オペラ・ナショナル・ドゥ・パリ(パリ国立オペラ座)の2002−2003シーズンが終わった。
2002年3月に発表されたプログラムを見た時に、来シーズン一番楽しみな作品は、極上のカデールを楽しめる、エクの「アパルトマン」とマクミランの「マノン」、それにキリアンの「ベラ・フィギュラ」だなあ、って思った。シーズンが終わった今、一番よかった作品は?と問われれば、即答でノイマイヤーの「シルヴィア」。その後、「アパルトマン」、ベジャールの「火の鳥」と続くだろうか。今シーズンもまた、たくさんの感動と興奮をくれたオペラ座を、ちょっと振り返ってみましょうね。
9月−10月「プティ&ロビンス公演」5回
よく分からないうちに終わってしまったプティの「パサカイリ」はノーコメント。ステファン・ファヴォランとイザベル・シアラヴォラがよかったね、としか、言いようがない。ロビンスの「ザ・ケイジ」は、マリ−アニエスの妖艶さと、対する、エレとレティティアの雰囲気作りがまあまあよかったかな。ロモリばっかりでウンザリ。ストラヴィンスキーの音楽は最高だった。ロビンスの「アザ・ダンシーズ」。これはもう、マニュ!マニュ!マニュ!の一言に尽きた。ニコラはマニュほどのこじゃれ感は出せないし、ジャン−ギーは見なかったことにしよう。ゲランも悪くないけど、エレがとってもチャーミングでよかったね。相手がジャン−ギーでなければもっとよかったはずなのに、、。
そして、プティの「アルレジエンヌ」のジェレミーとニコラ。すごかったねー、ニコラの二日目とジェレミーの両日。久しぶりのニコラの会心の演技と、ジェレミーの底力を満喫。マニュ???ジェレとニコの二日目を見る前は、悪くないじゃん、と思ったんだけどねえ、、、。二人を見たあとじゃあ、分が悪い。
9月−10月「ラック・デ・シニュ」9回
長丁場の「ラック〜」は、なんといっても、一夜限りの公演となった、マリ−アニエス&エルヴェ・モロー&ヤンヤンの夜が極上だった。マリ−アニエスは、エトワール以外の何者でもない。あの腕の動き、あのリリックさ、あの感情的な演技、どれをとっても、アニエスに引けを取らなかった。ガル総長が引退した暁には、晴れてエトワールになるだろう。あと1年の辛抱だ。アニエスは、オディールは素晴らしいのだけれどオデットが今ひとつ。冷たすぎるよね、あの演技じゃ。デルフィヌには、空いた口がふさがらなかった。体力が落ちる、って、ああいうことなんだねえ。ゲストのザハロヴァはもちろんよかったけれど、一人勝手に踊ってるんだもん、ストーリーが違っちゃう。ま、パートナーがジャン−ギーだし、ロットバルトもカールだったもんねえ、しかたないか。
エルヴェ。こちらももう、紛れもない将来のエトワール。この夜、エトワールに任命されたとしても、誰も文句は言わなかっただろう。ロマンティックに憂い深く、素晴らしいテクニックをもってジークフリートを踊った。ジョゼが、なんだかただたんに間が抜けたジークフリートを踊ったのを何度か見たあとだっただけに、この夜はショッキングですらあった。まさか、エルヴェがここまでできると思ってなかったし。その後、ジョゼも改心して、なかなかいいジークフリートを演じたけれど、エルヴェの方が感動的だった。
カデールのウォルフガング&ロットバルトは、感動あるのみ。カールやウィルとは全く比べられないし、ヤンヤンともまた別に、深みと情緒に溢れた演技。特に1幕のウォルフガングのけれんみのある役作りは身に沁みた。
作品としては、1幕のコールの華やかさが、ヌレエフがこのバレエ団に残した資質を感じさせてくれる。他のバレエ団をほとんど知らないけれど、こんなコールを持っているところはまずないだろう。最高だね、パリのコール・ドゥ・バレエは。豪華絢爛、ヌレエフ作品の醍醐味を味あわせてくれる作品だった。
10月「カザノヴァ」2回
いまだに理解に苦しむプレルジョカフ作品。「ル・パルク」をよーやく愛でられるようになった今、3年ぶりの「カザノヴァ」はどうだろう?と、臨んだガルニエだったけど、やっぱりこの作品には???オープニングのソファのシーンはすっごくいいし、ラストもそれなりだけれど、長すぎる中間が??????????ロラン、ヤン・ブリダール、それにマリ−アニエスのよさを堪能できるのが救いかな。オレリーが出なかったのが、残念だよね。
11月「ロック&キリアン公演」3回
エドゥワール・ロックの新作、「アンドレオリア」は、理解できないまま終わっちゃった。ま、どーでもいいや。たーのしみにしていたキリアンの「ベラ・フィギュラ」をたった3回しか見られなかったのが、悔やまれる。しかも、カデールはうち1度だけ。現実世界を離脱し、神々しいばかりの雰囲気に包まれるこの作品のカデールは、気が遠くなるほど美しい。バンバンもアレクシス・ルノーも、カデールとは全く比べ物にならないもん、、、、。あー、残念だったー。またすぐに再演してくれるといいな。
この作品でもまた、エルヴェの実力を思い知らされる。あのダンサー、なんでこんな役まで踊れるんだろう?すごいよ。オペラ座の宝物だね。ジェレミーとセリーヌが素晴らしい!ミュリエルも雰囲気たっぷりで、この作品のために存在するダンサー。こちらもまた、オレリー不在のため、レティティアが彼女の役を踊るけど、んーちょっと役不足。ミテキちゃんはいいね。この作品が、パリ国立オペラ座のために振付けられたのではない、ということが、いまだに理解できないでいる私。だってこれ、ほんとにパリのダンサーたちにぴったりの作品なんだよ。キリアンの非現実的な美しさと空気の流れに、身も心も陶酔した。重ね重ね、たった3度というのが悔やまれる、、、。
12月−1月「パキータ」8回
なにを間違ったか、クレルマリがエトワールになってしまった、曰くつきの公演。引き続きのオレリー不在はがっかりだし、この役の彼女は最高!と皆が推したマリ−アニエスも怪我で離脱してしまい、踏んだりけったり。でもでも、アニエスの、びっくりするくらい素敵なパキータを何度も目にし、夜毎感動を味わう。いや〜、今までに見たどんなアニエスよりも、パキータを踊る彼女に惚れたね!かわいくってキュートでコケティッシュで最高だ!レティティアの、3度のトリプル入りフエッテにも熱い感動を覚えた。ヤンヤンのイニゴを見たいがために一度だけ目にしてしまったクレルマリはなかったことにして、、、。
男性陣は、なんといってもジョゼが最高!アニエスと、息のあった素敵な踊りを披露してくれる。「ラック〜」より、やっぱりこういう役のほうがあってるねえ、ジョゼ。マニュは精彩にかけてたし、ジャン−ギーはどーでもいいし、ジョゼの1人勝ち。ヤンヤン、カールのイニゴはまあまあだったかな。
パ・ドゥ・トロワのエマニュエルが強烈だった。カメラが入った日は、力を押さえ気味だったのがもったいない、、、。それでも、映像に残っただけ、良しとしなくちゃいけないね。楽しみだな〜、アニエス&ジョゼ、それにどーでもいいけどカール、そしてエマニュエル。早く映像で見たいものです。ストーリー的には子供だましだけれど、目を見張るような衣装の美しさと、テクニック披露のオンパレード的な2幕に興奮し、ついつい何度も見ちゃったね。次回はぜひ、マリ−アニエスとオレリーを♪
12月−1月「シルヴィア」12回
ノイマイヤー、大好きだ〜!!!!!「ソンジュ・デュヌ・ニュイ・デテ(真夏の夜の夢)」とこの「シルヴィア」、たった2つしか、彼の作品を見たことがないけれど、ノイマイヤーは私の神様になった。なんでこんなに心を暑くしてくれるんだろう、この振付家は!?音楽もいい、ストーリー性もいい、各人物の役作り、そして振り付けもいい。とにかく、どこをどうとっても素晴らしい!の一言に尽きた。「ソンジュ〜」の方が、さらに一段と好みだけれど、「シルヴィア」でもたっぷり感じることができる、ノイマイヤーの頭のよさというか、完成度の高い作品内容には、頭が下がる。
ダンサーに話を移せば、3人のアミンタはどれも極上。なかでも、マニュとエルヴェのアミンタは、感動のあまり夜毎涙を誘われた。ニコはちょっとアグレッシフだったよね。3人のシルヴィア。またまたオレリーの不在に泣かされたけど、エレが最高だった。久しぶりに、エレならではのよさを堪能。そう、こういうダンサーなんだよ、エレオノーラ・アヴァニャートって。昨冬の「ラ・バヤデール」での失敗以降、エレの最高の演技を見ていなかったけれど、「シルヴィア」でエレの魅力をたっぷり味わえた。レティティアは、まあまだ、若いから、、、。かわいかったし頑張ってたけどね。いいんだ、彼女はこれからだもん。長い怪我から復帰したナタリー・リケのシルヴィアもクールビューティーで素敵だったねー。2幕、あまりの美しさにうっとりしちゃう。好き〜。
そして、カデール、ニコラ、ジョゼによるアムール。もう!もう!!もう!!!カデール・ベラルビというダンサーのあらゆる素質に感動と興奮するのみだった。そしてニコラも全然悪くない。アミンタよりこっちの役のほうがあってる。ジョゼはダメだったねー。エレ&マニュ&ニコの配役でテレビ撮影が入るはずだったのに、グレーヴ(ストライキ)の影響を受けて中止になったのが残念極まりない。あれは映像に残すべき、素晴らしい夜だったのに、、、。コールの見事さも強烈。いやもう、大好きでした、この作品!一夜だけ仕事が入ってしまい、皆勤を逃してザンネンでした。
1月「ヌレエフ・ガラ」
ルドルフ・ヌレエフがパリ国立オペラ座に残してくれた数々の貴重な幸せを、心から感謝した夜。
2月−3月「ジュワイユー」4回
はっきり言って、バランシンはそんなに好みじゃないんだ。きれいだけれど、飽きる。カデールも「エムロー」ではかすんじゃう。柄じゃないもんねえ、こういう役。エルヴェがまたしてもお見事でした。カールとレティティアも悪くはなかったかな。マニュ&デルフィヌ、ジェレ&エレの「リュビ」が、しゃれててとっても素敵だったね。ほんとはデルフィヌの代わりにオレリーで見たかったけど。オスタに空き放題にされてしまったアレッシーがかわいそうだった、、、。マリ−アニエスが強烈。信じられない素晴らしさだった。
「ディアマン」では、およそ考えられうる最高のジョゼ&アニエスを堪能。すごいったらすごい!!!この二人のカップリングで「ディアマン」を見られる幸せはかなりのものだった。なんやかんや言って、楽しんだんじゃない(笑)。
2月−3月「テシガワラ&エク公演」7回
勅使河原さんの「エール」は、ミテキちゃんとジェレミーに陶酔するのみ。きれいな作品だけれど、私にはよく理解できなかった。
そしてエクの「アパルトマン」。3年ぶりの「アパルトマン」との再会に、初日の夜は、大興奮することしきりの私。バンバンの不在がちょっと残念だけれど、マリ−アニエス、カデール、アレッシー、ジョゼ、セリーヌの魅力が、熱い音楽とともにガルニエ中に飛び散った。ニコラがもちょっと気合入れてくれればもっとよかったのだけれど、文句は言うまい。眼前で繰り広げらる目くるめくシーンに体を熱くして興奮し、陶酔しきった。あああ、カデールってなんて素敵なんだろう。
5月「ラ・プティット・ダンスーズ・ドゥ・ドガ」4回
アハハハハ、間抜けな作品だなあ。ミュージカルみたい。アニエスとヤンヤンの素敵さに救われたものの、あとはもう、どうもこうも、、、。頭悪い作品だよね、悪いけど。それでも1幕のお稽古の場面は、私は好きだったな。音楽も。いずれにしても、Jが、これに出たくない、と言った気持ちはよーく理解できる。
5月−6月「ベジャール公演」9回
20年以上ぶりに再演された「ロワゾー・ドゥ・フー(火の鳥)」に、心震えた。ニコラの強烈な踊りにも体が熱くなったけれど、もうこのまま引退?と心配していたバンバンの見事な復帰ぶりがものすごかった。テクニックはもちろんだけれど、その微妙な感情の表現の仕方。まさに鳥以外の何者でもない。大好きなバンバンの復帰舞台に夜毎感激。「オピュスV」は、マリ−アニエスとアニエスの印象的な美しさ、エルヴェのあきれるほどに美しい肢体にうっとり。
「フラーズ・ドゥ・クワチュオール」。マニュにささげられた新作は、よく理解できないまま終わった。あんなに見たのにねえ。ただ1つはっきり言えるのは、マニュよりもジェレミーのほうがはるかに見ごたえがあったこと。
「マンダラン・メルヴェイユー」。ロランは素晴らしかった、でもカデールはさらに見事。あの帽子の被り方、あの表情、あの腕の動き。ああ、カデールって素敵だ、、、。アレッシー、マロリー、エルヴェ・クルタンの女装もお見事。日に日に女らしくなっていくアレッシー、そのままイヤになるくらい女っぽいマロリー、さすがの演技派エルヴェ、それぞれ素敵なお嬢役。ギャングのボスのヤン・ブリダ−ルが悪魔的で極上でしたね。来シーズンの「クラヴィゴ」が待ち遠しい。
5月「若手ダンサー公演」2回
若手を見て思ったのは、やっぱりプルミエやエトワールたちってすごいんだ、ということ。技術力の違いをまざまざと見せつけられた。とは言っても楽しかったけど。特に、エヴ&セバスチャンの「サンドリオン」、ジャン−ギーの新作を踊った超若手ローラ・エケ、そしてそしてドロテ。「チャイコフスキー・パドゥドゥ」、ほんとはマチューと踊るはずが、マチューの長引く怪我のため、オドリックと踊ってた。オドリックももちろんいいけれど、ドロテが強烈。若手ダンサー公演にでるようなものじゃないでしょう、彼女の踊りは。早ければあと5年、遅くても8年でエトワールでしょう、マチューとともに。
6月「マノン」7回
カデールのレスコーに陶酔し、オレリーの復帰に感動した。ジャン−ギー、ニコ、マニュと、ろくでもない、いやもう、信じられないほどつまらないデ・グリューたちを散々見たあとのロランに心癒されたっけ。エルヴェのデ・グリューが見たかったなあ。誰か、怪我してくれればよかったのに。
マノンは、オレリーに尽きた。ヴィシニョヴァ、シルヴィーという二人のゲストは、デ・グリューやコールとの息が今ひとつだし、デルフィヌはカリスマ不足、新エトワールさんのマノンは悪夢としか言いようがなかった。なにはともあれ、オレリーに再び会えた幸せは大きかったね。初日、彼女が舞台に出た瞬間の大拍手と喝采が忘れられない。カデールのレスコーも最高でした。
6月「若手振付家公演」1回
オペラ座のダンサーたちは、振り付けも手がける人も多い。カデール、ジョゼ、ニコラにジャン−ギーをはじめ、ニコラ・ポールやブルノー・ブシェもどんどん作品を出している。ジェレミー、ヤン・ブリダールなど総勢8人のダンサー振付家による公演、なかなか興味深かった。きれいにまとめられたマロリーの作品、それに「連獅子」からインスピレーションを受けたセバスチャンの、マリ−アニエスの1人作品が面白かったかな。見に来ている大勢のダンサーたちの反応がとっても楽しかった。
7月「ジゼル」2回
クラシック・ジゼルはあんまり好きじゃないんだ。混む時期だし、来シーズンに見ればいいや、とモラン&カデール、モラン&バンバンを1度ずつしか見なかった。ほんとは、カデールを2度見たかったのに、最終日、直前になってバンバンと交替。ちぇー、バンバン、悪くないけど、やっぱりカデールで2度見たかったよ。モランは雰囲気はジゼルにぴったりだけど、近くで見るのはやっぱりちょっとつらい、、、。最高だったと大評判のレティティア&ニコラを見逃したのが残念。マリ−アニエスのミルタ、ヤン・ブリダールのイラリオンも。ステファニーのミルタは正視に堪えられなかったし、エレもイマイチだった。イラリオンは、ロモリばっかりだったしさ〜。ま、いーや。しょせん、クラシック「ジゼル」だ。
とまあ、そんなこんなな今シーズン。楽しかったねー、素敵だったねー。ハンブグルバレエとNDTの公演を1度ずつ見たのを含めて78回、2つのオペラ座で幸せなときを過ごさせてもらった(一夜を抜かして、ね、、、)。来シーズンは、「クラヴィゴ」、「シニュ」、エクの「ジゼル」と「ドン・キショット」、このあたりを楽しみに、とりあえずはバレエ抜きの2ヶ月を乗り切ろう。
sep.2002 - juil.2003(02年9月〜03年07月)