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キリアン特集

「ジゼル」と重なるようにして、「キリアン公演」が始まる。クラシックな「ジゼル」と対照的に、こちらはコンテンポラリー作品集。

キリアンの作品、オペラ座に乗ったもの以外は、ここで一度だけNDTの公演を見ただけで彼の全貌をよく知らないのだけれど、好き。ダンサーの資質によって出来がかなり左右される作品が多いと思うけれど、少なくともパリのダンサーたちが演じるものは、かなりいい。一番好きなのは「ベラ・フィギュラ」。あの、罪深さを感じてしまうほどに美しく神秘的な、バロック感溢れる作品が、パリのダンサーたちに作られたものでない、と言う事実がどうしても納得できないくらい、オレリー、ミュリエル、カデール、ロラン、ジェレミーらが感動的に美しく感動的な作品。あの作品でカデールを見ると気が遠くなる。なのに、運の悪い私は、この神々しい作品をたった3回しか見てない。前回に2回、その前に1回。しかも、あんまりいい席じゃなかった、、、。

今回のプログラムには、「ベラ・フィギュラ」が入らなくてかなりがっかり。でもまあ、「ステッピング・ストーンズ」があるしね。これだけでも、十分楽しめるはず。

3作品のミックスプログラムで、全ての作品に2つの配役が用意された。やっぱり、プルミエ・ディストリビューション(第一配役)は、プルミエだけの訳がある、と全作品にしみじみ感じた5回の鑑賞。

「ステッピングストーンズ」。第一配役。左から、オレリー、バンバン「ステッピング・ストーンズ」がオープニング。男女8人4カップルが、ソロ、デュオ、トリオで繰り広げる、神秘的でプリミティフな世界。プルミエ・ディストリビューションの女性4人がとにもかくにも素晴らしすぎて、息を飲む。デルフィヌ、マリ−アニエス、オレリー、アニエス。なんてゴージャス!

非の打ち所のないキリアンダンサー、デルフィヌ。3つ目の作品「ドゥ・マンサンジュ」でも素晴らしい動きを見せてくれるけれど、シャープで切れのよい正確な動きが、視覚をものすごく喜ばせてくれる。

マリ−アニエスはもう、舞台に“いる”だけで、雰囲気を完璧なものにしてくれる。そこだけに命が息づいているようなものすごい動きを見せる腕と、そのパワフルな肢体から繰り広げられる強烈なオーラに、息を呑む。

痩せちゃったオレリーは、えー!?こんなにキリアンスタイルを持ってた???とびっくりするくらいに、“引っ張って魅せる”感じの、妙にインパクトのある動きで私をとりこにしてくれる。

この、類まれな3人に比べると、ちょっと見劣りしてしまうくらいだよ、アニエスが。信じられないことに。もちろん彼女は彼女で、全くもって完璧に美しい動きを繰り広げてくれていて十分に感動的なのだけれど、他3人が感動を越えた感動をくれてるんだ。

いや〜、完璧ですね、プルミエの女性陣は。対して、男性陣は、いろいろ問題あり。ジャン−ギーが怪我して代わりにヤン・ブリダールが入ったのは全然OKなのだけれど、ジョゼの代わりのクリストフはきつい。きついというか辛い、、、。中肉中背のクリストフにマリ−アニエスをリフトできるはずもなく(ジョゼだっていつも辛そうなのに)、その部分だけいきなり、人間界を超えたようアン美しい雰囲気が現実に引き戻されちゃうん。バンバンとオレリー。後ろにカール。オレリーと組んだバンバンは、その憂いを秘めた顔と表現力で、体型のハンディをしっかりカバーしてるし(横にポンポコリンカールがいたから目立たなかっただけ、かもしれないけど)、薄暗い照明の中では、カールの存在もあまり気にならない。ヤンとバンバンの存在感で何とか救われた、という感じかな。ジョゼが恋しい、、、。後半復帰する予定もキャンセルして、ずっとクリストフ。ふう。

とはいえ、女性4人があまりに素晴らしいので、完璧な舞台なんだよ。クリストフのリフト以外は。

比べるとどうしても、ドゥージエーム(第二)は弱い〜。3度プルミエを見たあとだけに余計弱さが目立ってしまう。

第二配役。イザベルとギヨームイザベル、ステファニー、エレオノラ、セリーヌが女性陣。ギヨーム・シャイヨ、クリストフかブルノー、ジェレミー、ステファン・ファヴォランがそれぞれの相手。

エレだけかなあ、納得できたのは。オレリーが完璧にこなした役なだけにエレにはきついかなあ、なんて思ったのは杞憂。クラシック以外のエレの実力は、ほんとに感動的。あんなにドラマティックで舞台センスのあるダンサー、なかなかいない。夢中になってエレを堪能。ジェレミーは、まあ、あんなもんですかね。ソロはさすがだけれど、協調性がないからなあ、全員で踊ったりする部分、ちょっと浮く。エレのリフトも荒いしさ。バンバンはもっともっとオレリーに優しかったよ。ソロの雰囲気は確かに素晴らしいけれど、う〜ん、もっとほんとはいいはずだよね。怪我がひびいてる?

イザベルはその体こそ、この作品には最高だけれど、雰囲気作りというかカリスマ性が全然ないし、ギヨームは突っ立ってるだけだし、このカップルは話にならない。

ステファニーの雑な動きがいつもながらに気になる。パワフルといえばパワフルだし、迫力があるのはいいのだけれど、、、。マリ−アニエスの場合は、パワフルなのにエレガントで優雅。ステファニーは、ひたすらブンブンブンって感じで、それがイヤなんだよね、私。お顔も怖いしさあ。クリストフ、おつかれ!ブルノーは、疲れる前に自分のレッスンをもっときちんとしようね。

セリーヌ&ステファン、好きな二人なんだけれど、アニエス&ヤンに比べ、テクニック面も情緒面も大きな差があるのは否めない。体の線は二人ともいいのになあ。そういえば、プルミエを見ているときに一度、ステファンが横に座ったっけ。舞台見ながら、オララ!ワオ!ヒュー!と、いろいろ声を上げてたなあ。どこから出してるんだか分からない素っ頓狂な声で。ステファンが面白すぎて、舞台に集中できなかったよ(笑)。

プルミエとドゥージエームで、かなりの感動の差があった「ステッピング・ストーンズ」でした。シンプルでプリミティフな舞台、その雰囲気を一層あおって、私たちを太古の昔に誘ってくれるケージとウェーベルンの音楽は大好きです。無音の響きの美しさをしみじみ感じるよね、ケージの音って。

「イル・フォ〜」。マニュとオレリー2つ目は、クレアシオン・モンディアル(世界初演)の「イル・フォ・キュヌ・ポルト、、、、(ドアが、、、でなくては、とでも訳す?)」。キリアンがマニュエルのために作った作品なんだってさ。

20分のこの作品、初日に見たときは理解できなかった。フランス人が嬉しそうに、そこここで笑い転げているのを、唖然として見つめるばかり。なぜ?どうしてここでそこまで笑える?ステファンが隣になったときなんて、彼のあまりの受けぶりに、ボーゼンジシツになっちゃったもん。

フラゴナールの絵が舞台、って、誰かが言ってたかな。なんにも説明を読んでないので、舞台設定が分からないのがいけないんだね、まず。

それでも、マニュとオレリーの相性のよさ、2人の茶目っ気は、最初からよく分かるし、この作品のつぼというかセンスも、彼ら2人の成長もあって徐々に納得。4回目に見たときには、なかなかいいじゃん!とまで思えるようになるから不思議だ。マニュのよさ、確かによく出てるかも。しゃれてて優雅。

一度だけ不幸にも見てしまった、セリーヌ&ロモリは、違う作品になってた、、、。セリーヌ、期待が大きかっただけに、オレリーに比べてイマイチどころかイマサンくらい。ロモリにいたっては、アーモンデュー!あの顔でこの役をやってはいけない!この役、バンバンが出来たと思うんだけどなあ。ロランでも素敵だっただろう。とにかく、ある程度美しくて色っぽいニュアンスを持ったダンサーでないとだめだよ〜。

「ドゥ・マンサンジュ」。手前に歌手。後ろはニコ&デルフィヌラストは「ドゥ・マンサンジュ(優しい嘘)」。99年にオペラ座のために作った作品。初演は、ニコ&デルフィヌ、マニュ&ファニーだったのが、ファニーのあとをエレが継いだファースト・ディストリビューション。

4人そろって、とにもかくにも素晴らしい。ニコ&デルフィヌの相性は、初演時、再演時、そして今回と、回を追うごとにどんどんよくなっていく。両者のキレのよさ、間の取りかた、呼吸感、全てが完璧。脱帽!エレは、マニュエルの優しいフォローを受けて、こちらも堂々のデビュー。生まれながらにしてキリアンを知っている、この人は。キリアンも僥倖だね、エレというダンサーがいてくれて。ニコ&デルフィヌが敏捷でクールな動きを見せるとしたら、マニュ&エレはしなやかで情緒的な動き。初演時よりもずっとずっと円熟味が出てきて、極上の舞台を見せてくれる。初めて、この作品に心から感動できたのは、ひとえに彼ら4人のおかげです。ああもちろん、ムッシュ・キリアンも。

アレッシーとミテキ。右の腕は、セリーヌとロモリドゥージエームは、しょせんドゥージエーム。ロモリ&セリーヌは、まあこんなものでしょう。ミテキと、いよいよ引退生活に入ってしまった感のあるリオネルに代わってアレッシー!ミテキ&アレッシーはかなーり楽しみにして初回に臨んだのだけれど、まだやっぱり相性がキッチリと合っていないのがちょっと残念だったかな。それでも後半に見た2回目は、かなりハーモニーも修正されていたうえ、それぞれのソロシーンはそれなりに見ごたえがある。でもやっぱり、頭にはマニュ&エレの残像がちらつく。

「ジゼル」でニコがつぶれて、案の定というかやれやれというか、ロモリが代役に立って踊った最終日、いかにニコが素晴らしいかを痛感してしまう。デルフィヌとのすり合わせもよく出来ていなかったのだろうけれど、彼女をサポートしたあとに着地させる着地音が気になって気になって仕方ない。今更ながらに気付く。この作品、アカペラの肉声以外、音が全くしない、というのも魅力のひとつなんだ。あれだけ鋭い踊りをしながら、ニコは、自身もそしてデルフィヌにも音をほとんど立てなかった。ロモリが生じさせる自身とデルフィヌの音が、せっかくの作品の雰囲気を壊す。ミテキとアレッシーセリーヌと踊ったときはどうだっただろう?アレッシーは?覚えてない。多分、音してたんだろうね。みんなして音を立てれば目立たないもんね。他3人が、見事に神秘的でうっとりする雰囲気を作っている中、1人でそれを崩すロモリに絶望し、ニコ〜、もうちょっとだけ怪我するの待って欲しかった〜、としみじみ思うのでした。前半、彼ら4人で2回見ておいて、ほんっとによかった。

しょっぱな、4人で固まって動くシーン、一秒の何分の1かくらい、わずかに動き出しが遅れたロモリに、マニュが「ウィルフリッド!」と鋭く小声で叫んだ。小声で叫ぶ、っておかしいけど、だってホントにそんな感じだった。「なに突っ立ってんだよ、ウィル!早く!オレの邪魔になってる!」というセリフがこめられていたような、雄弁な一言。客席、どこまで聞こえたかなあ。結構響いてた。注意されたロモリは、「な、なんだよ!?」みたいな顔をマニュに向け、なかなか面白い一コマだったね。ロモリが雰囲気を台無しにした今夜の舞台の中で、一番愉しいシーンだった(笑)?

照明の陰影、大きなスクリーン、アカペラの音楽、異なるイメージの演出が全て合わさってひとつの大きな空気感を作り上げていて、いい作品だよね。と、初演時から5年を経てようやく思えるようになった。

私にとってのイリ・キリアンは、「ベラ〜」「ステッピング〜」「ドゥ〜」に共通するように、超現実的で神秘的、俗から一番遠いところにあるような作品が素晴らしい振付家。来シーズンは彼の作品がひとつもなくてちょっぴり寂しい。カデールとロランの引退前に、彼らの「ベラ・フィギュラ」を見るのは、もう叶わないかもしれないね、、、、。

Mar.17 fev. ‐ mer.3 mars 2004('04 2月、3月)
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