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8.オペラ・ガルニでのエジェローム・ロビンスの作品集の巻

日本に行っている間に、「パキータ」を見逃してしまった。ちぇ、今シーズンは全ての公演を見ようと思っていたのに。うかうかしちゃったよ。

一月以上も悩まされた咳もようやく止まり、オペラ座通いを再開。見逃した「パキータ」はがっかりだけれど、気を取りなおして、舞台をスペインからアメリカに移しましょう。

今日からガルニエで、ジェローム・ロビンスの作品集。きれいだよね。ロビンスの作品は。使う音楽や衣装も好きだな。5年も前にここで見た、「ザ・フォー・シーズンス」が忘れられない。四季折々を具体化した衣装の美しさ、優しく流れるダンサーの動き、そして牧神を演じたヤン・サイズの跳躍の感動が、今でも残っている。すっきりして飽くがなく、よく言えば分かりやすく可愛らしい、悪く言えば別に興奮しない、ごくごくモダンらしいさっぱりしたバレエなのかなあ。初日の今夜は、当然のことながら、完璧な配役でパリ国立オペラ座の力を見せつける。

atomoまずは、「イン・ザ・ナイト」。闇夜にきらめく無数の星。デコレーションはこれだけ。ミュージカル「オペラ座の怪人」で、クリスティーヌとラウールがガルニエの屋根で愛を謳うシーンがあるが、あの空のイメージね。

夜の黒に点々とオレンジが散る中、ショパンのノクターン27−1が染み込むように会場に広がっていき、旋律にたゆたうように、すみれ色に輝く柔らかな衣装に包まれたファニーとマニュエルが舞台に現れる。息をするのもはばかられるくらいの静寂に満ちた舞台を、マニュエルとファニーの優しく気品あふれる踊りが浄化していくようだ。

atomo最後の和音の残響とともに2人が消えた舞台を引き継ぐのは、愛しいカデールとキャロル。55−1が控えめな和音を紡ぐ中をひたすらに美しく動く、なんだかこれも控えめな茶の衣装に身を包んだカデール。やだなー、この衣装。なんだか森の小人みたいよ。同じ茶でも、キャロルの衣装はキラキラと輝いて、つややかなキャラメル色って形容できるのに、カデールの衣装はどうひいきめに見ても、オレンジ、とか茶色、としか言えないよ。ま、いいけど。衣装なんて霞んじゃうくらいに、カデールのその神秘的で荘厳な動きは素晴らしい。ラストの素晴らしいリフトを決めたまま静寂に包まれた舞台から姿を消すカデール達のあとは、55−2の華やかな旋律に乗って、オーレリーちゃんとロランが舞台を熱くする。

atomo久しぶりだなあ、オーレリーちゃん。しばらく怪我してたから、ずっと見てなかった。舞台を見るのは一年ぶりくらいでしょう、多分。彼女らしい、情熱的に圧倒的に美しく、それはそれはファンタスティックな踊り。やっぱり上手いよなあ。スピード感あふれるアクロバティックな動きは、オーレリーちゃんがやっぱり一番だ。

atomoロランも久しぶりだねー。こちらも怪我明け。初夏に見たシルヴィーとの「ジゼル」以来ね。なんだかやつれた?病み上がり、って雰囲気よ。上品で気品あふれる踊りは健在だけれど。

ラストを飾るノクターンは、お馴染み9−2。きれいなきれいな音に乗って、3組のエトワール達が(すごいんだ今夜は。男性エトワール6人中4人、女性エトワール6人中5人が出ちゃうんだもんね!ブリジット校長ったら、大盤振る舞いさ!)、オペラ座のレベルをまざまざと見せつける。なんてまあ、3組とも美しく華麗なんだろう。美しい、っていう言葉は、この人たちのために存在するんだろうなあ。大きな拍手を送りながら、それにしてもやっぱりカデールの衣装だけ可愛くないわ、、とぶーたれながら、「イン・ザ・ナイト」の幕が閉じる。

続いて「ザ・ケイジ」。

一転して、静から動の世界へ。ストラヴィンスキーの弦楽コンツェルトの怪しく激しい音に乗って、奇怪な世界が繰り広げられる。とどのつまり、女は恐ろしいねえ、とでも言っておこうかな、この作品の感想。もうすぐいなくなってしまうオペラ座の珠玉、イザベル・ゲランが素晴らしい。テクニック、迫力、魅せ方、どれをとってもやっぱりこの人本当にすごいよ。

対峙するニコラとの相性も抜群だ。さすがはニコラ、うん。アニエスの迫力もなかなかのものだけれど、これはもう、イザベル!イザベル!に尽きる舞台でしょう。蜘蛛や蛇を連想させるシュールな衣装に身を包んだ魔女たちが踊り狂う、そんなイメージの作品だ。

舞台はここでもう一度、静の空間へ。

3つめの作品は「アザー・ダンシーズ」。再びショパンで、でも今度はマズルカとヴァルツの優しく軽妙なピアノの流れに身を任せるキャロルとマニュエルによる、シンプルで正確な美の世界。水色の背景に溶け込むような同色の衣装がきれいねえ。攻撃的な「ザ・ケイジ」からアントラクトなしで続くこの作品に、砂漠を越えて渇いた喉に、ピュアな水が流れ込むような安堵感を覚える。

ラストは「ザ・コンサート」。

これはもう、無条件で楽しい!とにかく面白い!極上のコメディー・ミュージカルだ。こんなに笑わせてくれるバレエ、初めて観るわ。アメリカ的、って言うのかもね、こういうの。様々なショパンに乗って、オープニングからラストまで、笑える!の一言に尽きる。これは説明不可能。観てもらわなくちゃだめだ。言葉を尽くしても分かってもらえないよ。あの動き、あの表情、あの間の取り方、、、、。すごいよ、パリ国立オペラ座のダンサーって、あんなコメディアンになれるんだね。

atomoイザベル・ゲランのバレリーナの面白すぎさに彼女の隠れた才能を発見し、旦那を演じるリオネル・ドラヌエの天性のコメディアンの資質を再確認し、めったにお目にかかれないエリック・キルレのあまりにもはまり役なシャイ・ボーイにブラヴォーを送り、なんだかもう笑っているうちに終わってしまう30分。ピアニストまで出演者にしてしまう、ドタバタ喜劇。最高のテクニックがあるからこそ実現可能なこんなコメディー・バレエ、たまに観るにはすごく楽しくていい。

静かで神秘に包まれた夜の世界から、シュールな世界、ピュアな美しさを通って辿り着く果ては、笑いあふれる日常のシーン。なんだかとってもオチャメな作品構成だわね。あっという間の2時間が過ぎて(短いんだ、今回の公演)、笑いを口に残したまま、パレ・ガルニエを後にする。

さあ、これからまた、バレエバレエな日々を謳歌しよう!

jeu.15 fev. 2001
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