中日一日「ラック〜(白鳥〜)」で気分を変えたあと、引き続き「ロビンスとプティの夕べ」を楽しむ。
土曜日。
チケットを買う列に並びながらふと辺りを見ると、アニエスがいる。お一人?珍しいね。と思っているところに、ハー・ベター・ハーフの登場。夕べはお疲れ様でした。ろくな舞台じゃなかったけれど、なにはともあれ初日をつつがなく終えてなによりです。
背の高い二人をぼんやりみてるところに、視界に小さな人影が飛び込んでくる。アレッシオだー!わーわーわー、見るんだ、今夜?これはもう、私もぜひぜひチケットをゲットしなくてはね。私の夢中の視線に気づいてくれて、遠くから手を振ってくれる。くぅぅ、アレッシオォォォ。
ボーッとアレッシオに浸っているところに、次に視界に飛び込んできたのは伝説のエトワール、ミカエル・デナール。昨シーズンラストの「ル・コンクール」ではフランス審査員役で、夜毎笑わせてくれたっけ。ゴージャスだなあ、今夜のお客様ダンサーたちは。どうにかチケットを入手して、誰に遭遇できるかとワクワクしながら席につく。
今夜の「パサカイリ」は、われらがヤンヤンが主役の日。いい男なのは認めるけど、やっぱりステファンの方が似合ってる作品だ。女の子の方も、ひたすらにプロポーションが美しいだけのイザベルよりも、饒舌な肢体の動きを得意とするセリーヌのほうがずっといい。
ステファン、怪我したダンサーの代理で48時間の時間しか与えられずにこの舞台の主役を踊りきったらしい。偉い!それに比べてヤンヤンは、、、。たくさん練習時間はあったはずなのに、こんなものかなあ。まあ、シンプルで美しい、でもってそれなりに女の子をリフトしなくちゃいけないダンスというのは、ヤンヤンがもっとも苦手とするところ。ミスマッチ配役だ。なにはともあれ、あの美しいお顔をほぼノーメイクで見られる、と言う点にこの作品のよさはあるのでしょう。
「ザ・ケイジ」にはがーっかり。今夜はヤン・ブリダールが踊るはずだったのに、怪我が治らなかったか、ロモリに変更。天国から地獄だよ、、、。たいしたことのない役だとはいっても、見たかったなあ、ヤン・ブリダール。
マリ−アニエスは、いつもながらにゴージャスに威風堂々と舞台を支配。こんなにも存在感があるダンサー、なかなかいない。大好きだー。今夜はゲストのイザベル・ゲランが主役を踊る。比べちゃエレに申し訳ないけれど、やっぱりゲランのほうが見ごたえあるな。
そのエレオノーラは、「アザー・ダンシーズ」をジャン−ギヨーム・バールと踊る。チャーミングで愛らしいダンスに、エレ、見事にはまってる。いいじゃない、なかなか。フレッシュ感あふれて楽そうに踊ってる。対するバールについては、ため息あるのみ。あれだけエレが誘っているのに、どうしてまあ、このダンサーはいつだって石のような演技しかできないんだろう。チャーミングという言葉からは程遠い、無骨な堅物。技術はまあまあにしても、コケティッシュで軽やかな雰囲気が完全に欠落してる。さーいあく。もともと嫌いなダンサーだけど、株価さらに下落。やっぱりこの役はマニュエルだよねえ。ニコラもイマイチだったけど、大柄なダンサーには似合わないのかな?前回踊ったローランが出ないのがひたすらに残念。素敵だったのにな。
で、なんやかんやとブーブーいいながらも3作品が終わる。アントラクトには、久しぶりにアレッシオとお話♪3度目の会話にしてようやくアレッシオは私の顔を覚えてくれて、ビズーまでしてくれるようになった。嬉しいなったら嬉しいな。往年の大スター、ミカエル・デナールともお話しし、その他、エルヴェとその彼、ようやく元気な姿を見せてくれたバンジャマンら、うじゃうじゃダンサーたちの集まる中、ラストの「アルレジエンヌ」が始まる。
ニコラにぶっ飛ぶ。すっごーーーーーーーいっ!ニコラ、今夜は全力投球。なんというフレドリーなんだろう。無垢で運命にもてあそばれ、おびえきったあげくに感情がほとばしる野生動物のようだ。なんてダイナミックでなんて圧倒的な踊り。有無を言わせぬ迫力に、息が詰まる。「クラヴィゴ」をイメージさせる、ラストの切ないヴァリアシオンが感涙ものなら、中間に入る、葛藤がむき出しのヴァリアシオンは心が痛くなる。もちろん、感情豊かな音楽も素晴らしいけれど、プティとニコラというアーティストの融合に心がざわめく。
たまにしか見せてくれない本気のニコラに遭遇すると、ダンスというアートの持つ麻薬性をしみじみ感じてしまう。ほんの時たま彼が与えてくれる、たまらない刺激と興奮に焦がれ(毎回、だったらもっといいのに)、ニコラが踊る日はフラフラと劇場に足を運んでしまうのだ。
日曜日
今日で5日連続のバレエの日。超多忙だった先週までに比べると、ほんと地獄から天国だわ。オペラ・ガルニエという天国は、今日もまた素敵な感動を用意してくれている。
回を経るごとに徐々に好きになっていく「パサカイリ」。踊るダンサーの選択はやっぱりミスったと感じさせるヤンヤンとイザベルの演技はちょっと横においておくとして、作品自体はそれなりにいいのかもね。ウェーベルンの捉えどころのないメロディーもようやく耳に心地よくなじみはじめ、ホワイトとブルーが支配する透明感のある舞台を動くダンサーたちが、とても美しい抽象を描き出している。何十回も見たい作品ではないけれどそれなりに興味深いし、ヤンヤンの美しい顔にいたっては非常に興味深い。
今夜の「ザ・ケイジ」は、エレの横でステファニー・ロンベルグが踊る。「シエラザード」や「クラヴィゴ」でそれなりのソロを踊っているけれど、私には今ひとつピンとこないダンサー。っていうか、マリ−アニエスの印象はもちろんのこと、前回のアニエスのものすごい印象がまだありありと残っているところにステファニーを見ても、ピンとこないのが当たり前か。
「アザー・ダンシーズ」は、華やかで軽やか、チャームたっぷりのマニュエルとゲランを楽しむ。やっぱりこうでなくっちゃね、この作品は。昨日のバールの悪夢からようやく覚める。ただでさえ、どこででも輝いているマニュエルが、こういう作品を踊ると、よりいっそうキラッキラになる。ゲランもまーまー。年齢が作品にマッチしていない感は否めないが、存在感と遊び心で会場を魅了している。
ジョゼ、アニエス、レティティアにアレッシオ、そして昨夜のヒーロー、ニコラらが見守る中で、「アルレジエンヌ」の幕が開く。ジェレミー!ジェレミー!!ジェーッレミーッ!!!思わず叫んでしまいそうなくらいの強い感動が体中を駆け巡る。なんだ、これ?ジェレミー、なにをやってくれてるの?
実を言うと、昨日のあの神がかったニコラを見てから24時間もたっていないだけに、ジェレミーに同情してた。あのニコラを見たあとじゃあ、ジェレミーはきっとかすんでしまうだろう、と。かすむどころの騒ぎじゃなかった、、、。
出だしは確かに普通だった。怪我後の長い失意の時期を終えようやく舞台復帰を果たしたクレルマリを横に従え、両者そろって可もなく不可もなくの演技が始まる。ストーリが進み、フレドリーが徐々に追い詰められていくうちに、グングンと高まるジェレミーの集中力と役作り。
中間のヴァリアシオンでの、逃れられない運命に絶望した苦悩がなんて切ないんだろう。涙がこぼれる。キスしてしまったあとの反応が素晴らしい。ニコラが、自分のやってしまったことを理解できず、無力のままに運命に流された無垢感を表現したのに対し、ジェレミーは、自分のやったことを理解してしまったがゆえの激しい絶望と後悔をほとばしらせる。服を脱がされる場面にしても、ニコラは自分になされていることに対して無関心。どこか別の世界に精神を飛ばせてしまって、非現実的なインパクトを与えてくれたのに対し、ジェレミーは、身に起こっていることを認識しつつも、そこから逃れない自分の運命をのろい続けている、という感じなのだ。
なんて悲しい、なんて不幸なラストのヴァリエーションなんだろう。背負う枷に押しつぶされながらも、最後まで人間として激しく苦悩する一人の男。ニコラは、あまりにつらい現実を逃避し、理性を捨ててしまった一匹の野生動物だったね。
どちらがいい、とは言えない。表現の好みの問題もあるだろうし、ダンサーの好みの問題もあるだろう。個人的な感をいえば、3月の「ユールヴァン」に続き、ジェレミーへの感動の方が大きかったかな。「ユールヴァン」では、明らかにニコよりジェレミーの方が素晴らしかった。ニコ、力抜いてたし。ただ、昨夜のニコは、「クラヴィゴ」で見せてくれた無垢感と同じものをを見せてくれたにとどまり、その感動はすでに体験済みだったけれど、ジェレミーのあの演技は、「ユールヴァン」のヒースクリフともまた違う、未体験の感動を味あわせてくれる。
怪我明け、「ラック〜」のスケジュールも調整して満を持して臨んだ「アルレジエンヌ」で、ジェレミー・ベランガールは、彼の本質をまざまざと見せつけてくれる。ブラッヴォ、ジェレミー!
sam.28, dim.30 sep. 2002(02年9月)