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グルマン・ピュスのレストラン紀行


エレーヌ・ダローズ (Helene Darroze)

手袋をはめて、夕食に出かける。 寒い、寒い、寒い。吐く息はこれ以上ないくらいに真っ白。ウールのツーピースにオーヴァーコートのいでたちでも、氷のような風が容赦なく体を凍えさせる。おでかけ用の薄手の手袋なんて、吹き飛ばされてしまいそう。それにしても汚いな、この手袋。数年前にフィレンツェで手に入れたお気に入り。ずっと使っているけれど、いい加減、新しくした方がよさそうだ。擦り切れてきてるし。誰か、フィレンツェに行く人いないかな。

「この寒さ、どう思う?」
「この冬一番の冷え込みだよね。見て、息がこんなに白いのよ」二人で同時に、ハーッ。真っ暗なパリの闇夜に粉雪が舞い散ったように、一瞬目の前が真っ白になる。すごい寒さだ。今夜のレストラン、駅から近くてよかったよ、、、。

「エレーヌ・ダローズ」フランス南西部ランド地方。ピレネーを仰ぎ見るこの地方を代表するレストランは、言わずと知れたゲラールさんち。ゲラールさんちから北にちょっと行った村に「エレーヌ・ダローズ」があった。ミシュラン一つ星、ゴーミヨの去年の評価16点のホテルレストランのオーナーがエレーヌ・ダローズ。小柄で可愛らしい、デュカスの門下生だった、チャーミングな女性だ。

フランスを代表する女性シェフといえば、「ルドワイヤン」で2つ星を維持していたジスレーヌ・アラビアン、こちらも2つ星、プロヴァンス地方のレーヌ・サミュ、そしてエレーヌ・ダローズ、この2人の名前が挙げられる。

『エレーヌ・ダローズがパリにやってくる』こんなニュースを聞いたのが7月。いつかないつかな?と、ずっと楽しみにしてたのが、ようやくオープン。新聞、雑誌の評価は抜群。初めて体験する一流女性シェフの感性に期待して、レストランの前に立つ。

工事中の垂れ幕みたいな看板と、塗り立てのペンキの匂い。ドアの前にはカーテンも掛けられていない。なんか、工事が終わったばかりの普通の建物の前に立っている気がする。なんだなんだ?レストランの匂いがしないぞ。

ほんとにここから入っていいのよね?って、ちょっと不安を覚えながら、中に入り込んでみる。カジュアル・ヴァージョンになっている地上階には、バスクのハムやタパス系の料理が壁際に並んでいる。ポップ超のすっきり可愛い内装だけど、どうにもこうにもペンキの匂いが鼻に付く。こんな匂いの中じゃ食事なんて出来ないよ、と思いながら、レストランのある一階へ案内される。

「レストランは10月15日にオープンしたんです。工事が遅れに遅れて。下の方、火曜日に出来上がったばっかりなんですよ」と、案内してくれる女性。そっか、だからあんなにペンキ臭かったんだ。よかった、上はペンキの匂いがしなくて。

紫と赤を基色にした、とてもモダンな内装。丸いテーブルはよく見るとオーヴァルだし、壁の装飾も変わってる。天井が低いのがちょっとイヤだな。なんか、垢抜けないガルシア装飾、って感じだわね。

carte8時半を回ったばかりだというのに、既にほぼ満席のレストラン。シャンパーニュを頼んで、このクラスのレストランではとても珍しい、とても小さなカルトをもらう。嬉しいな、好きなんだ、小さ目のカルト。

きれいな紫の小ぶりなカルトは、マットな紙を表紙に使って、センス抜群。シェフのサインを思い切りデフォルメしたデザインがいい感じ。このデザインは、壁の装飾にも食器のマークにも使われている。

ムニュが1種類、ランド地方の誇るフォア・グラが3種、その他ア・ラ・カルトは全て合わせても10たらず、という、シンプルな構成だけれど、一つ一つの料理に対する細かな説明がお上手。土地柄、ランド地方とバスクの食材やルセットを取り入れた料理が多く、知らない単語もたくさん。みんな魅力的に見える。

鴨のフォアグラ、鴨の燻製、ピペラードのカナッペに、評判に違わぬシェフの力を感じつつ、お料理選びが進む。既に食べはじめている周りのテーブルには、「うわあ、あれはなあに?」系の、いい感じの料理が次々に運ばれている。美味しそうだわ。

アントレに「栗と家禽のポタージュ、フォアグラと黒トリュフ入り」を、プラには「ルジェのポワレの肉ソース、トマトのリゾット添え」を選出。

「お酒、決まりました?」と、女性の従業員が近づいてくる。これもやっぱりお土地柄、ボルドーと南西部のワインをきちんと取り揃えたカルトから、ジュランソン・セックを取りたい旨、伝える。

「この中だと、コアペしか知らないんです。もし他に、お勧めのドメーヌがあれば、、、」
「キュヴェ・マリエ、これがいいですよ。私は、ジュランソンの中でしたら、これが一番気に入ってるんです」
「じゃ、それで。試してみます」

緑色のブテイユに入ったジュランソンを持って来て、テーブルの横で抜栓を始めるソムリエールさん。
「ねえ、ピュスちゃん。この人、前のレストランから来たのかしら?」
「さあ?知らない。どうして?」
「ん、なんかこの人の顔、、、、」と、グラスに透明なクリーム色の液体を少し注いで、ソムリエールさんが差し出す。
「どうぞ、テイスティングを」
「あ、メルシ」グラスを受け取る。
「私、多分あなた達と会ったことありますよ、前に」と、ソムリエールさん。
「本当?え、どこでですか?」
「スプーンです」
「スプーン?ああ!そう言えば!」なーんて言っても、本当は全然顔を覚えていなかった。ただ、受付のお姉さんが、キャンセル待ちの手続きしてくれたり、二回目に行った時にちょっとおしゃべりしたのは覚えてる。他に女性従業員はいなかったから、多分その時のお姉さん。人の顔を覚えるのって、ほんと苦手だ。

Mきちゃんは、
「やっぱりね。なんだか顔に見覚えがあったのよ。うん、そうだったわ。スプーンのあのお姉さんよ」すごいね、ちゃんと覚えてる。最後に会ったのは、半年前なのに。

テイゥティングしながら、ひとしきりおしゃべり。
「どうしてスプーン、辞めちゃったんですか?いいレストランなのに」
「トラディッショナルなレストランが好きなのよ」みつきちゃんと、目を丸くする。そ、そりゃ確かに、「エレーヌ・ダローズ」はトラディッショナル極まりないレストランだけど、じゃあなんで「スプーン」みたいな、超超超モダンレストランにいたのよ?極端すぎる。

香りは控えめだけれど、味が抜群に美味しいジュランソンに賞賛の目を向けていると、アミューズが運ばれてくる。「こちらはブダンノワール(血のソーセージ)。こちらがポティロン(かぼちゃ)のスープです」と、ブダンがMきちゃんの前に、スープが私の前に置かれる。へえ、アミューズがいろいろあるんだ。楽しいな。では、いただきます。

ツェツェ製のオリジナル仕様の、すごくセンスいい食器に盛り付けられたかぼちゃのスープ。ん、美味しい。素直に美味しい。秋味たっぷり。アミューズに最適。ちょっと量が多いけど。ま、そこはランド地方のレストラン。これが普通の量でしょう。

ブダンが苦手のみつきちゃんが、「生まれて初めて、心からブダンを美味しいと思ったー」と絶賛したブダンは、傑作。ローストされたジャガイモの上に乗った薄切りブダン。周りを飾る、赤い果物の赤ワインコンフィとの相性が抜群。これは美味しい。素晴らしい。次の料理への期待が高まってゆく。

塩2種に粗挽きの胡椒を入れた、これまたツェツェの可愛い器たちの横に、バターが置かれる。大きな固まりから、掻き取ったばかりの白っぽいバター。バターのこんなプレゼン、初めて見る。なんか素敵だね。

右隣のテーブルの叔父さまは、アミューズが下げられた後、かなりの待ち時間を経て、このレストランのスペシャリテ、フォア・グラのテリーヌを食べはじめている。分厚く大きなテリーヌが2枚。1枚がそれこそ、一組のトランプ大の大きさだ。うっひゃー、すごいな、と見ていると、おもむろにカトラリーを手に取る叔父さま。パクン。パクン。パクン。トランプ・フォア・グラは、たった3回のフォーク移動で姿を消す。ちょっとの間を置いて、2切れ目も、同じ運命を辿る。

横で、思わず固まる私たち。ははは、あはははは。さすが、ガルガンチュアを産んだフランス人よねー。はははははぁーっ、見なかったことにしよう、、、。

volailleアントレが運ばれてくる。大きなスープ皿の中央に、ブイイしたフォア・グラ、トリュフ入り鶏のミンチが置かれている。別にやってきたスープ入れから、マロン色のトロリとしたスープが注がれる。んー、いい香り。

はじめの印象は栗、続いて鶏の香りが鼻をくすぐる。木目の細かなスープは、トロリと美味しい。具として入っているフォアグラ、鶏ミンチ、それにフォア・グラの匂いを染み込ませたパンのしっかりした味付けには、思わずタジタジ。スープだけでもいいくらいだよね、これ。ちょっと味が濃すぎる。

Mきちゃんの「フロマージュ・ブルビ(羊)でグラティネしたポレンタ、森のキノコのソテー」も、かなりの味の濃さ。こちらはフロマージュの味が濃いのかな。「アラン・デュカスで使っているのと同じものなのよ」と、例のソムリエールさん、ナタリーがポレンタにかけてくれた、イタリア産オリーヴオイルをパン用にもらって、味見味見。ふぅ、ほっとするわ、柔らかめのすがすがしいオリーヴオイルの香りに。

なかなか運ばれてこないプラを待ちながら、両隣のテーブル見学。フォア・グラを平らげた右隣の叔父さまには、コル・ヴェール(青首鴨)のロティが運ばれてきた。ひいい、フォア・グラの後のコル・ヴェールですか、、、。さすがだ。

左隣のテーブルは、女性一人に男性二人。男性は普通の叔父さま達だけれど、女性はすごい。50代と思われる、ものすごく存在感のある叔母さま。真っ黒な衣装に身を包み、首には大粒の真珠の一連、腕にはカルティエのパンテール・オールゴールドときている。耳と指も宝石に光り輝き、あまり笑顔を見せないおばさまに変わり、きらきら愛敬を振りまいてる。このテーブルだけは、あまり間隔を置かずに料理が運ばれてくるし、メートルも結構つきっきり。どこぞのVIPの方々やら。

それにしてもプラが来ない。待つのは苦にならないけれど、あんまり間隔が開いちゃうと、お腹がいっぱいになってくる。早く来ないかな、ルジェちゃん。

VIPテーブルに運ばれたデセールに熱い視線を投げながら、ルジェの到着を待ちあぐねている所に、ナタリーがやってくる。
「ごめんなさいね。ちょっと時間がかかってて。その間に、これを味見してみてね」目の前に置かれたのは、2切れのフォア・グラのテリーヌにサラダを添えたものが乗った、青みがかった白が素敵なツェツェの皿。
「嘘でしょ?なにこれ?もう既に、デセール気分なお腹になってるのに、、、」
「ゆ、ゆきのちゃん、、、。私、フォア・グラ、嫌いなのよ」と日本語で絶望感を表現した後、
「親切過ぎるわ。どうもありがとう」と、にっこり笑顔をナタリーに返しながら、フランス語で告げる。日本語って、便利だ。

気を取り直してフォア・グラに向き合う。
「どっちが鴨でどっちがガチョウ?」
「あ、それは後で言うわ。まずは味見してみて。で、当ててみてください。さ、ブリオッシュのトーストをどうぞ」とナタリー。じゃあまあ、戴きましょうか。見た感じ。右が鴨、左がガチョウ。ガチョウの方がねっとりして色が濃い。味。右が鴨、左がガチョウ。ガチョウの方があぶらっぽい。好み。どっちも美味しい。どっちも好き。でもやっぱり、鴨の方が口の中の風味がいい。

正解。右が鴨、左がガチョウ。いずれにしてもこのフォア・グラ達、アルコールの添加量が多いよね。アルザスのフォアグラとは風味が違う。

失礼にならない程度にどうにか食べ散らかしたフォア・グラ達。うう、これでしばらくは、フォア・グラいいや。ノエルの時も、ソモン・フュメだけでおゆわいしよう。

右隣の叔父さま達は、デセールの時間。大きなグラス・ヴァニーユの半分を、スプーンにこんもり乗せてパックン。美味しいそうなクレープスフレみたいのを、大きく3つに切って、パクパクパクン。マングーのロティを3切れほどまとめて、ゴックン。ひいい、一瞬にして、デセールがあらかたなくなっちゃったあ。大食漢、とはまさにこのこと、と、感心していたけれど、あれ、ちょっと待って?私たちだって、周りから見たら大食漢??

シャンパーニュ・アミューズに引き続き、アミューズ、アントレ、そして今はフォア・グラ。これからまだ、プラがやってくるんだよ。心配だなあ、プラ、食べきれるかしら?

rougeで、ようやくルジェがやってくる。ポワレした2切れのルジェの切り身が、赤ワインで濃く煮込んだ肉のソースに浮かんでる。大きな骨髄を挟んで、トマトのリゾット。仕上げにナタリーが、オリーヴオイルを滴らしてくれる。わー、おいしそー!。パクン。わ、濃いー、、、、。モグモグ。

トマトのリゾットに使われた、フロマージュとラードンの濃さも、黒オリーヴと肉汁を煮込んだソースも、私にはあまりにも濃すぎる。多分これ、フランス人は、大好きな味だろう。へらへらした訳の分からない味ではなく、大地にどっしりと腰を落ち着けたような、この地方独特の力強い味。塩が濃い、というよりも、使った素材そのものが一つ一つ凝縮された味を持っている、という感じか。土地の匂いと伝統を味わえる、非常にしっかりした料理だ。

ごめんね、でもね、私にはいくらなんでもちょっと重過ぎる。慎重にルジェをソースから救い出し、皮がパリッと美味しいルジェを味わう。ソースとリゾットは味見程度になってしまう。

「気に入りませんでした?」と、残し気味の私たちのお皿を見て、ナタリーが心配そう。
「美味しかったんですけど、やっぱりちょっと味が濃かった」
「ランド地方ならではの味付けなんですよ、こういうの」
「ええ、分かる。とってもよく作ってあるし、美味しかったわ。でもね、凝縮度がすごすぎて、全部は無理だったの。ほら、フォア・グラも食べてたし!お腹一杯だったの」
「あはは、そうね。でも、デセールは?これは食べるでしょ?」
「えへへー、もちろん」っていうか、甘いもの食べなくちゃ、辛味に麻痺した舌が治らない。

テーブルがきれいになった所に、ナタリーがやってくる。
「デセールに、ジュランソン召し上がりません?甘い方」
「え、このまま、残ってるセック(辛口)でいいですよ。香りは甘いから、これでも合うし」
「なになに、なんて言ったの?」テーブルの向こうで、ナタリーの言葉がよく聞こえなかったMきちゃん。
「ん?ああ、デセールに合わせてジュランソンをいかが?って」
「飲むー(^^)」と、ニッコリ頷くみつきちゃん。
「だそうです」と、私もニッコリ。
「ダコー」ナタリーもニッコリ。「ドメーヌ・ブリュ‐バシュのカンテサンスをごちそうしますね」

カンテサンスという名前のジュランソンは、ドメーヌ・コアペでも造っている。本質、真髄、精華、という意味の言葉にふさわしく、前に味わったコアペのカンテサンスは、まさに、甘口ワインの真髄だった。

ナタリーがごちそうしてくれた、ブリュ-バシュのカンテサンスもまた、その名に恥じることない、素晴らしい作品だ。艶やかに輝く黄金色。アプリコットやプルーンの皮のあたりがちょっと腐ったような匂いと、バターたっぷりのブリオッシュが焦げた感じ。甘みを粋を極めたようなソーテルヌや、太陽の熱っぽさを持つミュスカよりも、私はやっぱりジュランソンやゲヴルツ系の、湿った大地の匂いを併せ持つ甘いワインが好きだ。

tarte「バニュルスの洋なしタルト」は絶品。さっくりタルトの上に、恐らく栗と洋なしを混ぜたパット。上にはバニュルスで煮込んだ洋なし。よく見ると、洋なしは薄く美しく飴をかけられている。フワッと軽目のミルクをたくさん含んだ、ソフトクリーム系のグラスヴァニーユの軽やかさ。サックサクの完璧なタルト。甘みがちょうどいい栗の味がするパット。香りよく煮込まれた洋なし。すごいや、パティシエさん、ランドから一緒に来たのかなあ。

madeleineこれだけはツェツェ製じゃない紅茶の器が、アーティスティックでとても素敵だ。裏を見るとイタリアのブランド名。これ、どこで買ったんだろう?パリにもブティックあるのかしら?シナモンやプルーンの香りたっぷりの秋果物の紅茶と、フランボワーズとアプリコのコンフィチュールが添えられたマドレーヌを食べ終わる頃には、残っている客は私たちだけになっている。

何時、今?まだ、12時半じゃない。お客様、入るのも早いし引くのも早いね、このレストラン。

ラディションを頼む。手書きの明細が素敵だね。ん、シャンパーニュの代金が入ってない。え、なにこれ?デセールもついてない。忘れただけかな?それともごちそうしてくれたのかな?デセールのお酒もサービスだったし、フォア・グラもごちそうになってるし、なんだかこれじゃあ、悪いくらいだ。ま、いっか。

ラディションしてくれるセルヴールに、紅茶カップについて聞いてみる。
「僕は知りません」と、なんだか訳が分からないセルヴールを奥まで聞きに行かせて、戻ってきた答えが、
「他の食器と一緒です」そんな訳ないでしょ、そんな訳。これだけ色だって違うし、イタリアのメーカーの名前が入っているし。何を考えるんだか。きっと、コーヒーカップの話でも聞いてきちゃったんだ。だめだ、このセルヴールじゃ話にならない。ナタリーは帰っちゃったのかなあ。

帰り際、厨房を覗いてみる。なんだ、ナタリー、いるんじゃない。窓越しに私たちに気付いて、ナタリーがシェフと一緒に出てくる。初めて会うエレーヌ・ダローズは、思ったよりも小柄だけれど、写真でよく見るキュートな笑顔が素敵。髪をばっさり、ショートにしちゃったのね。しばらくお喋りして、紅茶カップのことも聞いてみる。
「ああ、紅茶の方のことだったのね。あれはイタリアで買ってきたの」
「パリにもブティック、あるのかしら?」
「んー、ちょっと分からないわ。請求書探して、聞いてみるわ。分かったら連絡しますわ」と、とってもサンパなシェフ・エレーヌ。ごちそうさまでした、エレーヌ。歓待してくれて、どうもありがとう、ナタリー。

何十年分も取り揃えてある、素晴らしいアルマニャックのカルトをこっそりおみやげにもらって、下への階段を降りる。階段の壁には、前のレストランの歴史を綴ったような写真がたくさん飾られている。どうしてランドを離れたのかは知らないけれど、パリは彼女の進出を手放しで歓迎している。ビヤンヴニュ・ア・パリ、エレーヌ!

一段と寒さが厳しくなった夜中、足音を忍ばせて階段を登り、そっと玄関を開けるやいなや、ピュスが廊下に飛び出してくる。あ、寝てなかったの、ピュス?お腹が空いていたらしい、食べ物を探して飛び回った形跡がそこら中に残ってる。だめだよ、ピュス。私と一緒に、ダイエット中なんでしょ?これしか食べさせちゃいけない、って大家さんに言われてるんだよ。

フォア・グラをはじめ、ランドの料理をたっぷり食べてきたばっかりの私の言葉には、何の重みもなかったらしく、恨めし気な目でピュスは私を見上げる。あははは、やっぱり信憑性ないよね?OK、分かった。じゃあ、大好物の海苔を少し上げましょう。ちょっとだけだよ。明日は一緒にダイエットしようね、ピュス。


sam.13 nov.1999



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