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マリアニエス、エトワールに、感激! |
9日(月) オペラ座以外のバレエをほとんど見たことがない私は、当然、アリーナ・コジョカルというダンサーの存在を知らなかった。みんなが言う、“アリーナのジゼルは絶対に見るべきだ。現代最高のジゼルの1人だよ”と。そうなの?そこまで言われちゃ、やっぱり一度は拝んでおく?と、トコトコとガルニエに足を向ける。 ロイヤルの若きプリンシパル、アリーナ。21歳、22歳?とにかく若いんだ、とっても。子供のような愛らしさをもつ初々しいダンサーは、1幕の村娘にはぴったりだ。シルヴィーもそうだったけどゲストの特権なのか、髪を最初からおろしたアリーナは、純情でいたいけな村娘を演じる。正統派といえばあまりに正統派。オレリーのようにちょっとしたしぐさや表情に趣を感じるわけでもなく、よく言えば純粋無垢な、悪く言えば奥ゆきのないジゼル。1幕はとてもチャーミングなジゼルを見せてくれるけれど、2幕はきついなあ。演技に深みがない分だけ、あのしなやかで柔らかで情緒たっぷりな舞台に、力というかオーラが入り込まない。軽々しく見えてしまう。なまじっかオレリーが素晴らしすぎただけに、直後の比較対照はちょっときつい。 テクニックは確かに抜群だけれど、ポワントでたつ足がちょっと怖い。怪我?持病なのかな?痛々しいくらいにつま先から甲の部分が変形していて、見ている方がドキドキしてしまう。幕間にみんなして、彼女の足について語ってしまう。大変だねダンサーは。あんな足になるまで練習を積み重ねるんだね、、、。 恋人同士というよりは父娘?のような絵になってしまった、マニュとのカップリング。マニュは、思っていた通りのマニュマニュしたアルベリッヒを披露。最初の出方から、他のアルベリッヒと違うもんねえ(笑)。品はあるし上手いしノーブルだけど、やっぱりちょっとジゼルへの愛情が足りないなあ。相変わらず、自分にうっとりしてる。私はちょっとダメだなあ。
事実を知ってから死ぬまでの間、イラリオンの視線はジゼルにほとんど向けられない。怒りと憎しみが宿った瞳を、執拗にアルベリッヒに向け続けている。手は腰の短刀に添えられ、隙あらばアルベリッヒに刃を立てよう、という意志がにじみ出ている。愛するジゼルを苦しめたアルベリッヒに対する憎悪の表現に息を呑む。このシーン、ほとんどの人がコジョカルを見ているだろう。もしくは、その辺をウロウロしているマニュを。ヤンに意識を集中させている人がどれほどいるか。もったいない、、、、。こんな極上シーン、めったに見られるもんじゃない。今夜の僥倖。 ミルタは大好きなエレ。エレ、この役で見るのはイマイチ、と、夏の時点で確認していたけれど、今夜は頑張ってるよ。夏よりもずっといいじゃん。「アフタヌーン〜」、「イヴァン〜」で素晴らしい舞台を作り上げ、自信ついてきたのかな。そりゃまあ、デルフィヌに比べるとまだまだだけれど、エレにしては上出来。がんばれ、エレ!好きだよ♪ クリストフ&ミリアム・カミオンカのパ・ドゥ・ドゥは、大して見る価値もなし。バンバン、アレッシーに続いてクリストフを見ると、プルミエとスジェの力量の差をひしひしと感じてしまう。ミリアムは、すごく上手!と言うわけではないけれど、癖のない愛らしい彼女の踊り、私は決して嫌いじゃない。もちょっと存在感が出てくると見ごたえがあるのだけれどね。
10日(火) オペラ座の“エトワールカップル”と言えば、ニコ&チンクシャではなくて、誰がなんと言おうとジョゼ&アニエスなのです!ずっと見てみたかった、“エトワールカップル”の「ジゼル」に、ウキウキと出かける。 結論から言うと、ほんのちょっぴり期待はずれ。「ラック・デ・シニュ」で味わった物足りなさというかつまらなさを感じる。アニエスのジゼル、確かにいい。とってもいい。特に1幕は絶品だ。キュートでコケティッシュでひたすらに愛らしい。ゲストの特権かと思っていたおろし髪スタイルでクルクルクルリと踊るアニエスは、まさにオペラ座の花。 問題は2幕。まさに「ラック〜」の2幕と4幕に感じた感覚と同じだ。アニエス、物悲しい顔をする役をやると、なんだかとってもくら〜いイメージになっちゃうんだよね。きれいなのだけれど、悲しすぎて、オレリーが演じた凛とした高貴な感情が出てこない。ひたすら悲しくて切なくて絶望的な舞台になっちゃうんだ。「ラック〜」もそうだった。オディールがあんなによかったのに、それを挟んだ2,4幕のオデットのつまらなかったこと、、、。そういえばニキアも同じだったなあ。アニエスはやっぱり、パキータとかキトリで見たい。ああいう華やかでコケティッシュな役は、本当にチャーミングだもんね。 ジョゼのアルベリッヒは、そつなくそれなり。2幕、マントの落とし方がちょっと気になるけれど、許容範囲。ニコともマニュともかなり違った振り付けが面白い。全幕を通した演技性を考えると、やっぱりカデールやバンバン、それにニコと比べても、ちょっと深遠さに欠ける気がしないでもないけれど、文句を言ったらバチがあたる、優等生の踊りでしょう。
なにが悲しくて、、、という感じで、今夜もクリストフのパ・ドゥ・ドゥ。相手のローレンスは、ミリアムと同じ。好きなんだけれどなあ。イマイチ、存在感がないんだよね。ガンバレー。 ミルタは、ステファニー・ロンベルク。男顔が怖ろしく、踊りも雑で、とてもとても好きになれないダンサーだけれど、薄暗い光で顔があまり見えないミルタは、思ったよりも悪くない。テクニックは一応あるんだもんね。エレガンスも柔らかさも女らしさもないけれど、冷ややかなミルタを、可もなく不可もなく踊ってる。全体的によく出来た、おりこうさんな公演でした。 24日(火)
テクニックは抜群のレティティアは、演技力や感情表現をもっと勉強しなくちゃいけない、と、エトワールになってからずっとずっと言われ続けていた。確かに、ひたすらにかわいらしい反面、深みのある演技は彼女が苦手とするところではある。認めるよ。だからこそ、キトリがパキータがクララが似合ってるんだもんね。
ニコラはついにつぶれた。 「クラヴィゴ」で踊り狂い、「アフタヌーン〜」ではまあ、いるだけ、という感じだったけれど、「イヴァン〜」では、怪我しなかったのが奇跡、みたいな踊りを夜毎披露し、ジャンギーの代役でオレリーとの3回の「ジゼル」で完全に飛ばしすぎ、そのまま「キリアン特集」になだれ込み、とにもかくにも踊りに踊っていたニコ。怪我しない方がおかしいくらいに踊りこんでいたニコラが、ついに今夜、戦線離脱。 どこで怪我したんだろう、2幕のヴァリアシオンだったんだよね、やっぱり?それしかないもんね。今夜もまた、気の遠くなりそうなほど素晴らしいヴァリアシオンをダイナミックに披露して観客の呼吸を止めたあと、アントルシャのシーンで、あれ?って思ったんだ。アントルシャをしばらく続けたあとに他のテクニック(なんていうのか知らない)を見せるのだけれど(ジョゼは、先に他のテクニックやってからアントルシャをやってたっけ)、今夜のニコは、ひたすらアントルシャを続けるばかり。今夜も透明トランポリンを使っているとしか思えない抜群の跳躍は、最初から最後の最後まで全く高さを変えることなく、会場は熱狂的な拍手を送ってた。思えば、このときすでに、アントルシャしか出来ない状態になってたんだろうね。カーテンコールがいつもとちょっと違って、あれ、なんか変だ?と思っていたら、やっぱり怪我してしまっていたらしい。当然といえば当然。あんなスケジュールで、あんな全力投球で踊りまくってるのだもの。まあ、いい機会だから、少し休憩すればいいよ。キリアンの方がかなり悲しくなるのは我慢するからさ。 ニコラ・ル−リッシュの魅力は、「イヴァン〜」と今回の3回の「ジゼル」でかなり再堪能した。5月までどうぞゆっくり休んでください。 ヤンのイラリオンはあいも変わらず極上だ。ニコにしてもヤンにしても、前夜は「キリアン特集」で全く趣の異なるダンスを演じている。すごいよなあ、この切り替え方。尊敬しちゃうよ。
ミルタの子分みたいな、二人のウィリーの片方、今夜はドロテ。いいよ〜!と聞いていたけれど、ほんとにいい。でもどちらかと言えば、ウィリーよりもパ・ドゥ・ドゥのほうが、ドロテのはつらつとした鋭角な美しさが映えるかな。いつか彼女がジゼルを踊る日を、今からとっても楽しみに。アルベリッヒはもちろんマチューしかいないよね!公演前のパスポートでエルヴェがアルベリッヒを習ったけれど、違うんだよねえ、ちょっと。エルヴェはマニュと同じで、自分を愛しすぎちゃってた。相手がメラニーだったから仕方ないともいえるけどさ。3年後、ドロテ&マチューの「ジゼル」が見られるのを楽しみにしよう。 今夜はヴァンダンジェーにセバスチャンが入っていて、一段と見ごたえがある。オドリックは何か嬉しいことがあったのか、踊りながら演技しながらはしゃぎまくっているし、マチューはいつもながらに美しい首を駆使してそれはそれは上品なヴァンダンジェー。見所満載のコールも満喫。
決して好きではないクラシック「ジゼル」をそれなりにしっかり見て、この作品のよさが少しだけ分かったような気がする。他のクラシックヴァージョンを、パリのダンサーたちでいつか見てみたいな。カデールが踊らず、バンバンとロランを見送り、マリ−アニエスを逃した「ジゼル」だけれど、とにもかくにも完璧な感動をくれたオレリーと彼女を支えたニコ、成長を遂げつつあるレティティア、そしてヤンにブラヴォ!
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