2ヶ月と10日にわたる、バレエ抜きの日々。その間、リヨンオペラ座の公演を見たり、アレッシオに会ったり、ジョゼを見かけたり、と、わずかな慰めはあったものの、やっぱり長かったなー、この日々は。
2002−2003年のシーズントップを飾る舞台は「ロビンスとプティの夕べ」。二人のコレグラフの作品を仲よく二つずつ上演。待ち焦がれた夜、パリ国立オペラ座は、どんな美しい感動を見せてくれるでしょう。
水曜日
久しぶりのオペラ座バレエを目前にして、興奮して眠りが浅くなる前夜。あくびをかみ殺しながら、久しぶりのガルニエ行き。さすがはシーズン初日。批評家たちもうじゃうじゃ来てるし、プティとジジの姿も見える。プラテルも見に来ているし、華やかだねえ。懐かしいビロード張りの椅子に座る。オペラグラスもデイジーも忘れず持てきたし、準備は完了。さあ、幕開けだ。
まずは、ロラン・プティの「パサカイユ」。静かに舞台の幕が開くと、シンプルな舞台に(っていうか、なにもない舞台に)佇むヤン・サイズの姿が目に飛び込んでくる。なんという幸せ!シーズン最初に目にするダンサーがヤンヤンだなんて!2ヶ月前と変わらずに愛くるしいヤンヤンにうっとり。横にいるイザベル・シアラヴォラにはどうしたって視線が行かない。ごめんよ、イザベル。でも今夜の私は、久しぶりのヤンヤンで手一杯だ。
作品自体は、やさしいプティって感じかなあ。主役カップルの他に6組のダンサーたち。みんなして、気紛れに体に包帯を巻いた?みたいな、変な衣装に身を包んで、シンプルな動きを続けていく。うん、プティ作品だ。きれいで、コケティッシュで。それ以上取り立てて感想がないのは、ヤンヤンばかり見ていたからだし、その他大勢がかわいくない子がそろっていたからだし、風邪で痛めた喉がつまって舞台を見てられない時間もあったから(笑)。まあ、いいでしょう。作品自体はまたゆっくり、ヤンヤンが主役を踊らないときに見させてもらおう。
着痩せするヤンヤンの、マッチョな体を堪能。顔のかわいらしさと体の男っぽさが、妙にマッチしないダンサーだ。服着てるときの方が、私は好き。いずれにしても、こういうシリアスな役はヤンヤンにはイマイチ。やっぱり、笑いを誘う役が彼には適役なんだよね。
アントラクト後は、ロビンス作品を2つ続けて。まずは、「ザ・ケイジ」。2年位前に何度か見ているけど、結構お気に入りの。ストラヴィンスキーの音楽だけでかなり好感が持てるもんね。50年前にこの作品が初演されたとき、どんなセンセーションを巻き起こしただろう。半世紀前に作られたとはとても思えない、インパクトを持ったシュールな作品。暗い舞台に絡まる糸が檻を象徴するシンプルな舞台が妙に気をそそる。好きなんだよね、こういう訴えてくる作品て。
レティティアの怪我により、初日の配役はエレオノーラ、マリ−アニエスにロモリ。前に見た、ゲランとレティティア、アニエス、ニコラというゴージャスなメンバーに比べると、どうしてもイマイチ感があるのは否めない。エレなあ、がんばってるんだけどどうも迫力に欠ける。悪くはない。それなりに役をつかんではいるんだけれど、ノヴィスという役よりはダンサーに見えてしまう。だめなんだよそれじゃあ、この作品は。雰囲気もあるしうまいのに。エレって、本当に作品が限定されるダンサーだ。フォーサイスやノイマイヤーを躍らせるとあんなに素晴らしいのにもったいないなあ。
マリ−アニエス、ちょっと太った?前からがっちりしている体ではあったけど、一段と大きく見える。頭に残っているイメージがアニエスのものだからかな。ダイナミックな迫力で舞台を支配。エレの影がますます薄くなってしまう。ロモリに関してはノーコメント。ああ、ニコラが懐かしい、、、、。
続いて、雰囲気をがらりと変えて「アザー・ダンシーズ」。「ザ・ケイジ」の怪しい迫力に比べ、どこまでもピュアで美しい舞台が、ショパンの旋律とともに流れていく。ゲストでやってきた女王イザベル・ゲランと、泣く子も黙るマニュエル・ルグリ。正直言ってこのカップルは苦手。「マノン」で見た、自分自身を愛しすぎて全然愛し合っていないカップル、というイメージがどうしてもついて回る。そりゃあうまいさ、二人とも。とってもお上手。なんてったって“巷の”評判では、このお二人がオペラ座のエトワールの大代表。文句をつけたら怒られる。各人のヴァリアシオンは、ファンタスティック!引退したとはいえ、まだまだ力たっぷりのゲランの迫力。40近いとは誰も思わない若々しさと見事な技術を備えたマニュエルの存在感。2年前に踊ったときと、まったく変化がないよ、このダンサー。どんな老化防止をしてるんだろう?
確かに二人ともすごい。ただ、パ・ドゥ・ドゥが、、、、。どーしてもパ・ドゥ・ドゥに見えない、この二人が踊ると。ヴァリアシオンだけで構成してほしいな、彼らが踊るときには。ニコラとゲランが踊る日を見にこられないのが残念だー。ま、どーでもいーや。どっちにしてもあんまり好きじゃない作品。飽きてしまうんだ、単調できれいな踊りに。
公演最後を飾るのは、プティの「アルレジエンヌ(アルルの女)」。初日の主役はもちろんニコラ。彼を差し置いてプティ作品の初日を踊れるダンサーはいないよね。ゴッホの絵によって象徴されるアルルを舞台にストーリーが踊られてゆく。コールの動きがプティらしくていいなあ。ワクワクするよね、プティの体の動かし方って。かわいい子たちはそろってバスティーユの「ラック・デ・シンニュ(白鳥の湖)」に取られちゃってて、ガルニエ組は不細工な子が中心になっているのが残念だけれど、それでもみんな十分に作品を味合わせてくれる。
けちのつけようのない踊りを繰り広げるゲランもすごいけど、やっぱりこの作品の主人公は、アルルの女に悲しい恋をしたフレドゥリー。演じるニコラは素晴らしい。こんなにもプティの作品が似合う男もなかなかいないだろう。テクニック的には相変わらず、80%しか力出してないでしょう?という感じがするけれど、表現力というか役のつかみ方はかんっぺきだ。フレドゥリーの悲しみがビシビシとこちら側に伝わってくる。なんて表情をするんだろう、このダンサーは。「クラヴィゴ」を彷彿させる、胸が締め付けられるような無垢な表情。彼は、ロラン・プティを踊るために生まれてきたんだろうなあ。ビゼーの饒舌な音楽にさらに力を得て、ニコラ・ル−リシュは会場中を感動させている。
いずれもシンプルな舞台の小品が4つ並んだ公演。熱い感動は残らないけれど、見ていて気持ちのいい、よくできたプログラムだ。明日以降を楽しみにしつつ。
木曜日
今日と昨日の席が逆ならよかったのに、、、。「パサカイリ」の幕が開いて思わずため息をついてしまう。ステファン・ファヴォランとセリーヌ・タロンが今夜の主役。好きよ、ステファン、とても、ずっと前から。去年は「ジゼル」の初日で怪我してしまい長い間踊れなくて、復帰してからもろくなもんじゃなかっただけに、こうやって彼が主役を踊るのを見るのはとてもうれしい。でもねー、どうせ近くで見るなら、ステファンの長いお首もいいけれど、やっぱりヤンヤンのかわいいお顔を見たかったな。ま、文句は言うまい。こういう体の線をきれいに見せる作品は、ステファンにお似合い。ヤンヤンよりも絶対的にうまいし説得力はあるよね。
相手のセリーヌは素晴らしい!の一言。このダンサー、なんだってこうも雰囲気があるんだろう。クラシックやコールの中に入っちゃうとどうってことないのだけれど、モダンやコンテンポラリーで存在感のある役をやらせると、本当に映えるダンサーだ。いまだ生きている振付家が好んで彼女を使いたがるのは当然。妙に長い手足がコケティッシュな動きをして印象的。
今日はね、ヤンヤンがいないだけに作品自体にも集中できる。なじみのプティ作品に比べると、おとなしくてきれいだな。ちょっとバランシンぽい、と言えばいいか。ストーリーもない、どおってことのない作品だけど、20分飽きはしない。ま、見込んでいけば、好きになれるかな。
「ザ・ケイジ」は昨夜とまったく同じディストリビューション。ダンサーたちも同じイメージ。マリ−アニエスは迫力に物を言わせ舞台を支配し、エレはちょっぴり存在感に欠け、ロモリはどうでもいい。問題はない代わりに、説得力が少々足りない。ま、ブリダールとゲランが踊る日を待ちましょう。
「アザー・ダンシーズ」にはうれしい驚きが待っていた。予定では、マニュエルとゲランが踊るはずだったのが、配役表をみると、そこにはなんとニコラの名前が!ほんと?ほんとに!?本当にニコラ???なんてったって当てにならないオペラ座の配役表。疑心暗鬼で幕が開くのを待つ。
ウキャー!ほんとにニコラだー!ブルーのライティングの透明感も美しい舞台にゲランと並んで立つのはニコラ。うわーい!ニコラの「アザー・ダンシーズ」は見られない予定だっただけに、嬉しさ倍増。期待に胸膨らませ、舞台を見つめる。結果から言うと、やっぱりこの作品はマニュエルがいいのかな(笑)。悪くないよもちろん。テクニック的には両者甲乙つけがたい。ただマニュエルの方が、軽やかですばしっこく、切れがあってチャーミングな動きをするのに対して、ニコラは、ダイナミックで迫力がある動き。振り付けと音楽を考えると、どうしてもマニュエルの踊りの方が作品がそもそも持つ雰囲気に合ってるんだ。適材適所、ということで。ゲランの出来は昨夜同様。女王様は、相手が誰であっても動じないのである。
適材適所なのは、「アルレジエンヌ」も同様。デルフィヌを相手にマニュエルが踊るが、こちらは逆に、やっぱり夕べのニコラの方がやっぱりいい。思っていたよりもずっとよかったことは確か。もっともっと“マニュエル・ルグリ”という匂いをプンプンさせるかと心配していたけれど、この間の「コンクール」みたいなひどいことにはならなかった。ファンタスティック!とさえ、言ってもいい。でも、どうしてもマニュエル臭さが気になる。もう仕方ないのかもしれないけどさ、このダンサーは。でも、昨年の「ノートルダム・ドゥ・パリ」で見せてくれたフロロは、完全に“マニュエル・ルグリ”が消えてた。あの感動を知っているだけに、今夜のマニュエルじゃあどんなに素晴らしい技術を見せてくれても物足りない。ニコラが、完全にフレドゥリーになりきったのに対し、マニュエルはあくまでもダンサーなんだ。スタイルがありすぎる、ノーブルすぎる。もっと朴訥で素直な苦悩を見せてほしいなあ。
デルフィヌは完全に準主役になってしまう今夜の「アルレジエンヌ」。カーテンコールでも、デルフィヌを尻目に一人で喝采を受けて立つマニュエルに、なんだか笑ってしまうのでした。
そんなこんなでとりあえず、シーズン初めの二夜が無事に過ぎる。シーズン開始前にすでに、レティティアを筆頭に怪我人続出で、「ラック〜」と重なるこれから先、いったいどうするの?という感じの危ういオペラ座ではあるが、きっと今年もまた、素晴らしい感動をたくさんくれるのでしょう。さて、明日はバスティーユで「ラック〜」の初日です。いとしいカデールを始め、アレッシオにマチュー、セバステャンにエマニュエルと、まあかわいい子たちが続々登場。楽しみだー!
mer.25, jeu.26 sep.2002(02年9月)