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シルヴィア・ノイマイヤーの世界に完全におぼれるピュス

年末年始をはさんで、「シルヴィア」にどっぷりと漬かる。

ノイマイヤーという振付家を、私は、「真夏の夜の夢」でしか知らない。2年前のシーズンの中で、私を一番夢中にさせたバレエを手がけた振付家の作品というだけで、いやがおうにも期待は高まる。

12月20日、23日、24日

そもそも、この季節にグレーヴ(ストライキ)がない訳がない。お国芸とも言えるグレーヴの犠牲になった「シルヴィア」は、初日を、ミニマムのデコとライトなしという状況で迎えることになった。はじめて見る作品なので、オリジナルデコを知らない私。殺風景と言えばあまりに殺風景だけれど、別にだからってごてごてのクラシックバレエのように、デコがないと話にならない、というものではないのだろう。衣装はきちんとしているし、音楽は心をとろけさすし、これはこれで十分楽しめる。

Sylvia配役が最高。タイトル・ロールを踊るエレオノーラは、シルヴィアを踊るために生まれてきた、と思わせるような、完璧な役作り。リリックでクールで奥深くて情緒的。あー、これだからエレのファンはやめられない。そりゃまあ確かにね、クラシックで見るエレは、いまいちパッとしないというかたいした感動をくれないことが多いけれど、モダンやコンテンポランを躍らせればピッカピカ。11月にたった一度だけ見た「ベラ・フィギュラ」に通じる、琴線をふるわせるなにかが、彼女の中にはある。大好きだよー、エレ!

意外な喜びをくれたのはアミンタを踊るマニュエル。いわゆる“笑わないシリアスで悲劇的な役”におけるマニュエルを、私はほとんど信用していない。こんな感情的で心が震えるような悲しみを表現する役を、このエトワールで見るのはイヤだ〜、と思っていた私の、目を見張らせるマニュ。すごい!すごい!!すごい!!!これは、昨シーズンの「ノートルダム〜」で演じたフロロ以来の感動だ。なに?この、心が震えるマニュエルは?「コンクール」や「アルレジエンヌ」で私をウンザリさせた、あの、自分が大好き!といった臭さが漂うダンサーはどこにもいない。自分の名前を捨てて、完全にアミンタになりきっている。驚愕、に近いくらいの感動をもって、彼の演技に心奪われる。

いとしいダンサーを差し置いて、初日のアムール/オリオン/ティルシス役を踊るのは、ニコラ。これがまた、いいんだよね〜。いまだ見ていないカデールがどんなに素敵に踊るのかは想像つかないけれど、ニコはニコで、十分にお茶目で雰囲気があって可愛らしくてセクシーだ。このダンサーには、踊れない役があるのだろうか?本人が力を抜いているときの感動のなさは別として、きっちり踊るときのニコラで、これはイマイチ、、、と思ったこと、多分ないよね、私。カデールでなくても文句言えないよなあ、と思わせる、説得力のある踊りを堪能。

Sylviaディアナ役のデルフィヌがまた、飛び切り。嬉しいな、こんなにデルフィヌに感動するのって、何年ぶりだろう?この1〜2年は、体力も落ちて輝きも薄くなり、どの役でも私にため息をつかせてくれたけれど、ディアナは合ってるね。演技への細かいこだわり方、ニュアンスの出し方が、痒いところに手が届く感じ。これが役作り、ってもんだよねえ。会場に姿を見せていた夫と息子も嬉しいだろう、こんなに素敵なデルフィヌを目にして。

アンディミオンは、どーでもいい。他を見ていないのでなんともいえないが、他の4人に対して、圧倒的に力が劣るロモリである。あー、早くかわいいヤンヤンが見たいなっ。

さらに、コールの子達も見ごたえ抜群。この季節、かわいい子達の多くは「シルヴィア」に集結し、かわいそうな「パキータ」は、結構グロテスクな状況になってる。仕方ないよ、このバレエ、美しい人たちが踊らないと話にならないもん。透明感と幻想的な世界に舞う森の精たちをピュアに踊ったり、タキシードに身を包んで廃頽的に踊ったり。マチューの美しい首を見放題だ〜。やっぱりこの首は最高。いつ見てもうっとりする。

でも、もっと感動したのが、というか驚いたのが、オドリックの美しさと印象の強さ。かわいいダンサーだとは知っていたけれど、ノイマイヤー、合ってるのかなあ?すごい存在感と腕の美しさで、コールの中でもひときわ目を引く。うわぁ〜、これはこれは、、、、。まさに眼福♪ 羊飼い役のエマニュエルは、そのおっきな瞳をくるくるさせ、笑っちゃうくらいにお上手だし、セブはもちろん、ロラン・ノヴィやアレクシス・ルノー、フロリアン・マニュネもいいですねえ。

羊飼い、舞踏会のゲスト、森の精、と、様々な役を踊るコールの子達は、そんなこんなでいつもどおりに素晴らしく、このバレエ団の最高の財産だよね、と、改めて感動するのでした。

感動覚めやらぬまま、メトロに乗ると、マチューに遭遇。ストの話、ノイマイヤーの話、美しい彼の首の話などしながら、楽しい夜の締めくくり。

Sylvia23日も24日もグレーヴ(スト)は続き、相変わらず、中途半端な舞台での公演。ダンサーたちの出来はどんどんよくなり、エレとマニュエルは、いよいよもって心がざわめきっぱなしの感動を与えてくれるし、ニコラは赤い衣装をいいことに、24日にはサンタクロースに変身し、会場を沸かせる。そのニコラサンタのプレゼントなのか、24日は、飛び切りの席に加え、会場では珍しくもヤンヤンの姿を拝み、終了後、外に出るとセブと遭遇、最後にはマチューとのおしゃべりという、飛び切り贅沢なバレエ時間を味わう♪

グレーヴのせいなのかどうか、ガルニエに乗っている「パキータ」は連夜の大入り満員だというのに、バスティーユはがーらがら。おかげで、毎日のように最前列の席がもらえていいんだけどね。もったいないなあ。「パキータ」なんかより、ずっとずっと素敵なのに。作品自体も踊るダンサーたちも。

そしてついに、27日には完全なグレーヴとなり公演中止。たった3回しか見られなかったこの配役を惜しみつつも、カデールが登場する第2ディストリビューションを待ち焦がれる。グレーヴのせいで、テレビ用の撮影がキャンセルになったのがつくづく悔やまれる。エレ、マニュ、ニコ、デルフィンにコール・ドゥ・バレエ。どれを取っても(ロモリ以外ね)かんっぺきな配役の、最高の舞台だったのに、、、、。これが映像に残ったら、どんなによかっただろう、、、。ため息をついてもつききれない。

12月29、31日 1月2、3、4日

Sylviaそしてカデールですっ♪ やっぱりすごいや、この人は。ニコラだって、とってもよかった。なんの文句もない。でもね、でもね、カデールはやっぱり奥が深い。3役それぞれの、全く趣をことにする役作り。ソロで踊るときの舞台上でのカリスマ性と強烈な支配力は、観客の視線を一瞬たりとも離させない。そしてなによりも、ニコラのあのお顔ではどうしても無理のある、1幕ラストと2幕最初のヴァリアシオン。あんなに美しい顔であんなにセクシーな踊りをされちゃうと、そりゃもう、シルヴィアも誘惑されるしかないでしょう、って感じだ。頭がくらくらするよ。ブラヴォ!

今夜の主役カップルは、ニコラとレティティア。悪くないけど、期待の方が高かったかな。エレとマニュという、情緒豊かでひだの深いカップルに比べると、ニコとレティティアは、どちらも元気がよすぎて浅い。特にレティティアがなあ。モダンて、いつ見ても今ひとつなんだよね。大好きなんだけどさ。

アグレッシヴで怖いくらいのニコラと、子供のような元気一杯なレティティア。うーん、なんだかニュアンスが違うよなあ。あんまり愛し合ってないしさ〜。マニュたちの印象が強すぎて、こっちのカップルを受け入れられないのかな。それでもまあ、日増しに状態はよくなってきて、5日目には、かなり見ごたえのある演技を見せてくれる。

アンディミオンを踊る、ヤン・ブリダールがすっごくいい!期待以上に。こんな役、ヤンに出来るのかなあ、とちょっとドキドキしていたけれど、なんだかもう、ほとんどかわいいくらいの表情をしちゃって、眠れる美しき羊飼い役を淡々とこなす。いーですねー、ロモリとは訳が違う。やっぱり好きだ、このダンサー。

マリ−アニエスが怪我してしまった代わりに踊る、カレン・アヴェルティーは、デルフィヌに比べると一歩後れを取るけれど、こちらも回を重ねるごとに少しずつよくなってくる。それにしても、マリ−アニエスが踊れなくて残念だ。オレリーとマリ−アニエス、という組み合わせで、「シルヴィア」をぜひとも見たかったのに、、、。二人とも、早く怪我を治してね。

年が変わる頃には、ヤンヤンやセブも本格的に出演しはじめ、かわいい子でにぎわうコールは、もう誰を見ていいのか分からない。とは言っても、やっぱりオドリックの美しさに、呆けたように見とれてしまう自分に笑ってしまう。

Sylviaこの配役の初日から、ようやく舞台は正常に稼動。そっかー、こんな風なライティングだったんだー。なるほどねー、この木はこんな象徴をしてたのかー、といろいろ学習。でもね、幻想的なライティングはない方が、ダンサーの顔がよく見えてよかったよ。カデール、グレーヴの時に踊ってくれればよかったのにな。

1月4,7、11日

多少の入れ替わりはあるものの、主役に関しては3パターンある配役の中で、これが結構一番興味深いかも。エルヴェ・モローとナタリー・リケという、なんだか不思議なカップリング。ナタリーは、この作品を前にも踊ってるんだね。長い長い怪我明け、今回が彼女にとっての復帰後一番大きな役だ。あの美しいお顔でどんなシルヴィアを見せてくれるんだろう、とワクワクしながら舞台を見つめる。

腰までも届きそうな長い髪がワイルドだなあ。鋭い視線と冷酷な笑みが、今までの二人のシルヴィアとは全く趣をことにしている。ああでも、これがまさに、狩りの女神に率いられるシルヴィアなんだろうなあ、と妙に納得。テクニックの点では、レティティアにはもちろん、エレにも敵わないけれど、シルヴィアというキャラクターを演じる、と言う意味では、思っていた通りに印象的でよいね。特に2幕、舞踏会シーンがいいですねえ〜。彼女の凛とした美しさがよく映える。嬉しいなあ、大好きなナタリーがたっぷり見られて。そしてひとつ気がついた。ナタリーとオドリックって似てるよねえ?常に半開きの口、つんととがったあごがそっくりじゃん。

エルヴェがいい!すっごくいい!ま、ね、優等生エルヴェが、この役をそつなくこなすだろうとは思っていたけれど、こんなに、リリックに悲劇的にピュアにこの役を演じられるとは、正直期待していなかった。すごいなあ、見事な感情表現だ。感情を出すのがうまい、のではない。感情の殺し方がうまい、のだ。触れれば壊れてしまいそうな、切なく悲しい演技。うーん、新生プルミエ・ダンスールは、これからのオペラ座の至宝になること間違いないね。アレッシオには、残念ながら、まだまだここまではできないなあ、、、。がんばれ、アレッシオ!12月、コールで出ていたときには、別にどおってことなかったエルヴェだが、コンクールと主役を踊る日のために体力も気力も温存してたんだろうねえ。お見事です。

最高に素晴らしかった4日に比べ、7日は、二人そろって力が抜けてた。でもまた、11日には感動をたっぷりと味あわせてくれる。

ヤンヤンのアンディミオンは、あはははは。ろくなもんじゃない。いいんだでも、美しいことには間違いないし。しかしほんとに、ろくなもんじゃない。コールで踊ってる方がよっぽどいいよ。

ジョゼやロモリが演じる、アムール/ティルシス/オリオンは、カデールとニコラに比べると、はっきり言って蹴飛ばしたいくらいにひどい出来だし、もう、7日は行かなくてもいいや、11日に行けば、と思っていた矢先、念のため、と覗いたオペラ座サイトには、なななななーんと、カデールの名前が。30分であわてて着替えて化粧してバスティーユに飛び込む。相変わらずがーらがらの劇場に感謝しながら、開幕直前にチケットを購入。3日の夜に、「ああ、もうこれで一生、カデールがこの役を踊るのを見ることがないんだ、、、」とウルウルしたのをすっかる忘れ、思いかげない幸運を喜びながら、今度こそ、本当に二度と見ることができないだろう、このバレエでのカデールをじっくり脳裏に焼きつける。

13日

そして、私の「シルヴィア」が終わってしまう。グレーヴの日を除いて、今夜まで皆勤して12回。でもぜんぜん足りないよ〜。死ぬまで毎日見たいよ〜。明日の最終日は、残念ながら行かれない。「ル・ブリストル」でのディナーに招待されているのを、思わず本当に断ろうかと思ったくらいに行きたかったけど、私の本業はレストラン、ということをどうにかこうにか思い出し、泣く泣くあきらめた最終日。エレとマニュをもう一度見たかったけど、今夜を二人の見納めにしよう。

20日ぶりに見る二人は、12月同様、ファンタスティック!の一言に尽きる。ようやくまともな舞台で踊れるようになった二人は、やっぱり今回の3配役の中で、一番私の琴線に触れてくる。登場シーンにとんでもない失敗をしてしまったエレ。足を痛めなかったかと心配したけれど、どうにか元気そうに踊りきってくれる。2幕では衣装が破れてしまいドッキドキ。「どうしよう、、、」みたいな顔して踊っているエレを、われらがかわいいヤンヤンは、そんなこともかまわず、エレをブンブン振り回しては私を笑わせ、果ては思いきり振りを間違え、さもなんでもなかったかのように繕って、私を大爆笑させてくれる。いやあ、ほんとにいつも、ごまかすのが上手いよね。

マニュといえば、こちらはもう、貫禄の世界。エルヴェなんかにまけてらんねえ、とばかりに実力を見せつける。そういえば、この間、エルヴェを見に来てたね。エルヴェじゃなくてオドリックを見に来てたんじゃないでしょうねえ、と、ちょっと不安になったけどさ(笑)。だって、あまりに美しいんだもん、オドリックが。

ジュゼ、ロモリ、ステファニー・ロンベルグでラストをしめる、というのはなんだけど、ま、後半の配役なんてこんなものだ。マニュとエレを堪能できただけで十分幸せ。その他の役は、それぞれ、カデール、ヤン・ブリダール、そしてデルフィヌの思い出を記憶から取り出して、ノイマイヤーの完成度の高い振り付けと溺愛した音楽と共に、3週間にわたって私をとりこにした「シルヴィア」との別れを惜しむ。

ven.20 dec.2002 - lun.13 jan.2003(02年12月〜03年1月)
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