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パリ国立オペラ座2003−2004年シーズンのはじまりです♪

パリ国立オペラ座2003−2004年シーズンのはじまりです♪

シーズン開幕作品は、没後20年になるジョルジュ・バランシンへのオマージュとして、「バランシン特集」。10月2日の初日は、デフィレ(ダンサーたちの行進)で幕を開け、「チャイコフスキー・パ・ドゥ・ドゥ」を特別上演。全3作品の中でエトワールとプルミエが総出演という、とても華やかな公演になる・・・はずだったんだけど、これがまた、相変わらず怪我人続出のオペラ座さん。初日を前に、男性エトワールを中心にバタバタと故障者が出て、それはもう、大変な状況になってしまった。

初日の特別作品「チャイコフスキ〜」は、もともと、オレリー&マニュのカップルが予定されていたのが、まずマニュが戦線離脱。困ったときの代役はいつだってオレさ、と、マニュの代わりにジャン−ギーの名前が配役表に載ったのもつかの間、珍しくもジャン−ギーも怪我してしまい、さよ〜なら〜。だったらニコが踊ればいいものを、いまだに奥さんからのダメが入るのか踊る気にならなかったか、このハレの日にオレリーの横に並ぶのはエルヴェ・モローとなった。たった2日で作品をマスターしたエルヴェがどんなだったのか、私は見に行かなかったので知らない。皆に感想を聞くと、オレリーのすばらしさを絶賛するのみ。エルヴェが悪いはずないので、いかにオレリーがすごかったか、と言うことだよね。

忙しくて、初日と2日目を逃し、週が変わってようやく、私のオペラ座事始。

「バランシン」、そんなにファンじゃないし、なによりも、カデールが怪我してしまい、配役から名前が消えちゃってるので、あんまり熱も入らない。そりゃまあ、バランシン・ダンサーとは言わない。でも、3作品全部に毎夜のように出る予定だった彼に思いを馳せながら、楽しみにしてたのに、、、。数日前の“パスポート(公開レッスン)”でカデールの怪我の話を聞いて以来、もうほんとに投げやりになってしまっていた「バランシン特集」は、ジョゼとアニエスという、奇跡のようなバランシン・ダンサー二人をはじめとする何人かのダンサーたちのおかげで、それでも、かなり心を熱くしてくれる。

6日(月)

3ヶ月近くもガルニエの椅子に座ってなかった。恋しかったよ。数日前からパリ入りしている、ドイツ人のバレエ友達に先週の公演の話に耳を傾けながら、照明が落ちるのを待つ。

ヤンヤンとオレリーのファイナルまずは、「サンフォニー・アン・ユルト」。ほんとは、「パレ・デ・クリスタル」を上演するはずだったのが、なぜがこの作品に変更。見てみたかったな、「パレ・デ・クリスタル」。まあでも、いいや。何年か前に、シュツッツガルトで何回か見たことのある「サンフォニ〜」は、ビゼーの音楽がとても好きだ。

第一楽章。ナタリー・オーバン、ロレンス・ラフォンと、お気に入りのスジェ二人を中心にコールの女の子たちが美しいフォルムをさらした後に、何が悲しくてこの人で私の今シーズンを始めなくちゃいけないのか分からないけど、オスタの登場。嬉しそうに誇らしげに、小さな体をブンブン振り回してる。勘弁してよ、、、、。

挫けそう、と椅子にうずもれているところに、バンバンの登場。おー、バンバン。元気そうじゃない。怪我しないで頑張ってるんだね〜。と、バンバンを眺めているうちに、どんどん目を大きくなってしまう。すごい、バンバン。どうしたの?はっきり言って、バンバンは、バランシン向きの体型をしていない。オスタ同様に。体系的ハンディがあるはずなのに、踊りがものすごくいい。華麗な足さばき、高い跳躍。エレガントに柔らかく、そしてコケティッシュに舞う。正直、期待してなかった、こんなにすごいバンバンを。

でもこれには、訳がある。シーズン早々飛び込んできた、ものすごく笑える、というか驚きの話題は、バンバンの新しい彼。オペラ座ではいろいろあって、なんだか不幸でかわいそうなイメージが染み付いてしまっていたバンバンの新しい彼は、世界が認めるバランシン・ダンサー。この第一楽章のパートだって、彼が第一人者。彼が教えたんだね、バランシンのエスプリと踊り方を。でなければ考えられないよ、こんなに巧みにバランシンをものにするバンバンなんて。

バンバンと彼の姿は、初日に目撃されている。彼を愛してやまない私のバレエ友達は、パリなんかにいるはずのない彼の姿に驚愕し喜び、そして、バンバンと親しげに並んだ彼を見て絶望した。この夜も彼はガルニエに姿を見せた。刈り込みすぎた短い髪とオレンジ色のいただけないブルゾンにもかかわらず、彼は素敵だ。

2度しか踊ったのを見たことのないダンサーだけれど、私も彼の実力は大いに評価している。けれんみが、ある。いつかパリで踊って欲しいよね。初日は、全身黒ずくめで、それは美しかった、と、友達が横でさらに嘆いている。バンバンが踊った一作目が終わると同時に、ガルニエを後にする彼。

いや〜、それにしても、どこでどう知り合ったの?怪しいのはどうやらミラノらしい。遠距離恋愛、ガンバレ!この1年余り、悲劇のイメージが付いてまわっていたのを見続けた後で、あんなに幸せそうな笑顔ですばらしいバランシンを踊っているバンバンを目の当たりにしていると、バンバンの彼を崇拝しきっている友達には悪いけど、よかったねえ、と思ってしまう。

そんな、すばらしいバンバンを堪能した後は、オレリー&ヤンヤンによる、アダージョ。

ヤンヤンとオレリー。美男美女オレリーが美しい。やせちゃったね、オレリー。「マノン」の時には気づかなかったけど。腰周りがグンと細くなって、バランシン向きになってる。ヤンヤンの相変わらずちょっとぐらつくサポートに負けず、優雅に清楚に、ミスのないアダージョを美しく美しく踊る。いいね〜っ!オレリー、好き。本格的に復帰してくれて、嬉しいよ。やっぱりオレリーはオペラ座の花。

ヤンヤン?いつもどおりに、いい男です、うん♪

続く第3楽章は、エレ&ジョゼ。悪いけど、ジョゼの一人舞台だ。エレにジョゼの相手を張れ、って言ってもそれは無理。「マリ−アニエス&ジョゼを見なくちゃダメだよ。スゴイから!」と友達がささやく。見なくても分かるわ。

それにしても、ジョゼって、どうしてこうまでバランシンを堪能させてくれるんだろう。マッチのように細い体躯から伸びる長い手足が、奇跡のような美しさで空を流れる。バランシンが生きていたら、感動のあまり涙したことだろう。強烈だ。頭がくらくらする。

エレ、ねえ、、、。かわいそうだ、ジョゼの横で踊らされて。とても好きなダンサーなのだけれど、どう贔屓目に見ても、ごく普通。こーいうのじゃないんだよね、エレって。フォーサイス、ノイマイヤー系でないと、彼女のよさは分からない。スランプが長くてかわいそうだ。早く花開く時期が来るといいね。

そしてラストのアレッシーに身も心もとろける。たった3分くらいしか続かない(ように私には思える)アレッシーのパート。カデール不在の悲しみを、大いに慰めてくれる。これ以上ないくらいの愛くるしい笑顔で、こともなげにヒョイと、空を高く長く跳ぶ。空気のように軽い跳躍、音のしない着地。イタリア的と言うのか、フランスよりもさらにコケティッシュでチャーミングな表情と振る舞い。くうぅぅぅ、なんでメラニーが、あんな素敵なアレッシーの笑顔を受けてるのぉ〜?邪魔、メラニー、どいてください。

バンバンで盛り上がり、ジョゼで高揚した心が、アレッシーの踊りで、一気に感動に打ち震えてしまう。

全員そろってのラストシーン、幸せに表情を輝かせるバンバンの軽やかな動き、神様としか言いようのないジョゼの完璧な動き、愛くるしいアレッシーの動き、それに、オレリーやヤンヤンが重なり、もう、どこを見てよいのか分からないまま、フィナーレが終わり、気づくと手が痛いくらいに拍手をしている自分がいる。

2作品目は「フィス・プロディグ(放蕩息子)」。3年前に何度か見てるね。カデールがすばらしかった〜。怪我で退いた彼の代わりに、ニコが死ぬほど踊ることになった。

どしたの、大丈夫?奥さんが切った?と思わず聞きたくなる様な、髪形でニコの登場。ひゃ〜、すごいや〜。ま、いいや、踊りに集中しましょう。その踊り。まあ、こんなものかなあ。カデールの面影が頭に残っている以上仕方ないのだけれど、3年前の方が、ニコ、よかったよねえ?なんていうんだろう、演技がどんどんわざとらしくなっていく気がする、最近のニコ。技術も、前回の方が冴えていたような、、、。最近、ニコにあまり感動できなくなっている自分が悲しい。

3年前、怪我で踊れなかったマリ−アニエスを、とても楽しみにしていたのだけれど、こちらもイマヒトツ。あれ、どうしたの、マリ−アニエス?もっともっとパワフルに熱い感動をくれるはずなのに、、、。やっぱりこの役はアニエスがベストなのかなあ。

作品自体がろくでもない上に、主役二人もほんの少し完璧でなかった今夜の「フォス・プロディグ」。

ロランと女の子たち。後ろの方にエルヴェとナタリーラストは、「レ・カトル・タンペラマン」。直訳すると4つの気質、英語で、フォー・テンペラチャー。メランコリー、熱い血、冷淡、怒りを表現したオムニバス。

プロローグ部分のエルヴェとナタリー・リケの美しさにうっとりした後、まずは、ロランの実力に感動。メランコリー、本当なら、カデールの役だったのに。カデールだったらこう動くだろうな、こう表情を作るだろうな、と、愛するダンサーを重ねながら見てしまうが、やっぱりロランは偉いダンサーだ。センスがいい役者。年を重ねた偉大なダンサーの醍醐味を味わう。

レティティア&ウィルの血の気の多い踊りは、ノーコメント。レティティアは、上手だけれど、やっぱりバランシンには無理がある、体型的に。ウィル?見てない。

そして、またもやジョゼに感動の嵐。冷淡を踊るジョゼを目の当たりにし、背中に戦慄が走る。なんだこれ?なんで?どうして、こんな動きが生み出せるの?息が止まりそうだ。ありえないような、なんだか怖いくらいの動きを、ジョゼがゆるゆると生成していく。気が遠くなる。

怒りは、カレン・アヴェルティー。何も期待してなかったけど、ほんとに何もない踊り。仕方ない、彼女に何を期待しろと?じっと我慢して、マリ−アニエスの踊る日を待とう。

バランシンにしては、ずいぶん感動をくれた夜。振付家の実力というよりは、ダンサーの実力だと思うのだけれどね(笑)。なにはともあれ、決して悪くないシーズンオープニングでした。

8日(火)

アニエスとジョゼがいてくれるおかげで、私はどれほどバランシンを愛せるようになったか、と言う事実に、改めて気づく夜。

「サンフォニ〜」。昨日ほどの精彩のないバンバン。仕方ない、今夜は彼が客席にいないから。

ドゥミ・ソリストで踊る、カールとエルヴェを比べて、笑い興じる。方やちょっとお尻の肉が取れて、一段と軽く研ぎ澄まされた動きを見せるプルミエ・ダンスール。方や、相変わらず重力に逆らえず、なんだかもったりした動きを見せるプルミエ・ダンスール。どっちがどっちでしょう(笑)?両者とも、オペラ座が期待する、未来の王子様エトワールたちです。

第2楽章。アニエスと、そのパートナー第2楽章、なぜかもう怪我が治ってしまったジャン−ギーにリフトされながら、アニエスが、この世のものと思えない美しさでバランシンの魅力をビシビシと伝えてくる。ふわあぁ〜うつくしい〜。こんなにも美しいものが存在していいのかしら、と思うくらい、とにかく美しい。オレリーだって、すばらしかった。でも、こんなアニエスを見てしまうと、やっぱりバランシンは、アニエスに敵わない、と思ってしまう。なんて足、なんて腕、そしてなんて首と表情をもって、リリックに感情を出すのだろう。ゆるゆると流れるアダージョに乗って、一つ一つの動きが完璧だ。あの柔らかな音楽と動きから、どうしてこんなに熱くたぎるような感動を与えてくれるのだろう。眼前で繰り広げられる、まさに息を呑むような美の世界に恍惚とする。

「サンフォニ〜」ファイナル。左がアニエス、右がマリアニエスとジョゼ一転、第3楽章では、マリ−アニエス&ジョゼの、どこまでも華やかでダイナミックで技術の高い世界を堪能。ゴメンネ、エレ。でもやっぱり、エレとじゃ全然違うんだよ。目くるめく興奮、としか言いようのない、大型カップルの、火花が飛び散るような強烈な動きに感動の嵐。

今日はドロテと一緒に踊ったアレッシーも一段と輝いてる。しかし、ドロテ、スゴイよなあ。齢19にして、この貫禄。彼女が、コリフェになったばかりのダンサーダなんて、誰も思わないだろう。オペラ座の至宝だね。

「フィス・プロディグ」でも、アニエスの魅力に存分に浸る。やっぱりこの人だね、バランシンは。ニコも、今日のほうが全然いい。

そのニコが、今夜は「カトル〜」の冷淡をジョゼに張って踊る。友達が、「覚悟しておきなね。ジョゼとはま〜ったく違うから」と言っていたけれど、思っていたより(心配していたより)は、見ごたえある踊りを披露してくれる。もちろん、ジョゼとは比べられないけれど、きっちり感動はある。後で友達が、「先週より、全然よかった。昨日のジョゼを見て勉強したんだよ」と。多分ね、私もそう思う。

メランコリーを踊る、ヤン・ドゥーが、これまた泣かせる。なんだかねえ、彼がこういう、ぼんやりした、ほとんどかわいいといえるくらいの表情で踊ると、頭の中にある「クラヴィゴ」のカルロスや「マンダリン・マルヴェイユ」のギャングを思い出して、混乱してしまう。なんで、あんな悪魔的な冷酷な顔が、こんなゆるゆるで切ない顔になっちゃうの?しっとりと思案深げなヤン・ドゥーの踊りが胸を突く。好きだ、このダンサー、とっても。

今夜はオレリーがウィルのお相手。いいね、オレリー。凛とした美しさと気品を持って、冷静の中に熱い血が流れている、という雰囲気。ほんとにやせちゃったねえ。

ジョゼの冷淡が恋しかったけれど、これはこれでなかなかよい夜でした。

9日(木)

3度も続けてオスタを見るのは勘弁して欲しい。グッタリしながら、オスタを視界から外し、バンバンを見続けたあと、今日もまた絶好調なアニエスを、今夜はヤン・ドゥーをパートナーに堪能。正直言うと、ジャン−ギーとの方がパートナーシップはいい。仕方ない、ヤン・ドゥーとの練習時間はほとんどなかったはずだし、ジャン−ギーは、女の子のリフトはうまいもん。

第3楽章は、今夜はカールがエレと踊る。配役表の名前を見ただけで笑っちゃったけど、本番はもっと笑えた。いやはや、ジョゼを見たあとというハンディがあるにしても、カールって一体(笑)。と、笑いこけていたら、大きな拍手とブラヴォがカールに飛んでびっくりする。「家族が来てるんだよ、きっと」と私。「そうだね、いとことかも総出なんじゃない」と友達。アントラクト中、フォアイエには、嬉しそうなカールの笑顔と彼を取り囲む10人ほどの人々。ほんとに家族友人がそろって見に来てたんだ〜(笑)。

今夜は、マリ−アニエス、「フォス・プロディグ」、とてもいい。やっぱりこうでなくっちゃね、マリ−アニエスは。オペラ座通の知り合いに後で聞いたところによると、背中痛めていて調子よくなかっただって。これで、月曜日の踊りに納得。よかったね、元気になって。このまま怪我せずに、「クラヴィゴ」に臨んでね。あなたのいない「クラヴィゴ」は、ヤン・ドゥーのいない「クラヴィゴ」と同じくらいつまらないものになっちゃう。

「カトル〜」カーテンコール。オレリーとヤン・ドゥー「カトル〜」では、再びジョゼの奇跡のような踊りに夢中になり、ヤン・ドゥーにしんみり感動し、ふむ、バランシンも悪くないかもね、という思いを新たにする。

相変わらず、アヴェルティーの怒りを見なくてはいけないのには辟易するけど、いつかきっと、マリ−アニエスを見られる日を楽しみにしつつ。

そんなこんなな、シーズンのオープニング。カデールの不在はアレッシーがどうにかこうにか慰めてくれ、ジョゼとアニエスのバランシン・ダンサーとしてのすばらしい資質に、改めて感動。春の「ディアモン」でも思ったけれど、彼らがいなかったら、いまだ私は、バランシンのよさを発見できずにいただろう。

6.8.9 oct. 2003(03年10月)
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