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グルマン・ピュスのレストラン紀行


ダム・ジャンヌ (Dame Jeanne)

「ダム・ジャンヌ」というレストランは「ゴー・ミヨ」で見つけた。比較的新しいらしいこのレストランを、「ゴー・ミヨ」は結構手放しで誉めている。お値段もお手頃だし試してみよう、と今夜のテーブルを予約。

赤とゴールドを基調とした、可愛らしい内装のレストランはサルが2つに別れている。小さい方のサルの、奥のテーブルに案内される。内装の温かい雰囲気、従業員たちの仲良しそうな気さくな雰囲気が心地よい。

ちょうど良く冷えた、さっぱりしたシャルドネをアペリティフにもらって、これまた可愛らしいカルトを吟味する。168フランのムニュはそれぞれ5種類くらいから好きなものを選べるようになっていて、フロマージュも食べるとプラス40フラン。可愛げがあって好もしげなお料理たちが、食べてちょうだいね、とばかりに目に飛び込んでくる。「キノコと家禽のリゾット」に「仔牛胸肉のパセリ風味、ジャガイモのピュレ添え」を選んでお酒のページに目をむける。

お酒の値段がまた可愛い。200フランを切るお酒が全体の半分以上を占めている。壁の黒板には、今夜のお勧めのお酒も2、3書き出されている。「有名なお酒も知られていないお酒も、それぞれ楽しんでください!」と言葉を添えられたリストにまた好感を持つ。とりあえず'94年のコルビエールの赤を注文。

rizotteさてリゾット。クリームで煮込まれたお米はフランス人好みに柔らか目。控えめな鳥のブイヨンの香り、歯ごたえと味のあるキノコ、散らされたコンテの薄切りがいいハーモニー。とっても香りが高いパセリがいい香辛料になっている。鳥がちょっとぱさついていたのが残念だったけど、それを抜かせば、控えめな香りたちが仲良く集まったところに、パセリがキュッと緊張感を出している、とっても良く出来た一品。リゾットの盛り方もとても可愛らしくてかなり好みなお料理。

友人が取った「ウサギのパセリ寄せ」もパセリのいい香りに包まれたウサギちゃんの優しくて美味しいこと、「エスカルゴのラタトゥイユ」も盛り付けの可愛らしいこと。どこまでも愛らしさと可愛らしさが付きまとうお料理たちだ。

続いて仔牛。薄切りにした胸肉にこれまたたっぷりのパセリを巻いて蒸し煮にしてある。フォンドヴォーをベースにした濃い目のソースの下には、薄い黄色のピュレが敷かれている。パセリの香りが鼻をくすぐるお肉の柔らかさ、ソースの甘さ、フロマージュがたっぷり入ったピュレのトロトロさ。甘くて柔らかくて優しい、私の好みにぴったりはまるお料理に「うーん、美味しいなあ」と賞賛の目をむける。

「ゴーミヨ」に書いてある通り、正に完璧に火を通されたソモンは、外のカリカリ感と中の、脂がたっぷりのった生の部分の舌触りのハーモニーが絶妙。牛の頬肉に添えられたお豆のピュレの滑らかさとお味もかなりのもの。

香りはとっぷり甘目、舌に乗せると構成のよい逞しいコルビエールが底をつき、酸味のバランスが良い落ち着いた’95年のミネルヴォアにお酒を変えて、このレストランのシェフに思いを馳せる。二つ星のレストラン「アピシウス」でスゴンを務めていたというフランシス・レヴェック。愛敬と可愛いげを持って業界のプレイボーイである「アピシウス」のムシュ・ヴィガトのイメージを見事に表現している。彼自身はどんなシェフなんだろう。

さてデセールの時間。「リンゴとバナナを添えたキャラメル風味のパン・ペルデュ」はあったかいコンポートとなった果物たちが、しっとりホカホカのパン・ペルデュに乗っかっていて、横にはグラス・ヴァニーユが添えられている。煮られた果物とソースのベースになっているカラメルがかなり甘いにもかかわらず、さっぱり目のグラス・ヴァニーユの冷たさとのハーモニーにうっとりしながら、パクパクパクリ。カラメルの香ばしさがまた、鼻をくすぐる。

酸味の強いカフェと、トロリと柔らかなトリュフをつまんでディネの締めくくり。可愛い、優しい、甘い、柔らかい。この4つの形容詞で説明がつく「ダム・ジャンヌ」。よーく考えれば、この形容詞たちはムシュ・ヴィガトにすべて結びつく。まだ会ったことのない、このレストランのシェフ、ムシュ・レベックの姿を頭に浮かべながら、これもまた可愛らしいドアの取っ手を押して、12時を回ったパリの街にでる。


jeu.21 jan.1999



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