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ジョゼとアニエスの、おなじみ「白鳥の湖」

さて、今日からバスティーユで「ラック・デ・シニュ(白鳥の湖)」が始まる。初日を飾るのは、エトワールカップルのジョゼとアニエス。当然と言えばあまりに当然のカップリングだけけれど、特にワクワクはしない。ラックという作品自体ろくでもないものだし、ジークフリート王子にいたっては、これ以上考えられないくらいにつまらない役。他のヌレエフ作品に比べて、圧倒的に出来が悪いと思う、1幕以外はね。しかも、ジョゼとアニエスじゃあ、きっとろくなものゃないだろうなあ、とあらかじめ覚悟。ただでさえろくでなしのジークフリートのニュアンスを、まじめなジョゼが出せるはずないし、アニエスはオデットを演じるには冷ややか過ぎる。あああ、もう4年も前に見た彼らの「ラ・ベル〜(眠りの森〜)」を思い出す。きっとああいう感じで、つまらないんだろうなあ、、、。と、主役二人には何も期待せずに赴くオペラ・バスティーユ。初日とあって大賑わいの会場には、「僕もう、ジークフリートなんておどんない!」と役を蹴ったマニュエルやプラテルの姿。おお、3晩続けてプラテルとの遭遇だ。これがカデールだったらどんなに嬉しいことか、、、。いまだかつて、カデールと巷で遭遇したことのない、かわいそうな私である。

Cygne作品自体はつまらないものの、なんてったってチャイコフスキーの音楽は絶品。悲劇を予感させる前奏曲からもう、耳はうっとり。舞台が開くと、夢うつつのジョゼの姿。ジョゼ、なんか髪型、変じゃない?2〜3日前に街で偶然すれ違ったときには、もっと普通だったのに、、、。ジークフリートという役柄なのだろうけれど、すでに髪型からして絶望的なジョゼである。いいのだ。今日はジョゼを見に来たわけじゃない。はっきり言ってどーでもいい。なんてったって、今日のメインはいとしいカデールのウォルフガング&ロットバルト。1幕のウォルフガング姿が、なんてまあ美しい。撫でつけた髪に、存在感のある眉毛がキャラクターの強さを主張している。かすかで控えめな、それでいて優雅なカデールの一挙手一頭足に目が釘づけ。前から2列目奇数寄り、という席は、舞台向かって左側にいがちのウォルフガングを見るのに、なんてまあうってつけ。毎日この席に座りたいよぉ。横の席のおじ様は、いったい左端になにがあるんだろう?中央で踊りが繰り広げられているのに?と解せない顔で左端を自ら確認するが、何も見出せずに視線を中央に戻す。おじ様には分からないよ、舞台の端で演技をしているカデールがどんなに素敵かは。

Cygne夢中になってカデールを見ている合間を縫って、アレッシオ、マチュー、セバスチャンら、かわいい子達の群舞にもチラリチラリと目を向ける。アレッシオ、光ってるなあ。クラシックを踊るの、久しぶりだね。お上手、お上手。雰囲気もあって、大変よろしい。パ・ドゥ・トロワを踊る日が待ち遠しいな。2回転をきっちり決めたマチューの誇らしげな顔がなんてまあかわいいのでしょう。あの類まれな美しい首も健在で、すっきり髪を切ったマチューの姿に惚れ惚れとさせられる。5年もすれば、さぞかし素晴らしいエトワールになることでしょう。成長を楽しみに♪

セバスチャンは、相変わらず頭は大きいし踊りは下手だけど、あの、いかにも嬉しそうに踊る姿がたまらなくいい。よくてもスジェにしかなれないダンサーだろうけれど、ずっと応援してるからね!

パ・ドゥ・トロワを踊るエマニュエルがいい!なんてまあ、しっかりした技術を持ってるのだろう。エマニュエルのソロなんて、すごく久しぶりだ。彼がこんなに素敵な踊りをするってこと、すっかり忘れてしまっていたよ。こうやって一人で観客から拍手をもらうエマニュエルなんて、最近とんと見かけない光景だった。なんだか昔を思い出すね。ジェレミーの不調により、初日のパ・ドゥ・トロワを踊る栄誉を得たエマニュエル。次もがんばれ!一緒に踊ったノルウェンも素敵。プルミエになってから怪我したりなんやかんやで、ろくな役を踊らなかったけれど、ノルウェンの資質を今夜は堪能。

Cygneその他、マロリー、アドリアン、フロリアンなど、かわいい子達が勢ぞろいしたコールの男の子たちに加え、ジュリエット、ミリアム、ミテキにドロテなどこちらもかわいい子たちでそろえた女の子たちによる、華やかでゴージャスな踊りとチャイコフスキーの旋律ににうっとりしている間に1幕が終わってしまう。ジョゼ?え?なにか踊った?

2幕のアニエスは、1幕のジョゼに負けず劣らずイマイチ。冷たすぎるなあ、やっぱり。うまいけど、あまりに冷ややか。オデットの感情が全然伝わってこない。まったく共感できない。ジョゼもそれはまあ、同じなのだけれどね。お二人そろってうまいけど、ただそれだけ。つまらなーい!

確かに、もともとヌレエフものはイマイチなお二人なのだけれど、春の「ドン・キショット」の出来がそれなりによかっただけに、かなりがっかりする今夜である。白鳥たちはこんなもの?よくわからない。きれいだしよくそろってるし、ま、いいんじゃないのかな。

Cygneアントラクト後の3幕は、きらびやかで明るくって、いろんなダンスがあって、楽しい楽しい。カールと美人のナタリーらによるダンス・エスパニョール、アレッシオとファニーらのクザルダなど、お祭り的な踊りに続いて、アニエスのオディール。これはいい!すごくいい!オデットとは天と地の差だよ、アニエス。こういう役が合ってるの?目つきといい酷薄な表情といい、これはなかなか。ジョゼの方は、ヴァリアシオンの見事さ以外は、相変わらず溜息もの。何度も言うけど、ジョゼの責任もあるけれど、ヌレエフの責任もおっきいよね。3年前に見た時は、マニュエルはなかなか、バールは最悪だったのをよーく覚えてる。

この役を素晴らしく踊りきるダンサーっているのかしら?やっぱりニコラ?あとはだって、ろくでなしのバール、バンジャマン、それにエルヴェ・モローか。バンジャマンがいいかもしれないな。役柄的には合ってる。バジルを見損なって残念だったけど、彼のジークフリートは一度は見たいね。

カデールのロットバルト、いいですねえ。笑いを誘う衣装に身を包み、顔があんまり見えないのが難点だけれど、あくまで渋くカデールらしい演技。どっちかというと、1幕のウォルフガングのほうが彼に似合っているとは思うけど、さすがの存在感だ。ヤンヤンが踊る夜が楽しみだなあ。あの長いマントを、われらがヤンヤンがうまく操れるはずがない。どんなに笑わせてくれるか、心から待ち遠しいよ。

Cygne4幕はジョゼとアニエス、それにカデールのパ・ドゥ・トロワが素敵だ。テクニック的にはジョゼに負けるカデールだけれど、その雰囲気というかせつせつと語りかけてくる演技力はさすがだよね。カデールのはまり役!と太鼓判を押しはしないけれど、彼の魅力をチラチラとは感じられてなかなかよろしい。

そうこうしているうちに、音楽はフィナーレを迎え、珍しくも死に役でないカデールが上空に消えていき、アントラクトを挟んで3時間に及ぶ壮大なバレエは幕を閉じる。

正直言って、作品としては全然面白くない。1幕の華麗なコールの踊りはよしとしても、全体的にろくなパ・ドゥ・ドゥもなければヴァリアシオンだって対したことない。ストーリーや役どころもろくなものじゃないし、「ドン・キショット」の方が100倍楽しめる。ま、でもいいか。好きなダンサーたちの姿を見るだけでも、バスティーユに夜毎通う価値はあるよね。全15回の公演が用意されている「ラック・デ・シニュ」。さてさて、何回見にこられるかな。

ven.27 sep. 2002(02年9月)
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