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「白鳥の湖のパスポート」
エルヴェとイザベルを教えるプラテル先生の授業は見所満載。その夜の公演は…

さて、一週間ぶりのバレエです。

見にいけなかった8日に、ジョゼは舞台で軽い怪我をした。いよいよ怪我ラッシュの始まりだ。さてさて、土曜日の配役に変更はないかな、とチェックを入れた前日。なんと恐ろしいことに、パ・ドゥ・ドゥからアレッシオの名前が外れている。うっそぉ?なにこれ?どうしたの、アレッシオ?怪我、まさか?他の日への振り替えはなし。これは怪我の可能性が高い、、、。これじゃあ、なんのためにこの日の公演を見に行くのか、分からない。ジャン−ギヨームとデルフィヌなんてまったく見たくもないカップルの日のチケットをわざわざ買ったのは、アレッシオがパ・ドゥ・トロワを踊るからだった。見る気力をほとんど失いながらも、カデールとコールの子達を楽しみに、とりあえずはバスティーユに向かいましょう。

platellこの日の午後は、「ラック・デ・シニュ」のパスポート。作品への理解を深めるためのお勉強会というかレッスンデモ。引退したエトワール、プラテル先生の教えを請う生徒は、エルヴェ・モローとイザベル・シアラヴォラ。ほんとはオーロール・コーデリエのはずが、彼女も怪我で戦線離脱。残念だね、彼女の4羽のおっきな白鳥、よかったのに。入れない人が続出の大人気パスポート。アンフィテアトル・バスティーユはたーくさんの人で大賑わい。あ、セブとオドリックが来てる。ククー(ヤホー)!

7日に開催された、AROP賞の授賞式。受賞は前評判どおりにエルヴェとエミリー・コゼットに落ち着いた。アレッシオとドロテに投票した私にとっては残念だけれど、いたって妥当な結果でしょう。ま、彼らには来年以降があるさ!

platellニコラにジョゼ、アニエス、マリ−アニエスにヤンヤンやヤン・ブリダール、果てはマチューまでそろった去年に比べると、圧倒的に来ているダンサーの数が少なくてちょっぴり残念だったけど、それでもチャーミングこの上ないドロテや、この春から気に入っていたセバスチャンとのめちゃめちゃ楽しい時間をたっぷり満喫。あまりにサンパなセバスチャンに感動するとともに、自分の彼といないときにはいつもセブと一緒に姿を見せるオドリックの、控えめながらにひたすら笑えるキャラクターにノックアウトされてしまう。なあに、この子のこの面白さは??笑えるにもほどがある。舞台上のヤンヤンに負けるとも劣らない、とってもチャーミングなオドリックの魅力にまいっちゃう。目的はセバスチャンだったはずが、気づくとオドリックの笑える存在感のとりこになってしまっていた(笑)。なにはともあれ、セブと知り合いになれてララランラン。

とまあ、そんな月曜日を過ごした後の土曜日の再会。セブはちゃんと私たちの顔を覚えていてくれてすぐに笑顔を返してくれるけど、オドリックは「だれー?ボク、しらなーい?ボクに手を振ってるのー?」みたいなとぼけた表情を返してくる。最高、オドリック。

さて、パスポートに話を戻そう。とてもとても充実内容の1時間。前にも思ったけど、プラテルの教え方、とても好き。こうやって、ルドゥルフ・ヌレエフの意思が次の世代に着実とつながっていくんだなあ、と見ていてしみじみ。どうかどうか、若いダンサーたちがヌレエフのエスプリを継いでいってくれますように、、、。

目の前でどんどんうまくなっていくイザベルに感動すら覚える。先生って大切だ。エルヴェのほうは、もうさすがの貫禄。なんてったって本公演ですでにジークフリートをデビュー済みなのだ。珍しい機会だよね、すでに踊った役をパスポートで生徒としてレッスンを受けるのって。すごく楽しくて興味深い1時間はあっという間に終わってしまうのでした。

さてさて、そして夜の公演。午後のパスポートが天国ならば、夜の公演は地獄に近かった。地獄、というのはさすがに言いすぎかな。天国とこの世、くらいの差かしら。

だいたいもう、アレッシオが出ない、というだけでウンザリしているところに、クザルダスの彼の代役がサラミットだというところですでにさじを投げてしまう。なんで!?他にもいっぱいいるでしょう、ダンサー。セブだって、この役の代役じゃん!彼にやらせなよ、彼に!なーんでよりによってサラミットなの!?配役表を見ている段階で、かなり気分が盛り下がる。ああ、カデール、あなただけが救いだわ。あとは、今日からパ・ドゥ・カトルがおっきい子組になって、ヤンヤンがようやく踊り始めるのがせめてもの救いかな。

platellそんなこんなで、かなり投げやりな状態で始まった公演。カデールはいい。もちろん、いつもどおりに。本当に今夜の救いだ。妖艶で雰囲気たっぷりのウォルフガングとロットバルト。ジョゼがロットバルトを降りたので、トータル10回も踊ることになリ、私としては嬉しい限りだが、お年の彼の体力が不安。間違っても怪我なんてしないでね。年末の「シルヴィア」を心から楽しみにしているのだから。マントがうまく捌けず、まるでヤンヤン状態だけれど、どこまでも優雅ないとしのダンサーなのである。

そのヤンヤンは、期待通りのかわいらしさ。男の子たちの踊りの前に、「僕たちこれからよかったら王子のために踊りを披露しますよ」と告げる部分の演技がかーわいいったらありゃしない。エルヴェ、クリストフ、ジュリアンにヤンヤンが今夜のパ・ドゥ・カトルのメンバーだったけど、この役は絶対にヤンヤンがやるよなあ、と思っていた通り。しっかり演技力を楽しませてくれて、数少ない今夜の救いの一つだ。

アレッシオの代わりにパ・ドゥ・トロワを踊ったエマニュエルは、前半数回同様にさすがのテクニック。本当に彼の跳躍は見事だ。でも今夜は、どうしてもアレッシオの影がちらついてしまうよ、、、、。サラミットのクザルダスについては、語りたくもない。マロリーのダンス・ナポリテーヌも、思ったよりも普通。やっぱりこの役は、かわいいかわいいエマニュエルじゃないとね。

カールとクリストフ、ナタリー・オーバンとカリン・アヴェルティーのダンス・エスパニョールは、こんなもんか。やっぱりカールは、このレヴェルがちょうどいい。ソリストが限度。主役クラスは無理だよ。一度だけ踊るロットバルト/ウォルフガングは、それでも見てみようね。なんてたって、バンジャマンがジークフリートを踊るんだし。運がよければ、今度こそエトワールだ!

美人のナタリー・リケが出なくて残念。あの美しいダンサーを、彼女が数年ぶりに舞台に復帰した「キショット」のときから私は大いに気に入っている。昔のヴィデオに出てくる彼女は、テクニックも雰囲気も素晴らしく、怪我さえなければ、エトワールになれたかもしれないのにね。もっともこれは、昨ジーズンでついに名前が消えてしまったジスレーヌ・ファルーにも通じることだけど。学校時代の彼女の踊りを見ると、もう圧倒的に他を寄せつけないうまさだった。怪我って怖い、本当に。コールの子達は、にぎやかにかわいらしく。今夜は舞台がすべるらしく、主役からコールまでみなさん、滑って転んでもう大変。お疲れさまー。

さて、じゃあ主役のお二人?あんまり話したくないけど、、、。見終わったあとの感想は、「ジョゼ、アニエス、あなたたちを酷評してゴメンナサイ。許して、お願い。今夜に比べれば、あなたたちはまるで天国でした、、、、」

まず、ジャン−ギヨーム・バールから。ダンサーとして、私は彼をどうしても好きになれない。昨夏の「真夏の夜の夢」のオベロン、今春の「キショット」のエスパーダは珍しくも例外的に、イヤでなかったけれど、けっして好きだったわけでもない。そのほかにいたっては、はっきりとイヤ、と断言できるくらい、私は彼の魅力が分からない。困ったことに、パリにはジャン・ギーを評価する人が多い。エレガント、高い技術、美しい、と3拍子そろってるんだそうだ、あのダンサー。確かに技術はね。でもそれだって、ニコやジョゼ、マニュに比べてものすごいといえない。エレガント?うそぉ?だったらロランとカデールのあの雰囲気はなにさ?美しい?冗談、笑っちゃう、、、。

初めてこのダンサーの存在を知ったのは、3年前のこの公演。最悪のジークフリートを目にして、私は思わず名前を確認してしまった。あれから3年。覚悟して臨んだ彼のジークフリートは、思ったとおり大したものじゃないけれど、唯一意外だったのは、その演技で私を笑わせてくれたこと。3幕、オディールに愛を誓った直後、彼女がオデットじゃないと気づいたときの驚愕の表情に、思わず爆笑。ムンクの「叫び」をユーモラスにしちゃったような、それは面白い表情に、同じくジャン−ギー嫌いの友達と二人、忍び出る笑いを抑えるのに必死。そっかーそっかー、ジャン−ギー、いつも冷静沈着な姿しか見せてくれなかったけど、やればこんな面白いこともできるんじゃん。感情、というものと全く無縁だったダンサー。笑わせてくれただけでも、十分に感謝しなくちゃね。

ヴァリアシオンはさすがにお上手。役柄的にも、あの情けなさとつまらなさは、決してジャン−ギーに合わないわけではないので、こんなものでしょう。もちろん、エルヴェとジョゼに比べるとどうもこうもだけれど、少なくとも、先週「アザー・ダンシーズ」で得たような嫌悪感は持たなかった。

オデット/オディールを踊ったデルフィヌについては、ほんとに語りたくない。ひどいにもほどがある、、、。午後、プラテル先生の授業を見たあとだけに、彼女の演技のいかにヌレエフから離れてしまっているかがあまりに目についてしまい、げんなりしてしまう。テクニックにいたっては、ため息あるのみ。テクニックが全てとはもちろん言わないけれど、あまりにないのは論外だ。そのテクニック以外の演技の部分については、もっとひどいし。3年前の「ラック〜」では、エトワール候補だった彼女。アヴェルティー同様、すでにもう、盛りを過ぎてしまったダンサーたちを見るのはつらい。ああ、本当ならレティティアの見事なテクニックが見られるはずだったのに、、、と思うと、さらにさらにつらいのである。ジョゼ、アニエス、本当にゴメンナサイ。もう、文句言いません。

platellげんなりしながら外に出ると、嬉しい慰めが待っている。
「サリュー、マチュー!」
「あー、ボンソワー」毎晩のように、アーティスト出入り口の辺りで彼女の出待ちをしててるマチュー。彼女が出てくるまでは、私たちに付き合っておしゃべりしてくれる。相変わらず天使顔負けのかわいいマチューと公演の反省会。
「もう、ひどかったんだよ、僕、今夜。見た?僕のベティーズ(ヘマ)」
「なんかやった?1幕?3幕?」
「3幕!もうぜーんぶ、最初から最後までベティーズしかしなかったよ、、、」
「そお?気づかなかったわ」
「ほんとー?それはなにより」ううん、嘘(笑)。っていうか、白状すると、今夜は、マチューを知ってから初めて、マチューをしっかり見なかった夜。今夜はオドリックを見るのに忙しかったんだよね。月曜日以来、オドリックのちょっと現実離れした面白さにすっかりまいってしまい、今夜は初めてのオドリック鑑賞。3幕は特に、オドリックとセブが並んで踊っていたので、マチューを観察する余裕が全然なかった。

前回は鼻すすっていたマチュー、今夜は涙目。美しい目が潤んでいるところもまた、一幅の絵のように美しい。ほんっとに、なんてまあきれいな子なんでしょう。一度、ママンに会ってお礼を言いたい。こんなに美しいダンサーをこの世に送り出してくれてありがとう、と。3年ほど前から、パリに戻ってきているらしいママン・マチュー。いつか会える日があるといいな。

マチューによるとアレッシオの怪我はかなり深刻な可能性もあるらしい。とりあえず、レントゲン結果待ちだと。
「一番怪我したくないときに限って、怪我ってしちゃうんだよね」とマチュー。全くその通り。珍しくもいい役をもらったアレッシオ。彼の晴れ舞台が一度しか見られずに本当に悲しい。マチューが彼女と連れ立って帰っていくのを見送り、さて、今夜は生まれて初めてカデールが出てくるのを待ってみよう。

なかなか姿を見せないカデール。デルフィヌとジャン−ギーはさっきからその辺をうろうろしてるのに、まさか、カデール、知らない間に帰ってしまっている?やっぱりこうやって、私はカデールを逃してばかりいる運命なのかしら?と、ほとんどあきらめて帰ろうかとした矢先に、うわぁぁぁぁぁ、、、、。カ、カ、カ、カ、、、、。ほとんど幻に過ぎないかと思いかけていたいとしいダンサーの姿を目にして、体が固まっちゃう。
「ボ、ボ、ボ、ボンソワ、カデール。あのあの、サインをいただけますか?」にっこり笑ってサインをくれるカデールを、息を呑んで見つめてしまう。うわあ、本当に生きてるんだ、このダンサー。本当に存在してるんだぁ、、、。馬鹿みたいに呆けて、ろくな会話もできない私。ああ、なんて間抜けなんでしょう。話したいことは山ほどあるはずなのに、、、。ぼんやりカデールを眺めているうちに、「エクスキュゼ・モワ」と声が聞こえる。ん?と振り向くと、ジャン−・ギーの姿。どうやら私、カデールに見とれながら、ジャン−ギーが外に出る通路をブロックしていたらしい。全然気づかなかったよ。ゴメンネ、ジャン−ギー。ちなみに彼は自転車通勤者だった。

カデールによると、どうやらニコラも怪我したらしい。ニコラの出演予定日は、おそらくすべてジョゼに変更。で、ジョゼがやるはずだったロットバルトは連日カデールが踊るらしい。バカニコラ、また怪我しちゃって、、、。一番楽しみにしていたジークフリートだったのにね。ジョゼのロットバルトも、かなり興味深かったのになあ。そんな、どーでもいいダンサーの話なんてしているうちに、カデールは左手の薬指に金の指輪を光らせながらバイクに乗って行ってしまうのでした。

いまだにあれは現実だったのかどうかはっきりしないカデールとのハジメマシテ。どんなかっこうしてたのか、どんな風にサインしてくれたのか、全然覚えてないんだ。配役表にもらったサインはいたって読みづらく、「果たしてこれはほんとにカデールのサインなのだろうか?私、あまりに夢うつつで、ジャン−ギーに間違ってサインもらっちゃったんじゃないでしょうね?」と自分自身を疑ってしまう今日この頃なのである。

sam.12 oct. 2002(02年10月)
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