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「アニエス・ルテスチュとエマニュエル・チボーに、ピュス絶賛!」
ぎょ、ぎょぎょぎょ!?クレルマリがエトワールに!?

恐ろしく忙しい日々の中、アップアップしながらシャトレへ駆け込み、マリインツキーの「ラ・バヤデール」鑑賞。地味な舞台でのザハロヴァの魅力は、昨冬のオペラ・バスティーユで見せてくれたほどではなかったけれど、ま、こんなもんでしょう。

マリインツキー公演の余韻を楽しむまもなく(ルジマトフについての情報をくださった皆様、どうもありがとうございます。)、日本行き。バレエのことなど全く考える暇もないほどの忙しい滞在を終え、ふらふらになって戻ってきたパリ。翌日は、気が遠くなるほど美しいカデールの「ベラ・フィギュラ」に身も心も完全に魅了される。キリアンの作品って、3〜4つしか見たことがないけれど、「ベラ・フュギュラ」は群を抜いて素晴らしい。神々しく秘めやかで敬虔な美の世界に、カデールの神秘的な美しさが、なんとまあ見事に溶け合ってるんだろう。カデールの日を一日しか見られずにほんっとに残念だった。バンジャマンもアレクシスも、この役において、カデールの足元にも及ばない。あああああ、もう少し早く日本から帰ってきたかった〜。と、「ベラ・フィギュラ」でのカデールの神々しさの余韻にじんわりと浸ったままひと月を過ごす。気がつくと、もう季節はノエル間近。オペラ座では、ノエルのヴァカンスへ向けての2作品の上演が始まる。

タイトル・ロールの女性の名前を冠した2作品、まずはパレ・ガルニエで「パキータ」が幕を開ける。

一度も見たことのないバレエだけど、ストーリーを聞き、ラコットの振り付け、というだけで、なんとなくイメージがつかめる。ペッタペタのグラン・クラシック・バレエなのだろう。キリアンの静謐で非現実的な世界の余韻にいまだ浸っている私には、新鮮かも。

paquitaとまあ、それなりにワクワクしながら初日の舞台を見に、ガルニエの階段を上る18日。今夜は、AROP主催のガラ。子供たちのための公演、とあって、ガルニエは、赤と金の風船で華やかに飾りたてられている。着飾った子供たちが両親に手を引かれ、風船をもてあそんだりしていてなんともにぎやか。いいなあ、私もチビの頃から、こんな風にオペラ座のバレエを見たかったな。可愛らしい子供たちの歓声が流れる中、幕が上がる。

アニエス・ルテスチュにブ〜ラヴァ!!!!!さいっこうだ、アニエス!なんて、なんて、なんてチャーミングなの!?デビューからラストまで、アニエスの魅力にはまりきってしまう。「ラック・デ・シニュ」の、いたって普通のアニエスを見ていたあとだけに、今夜のアニエスの素晴らしさが、より一層強烈に響いてくる。

paquitaチャーミング、かわいい、コケティッシュ、上品、エレガント、奥ゆかしい、キュート、、、、。この辺の形容詞を全て濫用しても、アニエスの魅力を語りきれない。まさに最高のパキータを演じてくれる。テクニックも、優等生のアニエスならではの、きっちりお上手な、見ていて惚れ惚れするものばかり。ほとんど踊りっぱなしのこの役、ある意味体力勝負のところもあるだろう。エレオノーラには無理だろうねえ、せいぜい1幕で力尽きちゃいそうだわ(笑)。強いて言えば、グランド・ジュテの部分が、今ひとつ迫力に欠ける気がするけど、それは頭の中にマリ−アニエスの残像が残っているから。彼女のグランド・ジュテと比べるのは公平じゃないよね。あれはもう、異常だもん。あー、マリ−・アニエスの日が楽しみだな。

旦那の方も、ソツなく素敵なできばえ。エレガントに、お上手に、チャーミングに。いいんじゃない。こちらも、どーしようもないジークフリートを見たあとなので、それに比べれば、全くもって上出来上出来。全く文句はありません。

paquitaカールのイニゴも想像通り。ま、こんなもんだ、カールの精一杯は。テクニックはさすがだけどね。

「ラック〜」の怪我以来、久しぶりに舞台に立ったアレッシオの姿が嬉しい。調子は万全じゃないんだろうなあ、、、と思わせる踊りだけれど、愛くるしい笑顔を見られただけで満足満足。早く完全復帰してちょうだいね。

そして今夜を最高に盛り上げてくれたのは、エマニュエル・チボー。もう何年も前、オペラ座のバレエを2〜3回しかまだ見ていなかった頃、ヤンヤンの次に名前を覚えたダンサーがエマニュエルだった。その天使のように軽やかであきれるほどに高いジャンプに、私はすっかり魅了された。2年前のコンクールでは、カールが2位通過でプルミエに昇格し、エマニュエルは3位にとどまり、一大スキャンダルを呼んだ、とびっきりのスジェ。背の低さやコンテンポラリー作品があまり踊れない事実を考えると、果たしてプルミエにふさわしいかどうかは分からないけれど、いずれにしても素晴らしい資質を持つダンサーだ。

最近は、若い子達に夢中でエマニュエルをきちんと見ていなかったけれど、「ラック〜」のパ・ドゥ・トロワでは、抜群の出来を見せてくれていただけに、今夜のパ・ドゥ・トロワもかなーり楽しみにしていた。そんな高い期待を、全く裏切らず、それどころか、心がひっくり返りそうなくらいに素晴らしい踊りを、今夜のエマニュエルは見せてくれる。息をするのを忘れてしまいそうな、強烈なインパクト。なんて、なんて、なんて、なんて高い跳躍!高いだけじゃない。重力が全くなくなってしまったような、ふんわりと軽く、そして柔らかなジャンプ。目を見張る、っていうのは、こういうときに起こるんだなあ。ほんと、まばたきなんてしてる場合じゃない。

paquita会場中が息を呑んでいるのがひしひしと伝わってくる。パ・ドゥ・トロワが終わったと同時に炸裂する大拍手とブラヴォーの歓声は、ノルウェンとクレルマリ、二人のプルミエールに与えられたものじゃない。完全に、エマニュエル1人に与えられたものだ。初日を待たずして怪我をしてしまったジェレミーの代役で踊ったエマニュエル。彼の実力に改めて、感動しまくってしまう夜なのでした。

21日(土)

ジェレミー、バンジャマンに続き、マリ−アニエスまで、一度も舞台に立つまもなく、戦線離脱してしまった「パキータ」。ああぁ〜、マリ−アニエス、、、、。今回の配役の中で、一番楽しみにしていたパキータだったのにぃ。どーして?どーして怪我をするのが、バンバンやジェレ、マリ−アニエスであって、ジャンギーやカール、クレルマリやモランじゃないの???よりによって、見たかった人ばかりが怪我してしまい、なんだかもう、どーでもよくなってきた、、、、。

本来なら、マリ−アニエスが踊る日なのに、おかげでクレルマリを見る羽目になる土曜日。仕方ない、ヤンヤンがイニゴを踊る以上、見ない訳にはいかない。ため息つきながら見に行った舞台は、予想以上のひどい出来。なんだかもう、やってられない、、、。

ヤンヤンはいいよ。なにをどうしたって、ヤンヤンであるだけで十分満足。期待通りにベティーズ(へま)をしてくれ、期待通りにおちゃめな演技。ほんっとにチャーミングよね、ヤンヤン。また一段と技術が上手になっているのが、一生スジェでいて欲しいと願っている私にとっては脅威だけど、いやあ、いつみてもヤンヤンはいい男だねっ!

ジャンギー演じるルシアンは、可もなく不可もなく。つまらないといえば、あまりにもつまらない、いかにもジャンギー的な踊り。それでも2幕はなかなか見ごたえがある。ひたすらにテクニックを披露するこういう場面では、ジャンギーの高いテクニックは、目にしてイヤではないよね。ま、決して何度も見たいとは思わないけどさ。

で、二度と見たくないと思ってしまったのが、クレルマリ。どうして、こんなにもアニエスと違うんだろう?全くもって、別人の役だよ。ずるがしこくて、下品で、俗っぽい。アニエスが、生まれは高貴ながらも山賊の娘でいるのに対し、クレルマリはどこからどう見たって、もともと生まれも山賊の娘。手管を駆使して無垢な王子様を誘惑した、としか思えない。最悪、、、、。

体力だけはあるから、一応最後まで踊りきるものの、フエッテはドゥーブルも加えず、ごく普通に。もうちょっとテクニックくらいは見せてくれると思ってたのに、これじゃあ本当に見るところがない。ああ、本来ならマリ−アニエスの日だったのに、、、と思うと、しみじみ悲しくなってくる。クレルマリに比べれば、ジャンギーですらまともに見えてしまう情けなさ。どうしてこうなっちゃうんだろうなあ。「クラヴォゴ」のマリー役とかやらせれば最高なのに。もともと嫌いなダンサーだったのが、より一層イヤになってしまう。

マロリーのパ・ドゥ・トロワはエマニュエルに敵うはずもなく、ごくごく普通の出来。ノルウェンと一緒に踊るミテキちゃんが、かわいいね。もうすぐコンクール。二人も枠があるプルミエールに、私としてはミテキちゃんにぜひぜひなって欲しいけど、やっぱり無理かなあ、、、。二人も枠があっても、該当する子、いないよね。今夜も素晴らしい体の美しさを見せてくれるイザベルもいいけど、テクニックがやっぱり弱い。

ファニーはクラシックしか踊れない。みんな一長一短。今ひとつ、ぴたっとくる該当者がいない。間違って、エミリーとかメラニーが上がらないよう、祈るばかり。該当なし、でいいじゃないねえ。

初日の感動とは打って変わった、なんだかストレスがたまる夜。ヤンヤンの晴れ姿とアレッシオを見られたのが唯一の心の支えとなるのでした。

22日(日)

そんな、消化不良の夜があけた翌日の午後。一転して天国を味わう。もう、ね、ひたすらにアニエスです、この舞台。どうしてこんなに素敵に踊れるんだろう?感動する。アニエス命のスピちゃんがここにいなくてほんっとに残念。今まで見たアニエスの舞台の中でも、トップ3に入る、見事な演技と踊りを目前で披露してくれる。初日にさらに輪をかけてよくなっているアニエスの魅力にどっぷり頭まで漬かっちゃう。エマニュエル、ジョゼの出来も相変わらず見事で、なんだか「パキータ」という作品が少しずつ好きになってくる。バスティーユで上演している「シルヴィア」とは、しょせん比べ物にならないけれど、これはこれでいいんじゃないかな。ただ、配役さえきっちりよければ。

paquitaアニエスとジョゼは、とりあえず、今日がラスト。あとは1月になってから。12月はもう、ジャンギーとクレルマリ、もしくはカールとモラン、という、世にも絶望的な配役ばかり。チケットも取りづらいこの季節、何もあえて見る必要はもうない。12月は、この素晴らしいアニエスをもっておしまいにしよう。1月になれば、再びアニエス、それにレテティアやザハロヴァも予定されているしね。

アニエスのあまりの素晴らしさにすっかり魅惑され、一目彼女の姿を見よう、と、裏に回ってみると、嬉しいことにアレッシオに遭遇。
「ボンジュー、アレッシオ!」
「あー、ボンジュー。久しぶりだねー」イタリア訛りのアレッシオの声が耳に心地いい。「ラック〜」の怪我以来だもんね。久しぶりにアレッシオとおしゃべりをして、ラララララン。「もう体調万全!」なんて言ってたけど、そんなはずないよね。アレッシオの本来の魅力を、まだ「パキータ」で見てないよ。本当だったら、きっとパ・ドゥ・トロワだって踊ったはずなのに、、、。早く完全復活してね。2月の「アパルトマン」を今から思いっきり楽しみにしてるよ。これからラジオの収録、というアニエスも、ファンのためにちょっとだけ姿を見せてくれ、にぎやかに楽しい楽屋口時間を過ごすのでした。

追記:29日(日)

と、この日記を書き終えた数時間後、いとしいカデールを見ようとうっとりしながらバスティーユに行くと、知り合いが一言。「聞いた?クレルマリ、エトワールだよ」

な、なんで!!!!????恐ろしいことに、クレルマリがエトワールになってしまった。今日のマチネで。もちろん見てない、私は。見たくもない。どーして?なんで?あれがどーやったらエトワールなの????女性エトワール不足とはいえ、なんともスキャンダラスなエトワール任命。マリ−アニエスの立場がない、と今夜のバステイーユでは、オペラ座常連者たちの間で、ひとしきりブーイング。

好き嫌いを別にしても、彼女は決してエトワールの器ではない。政治力って怖い怖い、、、、。

mer.18. sam.21 et dim.22 dec. 2002(02年12月)
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