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グルマン・ピュスのレストラン紀行


レ・ブション・ドゥ・フランソワ・クレール(Les Bouchons de Francois Clerc )

昔は「レ・ブション」が嫌いだったKちゃんを、「絶対いいから!Kちゃんが行った時は、たまたま大外れだったんだよ!」と強引に連れていったのが一月前。以後、このレストランに対する評価を、Kちゃんは変えてくれたらしい。
「ねえピュスちゃん、レ・ブションにまた行きたくなっちゃったよお。」こんなKちゃんのリクエストにお答えして、「全くもう、しょうがないなあ、、」とか何とか言いながらも嬉々として「レ・ブション」に予約の電話を入れる。

寒い寒いパリの夜。細かい雨が降った後の大気は、ぐんぐんとその温度を下げてゆく。じっと立っていると、足元から冷気が伝わってくる。ううう寒いよお、、。「ここマドリッドは、まだオーヴァーが要らないんだ。パリはどう?秋のパリって素晴らしいんでしょ?」と、今朝ハビエルから入ったメールの文章が恨めしい。そりゃ素敵だけどさあ、天気さえよければね、、、。寒くてうつむいちゃって、秋を楽しむどころじゃないよ。手袋を通してなおかじかむ手を「レ・ブション」の古めかしい木の扉の鉄の取っ手にかける。ギイィ、とドアが開くと同時に、頬をなでる暖かな空気を感じ、思わずホッ。

今夜は8時の予約だったので、一番乗り!と思ったら、先客がもういた。でも、まだまだ閑散とした店内だ。これが一時間もすると、ワイワイガヤガヤ、大変な騒ぎになるのだろう。

今夜の席は地上階。このレストラン、地下のフロアがとっても雰囲気があってとても好きなのだけれど、ま、いいか。こっちの方がテーブル広いし、席も少ないから、少しは静かでしょう。大好きなドゥッツのロゼ・シャンパーニュの、細かくってはんなりした泡に見惚れ、きめ細かく優しい口当たりと、さわやかでいながら十分奥行きもある複雑な味を楽しみながら、カルトを開く。

、、、、、。クンクン、クンクン。ああ、パンの香ばしいいい匂いがたちこめている。セルヴールがテーブルに置いたパンはまだ暖かく、焼き立てバゲットならではの、何とも言えない香ばしく甘い香りが私たちの鼻をくすぐる。思わず、ひとつ手に取りちぎってパクッ。うーん、美味しい。も少しちぎって、オリーヴ・バターをつけてパクパクッ。うーむ、いける。あいも変わらずここのパンはほんと良く出来ている。美味しいシャンパーニュとパンで、お腹がちょっと嬉しくなってきたところで、改めてカルトに目を向ける。

さて、何を食べようかな。

soumonアントレは「ソモン(鮭)のミルフォイユ、セザム(ゴマ)ソース」。ムースに仕立てたものを生の薄切りで挟んでミルフォイユの形に造り、周りにソースをたらしたもの。優しいセザムの香りが、レモンもあまり利かせず、生の風味がそのまま残るソモンを、くるっとまとめている。よかった、まだドゥッツが残っていて。この優しいシャンパーニュとサモンのお料理は、ボン・マリアージュ。色も、ロゼロゼでぴったりだ。

プラは「テット・エ・リ・ドゥ・ヴォー(仔牛の頭と胸腺、セルリ・ラヴ(根セロリ)のピュレ」。素晴らしい頭だった。頭ならではの、脂とゼラチン質が一緒になったような部分を歯でかんだ時の、甘みと歯へのひっつき具合。トロトロと柔らかく煮込まれたお肉。これまたトロトロのピュレと一緒に口に入れた時の、各素材の溶け方がたまらない。柔らかもの好きの私の口元はついつい緩んでしまう。この料理のスパイスになっているセルリ・ラヴの香りがポイントだなあ。ちょっと残念だったのは、久しぶりに楽しみにしていたリ・ドゥ・ヴォーが一切れしかついていなかったこと。どこ、どこ?と探し当ててやっと口にしたリ・ドゥ・ヴォーは、やっぱりトロトロで素敵に美味しかった。あと2切れくら、あればいいのに、、。

lievreサン・テミリオンのCh.GrandMayneの92年は、クラッセされているだけあって、なかなかのお酒。熟しきった赤い果物と獣の逞しい香りが交じり合って鼻を刺激する。しっかりした体格とコクを持ち、それでいて上品な、いいお酒だった。今飲むなら、80年代後半。これがきっとめちゃめちゃ美味しいだろうなあ。脂つきと言っても、所詮は淡白なヴォーによりも、Kちゃんの取った「ドゥブ・ドゥ・リエーヴル(野ウサギの煮込み)」にマッチしたのは言うまでもありません。

fromageこのレストランのお楽しみ、フロマージュが運ばれてくる。今日は早目に来たので、フロマージュを取るのも一番乗り!まだ、きれいままのフロマージュ達が可愛らしい。散々取り分けてから、「あ、写真を先に取れば良かった、、」と思うのはいつものことさ。

デセールは「ヌガーのミルフォイユ」。何だってもう、私は本当にこんなに「ミルフォイユ」とか「フォイユテ」って言葉に弱いんだろうか、、。でも、美味しかったですよ、これ。graceサクサクの生地の間にヌガーのグラス。上には薄い飴まで乗っている。私はこの、飴菓子にも弱いんだ。うひゃうひゃしながら、飴に手を伸ばす。グラスがもう一つあったら、もっと嬉しかったのにな。

ふと見渡す店内は満員。ワイワイガヤガヤ、フランス人に交じって、相変わらずアングロフォン(英語を話す人)の観光客の姿も多い。みんな嬉しそうに、コクコクお酒を飲み、お料理に舌鼓を打ちながら、おしゃべりに興じている。外の寒さなんか、忘れちゃったみたいだ。

コートを羽織って外に出る。吹き付ける風が、気のせいかここに来た時よりも暖かい。美味しかったお料理とお酒のお陰だね、きっと。

明日はお天気になりますように。


jeu.12nov.1998



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