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「ジュワイユー」美しい、本当に美しいジョゼとアニエス!

2年前の冬、ものの見事にグレーヴ(ストライキ)に遭遇し、たったの一度しか見られなかった「ジュワイユー」。なんとなく覚えているイメージは、
1.神々しいカデール、圧倒的なゲラン、繊細なファニーにどうでもいいジャン・ギー(エムロー)
2.感動的なマニュエルと冷ややか過ぎるデルフィヌ、脇を固めるジェレミーとアレッシオの素晴らしさ(リュビ)
3.戦慄が走るニコラの迫力
こんな感じ。あれから2年が過ぎた。いなくなったダンサーもいれば成長したダンサーもいる。さてさて、今年はどんな印象をこの宝石たちは与えてくれるでしょう?

8日の初日は、デフィレ(学校生徒と団員たちの行進)と「アレグロ・ブリアンテ」のおまけつき。張り切ってチケット買って、楽しみにしてた。2年前の初日もデフィレつきとあって、寒い中朝早くからチケットを買いに出向きワクワクしていたのに、あっけなくグレーヴでつぶれたっけね。先日の「ヌレエフ・ガラ」で初体験したデフィレを、今夜は余裕を持って楽しむ。晴れがましく感動的ですらあるデフィレ、最後のレヴェランスの時に、なにを間違ったか、ロモリがエトワールの立ち位置に立って挨拶したのにはびっくり仰天。なにを血迷ったことしてるんだろう?スキャンダラスにもほどがある。

憤慨冷めぬ中、「アレグロ・ブリアンテ」が始まる。ふぅ〜ん、ま、こんなもんだ。そもそも、バランシンがとりわけ好きなわけじゃない私。作品自体がピンとこない上に、踊ってるのがモランとジャン・ギーな以上、感動の仕様がない。3日前に見た舞台稽古で、モラン、かなりしんどそうに踊っていたけれど、今夜はより一層ゼーゼーしてる。完全にもう、体力不足。見ているほうがつらくなるよ。

Joyeuxここから本番。まずは、パリをテーマにした「エムロー」です。レティティアがよいね。こういうエレガントで柔らかな役って、あまり得意じゃないはずだし、体も決してバランシン向きではないけれど、これがなかなか悪くない。リリックで情緒があってうっとりする。さすがレティティア。相手のカールは、これはもう、どうでもいいかね。きっちりレティティアをサポートしてくれるだけで十分満足しなくちゃね。カールに“なにか”を求めてはいけない。レティティアにピッタリの、美しい金髪と顔があるだけでよしとしよう。

カデールは、うるうるに麗しくこちらも情緒たっぷりだけれど、いかんせん、体がバランシン向きでない点はいなめない。もちろん、十分に感動できるのだけれど、始末が悪いことに相手がオスタときてる。自分勝手にブンブン踊りまくるオスタが横にいては、カデールのエレガンスさも魅力が半減しちゃうよ。ああぁ、なにが悲しくていとしいダンサーをオスタと一緒に見なくちゃいけないんだろう?この二人、「アパルトマン」でも一緒なんだよね。今からグッタリ。

Joyeuxそれぞれ微妙に難点あり、の主役カップル2組に比べ、パ・ドゥ・トロワがかなりよい出来。エレとノルウェンもさることながら、なんてったってエルヴェ・モローが素晴らしい。かんぺきだ〜。小さな頭、長い手足、すらりとした肢体。まさにバランシン向き。そしてテクニックと表現力の見事さ。カデール、カールと並んで踊るシーンは、誰がどう見たってエルヴェが圧倒的によい。すごいなあ、このダンサーの実力って。「エムロー」のソロと「ディアマン」を踊る日が今から待ちきれないよ。

アメリカにささげられた「リュビ」。マニュエルとマリ−・アニエスに頭を強烈に殴られた、って感じ。マニュエルは、この役を踊るために生まれてきたんだろうなあ、と思わせる感動。冗談でなく、ほんとにキラッキラと輝いてるよ、この人。こういう、しゃれてて華のある役を躍らせると、どうしてこうまでマニュって素晴らしいんだろう。水を得た魚のごとく、舞台狭しと踊り狂う。キラッキラをそこらじゅうに撒き散らしながら。まぶしいくらいだ、本当に。ラクロワがデザインした鮮やかな赤い衣装がマニュの前に色あせる。心の奥底からワクワク感がこみ上げてくるよ。相手のデルフィンも、まあまあでしょう。2年前同様、なぜオレリーじゃないの?という悲しい疑問はあるけれど、十分に見ごたえのある踊り。

Joyeuxでも、今夜のヒロインはソロを踊るマリ−アニエスだよね。アングリと口をあけてしまう。彼女の信じられない迫力と支配力をまざまざと目の前にして。あ〜、なんてダンサーだろう。こんなカリスマ性とダイナミズムを持ったダンサーが存在していいの?人間のものと思えない足と腕の動きにぞっとして背筋に戦慄が走る。舞台のみならずガルニエ中の意識が彼女に向かって流れ込んでいく。大好きだー、マリ−アニエス。オレリーがいない今、文句なしに私の一番好きな女性ダンサー。

その他?ああ、チビちゃんたちがうじゃうじゃいるけど、もう、視線の行きようがないよ。マリ−アニエスにつぶされちゃいそうな、エマニュエルやマロリーたちは、軽妙でキュートな踊りを見せてくれている気がするけど、マリ−アニエスとマニュエルを前にして、存在感ゼロに近い。

そしてラストを飾る「ディアモン」。テーマはロシア。幕が上がると、ホォォ〜ッというため息が会場にざわめき、少し遅れて拍手が続く。2年前もそうだった。そのくらい、幕が開いたときの舞台は美しい。

ブルーの背景に真っ白な衣装に身を包んだコールの女の子たち。ドロテの愛くるしい笑顔、オーロールの凛とした動きがいいですね♪ そして、ジョゼとアニエスという、この手のバレエにおいてはこれ以上はありえない、という優雅で洗練されたカップルが登場し、バランシンをとびきりバランシンらしく踊る。

Joyeuxジョゼがすごい。細い細い体で、完璧なテクニックとエレガンスを披露。アニエスはアニエスで、恐ろしいほどに美しい体の動きとこちらも非の打ち所のないテクニックを披露。後半になってどんどん盛り上がりを見せ、ジョゼの気が遠くなりそうなピルエット(じゃないねえ、あれ。なんていうテクニックなんだろう。クルクルクルクルひたすらまわってた)で興奮は頂点を迎え、そして、あきれるほどに美しいラストへと続く。美しい、本当に、美しすぎる。この作品、美しくないダンサーが踊ってはいけない。そういう意味では、ドゥミ・ソリストの男4人には首を傾げてしまう。コールで踊ってる、オドリックやマチュー、ジュリアン、フロリアンあたりが、このバレエにふさわしい。ジョゼとアニエスという、オペラ座きってのエレガントで美しいカップルの真髄をとことんまで堪能して感動に打ち震えながら、初日の幕が下りてゆく。

9日。

初日と全く同じキャスティングで迎えた二日目。感想は、初日と大して変わらないかな。

「エムロー」では、やはりエルヴェに舌を巻き、ちんくちゃ新エトワールが無粋に踊った挙句に、カデールの頭を腕でゴンと殴ったのに絶望する。「リュビ」では、マニュエルのキラッキラに今夜も目がくらみ、マリ−アニエスの迫力と妖艶さに息を呑み、珍しくも、マニュエルのミスまで堪能。さすがはマニュエル、おっきなミスもマニュがやるとミスに見えなくてただのかわいい動きになっているところがスゴイ(笑)。

「ディアモン」?とにもかくにも、ジョゼとアニエスの素晴らしさに脱帽するのみ。初日よりも一層華やかに自由自在に美しいテクニックを披露する二人に、ただただ感動する。

22日。

Joyeuxカデールがようやくノルウェンと踊ってくれてホッとする。いいよね、ノルウェンとカデールの相性って。ノルウェンの踊り自体は、いまひとつピンと来ないけれど、この作品、全体のアンサンブルが大切だ。そういう意味では、オスタよりもノルウェンのほうがずっと見ていて心地よい。エマニュエルのパ・ドゥ・トロワもなかなかいいね。とりあえず、飛ぶシーンは完璧だ。

今夜の見所は、間違いなく「リュビ」だ。エレとジェレミーのカップルが披露する「リュビ」は、若さと元気に溢れて、チャーミングなことこの上ない。ジェレとマニュを比べれば、それはもちろんマニュの方が芸達者。でもね、カップルとしてみた場合、エレを横に従えたジェレミーのほうが、ちょっと元気がないデルフィヌを相手にしたマニュよりもずっといい。エレ、素敵だ!彼女、自分自身にちゃんと自信を持って踊るときは、本当にチャーミング。エレ独特の舞台栄えする雰囲気となんともいえないオーラがにじみ出て、目を輝かせて生き生きと踊るエレ、すごくいい感じ。「エムロー」を踊るときとはえらい違いだ。ジェレミーと共に、ごくキレのよいクールな踊りで観客を魅了する。ソロを踊ったエミリーは、まあ、、、。マリ−アニエスを見たあとに、何を語れると?

「ディアモン」。アニエスを、ジャン−ギーと一緒に見たくない。生意気イジワルジャン−・ギーは、舞台稽古でマリ−アニエスをイジメにイジメ、とうとうカップリング解消。ジャン−ギーはアニエスと組み、マリ−アニエスはエルヴェと踊ることになった。これ幸い、マリ−アニエスとエルヴェという「ラック〜」以来のカップルを楽しみに♪なんて思っていたのに、結局マリ−アニエスは「ディアモン」を降り、エルヴェは怪我をしてしまい、このキャスティングは幻に終わった。あーあー、残念。特にエルヴェは、「エムロー」でのパ・ドゥ・ドゥも楽しみにしていたのに、、、。

そんなこんなで、アニエスとジャン−ギー。別に、ね。アニエスはもちろん素晴らしいけれど、ジョゼと踊るときほどの茶目っ気はないし、ジャン−ギーは機械仕掛けの人形が上手に踊ってるだけ。いいよ、もう。コールを楽しもう。オドリック、セバスチャン、マチュー、それにドロテとオーロール。美しいダンサーたちに慰められ、「ディアモン」を終える。

1日。

Joyeux今夜が私の「ジュワイユー」の最終日。たった4回。全然足りないけど、仕方ない。チケット、取れないんだもん。でも、我ながら偉いと思う。モランとロモリの「エムロー」を一度も見なくて(笑)。

ちょっと驚きだったレティティアのバランシンを愛で、こちらは成長する気もないらしいカールを眺め、意外にエレガントなヤン・ブリダールをノルウェンと楽しみ、「エムロー」の見納め。ふむ、やっぱりこの作品、あんまり面白くないよねえ?

今夜の「リュビ」は、アレッシオのデビュー。カデールのみならず、アレッシオでもオスタを見なくちゃいけないのにはホントに嫌気が差す。「エムロー」以上に、我ここにあり!とばかりに、ひっちゃかめっちゃか踊るオスタをもてあます。アレッシオがかわいそう過ぎるよ、これじゃあ。なかなかがんばってはいるけれど、彼はやっぱりまだまだなりたてプルミエ。おなじなりたてでも、本人がもともとなる気十分で、2位通過したのが屈辱だと思っている(にちがいない)エルヴェに対し、こちらは本人もびっくりの1位通過のアレッシー。まだ、意識も表現力も追いつかないのは仕方ないよね。十分に魅力的な踊りではあるけれど、パートナーの問題を脇においても、マニュエルやジェレミーに比べると、どうしてもちょっと落ちるかな。ま、これからだから、アレッシーは(^^)。大好きだよ♪

デルフィヌとジョゼの「ディアモン」は、まーまー。デルフィヌ、どうしてもテクニックがアニエスよりも落ちるのが残念だけれど、雰囲気はあるよね。ジョゼ?完璧です。これ以上ありえないくらいに完璧。ただやっぱり、アニエスと一緒のときの方が、一層輝くのは仕方ないか。

今夜は、ドゥミ・ソリストの1人をマチューが踊る。これがまたいいんだ!美しくエレガントに品よく。きれいだねえ、ほれぼれする。こうでなくっちゃ、バランシンは。数日後、怪我してしまって舞台を降りたのが残念。たった一度だけれど、マチューの晴れ舞台を見られたのをよしとしよう。

たった4回。まあでも、別に後悔はないかな。強いて言えば、マリ−アニエスとマニュ、ジェレ&エレをもう一度ずつ見たかった。相変わらずの怪我人続出で、エルヴェもファニー・フィアットも踊らなくなっちゃったので、一応、見たいと思ったものは全て見たことになるもんね。

ヴェルサイユにはピエトラ率いるマルセイユバレエが来ているし、シャトレのナッチョ・デュアトの公演も見逃せない。先週から始まっているエクの「アパルトマン」に心はすでに動いているし、「ジュワイユー」はこんなところで。

8,11,22 fev. 1er mars 2003(03年2、3月)
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