top
「ジゼル」

クラシック「ジゼル」が始まる。

全16回と長丁場の公演は、タイトル・ロールを踊れるダンサスーズが不足。エトワールたちがこぞって踊りたがる役だけれど、その女性エトワール、オバサンとチンクシャがお腹にベベを抱えているので、踊れるのが3人しかいないんだもんね、ちょっと苦しい。もっとも、踊れない2人が好きでない私にとってはいたってケッコーな事態なのだけれどさ。というわけで、ゲストが2人も。ボリショイからお馴染みスヴェトラーナ・ザハロヴァを、ロイヤルから若手プリンシパル、アリーナ・コジョカルを呼んで、面子をそろえた。5人が3回ずつ、さらに一日だけ、プルミエールでただ1人、メラニーがなぜか躍らせてもらえることになり全16回。ほんと、人材不足だなあ、パリ。

クラシック「ジゼル」、作品として全然好きではないけれど、音楽がよいのと、配役のよさにつられて、ガルニエに来てしまう。

2日(月)

初日を飾るのは、美しきオレリー&ニコラのカップル。そもそもジャン・ギーと踊る予定だったオレリー。オレリーのジゼルは死ぬほど見たいけれど、ジャン・ギーのアルベリッヒは間違っても見たくない!とこの配役は行かない予定にしていたのが、ジャン‐ギーが怪我して、パートナーがニコに変更。神様ありがと!オレリー&ニコというカップルをついに、ようやくついに見ることが出来る。

オレリー、なかなかよいね。正直、ちょっとだけ固いかな、という気がするけど、初日だし仕方ない。後半どんなによくなるのか、今から楽しみ。ぜひもう一度観なくては。テクニックすごいね。夏に、モランのジゼルを2度見たけれど、こうまでテクニックが違うかねえ、としみじみ。でもね、モランのジゼルとしての演技は、私とっても好きだった。カデールとバンバンという、超素晴らしいアルベリッヒを相手に、演技面ではとてもよかったんだよね、モラン。

マーガレットの花占いシーン。オレリー、かわいいー!村娘にしては、ちょっと美しすぎるのかね、オレリー。ま、でも、何も文句はないけどさ。力強さと柔らかさを兼ね備えたテクニックが見事。アルベリッヒが好きで好きでたまらない、という役作りも好感度大。さすがはオレリー・デュポンです。

ニコラっち。テクニック的に完璧だ!2幕のヴァリアシヨン、それに続く、なんていうのあのテクニック?同じ場所で飛びながら足を細かく前後させるの。アントル・シャ?床じゃなくてトランポリン?と思うくらい高くしなやかな跳躍と細かくきれいな脚の動きに目が点。すご〜い!相変わらず、技術は絶好調だね、ニコ。でも演技はイマイチだなあ。

アルベリッヒのフィアンセとは知らず、幸せぶりをバチルドに見せるオレリ3〜4年前にカデールとロラン、昨シーズンにカデールとバンバンしか観ていない私はつまり、極上アルベリッヒしか体験していなかったことになる。彼ら3人の、とろけてしまいそうな1幕の放蕩王子ぶりと、涙なしでは見られない2幕の悲劇性がイメージに残っている目には、ニコラのアルベリッヒはイマイチ。特に1幕。村娘を軽い気持ちで誘惑するカザノヴァ的王子の役が全然出来てない。ナイーヴで朴訥、ジゼルをしっかり愛してる恋する男、みたいじゃない、これじゃあ。そういう役じゃないでしょう?お顔の作りもチトきつい。恋敵イラリオンが、演技はどうしようもないけれどお顔だけは美しいカールがやるもんだから、傍目には、イラリオンのほうが全然いい男じゃない?になっちゃう(笑)。ロモリと組めばよかったのにねえ、ニコ。

極上ミルタを踊ったデルフィヌデルフィヌのミルタははまり役。期待どおりに美しく、期待通りに神秘的。ああ、いまからエレの出来が心配だ。エレ、ダメなんだよね、こういう役。ジゼルのほうがあってると思うのになあ。いつかエトワールになって踊る日を楽しみにしよう。

バンバン&メラニーのパドゥドゥバンバン&メラニーのパ・ドゥ・ドゥはイマイチ。メラニーには何も期待しないが(確かに上手いので、こういう役ならOKかも)、バンバンがイマイチ。バンバン、こういう感情と無関係でテクニックのみを見せる役って合わないよね。アルベリッヒをやらせると見事なんだけど、、、。今回は、一度だけ踊るけれど、相手がメラニーとあっては、さすがに見る勇気はない。夏のイメージを胸に、今回はあきらめるよ。

夏に比べ、コールがめちゃめちゃよい。オドリック、マチュー、エマニュエルを擁するヴァンダンジェは、誰を見るべきか困っちゃうし、女の子たちも、ミリアムもドロテもエヴもいるし。夏の配役はいったいなんだったんだろう、、、?

とまあ、そんなこんなな初日の「ジゼル」。人気作品なだけに、この先どれくらい見られるか分からないけれど、出来れば全配役観たいなあ。夏に見逃したレテティア&ニコにも興味あるし、アニエス&ジュゼも外せない。ロラン&ザハロヴァだって、これが最後になるはずのロランのアルベリッヒを堪能したいし、マニュ&コジョカルは、皆がコジョカルは見るべき!と言うので、やっぱり観ておきたい。マリ‐アニエスのミルタもぜひとも見たいし、アレッシー、エマニュエル、ミリアム、ドロテらのパ・ドゥ・ドゥはマストだよね、やっぱり。チケット取り、がんばろっと。

4日(水)

ニコとオレリー。心震えるアダージョのパドゥドゥオレリー&ニコの二日目です。いよいよもって絶好調なお2人に、脇役たちもさらに素晴らしく、会心の夜になる。

オレリー、初日に比べてやっぱり肩の力が抜けてきて、それはもう、胸にぐっと来る演技力。1幕最初のあどけない純真な娘役もかわいければ、1幕ラストの悲劇性には胸が痛むばかり。2幕なんて、ひたむきな愛情がビシビシと伝わってきて、目がウルウルウルウル。ああオレリー、なんて素晴らしいのでしょう。復帰してくれて本当にありがとう。

ニコの技術もさらに磨きがかかって、背筋に悪寒が走るくらい。1幕の演技もまあそれなりによいけれど、2幕の技術ときたら、信じがたいものがある。アントルシャなんて、息が止まったね。おかしいよ、あんなに飛べるなんて。ダンスシューズの裏にバネつけてるんだね、きっと(笑)。と、疑いたくなるくらいのものすごい素晴らしさ。

残念ながらこういう技術はカデールやバンバンでは歯が立たない。でもね、やっぱり彼ら2人の、絶望と後悔と深い哀しみに彩られた2幕の演技と、指先からつま先まで女を翻弄する誘惑者を演ずる姿は、ニコには絶対に真似できないんだよね。

美しきオレリーと、ニコ最後のシーン、バンバンは、墓に向かって歩いていった。記憶違いでなければ、3年半前のローランも沿う。カデールは舞台前方、観客に向かってその美しすぎる顔を絶望に包んで歩いた。どちらもいまだにジゼルを忘れられず、といった感じ。ニコはちょっと違う。マントをきちんと肩にかけ、来た方向に、お城と婚約者が待っている現実世界に戻っていく感じ。まるで、夢から覚めてジゼルのことは思い切った、みたいに。

美しきオレリーと、ニコまあ、それぞれの解釈だから好き嫌いの問題だろうけど、私はいまだに、3年半前に見たカデールの、ジゼルの後を追ってしまうんじゃないかしら、と思うような、切なく絶望的な顔が忘れられない。あのお顔が目の前に向かって少しずつ近づいてくるのを見て、気が遠くなるかと思った。昨夏は、遠い席からオペラグラスもなくて見たので、イマイチカデールの演技がよく分からなかったんだよね。

いやいや、それにしても、完璧見事な主役お2人です。

パ・ドゥ・ドゥは、ドロテ&アレッシーという、なんとも素敵なカップル。ドロテ、参っちゃうよなあ、どうしてこんなにも才能に溢れてるんだろう。体から光があふれ出ている。5年後が本当に楽しみだ。マチューと共に、オペラ座の至宝になるね、10年後には。

アレッシーは、まあ、そつなく素敵に。バンバンよりはよいけれど、アレッシーのよさって、こういうウルトラクラシックだとちょっと霞んでしまう。これはこれで十分素晴らしいのだけれど、もっと個性の強い役を踊るときのアレッシーのカリスマ性とは違っちゃう。そういえば、3年半前、ジェレミーが怪我して(いつも怪我ばっかりだ、ジェレミー)、急遽アレッシーが代役で踊ったっけ。1〜2ヶ月前に「アパルトマン」でアレッシーを発見していた直後。まだコリフェだったアレッシー、がんばって踊ってたっけね。でもやっぱり、この手の役、つまり、脇役パ・ドゥ・ドゥは、やっぱりエマニュエルがよいと思うのよね。一度、見られるといいな。どんなに素晴らしい跳躍をみせてくれるかしら。

デルフィヌのミルタはいよいよさらに極上品。ほんっとにきれい。パーフェクトに美しくすばらしい。残念ながらエレは足元に及ばないだろうなあ。昨日、見なかったけど、イマイチだったと、皆が言うし、、、。清楚で静謐、適度に冷ややかで気品がある。この役をやるには体の線も完璧だし。ため息つくくらいに美しいデルフィヌにブラフォ!がたくさん飛んでいる。

音楽は、うぅぅぅ〜ん?だけど、もう慣れっこ、気にしない。生なだけよしとしよう。エクの「ジゼル」は、録音音楽だもん。あれはいくらなんでもひどすぎるよ。

とまあ、オレリー&ニコで始まった極上「ジゼル」。新配役を楽しみに!

le2,le4 fev. 2004('04 2月)
top