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「ラック・デ・シニュ(白鳥の湖)」もいよいよラスト。
カデールの怪我に泣き、ザハロヴァに魅了されるピュス。

19日(土)

Cygneデルフィヌとジャン−ギーを2度も見るのは気が引けるが、ヤンヤンのパ・ドゥ・トロワを目的に、オペラ・バスティーユ。水曜日に見逃した晴れ姿、今宵一夜限りの10分間、気合を入れてヤンヤンを見つめる。ヤンヤン、うまくなったよなあ、この数ヶ月で。もともとソロはそれなりにうまかったダンサーだけど、なんだかきっちりエレガントにお上手に踊ってる。こんな彼は見たくない。ヤンヤンはやっぱりミスしてなんぼ、笑わせてくれてなんぼのものなのに。ただ単にうまいだけなんてヤダ。この調子だと、プルミエになってはしまわないかと、ドキドキしちゃうよ。ヤンヤンはいつまでもコールの一員であってほしいねえ。カデールはますます美しく、ジャン−ギーとデルフィヌはますますひどく、アレッシオを欠いたコールの子達は変わらず元気よく。ま、ひとえにヤンヤンを見に来た(カデールはもちろん)夜でした。

20日(日)

地獄を見た、、、。

出だしはよかったんだよね。早々と当日券の列に並ぼうと出向くバスティーユ。メトロを降りたところで“おや、いい男がいるわ”、と目を凝らすとセバチャン♪これから本番前のレッスンだと。わずかな時間だけれどお気に入りダンサーとの充実したおしゃべり。うん、さいさきはよかったんだ。

Cygne地獄は、幕の開く直前に始まった。「フラッシュつきの撮影は禁止、電話も切ってください」といつもの前口上が述べられると同時に、のろわれた言葉が係員から吐かれた。
「本日のロットバルトは、カデール・ベラルビに代わりましてウィルフレッド・ロモリが演じます」ピュッタン、メルド!!つい罵声が口から漏れてしまうと同時に、なんだかすっかりやる気がなくなってしまった。もう、どうでもいい。カデールが出ないなら、見たって見なくたって同じだ。脱力、、、。

例のニコラの怪我により、ジョゼがロットバルトを降りてしまったため、その代役で予定外のロットバルトを踊る羽目になったカデール。やっぱり老体に急なスケジューリングは無理があったのかしら、あえなく怪我してしまったらしい。それもこれも、元はと言えばニコラが一度も踊らずして戦線離脱してしまったからに他ならない。バカニコラ、、、。あなたのせいでカデールまで怪我してしまったよ。どうするの、もしこのまま怪我が長引いて、ザハロヴァの時に踊れなかったら?ジェレミーがパ・ドゥ・トロワの中で見せてくれた息を呑むようなソロも、ヤンヤンが張り切って踊るチャーミングなダンス・エスパニョールも、なんの慰めにもならない。ジョゼとアニエス?ほんと、これこそどうでもいい、、、。

Cygneすっかりアンニュイな気分で3時間を過ごし、トボトボとメトロに乗り込む。と、おお、セッバスチャ〜ン!?踊り疲れてぐったりと、そんな姿もまた妙に美しいセバスチャンとまたまた遭遇。本日2回目のビズーを嬉々としてせがんでから、バレエ話に盛り上がる。ああ、慰められるなあ。カデールの怪我、深刻らしい。おそらくラストまでもう無理だって。
「じゃあ誰が踊るの?ロモリィ?カァ〜ル?どっちにしても、いやだ〜」
「まだわかんないけど、ヤン・サイズがもう一度踊るかも知れないよ」
「それは不幸中の幸いだわ」洗いっぱなしの髪が額にボサボサにかかって、妙に色っぽいセバスチャン。いつも、かっちり髪を整えているけど、私はこういうボサボサ髪の方が好きだな〜。楽しい時間はあっという間に過ぎてしまい本日二度目のセバスチャンとのお別れ。またね、元気で。次に会える日を楽しみにしてるよ。

24日(木)

セバスチャンによると、「22日は、今までで一番いい出来のラックだった。ジョゼ/アニエスともに最高だったし、ヤンのロットバルトも抜群。舞台の雰囲気が最高に盛り上がったよ。ああいう舞台って、踊っててすっげー楽しい!」とのこと。なのに、その日を見にいけなかった私ってなんだかお間抜けだ。気を取り直して、スヴェトラーナ・ザハロヴァを鑑賞しに行こう。昨年末の「ラ・バヤデール」で初めて体験したザハロヴァはものすごかった。パリの子達とは比べ物にならないテクニックの高さに驚いてしまったっけ。私にロシアバレエを初めて見せてくれた舞姫の、今夜は白鳥を楽しみにバスティーユに出向く。

結果から言えば、やっぱりザハロヴァは凄い。ニキアの時ほどの感動はないにしても、そのテクニックはなんと言っても圧巻だ。ただ、オデット/オディールの役作りというかニュアンスの出し方に、マリインツキー独自のやり方があるらしく、どうもパリオペラ座にはしっくりとなじまない。テクニックを見る部分は最高に感動するけれど、全体の流れとしてはどうしても浮いてしまう。ニキアの時にはそんなに感じなかったのは、なぜだろう?

Cygneお相手のジャン−ギーは、いつもの通り。怪我してる?3幕のヴァリアシオンに切れがない。彼から技術を除いてしまったら、ほんとに見るべき部分がなくなる。せめて技術だけはしっかりやってよ、ジャン−ギー。でも、そんなジャン−ギーすら許せてしまったのは、怪我から立ち直れなかったカデールの代わりにロットバルトデビューを果たしたカールのひどすぎる演技に絶望したから。分かってはいたよ、所詮カールの実力はこんなものだって。でもさあ、夏の「コンクール」の出来がそれなりによかったのもあって、ちょっとは期待したんだよね。3幕のヴァリアシオンの出来こそさすがとしても、1幕のウォルフガングなんて涙が出そうだった。カデールのあまりに美しく神秘的な役作りを思い出し、目の前で(最前列に座ったので、ほんとに目の前で)繰り広げられる、情緒欠落の無骨なウォルフガングを眺めて。あああああああ、これがカデールだったら、、、、。ニコラのバカ、、、、。しかも22日はヤンヤンが代役だったのに、どうしてよりによって今日はカールなのぉ?

ため息つきながら、その他の子達に慰めを求める。ジェレミーのパ・ドゥ・トロワはいよいよ輝きを増し、眼前で炸裂するパワーに心が踊る。ヤンヤンのなんちゃってでかわいいダンス・エスパニョールも美人のナタリーを控えてそれはそれは美しいカップリング。アレッシオ抜きなのが痛いが、マチューやセバスチャンらコールの子達の相変わらずの華やかさは、カデールへの想いとカールへの絶望を忘れさせてくれる。そしてなによりザハロヴァの完璧なテクニック。いいんだいいんだ、今日は、彼女を見るために来たんだもの。それ以上の期待はしないんだ、、、。手のひらにのの字書きながらウジウジしつつも、それなりに感動的な夜を堪能。美輪おばちゃんのところに行ってザハロヴァの素晴らしさを振り返りながらエスパーニャな夜を過ごすのでした。

あさってもう一度このキャスティングを見て、私のラックはそれでおしまい。バンジャマンのジークフリートにはかなり心揺れるけれどお相手がモランとロモリだし、どうせチケットももう取れないだろうしね。最後はやっぱりザハロヴァの素晴らしさを残像に、「ラック・デ・シニュ」のフィナーレを飾ろう。トータル10回。まだまだ足りないとは言え、まあよく見たよね。チャイコフスキーもヌレエフも大好きだ!

sam.19, dim.20, jeu24, sam26 oct.2002(02年10月)
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