通。それすらなかったらしいのは、そんなこと告げたら、会場から大ブーイングが出ると心配したのかどうなのか、、、。それにしてもあまりにひどい。

翌10日も、結局ロランは踊らなかった。怪我だったのか気まぐれだったのか、今もって謎。18日はぶじに復帰して踊ったそうだが、今度は、マニュエルが17日の「ドン・キショット」の怪我で降板。結局、世にもまれな2人の対決は、たったの2度。初日の2日だけで終わってしまった。一度でも見られて幸せだったというしかない。

そんな訳で、最終日。オレリーのお相手がマニュエルからステファンに代わってしまったけれど、ロランの出演日でない以上、私にとっては特に痛くない。ステファン、好きだしね♪先週は遠くから見ていたので、今日も踊ってくれて嬉しいわ。近くから化粧ばえしたステファンのお顔を楽しみましょ。

マリ−アニエスとバールは、それなりかなあ。マリ−アニエスちゃん、すごくうまいし、足と腕の表情も見ごたえあるのだけれど、どうしてもどうやってもアニエスに敵わない。あのエレガントなダンスーズ以上にバランシンを踊れる人は、パリにはいない。でもお上手よ。軽い怪我で「ドン・キショット」のラスト2回に出られなかったのが残念だったけれど、きちんと踊っていてなによりです。バールは、うん、、、。うまいさ。きれいさ。バランシン、得意だもん。でも、もうこの役は、ロラン以外に考えられないからねえ。どうでもいいよ。オレリーを相手に、ステファンは頑張った!なんとなくオレリーの迫力にビクビク気味だったけれど、きれいな踊り。よろしいんでない、とても。思いがけずステファンが2度見られて、ちょっと幸せ。

stravinsky「祭典」は、楽しみにしていたエレオノーラが、期待通りの演技。金曜日から踊りはじめた彼女の評価がとても高いのは耳にしていた。見たいのをずっと我慢して「ドン・キショット」に通いつづけ、今日はようやく、最初で最後のエレのエリュ。いいねえ、エレ。ミテキちゃんとはまた違う、エレらしい踊り。ミテキちゃんが、完全に理性を捨てたのに対し、エレの踊りは、なんとなく知的。激しい感情はたっぷり伝わってくるものの、エレらしい、どこかさめた表情が独特だ。いいじゃない。年末の「ラ・バヤデール」での大失敗から、ようやく立ち直ったかな。6月の「コンクール」では、アダをやる。こちら も楽しみですね。なんてったって未来のエトワールだもんね。やっぱり「祭典」はダンサーの体温を感じられる近さで見るほうが、熱くなれる。フランス人が熱愛するほどには、私はこの作品に感動できないけれど、これはこれでやっぱりすばらしい。なんてったって、音楽は大好きだし。いつか、ピナのダンサーで見てみたいなあ。この、踊りというより祈りのような作品を。

そんなこんなで、たった3回しか見られなかった「ストラヴィンスキー特集」。その名前のとおり(本当は、「ストラヴィンスキーの夕べ」)、ストラヴィンスキーの音楽は存分に楽しんだかな。なんといっても、マニュエル/ロランの対決につきた。カデールが出られなかったのだけが本当に心残りだけれど、ミテキちゃん、エレ、ステファン、タロン、、、このあたりを満喫できたし、まあまあいい公演だったよね。もう2度と目にすることがないだろう、あの対決シーンが、この公演一番の思い出となる。

ven.17, lun 20 mai 2002(02年5月)
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