![]() |
「バランシン&ロビンスの夕べ」マニュ&オレリー、ニコ&エレのすばらしさに超感激。バランシンのよさを、ピュス、初めて実感。 |
怒涛の12月が始まる。 すごいよ、ほんと。師ならず、ダンサーが走り回る12月だ。ガルニエとバスティーユ合わせて公演が3つ、合計上演数は29にも及ぶ。さらにコールの子たちには、男の子のスジェを抜かして、コンクールも待っている。今年は23日だって。まさにマラソンバレエ月間。みんな、怪我だけは気をつけてね。踊る方も大変だけど、見るほうも大変だこれは。 先手をきって、まずは1日から「バランシン・ロビンスの夕べ」がスタート。生誕100年だかなんだかで、今シーズンはバランシンが優遇されている。バランシン3点、ロビンス1点の作品集を見に行く。 1日(月) この公演の初日に間に合うよう日本から戻ってきた甲斐があったねえ!公演後、うっとりしながら、ガルニエの階段を降りる。 オープニングは、バランシンの「コンツェルト・バロッコ」。なにがいいかって、まず第一に音楽。バッハ、好き〜。BWV1045「2本のヴァイオリンと弦のためのコンツェルト」、バッハのなかでもとりわけ好き〜。そして、パリのオケ、弦は決して悪くない。と、既に音楽的に大満足。
横に立つレティティアの体の線が重たげなのが、ほっそりとしたカリンを一層際立たせているのかもしれない。かわいい、レティティア、とってもね。キュートにチャーミングに踊ってる。しかしどう贔屓目に見ても、体がバランシン向きじゃない。仕方ないよ、レティティアのせいじゃない。音楽に遅れているわけじゃ決してないのだけれど、なんとなくもたついた感じに見えるのは、体の線が丸いからだろう。テクニックはカリンよりもやっぱりいいしかわいらしいのだけれど、ちょっと違うんだよなあ、この振り付けには。ロランとの絡みはとてもよいのだけれど、カリンと踊るシーンは、どうしてもカリンに軍配が上がる。 「どう?カリン、すばらしかったじゃない!?」カリン大好きな友達が、嬉しそうに目を細める。初めて彼女に同意する自分がなんだかとっても不思議。 ロランが、心に沁みる。いや〜、いいですねえ。このカンパニーの中では、私にとっての最高のバランシン・ダンサー(男性編)。そりゃ、ジョゼもすばらしいけれど、ロランの独特の空気感というかけれんみがたまらなく好き。しかもなんてったって、ロランはまっとうに美しい!初めて見たバランシン作品が、ロランの「アポロン・ミュサジェット」だったのも、影響しているだろう。 バッハの、切ないくらいに美しい旋律を身にまとって、カリンが、レティティアが、ロランが踊る。コールの女の子たちが繰り広げる、シンメトリーで幾何学的に美しいラインにもため息。なんだか、怖しくきれいなものを見ている気がする。バランシンて、こんなによかった?
怪我で10月を棒に振ったマニュの、今夜が今シーズンのデビュー。「やあやあ、みんなお待たせっ!僕だよ、マニュの登場だよっ!僕がいなくて、寂しかったでしょっ!」とばかりに、全身から光を輝かせて舞台に現れるマニュに、普段だったらちょっと引くのだけれど、今夜は彼の魅力にどっぷりとおぼれる。
対するオレリーが、これまた泣きたいくらいにいい!なんて美しいんだろう、この女性は。一段とまたきれいさを増した気がする。上品にコケティッシュな笑顔を漂わせて、マニュに身を任せるオレリー。腕のラインの美しさにハッとする。こんなに腕、きれいだったっけ?すごくエレガントで表情豊かな腕。痩せちゃったオレリーの魅力をまた1つ発見。彼女のオデットをいつかぜひ、見たいものだ。テクニックも完璧、風貌も完璧。やっぱり私のエトワールは、アニエスではなくてオレリーだなあ、としみじみ。 マニュとのハーモニーもすばらしく、仲良しエトワールカップルが繰り広げる、あでやかできらびやかな世界に、ただただ恍惚とするのみ。この作品、他に2組のエトワールカップルが踊る予定。ジョセ&アニエスは、どういう風に踊るか、大体想像つく。そりゃもちろんすばらしく質の高い踊りになるだろうけれど、マニュ&オレリーが手と足の先から発した宝石のようなきらめきはきっとないだろう。レティティア&ジャン−ギーじゃあ、どう考えても役不足だし。ま、どんなものになるか、楽しみにしよう。
どこまでも柔らかでひっそりとした動きが支配する中で、印象に残るのは、ダンサーたちの表情と空気支配力。こういう作品では、エレのすばらしさを実感できるんだ。頭の傾げ方、視線の向け方、髪を振り上げるしぐさ、そしてなによりも、エレの体全体から漂う、その舞台センスのよさに、目がすっかり釘付けになる。なんて神々しい美しさを持っているんだろう、、、。現実世界を離脱して、どこか神秘的な空気に包まれるエレ。ひれ伏したくなるような美しさ。 ニコもいいんだな、これが。今シーズンはすでに、もういいよ!というくらいニコを見てきたけれど、しみじみよいと思えたのは今夜がはじめて。髪、伸びてきてよかったねえ。10月はひどかったもんね(笑)。純粋に柔らかな体の動きと表情、そしてエレとのニュアンスたっぷりな動きだけで、こちらの心を揺さぶる。エレとの相性がこれまた完璧で、ドビュッシーの、どこまでも高みに登っていけそうな恍惚感のある音楽を背景に、心からうっとりする幸せをくれる。もう、他のカップルは見たくない。両方ダメ、もしくは片方ダメ、なカップルばかりだもん。ニコ&エレを超えるカップルがいるはずない。二人が紡ぐ、非現実的に美しい世界を、しっかりと脳裏に刻む。 ラストは、バランシンの「セレナーデ」。 バランシンて、こんな感情的にドラマティックな作品も作るんだ?チャイコフスキーの大好きな曲の1つ「弦のためのセレナーデ ハ長調」に合わせて繰り広げられる舞台に、幕が開いた瞬間から心奪われる。幻想的でゆかしい動きの中、アニエスがひときわ映える。
ラストシーンが暗闇に溶け込み、感動が体中を走りぬける。すごくいい公演だ、期待していたよりもずっと。初めて、ジョルジュ・バランシンに、心から感動した夜になる。ロビンス?彼はもともと大好きよ♪ 3日(水) レティティア、ノルウェン、ロランによる「コンツェルト・バロッコ」は、ロランに相変わらず首っ丈。レティティアも少しずつよくなってきてるよね。目が慣れてきたのかな(笑)。ノルウェンは可もなく不可もなく。久しぶりに舞台で見るけれど、いまひとつ輝きがない。好きなんだけどなあ。 コールの中では、やっぱり、体の線がきれいなダンサーが目立つ。イザベルとセリーヌが抜き出るのは仕方ないよね。お二人とも、本当に手足の長さが素敵だね。 「チャイコフスキー・パ・ドゥ・ドゥ」のマニュ&オレリーは、より一層脂が乗り、信じられないほどスゴイ踊りを披露してくれる。目くるめく感動、ってこういうこと?オレリーの5回転ピルエットやマニュの高い高い跳躍に、会場がどよめく。いやあ、お見事! エレとニコの「アフタヌーン〜」は、いよいよもって、凍った美しさと静謐な情緒をかもし出していて言うことなし。 ラストの「セレナーデ」、配役が変わってしまい、マリ−アニエス&デルフィヌのところが、ナタリー・リケ&メラニーになる。ナタリーはすばらしい。凛としたドラマティックな役を、マリ−アニエス以上にバランシンらしく踊る。メラニーは、相変わらず見てられない。ブンブンチャキチャキと、作品全体に流れる夢のようなリリックさを全く無視して好き勝手に踊ってる。動いてる、と言うほうが的確?なんとかしてほしい、、、。デルフィヌ、戻ってきてよ〜。 4日(木) 第二配役のスタートです。「コンツェルト・バロッコ」は、今日は、オレリー&マニュ、それにカリン。う〜ん、オレリーがよくわからない、、、。笑わないんだ、踊るときに。特に前半。カリンやコールの女の子たちがニッコリ笑いながら踊る中、オレリー一人がわりと固まった表情で踊ってる。しかも、体の動かし方が、よく言えばエレガントに柔らかく、悪く言えばダラダラとメリハリがなく。どっちがほんとなのかは分からない。でも、昨日までのレティティアもニッコリとシャキシャキ踊っていたし、周りとのハーモニーを考えると、やっぱりオレリーも小気味よく踊った方がいいんじゃないかなあ、と思う。オレリーなりの解釈なんだろうけれど、ちょっと浮いてる、他の女の子たちから。 マニュは、疑問点なくううううう〜ん、、、。違うんだよなあ、ロランと。なんだろう、やっぱり余計な動きが多すぎるというか華がありすぎる。つかみそこなったオレリーの指を求めて自分の指をひらひらさせてみたり、妙に目に付く動きが多くて、バランシンのスマートでサラリとしたシンプルな美しさに、引っ掛かりを残す。チャイコフスキーの方は最高だったのに、、、。音楽の問題もあるかもね。彼らは明らかに、内に内にと瞑想していくバッハよりも、高らかに喜び歌うチャイコフスキーのほうが柄に合ってる。 で、その「チャイコフスキー・グラン・パ・ドゥ・ドゥ」は、ジャン−ギー&レティティア。レティの極上テクニックと、こちらもへたくそでは決してないジャン−・ギーに、それなりに期待していたのだけれど、結果は???? レティ、調子悪いねえ。もっとも、初日はいつもあまり調子のよくないダンサーダけれど、レティならではの、爆発的なテクニックの高さが見られない。ピルエットだって3回くらいで終わっちゃうし。なにより、オレリーが持っているカリスマ性というか体から発するオーラがない。う〜ん、もちょっとがんばれ、レティティア。後半、楽しみにしてます。 ジャン−ギーにはひっくり返る。あまりのひどさに。情緒や面白み、舞台センスなどは全くないけれど、最悪テクニックだけはまともなはずのジャン−ギーなのに、マニュと比べると、なんだこれ?の踊り。これに拍手をする人たちの気が知れない。マニュやジョゼがオペラ座の稀有なエトワールであり、ジャン−ギーはつまらないエトワールであるのはよーく承知してる。ゆえに特に期待はしていなかったけれど、これほどまでにひどいとは。なんだか、気分が悪くなってくる。ああ、マニュ&オレリーが見たい、、、。 その気分の悪さは、「アフタヌーン〜」で頂点に。 カール&エミリー・コゼットの金髪美形カップル。カールはまだいい。なんといっても顔が美しいし、この作品、美しさが物を言う。そういう意味では、ニコはとても偉いよね(笑)。この役、カールの他は、ヤンヤンとエルヴェという、オペラ座きってのいい男たちが踊るんだし。ニュアンスにも存在感にも確かにカールは欠けるけれど、見ていて、始末に終えない、というものではない。少しずつ成長しているのがよく分かる。 問題は、コゼットだ。どうしちゃったの?2年前、いくらなんでも、こんなにひどくはなかった気がする。頭のてっぺんからつま先まで、W通俗的“という言葉がよく似合う。ただ単に舞台に入り、体を動かして、そして出て行くだけ。なんのロマンもリリック性も美しさも感じない。髪型もどうにかした方がいいよ。あまりに俗っぽくて現実的過ぎる。この作品はもっともっと夢心地に包まれるべきだ。ロビンスが見てたら怒るよ、これ。ほんっとに幻滅する。やだなあ、コゼット、たくさん踊るんだよね、、、。
いやもう、「セレナーデ」、本当にいいね。音楽も振り付けも。思わず敬虔な思いにかられる、それはそれは美しくロマンティックな作品に、心がじんわりととろけていく。マリ−アニエスやナタリーが主役を踊る日をぜひぜひ見たいな。この際、相手には目をつむって。
|