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「コンクール」、笑いとシュールのベジャール・ワールド

ロラン・プティの「ノートルダム・ドゥ・パリ」で始まったパリ国立オペラ座の2001−2002シーズンは、ベジャールの「コンクール」で終わる。あっというまだなあ。マリ−アニエスのエスメラルダとマニュエルのフロロに心ふるわせたのが、つい数週間前の気がするよ。昨シーズンのラストは、「真夏の夜の夢」と「ロミオとジュリエット」を散々楽しんで終わったっけ。今年は1作品だけ。ちょっとものたりないな。

シーズンラストのこの季節は、ダンサーたちが怪我する時期でもある。そんな時期に、2つも公演を重ねた去年がそもそもおかしい。おかげで去年は、怪我に倒れるダンサーがぞくぞくと現れ、最後はもう、うんよく元気で残ったダンサーたちは、自転車操業でバスティーユとガルニエを飛び回ってた。そうだよね、やっぱり公演を重ねるのは間違ってるんだよ。ほうら、今年は「コンクール」だけに専念だ。と、オペラ座ディレクションを評価したのは甘かった。「コンクール」と時期をほとんど同じくして、なんとブラジル公演を敢行する無謀なオペラ座である。

ダンサーたちは、たまったもんじゃない。すでに5月には、「ドン・キショット」と「ストラヴィンスキー特集」が重なって、手一杯の状態ながらもどうにか乗り切った直後である。カデールとマニュエルの怪我、ロランの気紛れ(いや、ほんとにケガだったのかもしれないけどさあ)を筆頭に、ヤンちゃん、ジェレミー、マリ−アニエスにオスタの怪我も重なり、あっちもこっちももう大変。2公演合わせて、ディストリビュー(配役)はいったい何度変わった?トータルで20回近く変わったでしょう?無理がある、って分かっているのに、どうしてこんなひどいスケジュールを組むんだろう?そりゃ、観客の私たちはたくさん見られてうれしいけど、ダンサーたちは悲惨だよねえ。

当然、「コンクール」も無事に進むわけがない。初日も始まらないうちから、すでにディストリビューは変更。5月のカデールの怪我、キショットで張り切りすぎたマニュエルの怪我と、オレリーのかわいそうな怪我のせいで、ああだこうだもめたあげく、この公演の初日は、カデールとレティティアが踊ることになる。私にとっては、不幸中の幸いですね。カデールの初日なんて、秋の「ジゼル」以来だわ♪さてさて、どんな舞台になるのでしょう?

15日(土)

昨日は、ベジャールの特別講演会がガルニエのサロンで催された。話しだしたら止まらないベジャールは、「コンクール」の話もそこそこに、ベジャール哲学の披露に余念がない。ちぇ、もう少し「コンクール」について語ってくれると思ってたのにな。見たことのない作品への好奇心は、まったく満たされないままに終わる。

そんなわけで、なんの予備知識もないままに、ワクワクしながら席について初日の幕開けを待つ。どんな作品なんだろね?ま、私にとって、今夜は作品自体は別にどうでもいいんだ、ほんとは。いとしいカデールが舞台に立つ姿を、半年ぶりに、正確に言えば、5ヶ月と12日ぶりに見られる、というだけでもう、気持ちが夢中になっている。1月はじめの「ぺとルーシュカ」でうるわしいピエロ姿を見て以来、彼が踊るシーンを見る機会がなかった。3月の「ユールヴァン」までは振付家として専念していたし、ストラヴィンスキー特集では「ピュルシネラ」と「ヴィオロン・コンチェルト」を踊るはずが、直前に怪我してしまって、私を絶望させたし、、、。

今夜こそ、本当に今夜こそ、いとしいダンサーの踊る姿が見られるんだ、と考えただけでも、頭クラクラ心臓バクバク。横の席の顔なじみの人が、「うれしいだろ、ブラルビが出て。よかったね」と、ニヤニヤしている私に微笑む。うれしい、なんてもんじゃないわ!客席が暗くなり、幕があがる。シーズン最後の公演の初日が、今始まる。

Bejartバレエ、というより映画か舞台、という方が正しいような作品だ。確かにダンスなのだけれど、同時に演劇でもある。国際ダンスコンクールに出場するアダというダンサーの殺害をめぐる、探偵物語。一文で言えば、こんなストーリ。主役はアダと探偵。それに、個性的な6人の容疑者と、40人あまりのコンクール出場者たち、審査員らがメインとなってドラマが繰り広げられる。

「眠れる森の美女」、「ドン・キショット」、「ラ・バヤデール」に「ジゼル」と、なじみのバレエ音楽がちりばめられる間に、ユーグ・ル−バールのハウス系ミュージックが入り込み、舞台の雰囲気は、クラシックながらもポップキッチュ。セリフを多用しているこの舞台、最低フランス語が分からないと、筋を追いづらいし、できればそれに日本語と英語、ロシア語とイタリア語も分かるほうが笑えるだろうなあ。アントラクト(幕間)なしの2時間は、最後は、オペラ座のデフィレ(ダンサーたち全員の行進、というか舞台挨拶というか、、、、)で締めくくられ、笑いとユーモアに満ちてどこかシュールなベジャール・ワールド。

Bejartカデールはきれいだ。探偵役で久しぶりに舞台に立つ姿は、まぶしすぎる。トレンチコートにくわえタバコ。両手をポケットに突っ込んでふらふら歩く姿は、ボサボサの髪と無精ひげにもかかわらず、美しいんだ。ハンフリー・ボガード顔負けだね、こりゃこりゃ。彼独特の、流れるようなうねるような体の動き。じっっくりと引き寄せて粘った挙句の、ぴたっと歯切れのよいポイント。カデールの体は饒舌だ。観客の視線をあきさせない。「ピュルシネラ」を踊らなかったのが重ね重ね残念だなあ。あのつまらない作品も、彼が踊れば、それなりのものになっただろうに、、、。

レティティアと踊るパ・ドゥ・ドゥよりソロがやっぱり映える、このダンサー。そもそも、彼に夢中になった最初の作品は、バスティーユの小さな劇場で上演された、一人舞台の作品だった。レスコーも放蕩息子もはまり役だし、彼にはソロがよく似合う。ともすればカデールばかりを追いたがる目に鞭打って、一生懸命他のダンサーたちにも目を向ける。ゴージャスなんだよねえ、配役が。

まずはなんといっても、ヤンちゃんでしょう。日によっては、パンク・ロッカーやマジシャンなど重要な役を躍らせてもらえるヤンちゃんの今夜の役は、コンクール参加者の一人。20人近くもいる男の子たちのなかの一人に過ぎないのだけれど、こんなところでも、ヤンちゃんはひときわ目立っている。登場シーンから、「あ、ヤンちゃんだ、あれ」とすぐに分かっちゃうもんねえ。こういうのを、存在感のあるダンサーって言うんだろう。審査員へのからみ方や着替えのシーンなど、あまりにおかしくて笑いが止まらないよ。どーしてこんなにも笑わせてくれるの、このダンサーは!?存在自体がギャグなんだよ。コールの1人としてすばらしい。彼がパンクロッカーやマジシャンを踊ってしまい、この役で出場しないのは、残念すぎる。ああ、ヤンちゃんが二人いればいいのになあ。キショットのときのマタドールに続き、ヤンちゃんらしいオトボケぶりを堪能できて、心から満足♪

Bejart容疑者の一人、テレビディレクターを演じるドゥラノエが最高。彼は本当にすばらしい役者だねえ。こういう役をやらせると、彼の右に出るものはいない。ロビンスの「ザ・コンサート」の旦那役と並んで、これはもう、“彼の役”である。セリフの間の取り方、他のダンサーとのからみ方、エトセトラエトセトラ。文句のつけようがない。彼、ダンサーを引退した後は、コメディアンの道に進むべきだ。会場中、大爆笑。この役、カールとのオータナティヴだよね、確か。カールにできるのかぁ??かなーり疑問。マニュエルの怪我のせいで、バンジャマンがブラジルに引っ張られてしまい、この役を踊らないのが残念。話によると、かなりいいらしいのに。カールがブラジル行っちゃえばよかったんだよ。

で、そのカール君が踊るのは、こちらも主要容疑者のパンク・ロッカー。豹柄のタイツに、髪の毛を逆立てて、舞台衣装だけで笑いを取れるこの役は、ヤンちゃんのはまり役だと聞いている。存在自体が面白すぎるヤンちゃんにこそ似合うこの役を、生真面目で面白みのないカールがどうやって踊るの?とヒヤヒヤしていたけれど、思ったより悪くないじゃん、カール。必死に受けを狙ってがんばって、多かれ少なかれ成功してる。もっとつまらない演技を期待しちゃってたよ(笑)。明日はヤンちゃんが踊るんだ。さて、どのくらい違いが出るかしらね。

マジシャンをやったジョゼは完璧です。望まれるとおりにエレガントで、望まれるとおりに面白く、望まれるとおりにお上手。タキシードにシルクハットって、ジョゼにとても似合う衣装よね。「コッペリア」のコッペリウスや「カス・ノワゼット」のドロッセルマイヤーを踊ったときの姿がオーヴァーラップする。

その他では、コロー君がよかったかな。カドリーユ(一番下っ端)のコロー君は、日ごろからろくな役をもらっていなかった。私が覚えている範囲では、ちょうど去年の今頃の「真夏の夜の夢」での、デメトリウスのおつき、って役が一番まともな役だった?ああ、年末の「ラ・バヤデール」でインディアン・ダンスを何回か躍らせてもらってたっけ。ろくなものじゃなかったけれど。この間の「ヴィオロン・コンチェルト」でも、うしろでなにやら踊ってたかしらね、確か。そんなコロー君はオペラ座に嫌気がさしたか、ついに、大西洋を渡る決心をしてしまった。

背は高くないが立ち姿は美しいダンサー。顔もいいし見てくれは問題ないのだけれど、肝心な踊りが今ひとつなので、どうしても上にあがれないんだよね。オペラ座最後の舞台に花を持たせよう、とブリジットさんが思ったのかどうかは知らないけれど、珍しくも、目立つソロのある役をもらっている。トランクス姿で回る32回のフエッテはブラヴォ!うまいじゃーん!それになんといってもきれいじゃーん!どうでもいい、と思っていたダンサーだけれど、いなくなるのはやっぱり寂しいなあ。リズ−マリと二人、どこのカンパニーに行くのか知らないけれど、がんばってね。たくさん躍らせてもらえるといいね。

コールの中心となるブルノ・ブシェもなかなか。そもそも美しいダンサーだからね。こういう、物語的な作品だと、立っているだけで絵になるし。彼が、アダの恋人役を踊る日は、誰が踊るの、この役?ジルさん、、、???やだなあ。

さて、女の子。主役のアダを踊るレティティアは、まあまあかなあ。テクニック・ダンサーだからねー、こういう役はまかせてよ!という訳にはいかない。群舞の中で、目立たなくなっちゃうシーンもちらほら。もうちょっと光ってほしいな。ジルさんとのパ・ドゥ・ドゥもつまんないし、、、。ジルさんがつまんないのは当然として、もちょっとレティティアがこのシーンを盛り上げてくれないとねえ。

でもかわいい♪ ほんっとに、素直にかわいい。ろくに躍らせてもらえないプルミエールだったレティティアは、エトワールになると同時に大活躍。もっとも、エトワールになった夜もオスタの代役だったし、「ピュルシネラ」もオスタの代わり、そして今度は、怪我したオレリーの代わりに、週明けには急遽ブラジルに飛んで、ジゼルのデビューを果たすことになる。周りの怪我のせいとはいえ、これだけ躍らせてもらえて幸せなレティティアである。どうぞ、怪我しないでパリに戻ってきてね。ラスト数回、カデールとマニュエルと踊らなくちゃいけないんだから。

ミテキちゃんがすっごくいい。役がいいのもあるんだろうけれど、きれいだねえ。よく目立ってる。レティティア、エレオノラとともに、彼女も今回アダを踊る。「春の祭典」もすばらしかったし、今度も期待できそうだ。うれしいなあ、ミテキちゃんがしっかり舞台に復帰してくれて。

こんなところでしょうか、目にとまったダンサーたちは。デルフィヌもマロリーも、忘れちゃいけないロラン・ケヴァルも、みんなみんな、それぞれ素敵なのだけれど、もう、あまりに見るべきものが多すぎて、語りきれない。審査員を務めた、往年のエトワール、ミカエル・デナールもすばらしいし、日本人審査員を務めたアリスちゃんもかわいかった。アメリカ人審査員が、マリ−アニエスじゃないのが残念だったね。後半、しっかり踊ってくれますように。マーテルじゃどうしたって役不足。

エトワールの半分と、スジェ以下の主要メンバーをブラジル公演にとられているとはとても信じられない、豪華絢爛な「コンクール」の初日なのでした。

16日(日)

昨夜の後半から24時間もたたないうちに、また「コンクール」を見られる幸せ。カデール、レティティア、ミテキちゃんにブシェ、デナールらなど、昨日と同じ役を踊るメンバーたちは、昨夜同様、興ののったいい踊り。カデールを別にすれば、自然と目は昨日と違うダンサーが踊る役に向かう。

ずっと前から楽しみにしていたヤンちゃんのパンクロッカーは、確かにすごい。地でやってるとしか言いようのない、隅から隅まで、間抜けなパンクロッカー。「ヤン・サイズは、この役だけならエトワールだよ」と言った友達がいたけれど、全くもってそのとおりかも。マッチョでバカっぽくて、ツンツンの髪の先から足のつま先まですべてがギャク。登場シーンから、最後のデフィレ、そしてカーテンコールの際の歩き方まで、完璧なパンクロッカーだ。この役、出番が少ないのが残念。メインで踊るシーンなんてたった5分だよね。もったいない、ヤンちゃんがこれしか踊らないなんて。もっと見たい、、、。

カールも頑張った。ドゥラノエと比べちゃかわいそうだよね。間の取り方、セリフの遊び方など、役者ドゥラノエに敵うわけもないけれど、とても見ていられない、というひどいものでもない。十分、このくらいできれば。初日を踊っただけでブラジルへ飛び立ち、あとはラスト2回くらいしか踊らないドゥラノエの代わりに、かなりの回数をカールがこの役を踊ることになる。少しずつこなれていくといいね。カールの成長を見た上で、ラストはやっぱりドゥラノエで締めたいけれど。

アダのママ役のナタリー・リケが美しすぎる。テクニックはまあともかくとして、その姿形にほれぼれする。舞台に立たなかったこの3年が悔やまれるけれど、なにはともあれ復帰できて本当によかったね。

カデールの姿を追うのに一生懸命だった夕べに見逃していたいろいろなディテールを楽しんで、「コンクール」の二日目が終わる。カデールが舞台に立つ喜びを、ひしひしと感じながら。

22日(土)

オペラ・バスティーユの小さな劇場で「コンクール」のパスポート。作品をよりよく理解するために開催されているパスポートは、バレエの場合、振付家やエトワールが先生になって下の子たちに稽古をつける、なかなか面白いイヴェントだ。往年のエトワール、ミカエル・デナールが先生で、リケ、ジルさん、他数人のダンサーが集う今日のパスポート、どんな楽しいレッスン風景になるかと、楽しみにしながらオペラ・バスティーユへ向かう。

メトロの出口。数歩前を歩く、細い後ろ姿の黒髪の女性は、、、。ミテキちゃんだ♪ ジルさんが出るから見に来たのね。会場に入るまでの時間、久しぶりにミテキちゃんとのお喋りを楽しむ。私のこと覚えててくれた、ミテキちゃん。もう2年前だったのにね、あのインタヴューは。「あの時は、子供はまだもう少し、、、。いつになるかわからないわ」って言っていたのに、今はもう、ジャドちゃんも13ヶ月だと。「ほんっと、時が過ぎるのが早いわ」とミテキちゃん。あれから2年たった今も、ミテキちゃんの愛らしさは変わらないよ(^^)。今夜ももちろん出演。パスポート見終わったらガルニエに引き返して公演の準備だそうだ。ご苦労様です。ほんとにダンサーたちは忙しい。新たに怪我人も出たらしいし、7月にはリヨンでもオペラ座の公演が予定されている。8月には久しぶりにゆっくりできるらしいミテキちゃん。家族のんびり、2週間はレッスンをさぼるんだってさ。

パスポートの出演者全員が今夜の公演に出演する、というのもあってか、今日のパスポートはやたら短くてすごくつまんない。「コンクール」のあらすじをデナールが説明しながら、ポイントポイントの踊りの抜粋を見せてくれるだけ。稽古とか指導なんてカケラもない。30分をすぎる間もなく、「ということで、今夜の準備もあるので今日はおしまい」だってさ。おいおい、いくらなんでもそりゃないよぉ。そんなに忙しいなら、最初からやらなきゃいいのに。わざわざ見に来たのに、なんだかとてもつまらないパスポートだ。ミテキちゃんに会えたのが不幸中の幸いだなあ。

そんなげんなりパスポートにも関わらず、夜の公演はすばらしい出来だ。水曜日から踊りはじめたロランとエレオノーラが主役を踊る今夜。カデールが出ないのでようやく作品自体に集中できるわ。そろそろ頭に入りはじめたシーンと音楽の流れをゆっくりたのしみながら、なにはともあれ、ロランとエレの出来栄えをじっくり。

Bejartエレ、いいじゃーん!レティティアが演じた、チャーミングでかわいらしい面はちょっと減るものの、クール・ビューティーでなんとも言えない存在感があるアダを踊る。エレの踊り、やっぱり好きだなあ。媚びておらず、妙にさめた感じで、視線を引き寄せる。レティティアの踊りが明るくキラキラと輝く金糸を織りなすようなものならば、エレの踊りは、しっとりと闇夜を照らす月の光だ。どちらも大好きなダンサー。基本的に、クラシックはレティティアで見たいし、コンテンポラリーはエレでみたい。モダンは、、、どっちもいいね。「春の祭典」に引き続き、調子のいいエレオノーラの姿を見られて嬉しいよ。エトワールになる日を楽しみにしてるからね。

ロランの探偵は、ハハハ、きれいすぎる。無精ひげもはやさず、美しきロラン・イレールそのままで出てきちゃってる。だからー、この役、そういうきれいな役じゃないってばぁ。まあいいんだけどさ、これはこれで。生活に疲れた、哀愁漂う私立探偵、みたいなカデールに比べると、ロランは、スコットランド・ヤードきっての敏腕刑事、って感じだ。どうしても輝きが体中から溢れてしまう。ロランでこの始末、マニュエルが踊るとどのくらい輝いちゃうんだろうねえ(笑)。カデールのカリスマ性って、マニュエルに代表される、そしてロランにも多かれ少なかれ感じる体の表面にあふれる輝きでなく、体内からじんわりにじみ出るその思考の美しさにあるんだろうなあ、ってしみじみ思うね。

エレとレティティアを比べてどっちがいい、なんて言えないように、引退間近のこの3人のエトワールたちも、誰が一番、なんて間違っても言えない。ソローはマニュエルやロランで見たいし、バランシンは絶対ロラン。エクやフォーサイスはカデールに2人が敵うわけないし、ペトルーシュカもロランよりもカデールが圧倒的によかった。ジークフリートやロミオを踊るカデールは、チバルトを踊るマニュエルと同じくらいに願い下げ。マニュエルやロランがレスコーを踊るなんて言ったら私は怒り狂うけれど、カデールがデ・グリューを演るなんて言い出したら、私は絶望しちゃうね。それぞれに合う役を踊る時、彼らエトワールは怖いくらいの感動を与えてくれる。

主役2人以外に今夜楽しみにしていたのは、ヤン・ブリダールのマジシャン役。妙にコケティッシュで間抜けなマジシャンを披露してくれると期待していたのだけれど、思ったほどじゃなかったかなあ。マジック部分はお上手にできたし、うまいのだけれど、テクニックの話をしちゃうとジョゼにどうしても負けちゃうし、ヤン特有の妙な面白さが欠けてる気がする。うーん、おかしいなあ、もっと笑えると思ったのになあ。ちょっぴりがっかり。でも大丈夫、きっと次はもっとヤンらしく踊れるよ。なんといっても大好きなダンサーである。

アダの恋人役のブルノ・ブシェがよかったですね!かわいいもんねえ、ロマンティックな恋人役に、みるからにぴったりだ。ブルノがいいのかエレがいいのか、はたまた2人の相性がいいのか分からなかったけれど、この2人のパ・ドゥ・ドゥは、レティティアとジルさんよりはるかにいい。ブルノの代わりにコールのメインがジルさんになったのがちょっぴり嘆かわしいが、仕方あるまい。

あとはみなさん、先週同様ごりっぱごりっぱ。ヤンちゃんはさらにのりのりで間抜けなパンクロッカーをやるし、カールはカールなりに一生懸命笑いを取っている。ミテキちゃんはほんっとに愛らしいし、コロー君も絶好調。彼は今夜、例のトランクス姿のフエッテ、36回転したもんね!心から嬉しそうに踊るんだよね、彼は。あんまり嬉しくって、自分の世界にはまってしまい、よく横のダンサーとぶつかってたっけ。こういうソロ役をもっと踊れればよかったのにねえ。あと何回彼のフエッテを見られるか分からないけれど、彼の踊りを忘れないように、しっかり見てあげようね。タロンが怪我しちゃってママ役ができなかったのがとても残念だったけれど、しかたないですね。早く治って、友達役で出てくることを願うばかり。ミュリエル・アレの友達役はあんまり好きじゃないし、、、。タロン、きっと映えると思うな、この役。

華々しいデフィレで今夜も大きな拍手を受けて、パリ国立オペラ座のダンサーたちは、みなさんそれぞれ光り輝いているのでした。2時間ノンストップの探偵物語を楽しんで外へ出ると、9時半を過ぎているというのに、いまだ陽光さんさんと降り注ぐ真昼のような6月下旬のパリ。一年で一番素敵な季節を、パリは今、迎えている。

sam.15, dim.16 juin 2002(02年6月)
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