16日にH子さんとジョエルのマリアージュのフェットをやった「ル・ドーム・デュ・マレ」。高い高いドーム天井のユニークな建物での素敵な披露宴。ピアノ、サックスの生演奏に引き続き、アンティーユの舞踊にダンスを楽しみながら、美味しいお料理に舌鼓。
「野生のキノコのパイ包み、パセリソース」「帆立貝のポワレ、ミュスカデ風味」「雉のファルシ、腿肉のアッシパルマンティエ添え」「ピエスモンテのデセール〜イチジクタルト、ガトーショコラ、洋なしのシャルロット〜」と、どれもこれも、はっとする素晴らしいお料理とお菓子だった。
数年前までパリで名を馳せ、その後ナントに活躍の場を移していた、ピエール・ルクートル。彼が今年の初めからパリに戻って来ている、という話は聞いていたのだが、どこのレストランだか知らなかった。
「ル・ドーム・デュ・マレ」というレストランで披露宴なんです。ご存知ですか?デセールが美味しい、って評判のシェフなんですよ。是非、いらしてくださいね。H子さんからのそんな招待を受けて初めて、このレストランがルクートルの店だと知った。
花嫁姿のH子さんとお料理を楽しみにしながら行った披露宴。H子さんもお料理も、予想に違わぬ素敵なものだった。
やっと見つけたルクートルのレストラン、しかもこんなに美味しい。これはどうしても、すぐさまリピートしなくちゃ!と、ハロウィーン前夜の土曜日、4人分の予約を入れる。
小雨交じりの風が吹く土曜の夜。去年あたりから、すっかりパリに定着したハロウィーンの前夜祭がそこかしこで行われていて、怪しい風の吹くパリの街には、魔女や骸骨、かぼちゃのお化けなど、デギゼ(仮装)した人たちと、オレンジと黒の色でいっぱいだ。
ゲイで大賑わいのカフェを横目にマレを歩く。教会の横の中庭の奥が「ル・ドーム・デュ・マレ」。ドアを二つ開けて中に入ると、人々の談笑が高い天井に反響する音が耳に入ってくる。
「ボンソワール!元気でした?カメラはどこ?」披露宴の時にもデイジーは人気者だった。デイジーをいたく気に入っていたセルヴールが寄って来る。
「ちゃんと持ってきたわ。カバンの中に隠れてるの」
「よかった。そうだ、マダム・デュボワ(H子さんのこと)、つい数日前に来たんですよ」
「あ、ええ。木曜日のお昼でしょ、確か?行く、って言ってた」
「あなたもまた来てくれて嬉しいな。さ、どうぞ、コートを預かります」
コート預けて、テーブルへ。披露宴の時は、丸テーブルばかり7つ出していたけれど、今夜は四角と丸テーブル、半々ずつ。あれ、バルコニーのテーブルも使ってるじゃない。いいなあ。丸いサルを見下ろす形に付いているバルコニーには二人用のテーブルが2つ3つ置いてある。サルを全部見下ろせて、とってもいい感じだな、って目を付けていた。今度、二人で来る時には絶対あの席リクエストしよう。
シャンパーニュ飲みながら、ランティーユ(レンズマメ)のペーストをつつく。9時前、あらかた埋まったレストランには、外からひっきりなしに飛び込みの客がやって来ては、いっぱいです、と断わられて帰ってゆく。人気店なんだよね、ここ。
店内のキャパは50人弱。セルヴールが4人。そんなに少ない訳じゃないのに、なかなかカルトが運ばれてこない。なかなかどころか、全く運ばれてくる気配もない。ま、いっけど。ゆっくりお喋りしてれば。とは言いながらも、アミューズのペーストはなくなり、お腹が空いてきた。早くカルトちょうだい。お腹空いちゃったわ、私たち。
ゴーミヨの季刊誌にこのレストランの記事が載っていたが、[悪い点]に、「セルヴィスが時々ゆっくりすぎる」ってあったけど、まさにその通り。ゆっくりのセルヴィスが好きな私ですら、ちょっといい加減にして!って言いたくなるような、のろのろさ。
ようやくもらったカルトは、4人に二つ。まあねー、ちょうどお客様がたくさん入った時間だったけど、いくらなんでも、カルトくらい1人に一つずつちょうだいよ。こういうところでくだけすぎてるの、私、嫌い。
まあ、建物エレガントではクラシックとはいっても、セルヴィスはカジュアルなこのレストラン。そんなことでめげてちゃいけない。お料理選びにかかりましょ。170フランと230フランのムニュ・カルト。それぞれ、3品くらいから選べるようになっている。
フンフンフン、と見ていくうちに、「私を食べて!食べてちょうだい!」と、目に飛び込んでくるお料理一つ。もっちろん!テット・ドゥ・ヴォー(仔牛の頭)もいいしピジュノー(仔鳩)も好きだけど、あなたがいるんじゃ、他の子を食べる訳にはいかないわよ。久しぶりだね、ビッシュ(雌鹿)ちゃん。また会えて嬉しいな。
秋の味覚ムニュから選んだビッシュちゃんに合わせて、アントレは「セップ(キノコの一種)のタルト」。前回、野生のキノコのフイユテを食べた時に、さっくり軽く焼き上げられたパイの美味しさに脱帽した。あの時と同じパイを期待して頼んだセップのタルトは、フイタージュの上にポワレしたセップをたっぷり乗せてあるもの。これに、生のホウレンソウのサラダが添えてある。フイタージュ自体は、前回の方が出来がよかったけれど、これはこれで美味しいし、セップの香りが秋を主張する。サラダのドレッシング、好きだな。酸っぱくなくって。
冷えが足りない97年のサンセールは、自己主張するタルトに負け気味だけど、ま、そこは見ないふり見ないふり。
お気に入りのバゲットを齧り、セルヴール達と遊んだり横の席のちっちゃな犬とお近付きになったりしているうちに、プラが運ばれてくる。うわあ、久しぶりのビッシュだなあ。肉の中で、鶉と野生の鴨、仔羊と並んで、鹿が一番好き。秋になると出てくる鹿たち、カルトにその名を見つけると、ついふらふらと頼んじゃう。
塩と胡椒でしっかりと味付けされ、濃い目の肉汁をかけられたビッシュ。適度な歯ごたえ、肉の弾力、ソースの甘み。見事なハーモニーだ。ああ、私の可愛いビッシュちゃん。私はあなたが大好きよ。
ガルニの方は、カラメリゼしたオニオンとアンディーヴ、リンゴは好き。赤キャベツのマリネは嫌い。本物のポティロン(かぼちゃ)に入ってやってきたポティロンのピュレは傑作!これ、おみやにして持って帰って、明日、スープにしたいなあ。まさに秋味、素晴らしいピュレだ。
お酒は、コリビエールの97年。お魚を食べた人もいるので、強すぎない赤、で選んだコルビエール。可愛く人懐こく、ビッシュの強さにも、愛敬でついていってる。なかなかよね、これ。
デセールは「オレンジ風味のクレーム・ブリュレ、オレンジサラダとカカオのソルベ添え」。まず運ばれてきたのは、オーソドックスなクレーム・ブリュレ。「待っててね、まだ食べちゃダメだよ。これだけじゃないんだから」と、セルヴールが次に運んできたのは、カカオのチュイルが添えられたカカオのソルベ
「わーい!いただきまーす」「あ、待って。まだあるんだよ。まだ食べちゃダメ!」3つめのお皿が運ばれる。赤い果物でマリネした、オレンジのサラダだ。目の前に並ぶ、赤、黒、白の3つの色に分けられたデセール達。きゃん、美味しいそう!
クレーム・ブリュレは、まあ、ごく普通のブリュレ。美味しいよ、美味しいけど、白状すると、実は私、そんなに好きなものじゃないんだ(笑)。
このデセールを選んだのは、カカオのソルベに惹かれたから。この間、「ル・レジャンス」でもショコラのソルベを食べたけれど、大好きなの、ショコラのソルベって。グラスよりも、カカオ本来の味が出るソルベ。ショコラと冷たいもの好きの私には、たまらないデセール。ちょっとだけ、アールグレーの紅茶みたいな香りもする、期待通りに美味しいカカオのソルベ。
「どう、楽しくやってる?」と様子伺いに来るセルヴール。
「うん、楽しんでる。それにしても、このカカオのソルベ、最高に美味しいわ。大好き!」と言うと、
「そっかそっか、じゃ、もっと食べる?」と、空になったお皿を下げて、あっという間に、もう一掬い、ソルベを持って来てくれる。えへ、嬉しいな。フランボワーズとフレーズのクリ(ソース)でマリネしたオレンジのサラダも素晴らしい味。クレーム・ブリュレにそっぽを向いて、ソルベとオレンジに夢中になる。
「クレーム・ブリュレ、残ってるじゃない。ダメだよ、全部食べなきゃ」
「で、でも、、、。私、カカオのソルベ、2個も食べてるんですけど」
「ダメダメ!厳しいんだから、ここ。全部食べなきゃ絶対ダメ。さ、食べて食べて!」あんまり好きじゃない、なんて言えないし。仕方ないので、もぐもぐと、3分の1ほど残っていたブリュレをあらかた食べ尽くす。
「ん?チッチッチ!まだダメ。まだここに少し残ってる。ほら見て、こっちのはこんなにきれいに食べてるでしょ。君のもこのくらいきれいにして!」と、M来ちゃんのきれいに食べ尽くされたブリュレの器を私に丁寧に見せてくれる。
「ダコー、ダコー!食べます」ピュスがカツオブシのお皿をなめるみたいに、きれいにブリュレを食べ尽くす。
「OK。よし、合格」満足そうに頷いてお皿を片づけるセルヴール。
デセール、さすがだね。この間食べた、フィグのタルトが信じられない美味しさで、今夜はタルト系のデセールがなくって残念だったけど、私たちのデセールも、他の二人が取ったショコラのデセールも非常によく出来たデセールだ。
ピスタッシュとアマンドのフィナンシエを齧って、マントのお茶飲んで、シェフともちょっとだけお喋りを楽しんだ。じゃあ帰ろうか、そろそろ?今夜は終電捕まえたいし。
「また来てね。ところで君の披露宴はいつやるの?」とセルヴール。
「ははは、、、。一年後くらいかなあ、多分」と私。でもほんとにここ、フェットするのにとてもいい建物。丸い一部屋なので、どこからも見晴らしはいいし、天井は高くデコラティフで、とってもいい雰囲気。ひろこさんたちは、本当に素敵な場所を選んだよね。お料理はさすがに美味しいし、お値段も高くない。サンパすぎてちょっと雑でゆっくりなセルヴィスを許せれば、とてもいい感じのレストラン。また来たいね、うん。
日付が変わったパリは、盛り上がりをいよいよ増して、雨の上がったマレの街は、週末とハロウィーンの匂いの混じった怪しい雰囲気いっぱい。トゥサン(万節祭)の月曜日を控えた今週末は3連休。今夜の前夜祭、明日の本番、と、すっかり市民権を得たハロウィーンは盛り上がるんだろうな。
家に帰ると、1人でお留守番をしていたピュスが飛び出してくる。この週末、大家さんは田舎の家に行ったので、ピュスを預かってる。ごめんねピュス、一人ぼっちにしておいて。お化け、来なかった?時計の針を一時間戻し、ベッドに入る。今日から冬時間。これから冬至までの一ヶ月ちょっと、一番つまらない季節に入る。どうやって、このつまらない時期を乗り越えようか考えながら、ピュスを湯たんぽ代わりに眠りに就く。
sam.30 oct. 1999