今日から日曜日まで、Aこちゃん母娘とYりちゃんたちご一行様がパリにやってくる。初日の今日は、Aこちゃん母娘と一緒にお夕食。Yりちゃんたちとは、明日、「ガヤ」でね。
ギシギシに寒くなったパリ。プラス・ヴァンドームを見て、プラス・コンコルドを愛で、せっかくだから観覧車に乗りましょう。シャン・ゼリゼのイルミネーションは2日辺りで終わったしまったけれど、光が減っても、パリはやっぱりきれい。ここ数日、濃い霧で上半分が見えなかったエッフェル塔も、今日はちゃんとてっぺんまで見える。グルングルングルン。大きな観覧車から、パリを鳥の目で眺める。
一瞬雪が交じった後、雨が降りはじめるパリの夜。サン・ミシェルまでメトロで移動して、今夜は「レ・ブキニスト」で夕食。3ヶ月もお休みしていたエリックが、1月初めから戻っているはずだ。いるかな、いるかな、エリックはちゃんといるかな?
8時過ぎの「レ・ブキニスト」は、まだまだ客の入りもまばらで、いたって静かな雰囲気。中に入ると、クリストフ、アランが飛び出して来て、歓迎の意を表してくれる。
「やあ、ボンソワー!さ、入って入って。よく来たね。ボナンネ!元気だった?」チュッチュ。
「元気よ。ボナンネ!みんなも元気?えっとね、こちら、日本から来たお友達とそのママ」エリックを探しまわりを見渡すと、ジョンともう一人、名前の知らないセルヴールが気付いてやって来て、またひとしきり新年のご挨拶と、Aこちゃん達の紹介。ねえねえ、エリックは?エリックはいるの?と、クルリと首を回すと、そこにエリックがエリック笑顔を満面に漂わせて立っている。
「ボンソワー!」
「エリック、、。あなたがここにまたいてくれて、私とっても嬉しいわ」
「僕も嬉しいよ、君にまた会えて」キュ〜。エリックとの熱い抱擁とキス(ちょっと違うか!?)。
3ヶ月もお休みを取っていたエリック。プライヴェートでなにか大変な問題が起きたらしく、長い休暇になっていた。前回来た時はエリックがいなくて、とてもとても寂しかった。彼がいない「レ・ブキニスト」は、んー、そうだなあ、ダヴッドさんがいない「ラ・ビュット・シャイヨ」?それとも、アランがいない「レ・ゼリゼ」?いずれにしてもイケてない。クリストフ達がちゃんと面倒見てくれるとはいっても、やっぱりエリックがいない「レ・ブキニスト」は、ちょっと輝きに欠けるよね。
エリックの存在をしっかり確かめて安心して、やっとテーブルにつく。「セーヌ側の丸いテーブルがいいな」って電話入れたのだけれど、「ごめん、その席はもうキープされてる。代わりに、バンケットのテーブルを取っとくよ」とのことだった。バーの正面、玄関の横のこの席、ドアの横の割にはうるさくなく、まあまあ店内全体が見渡せて、なかなか楽しいテーブルではある。広いのがいいよね。
カルトもらって、料理解説を始める。アントレの解説が終わったところで、ちょっと喉が渇いてきた。バーにいるエリックさんに視線を送ると、ピッと反応して、後ろにいたセルヴールに耳打ち。程なく運ばれてくる、シャンパーニュとオリーヴ。メルシ、エリック!何も言わなくても、何が欲しいかすぐに分かってくれる辺り、さっすがダヴィッドさんの指導担当だった方だわ。
シャンパーニュで喉を潤して、カルト解説を続ける。すっかり冬ヴァーションになったカルトは、いつもの通りなかなか可愛く魅力的。プラはすぐに決まって「ソレット(チピ舌平目)のロティ、アンチョビ風味のジャガイモ添え」。アントレはちょっと悩んで、「フォア・グラのテリーヌ、アンディーヴとキノコのサラダ添え」。「サツマイモのクリームスープ」に心惹かれたのだけれど、Aこちゃん達も頼んだし、しかも牡蠣が入っているのでパス。味見だけ、させてもらおう。
「オッケ!じゃ、後はお酒ね」と、アランが下がった後、お酒のカルトに目を通す。んー、アニョー(仔羊)とラプロー(仔うさぎ)でしょう、、、。マディランかコルビエール、どっちにしようかなあ、、、?なんて考えていたところに声が降ってくる。
「ぴゅすちゃん!?」あん?と、と顔を上げると、ドアの所に、あでやかな笑顔。
「嘘でしょ?Yりちゃん!」
今日からパリ入りしていたもう一組の方の人たちが、なんと同じレストランにやってきた。今夜は、Aこ母娘と一緒だから、Yりちゃんたちとは明日会おうね、っていう話になっていたのに、なんだかまあ、、、。
「嘘みたい。なんて偶然!」
「ほんと、すごいわね」
「なになに?知り合いなの?」Yりちゃんご一行様を迎えたエリックたちが聞いてくる。
「うん。彼女たちも、今日日本から来たのよ。私のママのお友達とそのお友達達。妹も私もお世話になってるの」
「ああ、そうなんだ?偶然?」
「ん。すごいよね。さっきもね、サロン・ドゥ・テで、別の友達に偶然会ったの。今夜は偶然日なんだわ」
いつまでも、入り口にいるのは邪魔になる。ひとしきり紹介を終えて、また後でね!と、奥のテーブルに案内されるYりちゃんたちを見送り、席に着く。全く、なんて偶然かしら。
お酒を決め終わり、バレエと音楽の話で盛り上がっているところに、アントレが運ばれてくる。オーソドックスなフォア・グラのテリーヌは、何もここで食べなくても、という感じではあるけれど、よく出来ていて美味しいよ。付け合わせのサラダが、ちょっと私には酸っぱかったかな。
あんなに閑散としていた店内は、今やもう、満員御礼。2回転目の席も出来始めたし、ウェイティングする人も増えてきた。サルに心地いい喧騒が広がり、レストランが躍動している。この雰囲気が好きだから、レストラン遊びはやめられない。
プラの「ちっちゃな舌平目」が運ばれてくる。あ、美味しそうだな。あれ、でも待って、この匂い、、、。あーん、私が唯一嫌いな香草、アネットが散ってるよお。やーん、しかもとても細かくて、上手く取り除けないよお。フォークとナイフを使って、必死にアネット駆除作業に取り掛かる。なんだかこれって、エリカが沈没し、流れ出た石油が大西洋岸に漂着したのを除去する作業に似ているわ、、、。あれも本当に、大変な事故だったね。
どうにかこうにか、許容できる量にまでアネットを取り除き、いただきます。柔らかで繊細な身のソレット、私は結構お気に入り。ソルといういわゆる普通の舌平目は、独特の弾力と歯ごたえが楽しめるけれど、ほろりと柔らかなソレットは、日本で考える舌平目のムニエルの触感に近いかな。塩味がキリリとしたアクセントになってるアンチョビ入りジャガイモがまた、奥ゆかしい魚の淡白な味を引き立てている。
Aこちゃんの「ラプローの煮込み」は、いかにも冬の煮込み。甘くとろけて、いい感じ。叔母さまの「アニョーのココット蒸し」も、淡白な煮込みながら、アニョーの香りが楽しめる。ガルニの、エンドウのピュレが、素朴で美味しいな。マディランの「シャトー・ブスカス」96年は、濃い味の肉料理にも、ソレットにもなかなかよく合う。
デセールのお時間。今や店内は、人人人で大賑わい。なかなか注文を取りに来てくれないけれど、こうやって、店内を見ながら待つ時間も大好きよ。今夜はマジシャンがやってくる曜日。奥の方のテーブルでは、テーブルで繰り広げられるマジックを目の前に、歓声と笑い声が響いてる。
「クレマンティヌ(みかん)のファルシ、柑橘類のソース」は、みかん風味のクレーム・ブリュレが皮に入っていて、下には、オレンジとパンプルムース(グレープフルーツ)のスープが敷かれている。カリカリの表面も、ちょっとバヴァロア的な中身も、スープもみんな、美味しいよ。こういうプレゼンテーションも私、好きだわ。とっても可愛い。
お茶を飲んで、隣のテーブルに来ていたマジシャンの演技に見惚れ、そろそろ帰りましょうか?明日もあるしね。頼んだラディションが来るのと同時に、マジシャンが私たちのテーブルにやってくる。
「ボンソワー、マドモワゼル・グルマン!」だめだ、、、。帰れなくなった、、、、。
紐やボール、カードやハンカチを使った、マジック。これだけ目の前で、しかも自分の手の中で、不思議な現象が次々と繰り広げられるのは、まさに圧巻。Aこちゃんも叔母さまも、時計は取られちゃうし、私の袖の中からハンカチは出てくるし、Aこちゃんが握っていた一つのボールは、二つになって出てくるし、、、。横のテーブルの叔父さまと一緒にやったカードゲームも、一体どうしたらこうなるのか、それはそれは不思議現象。1年くらい前に、「ロ・ア・ラ・ブシュ」でKちゃんやIさんと一緒に食事をした時にも、違うマジシャンが来て、みんなで夢中になってトリックあかしに励んだっけ。
最後は風船細工。スピちゃんが前回もらった白いプードル、それに今夜はピンクのゾウも作ってくれる。
「3つめは、、何にしようかなあ」
「ハートがいいな、私。あの赤いハート」前に、小さな女の子が作ってもらった大きなハートの形にした風船。あれ、あの時私もすごく欲しかったんだ。
「ダコー!」にっこり笑ってマジシャンは、まず白い風船で、2羽の小鳥がキスしているオブジェを作り上げ、続いて赤い風船でハートを作り、そのハートに小鳥を留め付けてくれる。
「かーわいー!ありがとう」横のテーブルのマダムからは、「いいわね!焼きもちやいちゃうわ」えへへー、いいでしょう!
一足先に席を立ったYりちゃんたちを見送って、またひとしきりおしゃべして、私たちも帰る時間。美味しいお料理と楽しいお喋り、エリックたちのサンパなセルヴィスと素晴らしいマジックを堪能して、席を立つ。
持って来てくれたオーヴァーはそのままにして、写真撮影会。エリックとはもちろん、キュッと肩寄せ合って、赤いハートを持ってパチリ。2枚も撮っちゃった。えへへぇ、、、。これ、パソコンの壁紙にしちゃおっと。レヴェイヨンのエッフェル塔は、思ったよりも短い命だったなあ。赤いハート、ピュスにやられないように気をつけなくちゃ。
「じゃあ、またね。いろいろありがとう、楽しかった。シャンパーニュ、ごちそうさまでした」
「君に喜んでもらえることが、僕の幸せだよ」(キャ〜、エリックゥ!ホスト入ってるわよっ!)
「ねえねえ、彼女たちにもビズーしても失礼じゃないかな?失礼なら止めておくけど」
「ううん。喜ぶよ、きっと」
「そっかな?じゃ!」嬉しそうに、Aこちゃんと叔母さまとビズーを交わし、疲れた時でも変わらないゴージャスな笑顔で見送ってくれる。
おっと、エリックにかまけてて、他の従業員を忘れてた。片っ端から、さよならの挨拶とビズーを交わして、最後にも一度、エリックとギューして、細かな雨が降る外に出る。戻って来てくれて、本当によかった。久しぶりのエリックを堪能した、真冬の「レ・ブキニスト」でした。
jeu.13 jan.2000