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「マノン」、祝オレリー復帰!

思わず涙ぐんでしまう。オレリー、復帰してくれてありがとう、、。

オレリー・デュポンがひざの怪我で舞台に立たなくなってから1年が経つ。「パキータ」で復帰、「シルヴィア」で復帰、と期待されつつ、術後の回復思わしくなく、「ヌレエフ・ガラ」、「ジュワイユー」を踊らないことが決まり、デフィレにすら参加しなかった頃には、本当に彼女が再び舞台に戻れる日が来るのか、と、パリのファンは絶望した。

私の一番お気に入りの女性エトワール。アニエスのような気品やエレガンスはないけれど、レティティアのような完璧な技術はないけれど、オレリーには凛とした美しさと芯の強い表現力がある。彼女の「ベラ・フィギュラ」、「真夏の夜の夢」、「ドン・キショット」、「ラ・バヤデール」、、、。思い出しただけでうっとりする。もちろん欠点はあるし、作品によっては、これはちょっとオレリー向きじゃない、、ということもあるけれど、キリリとした美しい笑顔とバランスの取れた体から発信される彼女のパッションが、私はとても好きだ。

初日数日前の舞台稽古見学。ブリジットさんが、
「今日は初めての通し稽古。しかも、ご存知の通りオレリーの久々の舞台復帰とあって、いろいろ混乱するかもしれません。どうぞみなさん、静かに見てください」と告げる。そうして始まった稽古。舞台に姿を見せたオレリーを、幻じゃあないよね、と何度もオペラグラスで確かめては、1年前と全く変わった気配のない、きれいなダンサーの動きを追う。

それにしても、お稽古見学って楽しい楽しい。カデールは、自ら流した血をせっせと拭きとってお掃除してるし、ヤンヤンはいつものことながら、端の方で一人勝手にお稽古にいそしんでるし、ジャン−ギーは難しい顔して床に座り込んでる。もっともっとお稽古見学できるといいのになあ。

12日(木)

と、無事にオレリーの復帰を確認し、嬉々として初日を迎える。前日のジェネラルにも行く予定だったのに、その前日の市内で行われた暴力的なマニフェスタシオンの影響をガルニエもこうむって、安全対策のためジェネラル中止。ふざけてる。今回、たった3回しかレスコーを踊らないカデールを、せめてジェネラルと舞台稽古でも目にしようと思っていたのに。ま、仕方ないですね。初日が無事に敢行され、オレリーも無事に出演する、というだけで、満足しなくちゃ。

マスネ作曲の、このオープニングの情緒的な旋律、大好きだ。優しく語りかけてくるような、柔らかなメロディー。音が愛撫してくれるよう。うっとりしているところに幕が開き、そこに1人静かにスポットを浴びるカデールがいる。黒いマントと帽子を被り、夢想するかのようなまなざしのカデールの美しさに思わずため息。3年前、初めてカデールをこの舞台で見たときの感動を思い出して心が震える。

レスコーbyカデール、美しい!舞台は華やかに展開し、各人様々の踊りが繰り広げられるけれど、私の視線はカデールから離れられない。ゴメン、作品自体はまた今度、カデールが出ない日にきちんと見るから、今日は許して。カデールのあらゆる動きを追うので精一杯。と、娼婦たちの登場も、こじきのダンスも、デ・グリューの登場も、ヤンヤンたちの踊りすらも視界に入れず、カデールカデールカデール〜。ああああ、この役はカデール以外で見たくない。

オレリー&ジャンギー、この世で最も美しいパ・ドゥ・ドゥの1つそうこうしているうちにマノンの登場シーン。高揚する音楽に合わせて、オレリーが馬車から飛び降りて舞台に立つ。と、会場に大きな拍手が広がる。マノンの登場に対して、ではない。パリの人々を恋しがらせていたオレリー・デュポンの舞台復帰を祝福する拍手だ。ああ、オレリー、、、、。あでやかでチャーミング、そしてキリリと美しいマノンに、思わず目頭が熱くなる。復帰してくれて本当にありがとう。

オレリーのマノンは、ちょっと意外なくらいに素敵だ。3年前、やはりジャン−ギーと踊ったときは、イヤだった。二人の間に愛はないし、オレリーのマノンはチャキチャキしすぎているし。ニコラとファニーのカップルがなかなかよかっただけに、こちらのカップルを全くアプリシエイトできなかったっけ。でも、今夜のオレリーは、完璧なマノン。初々しさを残しながらも、現実をきちんと見つめた1人の女性。と思えば、心からデ・グリューを慕う愛情がリリックに表現され、一人の恋する女のかわいらしさが満開だ。

オレリーにすがるジャンギー1幕の2つのパ・ドゥ・ドゥで見せた、あの恋の喜びはなに?相手のジャン−ギーは、全くマノンを愛しているそぶりを見せないのが難点だけれど、マノン一人を見ていても十分に感動できるパ・ドゥ・ドゥ。キスのせがみ方、ベットへの飛び込みをはじめ、演技面は全て完璧。2幕のヴァリアシオンは観客の目を一瞬ともそらせない、インパクトの強い美しさ。3幕ラストのパ・ドゥ・ドゥは、もう目がウルウルだ。全体を通して、オレリーの演技力が見事だ。大人になったんだなあ、オレリー。全く違うもん、3年前と。完全燃焼、という感じで、ぐったりとジャン−ギーの方にもたれ、割れるような拍手と悲鳴に近いブラヴォーを受けるオレリーの姿を熱い思いを込めて見つめる。

カデールとオレリー、素晴らしいカデール?そりゃあ、もう。コメントするまでもないでしょう。お金のために妹を売る兄。でもそこには、冷酷さだけでなくて妹への愛情も見える。罪悪感を感じているふりをしながらもお金を受け取るシーンなんて最高だよね。2幕の酔っ払い踊りは、役者カデールの本質を満喫できるし、続くパ・ドゥ・ドゥも見事。相手がステファニーなのがひどく納得できないけれど。あんなダンサーが相手じゃ、笑える踊りも笑えない。ああ、マリ−アニエスとだったらどんなによかったか。2幕の死に方も恐ろしく美しく、私の視線は彼に釘付け。彼が舞台にいるときは9割がた彼しか見てない。残り1割はオレリー。その他大勢は、ゴメン、今日はほんとに全く見ませんでした。ジャン−ギーだけは、心ならずも視界に何度か入ってしまったが、、、。

オレリーとジャンギー感動とうっとりの中で初日が終わる。完璧だった、デ・グリュー以外は。帰り際、友達が怒ってる。
「ていうかさあ、なんだよ、あのジャン−ギー!?まーったくマノンへの愛情持ってなくて、1人勝手に踊ってるだけじゃん。スキャンダルだ」
「はじめからわかってた事じゃない。相手はジャン−ギーだよ?彼に何か期待する方が悪いよ」
「そーだけどさあ、それにしたって、、、」全くもって同感だけど、言い始めたらきりがない。しかも私、今夜はほとんど彼を視界から追い出したしね。今夜はとにかく、オレリーの復帰と久しぶりのカデールレスコーに祝杯を掲げて、眠りに着こう。

14日(土)

デルフィヌとマニュ。たった一度だけ踊るデルフィヌは、今夜がマノン・デビュー。肢体、雰囲気、踊りの性格的にそれなりに似合うのでは?と思っていたけれど、特別素敵なものでもなかった。前々日のオレリーが強烈だったからねー。もちろん、あの悲惨だった「ラック〜」なんかよりはずっといいけれど、「シルヴィア」で見せてくれたほどの感動はなし。可もなく不可もなく、優等生的マノン。演劇要素の強いこの作品に、おとなしすぎるデルフィヌは映えないのか、、、。舞台センス抜群のエレで見てみたい。踊りきって、「やったわ、やったのよ私!」とマニュの横で感動しきっているデルフィヌ。そんなにダンサー自体に感動されても困ちゃう。同じ感動を、こっちは得ていないんだもの。

マニュ、、、。呆然とする、あまりにひどいデ・グリューに。3年前、ゲラン相手のデ・グリューもどうもこうもだったけれど、少なくともテクニックはまともだった。今日は頼みの綱のテクニックもどうもこうも。どしたの?調子悪い?テクニックはまあおいておくにしても、相変わらずのストーリー崩しぶりにも辟易する。マノンなんてどーでもいいんだよね、このデ・グリュー。自分にうっとりしながら踊ってるにすぎないヴァリアシオンにぐったりする。踊っていないときは、まるで存在感なくその他大勢に埋もれ、踊るシーンになると、「ハイハイッ!僕の出番ね!みんな見てよっ!ほら、そこの奥の君、僕の踊りだよ。見えるかな?」とばかりに、クルクルクルリン。物語が成立するわけない、、、。ま、こんなもんだ。思ったとおり。

ヤン・ブリダールのレスコーは、まあまあかな。1幕、ちょっと下品すぎる。レスコーは、上品さがあってはじめて下品さと放蕩さを加えていい役。カデールがやると、なんともいえないもののあはれを感じる。ヤンがやると、ただただ放蕩。その分、2幕の酔っ払い踊りはいいけどね。相手がマリ−アニエスというのも利点だ。ラヴィッサント!いやもう、ステファニーと比べ物にならない。二人そろって、昨日はベジャール、今日はマクミランと、タイプの全く違う役を余裕綽々でこなしてる。偉いなあ。

マニュに辟易、デルフィヌに肩をすくめ、ヤンとマリ−アニエスにきっちり拍手を送り、コールで1人笑いを取るヤンヤンを楽しむ夜。

16日(月)

絶望的な夜だった、、、。間違いなく、今シーズン最低の舞台。呆れから怒り、怒りを通り越して呆然、そしてまた怒りがフツフツとこみ上げてくる。ル・リッシュ夫妻のマノン。悪いものを見てしまった、としか言いようがない。

ニコのデ・グリュー、3年前は、ジャン−ギー、マニュに比べて圧倒的によかった。リリックなファニーとカデールとの組み合わせで、だんとつ素晴らしい配役だった。今夜のニコも出だしはよかったんだよね。登場シーン、娼婦たちにからかわれるシーンなど、マノン抜きの演技部分はさすが。他二人に比べるとやっぱりニコはデ・グリューらしい、と安心して見始めた。なにかの間違いでエトワールになった妻も、1幕はまだどうにか我慢できたんだ。「パキータ」、「アパルトマン」、「リュビ」、「プティット・ダンスーズ〜」を思い出しては、「あれよりはまともだよ。これでよしとしなくては、、、」と言いきかせながら1幕を乗り切った。

1幕後のアントラクトで、すでに「最低!」と怒っていた知り合いに、「まあまあ、オスタにしてはまともだよ」と答えた私も、さすがに2幕の強烈な動き(けっして踊りではない)には、心底まいる。

1幕は準備運動、2幕はやるわよ!とばかりに、馬鹿みたいにチャカチャカ動き回る妻と、そんな妻の言いなりにブンブン妻を回しまくる夫。愛とか情緒とか、そういう言葉を彼らは知らない。まるでレスリングのようなパワフルなパ・ドゥ・ドゥ。アクロバットを見てるんじゃあるまいし、、、。げっそりする。マクミランが見たら、どう思うだろう。

「夕べ夜通し練習したんだよ、きっと。成果を見せたくて見せたくてしかたないんだ」椅子からずり落ちそうになりながらつぶやく。
「頭いたい、、、」と友達は横で下を向く。今日は、夕方遅くまで忙しく、走って走って走って走って、息が止まりそうになりながらガルニエの階段を駆け上り滑り込んだサル。椅子に崩れ落ちた5秒後に照明が落ちた。あんな思いをしてやっとの思いでここに来たのに、目の前で繰り広げられるものがこんなひどいものだなんて、やってられない。ただでさえ疲れてるのに、さらにどっと疲労感に包まれる。マノンのヴァリアシオンをやっとの思いで見届け、おそろしいパ・ドゥ・ドゥを乗り越え、ほうほうの体で2度目のアントラクト。怒り心頭の常連同士で、オスタに絶望する。もう、3幕は見なくても、、、と思いつつも、かすかな期待を胸に席に着く。

当然のごとく、そんな期待を踏みにじり、さらに、信じられないくらいひどい姿をさらしたオスタを呆然と眺める。み、醜いにもほどがある、、。どこで探してきたのか、30年前のパーマネント、みたいなひどい鬘をつけて現れたオスタは、上手い下手以前の問題で、ただただ醜い。あんな姿を、エトワールとしてお客様にさらしていいの?テズマー先生が言ってたじゃない。「エトワールは、レパートリーを踊りこなせるレベルの技術、舞台でのカリスマ性、それに美しさも必要とされる」って。嘘だ、あれは。だって、オスタ、なんにも持ってないもん、、。

3幕、看守を殺して沼地に逃げる前、囚われの象徴でもあるブレスレットを投げ捨て忘れるオスタ。踊る日を忘れてみたり、散々だ。この際、自分がダンサーであるのも忘れてくれればいいのに。気持ちわる、早く帰ろう。体中に広がる疲労感と痛む頭を抱えて家路に着く。あああ、このエトワールにこの先まだ10年近くも耐えなくてはいけないなんて、つらすぎる、、、。

17日(火)

地獄から天国。前夜の想像を絶するひどい公演の生々しい記憶を消してくれた今夜の舞台。美しいオレリーといとしのカデールはいよいよ脂が乗り、珍しくもジャン−ギーが心を込めて役作りをした結果、極上の舞台となる。

レスコーを踊る日が近いヤンヤンは、コールで踊りながらも一生懸命レスコーの練習をしていてかなり笑える。楽しみだね、彼のレスコー。顔なじみの、ダンサーのママと隣同士で、夕べの悪夢と今夜の素晴らしい舞台についておしゃべりしながら、美しい舞台を目にする幸せなひと時。あー、なんだかもう、今夜で私の「マノン」は完結しちゃったなあ。もうこれで終わりにしてもいいくらいだ。

でもまあ、まだもう一度カデールは見たいし、今夜もまた、コールを踊りながらのレスコーの役作りに余念がないヤンヤンのレスコーも外せない。シルヴィー女王様だって一度は見ないとね。作品自体、大好き!と言うわけではなく、平行して公演している「ベジャール特集」への思い入れが強い分上、夕べのショックがまだ残っているらしく、「マノン」にちょっと腰が引け気味なんだね。

21日(土)

さて、ヤンヤンのレスコーです♪ 初日は、1幕1場ラストのマントの翻し方が笑え、2幕ラストでは、勢いよく兵士にぶつかり、撃たれる前に血が出ちゃって大変だった、と聞いていた。ああ、やっぱりヤンヤンだわね〜。今夜はなにをやらかしてくれるのかしら、となんだか別の意味でワクワクしながら、ガルニエ入りする。

そのヤンヤンは、期待通りの面白さ。まずはなんと言っても、オープニング。幕が開いたときに1人舞台に顔を置くヤンヤンレスコーの美しいこと、、、。カデールは、この間、遠くを見つめて夢想するような演技を、かすかな顔の動きで見せてくれたけれど、ヤンヤンは、意志の強そうなあごをしかと据えて、美しい顔を観客に惜しげもなくさらしてくれる。

ほんと、オペラ座きっての美しさ。17日、カデールファンの友達に付き合って出待ちをしたけれど、妻連れのカデールに話しかけるのをためらい、代わりに(というのもなんだけど、ほんとに代わりに)ヤンヤンにサインしてもらった。私服姿のヤンヤンは、舞台の3倍いい男。舞台でだってとびきりなのに、舞台外で会うとモデルだよ、ほんとに。ちーっちゃな頭、着痩せする体、愛らしい顔。ボーッと見とれてしまうよね。その後、カフェでお茶をしてたら再びヤンヤンに遭遇。オレリー、レティティアら他のダンサーたちもそれぞれ友達と語らっていて、ダンサーだらけのカフェでゴキゲンな夏の夜を過ごしたっけ。

で、ヤンヤンのレスコーね。かわいいよ、楽しいよ。マノンととびきり仲よしで、どの兄妹よりも愛情が通ってる。1幕ラストのマントは、バッチリ決めてほくほく顔。でもヤンヤン、マント、斜めになってますけど、、、。2幕ラストは、前回のミスを再現しないように、と大切に大切に大切に血袋を扱った結果、今度は撃たれた後も血が出なくてもう大変。幕がほとんど閉じる頃にようやく血が出た、と思うまもなくあっというまに大量出血。それはそれは、笑える死に様なのでした。

すっごくチャーミングで楽しいけれど、カデールに比べると動きすぎかな。まだ若いから。ヴィシネヴァと二人、学芸会みたいなかわいらしい演技だった。次々回くらいには、もっと素敵なレスコーを踊れるでしょう。

さて、今夜のマノンは、ゲスト・アーティストその1、マリインツキーのディアナ・ヴィシネヴァです。去年、「ドン・キショット」で一度だけ見た小柄なダンサー。パリのカラーから外れていたのが気になったけれど、やっぱり今夜も、コールとの微妙なズレが気になる。マノンとしての演技は、まあまあかな。細かな表現がお上手だ。振り付けもちょっと違うのね、パリのマノンたちと。ロシア的な大げさな身振りが、ニキアを彷彿させてしまうのがなんだけれど、いいんじゃない。ヤンヤンとの絡みが最高だ。なんてかわいい兄妹愛。2幕の右端で繰り広げられる二人のお遊びが笑える笑える。

その分、といってはなんだけど、マニュが全く無視されてる。マニュはより一段と調子を悪くし、今や全く精彩を欠く有様。どーしたの?大丈夫?心配になってくるくらい。マノンは、デ・グリューよりも兄様が大好き♪とばかりに踊ってるし、おいおい、ストーリーが全く違ってるよー。「マノン物語」でなくて「レスコー兄妹物語」だね、これじゃあ。ま、ヤンヤンのレスコーを楽しみに来ただけだからね。いいんじゃないの。もう、ね、最悪の16日をクリアした今、なんでも許せる心境よ。

22日(日)

オレリーたちの最終日。長期にわたり舞台に立たなかったのが信じられないくらい、オレリーがあでやかに軽やかに印象的に踊る。何度言っても言い足りない。復帰してくれてすごく嬉しいよ、オレリー。今シーズンは、「マノン」が最初で最後の舞台。来シーズンの彼女の活躍が今から楽しみだ。

カデールは、もう、、。数日前、「ベジャール特集」の最終日、勇気を振り絞り2度目のカデールとの会話を試みた。去年の秋に試みた初回に比べて、とても感じよく楽しく進んだ会話の中で、カデールが42歳でなく、45歳まで踊る予定ということを知った。ノルマルマン(普通なら)という、フランス語ではかなり怪しい単語つきだったのが気になるが、今のところは45まで踊る予定。と言うことは、もう一度、カデールのレスコーを見られるかもしれないんだ!今日が、生涯最後のレスコーだったら、涙なしでは見られないところを、単純に楽しくうっとりしながらカデールの、夕べのレスコーに比べてはるかにスマートで美しい死に様を眺める。

24日(火)

女王シルヴィーとロラン「マノン」もようやくラストスパート。ラスト3回は、シルヴィー・ギエムとロラン・イレールという大御所カップル。3年前、このカップルの二日目のチケットを買って、見事にブッチされたっけ。曰く、初日に、ベットへ勢いよく飛込んで、そのときに怪我したんだと。そおかあ?その飛込みで怪我する?みたいな、今年の飛び込み方は置いておいて、彼女のマノン?期待したほどではなかったかな。

シルヴィーには女性らしさが欠ける。どーしても。その体のつくりにしても顔にしても、やわやわなよなよで女らしい、とは言いづらい。マノンはやっぱり、どこまでも女らしくなくちゃいけないと思う。年を取りすぎ、というのもあるかもしれないけれど、それを考えると、3年前のマイ・ベスト・マノンがファニー・ガイダだった理由がたたない。やっぱり、雰囲気として芯がしっかりしながらも女らしいかどうか、そこがかなりポイントだと思うなあ。この役、男顔のメラニーとかにやられても困っちゃうもんね。エレ、ノルウェン、ミテキ、ミュリエル。このあたりのマノンが見てみたいものです。みなさん、凛とした美しさと柔らかさ、それに舞台栄えする独特の雰囲気がある。

で、シルヴィーね。髪型も違えば、衣装も微妙に違う。ロイヤルから持ってきた?挙句の果てに、アクセサリーまで全く違うものをつけて、相変わらずのシルヴィーぶりだ。お上手だけれどねえ、なんだかもう、甘いも酸いも噛み分けたマノンになっちゃってる。マノンというよりもシルヴィー・ギエムその人だ。仕方ないのかなあ。シルヴィーファンの友達の感想を、今度聞いてみよう。

ロランはいいですね!他がどうもこうもだっただけに、今回最高のデ・グリュー。そりゃまあ、半分引退生活に入り気味のエトワール。テクニックに昔日の素晴らしさはないにしても、指先のさらに先まで美しい、極上のアラベスクには目が見開いてしまうし、マノンへの愛情は本物だ。シルヴィーという息の合ったパートナーとのパ・ドゥ・ドゥもさることながら、踊らない部分、マノンを見つめる演技の部分がすごくいいよ。1幕、マノンと最初の会話を交わすまで、2幕、マノンのヴァリアシオンの最中など、考え抜かれた渋くこぶしを利かせた演技が映える。思ったとおりに素敵なデ・グリューだ。

エルヴェのデ・グリューが見られなかったのはつくづく残念。この役の代役だったエルヴェ、毎晩のように会場に座ってた。犬連れの場合もあるし、1人の場合もあるし。犬は、「僕、どおしてここにいなくちゃいけないんだろ〜。つまんな〜い」みたいな顔して鎮座してたね。ほんっとにかわいい、エルヴェの“犬”。エルヴェは、ロラン以外のデ・グリューを、彼はどんな思いで見てたんだろう?この役、絶対エルヴェ向きだ。ロマンティックでリリックで悲劇的。バンバンにも最高に似合うはず。ロランとマニュが消えるはずの次回の「マノン」では、ぜひともこの二人のデ・グリューを堪能したいものですね。

ニコとオスタかなりガラガラだった夜が続いたパレ・ガルニエだったけれど、さすがにシルヴィーの日とあって、サルはほぼ満席。熱烈なシルヴィーフアンたちの雄たけびに近いシルヴィーコールと拍手に包まれて、パリ国立オペラ座の失われたエトワールが観客に挨拶をする。私の「マノン」は今日でおしまい。シルヴィー、特にロランはもう一度見たい気はするが、ロモリのレスコーを二度と視界に入れる勇気はないし、「マノン」はやっぱり「マノン」にすぎない。長いんだもん。各幕、5分ずつ短くなるといいのにね。演劇性溢れるこの作品、音楽と衣装は極上だし、振り付けもいいのだけれど、いかんせん、厭きちゃう場面がちょこちょこある。

さ、いよいよ今シーズンも残すところ「ジゼル」のみ。カデールを一回、一度だけ踊るバンジャマンの日、それにレティティア&ニコを一度見られるといいかな。そう、バンバンは外せない。「ロワゾー・デュ・フー」で強烈な復帰を果たしたバンバン。あの火の鳥のインパクト、一生忘れないよ。ニコが完全にかすんだもん。涙が出たね、バンバンの見事な復帰に接して。アルベリッヒみたいなロマンティク役、バンバンにピッタリだ。ぜひぜひ見なくては。

ああそれに、アニエスもやっぱり見たいな。パートナーがジャン−ギーであっても。本来ならジョゼとで、最高の「ジゼル」を見せてくれるはずなのに、、、。春にわがままを言ってディレクションの不興を買ったジョゼは、罰としてアルベリッヒを躍らせてもらえなくなったんだそうだ。オペラ座首脳部って、変だよね。おかげでこちらは、優等生エトワールの代わりに、なんちゃってエトワールを見る羽目になる。ヤダヤダ。「ジゼル」来シーズンもたくさんやるから、何もチケットが取りづらいこの時期に頑張って見なくてもいいかも。とまあ、なんだか、今シーズンはすでに終わった?みたいな気持ちになってしまった今日この頃なのでした。

jeu.12 - mar.24 juin 2003(03年6月)
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