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3.「サンドリオン(シンデレラ)」の巻

balletパレ・ガルニエで、昨日から「サンドリオン(シンデレラ)」が始まった。お馴染み、ペローの物語を、舞台を30年代のハリウッドに移して、スターになりたいサンドリオンの話にしている。

思い出したかのように、時折パラリと落ちてくる雨をうまくよけながら、オペラ界隈で午後中過ごし、7時半にはパレ・ガルニエの人となる。

ヌレエフが86年に振付けしたこの作品、当時の上演以来10年以上も、パリ国立オペラ座のレパートリーから外れていた。他のヌレエフ作品の大半が、2年の一度のサイクルで上演されているのに、何故かこの作品は忘れ去られたようにオペラ座の奥深くにしまい込まれていた。

10年以上に渡って積もった埃を叩き、きれいに磨き上げて、再度パレ・ガルニエの舞台に乗せたこのバレエは、ちょっと芝居っぽい雰囲気が漂うものの、ファンタジーに溢れ、コケティッシュで笑い誘う、可愛らしく素敵なバレエだ。

延べ150人近いダンサーを要する大掛かりなバレエ。ハナエ・モリのレトロで上品な衣装に身を包んで、スポットを浴びるのは、サンドリオン役のアニエスと王子ならぬ大スターを躍るホセの若きエトワールカップル。この二人のバレエを観るのは、冬に「ラ・ベル〜」を見逃しているので、すっごく久しぶり。

優等生の踊り。まあ、一口で言ってしまえば、このカップルの踊りはこんな感じ。心打ち震えるような感動や興奮は沸かないけれど、ソツなくコツコツ、一つ一つの動きを積み上げる、ってイメージだ。他の人のを観ていないし、彼ら自体のバレエを観るのも久しぶりだから、このイメージが振付けから来るものなのか、彼ら本来の踊りの性質から来るものなのか、今一つよく分からない。多分、後者の理由だと思うけれど。今度、ヤンのヴァージョンか、ニコラのヴァージョンを観に行く時に確認してみよう。

フレッシュで爽やか、かつ、王子様とお姫様にぴったりな端正で麗しい顔をした二人。体の線も細く滑らかで、この二人は、ベスト・カップル。きれいにきちんと、間違いのないように躍る。2幕、トゥを履かずに、ヒールのガラスの靴のままのアニエスとホセが躍るワルツの、まあ、なんと優雅で艶やかなこと。本当にエレガントなお二人です。

balletファニー・フィアとナタリー・オーバンがコケティッシュに躍った、二人のイジワル姉妹には、拍手が乱れ飛んだ。コケティッシュではこちらも負けていない、継母役のロラン・クヴァル。3幕、二人の姉妹の足にガラスの靴が合わなかった後、ホセとロランが一生懸命、ロランの大きな足にガラスの靴を履かせようと躍起になるところが、最高楽しい。ゲネプロでは、ホセが継母をやったらしい。おっかしかっただろうなあ。

ダンス教師のジャン・ギヨーム、彼がエトワールになってから初めて観る。ふーん。やっぱりよくわかんない、彼のどこにエトワールとして見込まれたところがあるのか。きっと技術的に素晴らしいんだろうね。存在感としては、やっぱりスター性が足りないと思うよ。

魔法使いのおばあさんの代わりに出てくる、映画のプロデューサーはリオネル・ドゥラノエ。お気に入りのデルフィヌの旦那様。カボチャの馬車ではなく、スポーツカーにサンドリオンを乗せて、ハリウッドへと送り出していた。

その他、グシャグシャに多い群舞はみんなそれなり。バスティーユでも新しいバレエが始まるし、とにかくダンサー総動員の3月4月。コリフェ、カドリーユの人たちもたくさん出ていた。ミテキちゃんは、秋の精とマズルカ、中国の踊りをそれぞれの幕で躍ってた。ミテキちゃんのバレエを観るのも久しぶり。「ラ・ベル〜」は2回とも彼女が出ない時だったし、なんやかんやいって、半年くらい観てなかったんじゃないかしら。

「サンドリオン」の音楽は、バレエ音楽の神様の一人、プロコフィエフ。彼のバレエ音楽といえば、私にとっては「ロメオとジュリエット」に尽きるが、「サンドリオン」も悪くない。「ロメオ〜」を彷彿させる、深く沈む打楽器音やスラブ的な物悲しい旋律に囲まれて、極上のワルツが華やかな色彩を添える。まだ聴きなれていないからか、私は圧倒的に「ロメオ〜」の音楽の方が好きだけれど(今も、ロメオを聴きながらこの日記を書いてる)、プロコフィエフならではの、悲壮感漂う中にも一筋の暖かみが流れるようなロシア音楽に、うっとりと聞き惚れる。

あでやかで華々しく崇高、というより、チャーミングで可愛らしく、夢溢れる作品、という感じの「サンドリオン」。もう一回、観に来たいですね。ハリウッドでのスター誕生物語になったこのバレエ、アカデミー賞の前夜に見るに相応しい公演だ。

sam.25 mars 2000


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