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グルマン・ピュスのレストラン紀行


ギ・サヴォア (Guy Savoy)

96年2月の日記に書いた。「高すぎて、自分じゃ来られない。ねえねえ、誰かつれてってよ!」って。それから4年。だーれもつれてってくれないから、仕方なく自分でもう一度来ちゃったよ。

久しぶりに、「ギ・サヴォア」です。
4年前の夜の思い出は、確かに美味しいけれど自分の才能を押し付けがましく見せびらかした、ちょっとあくの濃すぎる料理と、モダンアートを飾った店内のデコラシオン、それに、サンパすぎるくらいにサンパなセルヴィス。一滴だけ滴らされたオリーヴオイルがトパーズのようにきれいだったアミューズのサツマイモのポタージュ、鹿のロティ、それにアヴァンデセールのリンゴのタルトが美味しかったっけなあ、と記憶をたぐりながら、あまりの寒さに肩を竦めてレストランのドアを開ける。

「ボンソワール、いらっしゃいませ。さあ、どうぞこちらに。ご予約のお名前は、、?」
「コートをお預かりします。どうぞ、カバンをお持ちしますよ。脱ぎやすいでしょ、この方が」
「お席はあちらです。さあどうぞ、ご案内いたします」
「椅子はこれで大丈夫ですか?素晴らしいひとときをどうぞ!」受付から席まで、メートルやセルヴール達の怒涛のような歓迎にアップアップしながら、テーブルに落ち着く。相変わらずまあ、媚び媚びのセルヴィスだこと。

角が多く、高台を作ったりと、ちょっと変則的な形のサルは、人で賑わっている。ちょっとテーブルを詰め過ぎのきらいもあって、人のざわめきと、その間を縫うたくさんのセルヴール達がうざったいくらい。相変わらず人気店だわ。前回は個室だったから、この雑踏に悩まされなかったんだ。

英語圏の客が多い。ムシュ・サヴォアは、顧客のターゲットとして、アメリカ人と日本人に焦点を当てているので、英語の割合がどうしても高くなる。このクラス(ミシュラン2つ星、ゴーミヨ19点)のレストランの夕食風景にしては非常に珍しく、ビジネス・ディナー客も多いのが、このレストランの特徴だ。

ポップなアフリカ・アートを中心にした、現代美術のギャラリーみたいな空間は、「ラ・ビュット・シャイヨ」や「レ・ブキニスト」など、ムシュ・サヴォアのビストロ達の雰囲気に通じるところがある。そう言えば、今週の木曜日は「レ・ブキニスト」でご飯だ。エリック、ちゃんと復帰してるかなあ。

シャンパーニュを頼み終わったところで、「どうぞ。こちら、おみやげです」と、ギ・サヴォアの袋に入ったおみやげセットが手渡される。え、もう?おみやげ、って、普通最後にくれるものじゃないの?前にももらった、ギ・サヴォアのオリジナル小皿。それに、2000年版の「ルレ・エ・シャトー」と1999年版の「レ・グランド・ターブル・デュ・モンド」のガイドブック。更に、彼のビストロ達の連絡先の入ったカードとギ・サヴォアのパンフレット。この一式が袋に入った物がおみやげだ。このおみやげ、女性にしかくれないんだよね。前の時も、私1人でもらって、いいないいな、と連れにひがまれたっけ。

シャンパーニュで乾杯して、「スズキのアーティチョーク・ピュレ添え」を味見。ちょっとしょっぱい、でも美味しい。

んー、んー、んー、、、、。カルトとにらめっこしているうちに、メートルが注文を取りに来る。
「お決まりですか?」
「まだ」
「ゆっくりどうぞ。何かご質問は?」
「あ、ええ。これは何?あとこっちはどういうものかしら、、?」一通り、カルトの説明を受けて、改めてカルトの見直し。
「ふうう、お料理選びって大変ですよね。でも、この時間が一番楽しいわ」
「お料理を食べる時間はお嫌いですか?」
「ああ、もちろん好きよ。でも、カルトの時間も同じくらい好きだわ」
「ラディション(会計)の時間はどうですか?」
「それは嫌い、、、。でもね、仕方ないわよね」グレーのスーツのメートルは、ダヴィッドさんのポテッとした後ろ姿と、エリックの満面の笑顔と、アランのちゃらけた雰囲気と、クリストフのカラリとしたサンパさ加減と、ファブリスの落ち着きを、ぜーんぶ合わせて還元したみたいな感じ。いかにも「ギ・サヴォア」のスタッフ、といった感じなのだ。お酒も決め終わり、ようやく一息。残ったシャンパーニュを終わらせて、さて、じゃあ、お食事の開始ですね。

lingoustineトロリと甘い「ニンジンのポタージュ」をアミューズに戴いた後は、「レンズマメとラングスティヌのクリームスープ」。レンズマメの素朴な滋味に、ラングスティンヌのポワレの華やかな味。これがいーい感じに溶け合っていて、上出来です。上にたっぷり散らされた、揚げたパセリがとてもいいアクセント。ああ、ギ・サヴォアも、こういう控えめでありながら主張する料理を作れるようになったのね。以前は、自分の有り余る才能をもてあまし、僕はこれも出来るんだ!こんなのも作っちゃうんだ!みたいに、ちょっとアクロバットじみた料理を出してきてへきえいしたけれど、今は才能と技術と理想と現実が、いい感じにこなれているみたいだ。

ゴーミヨでは今年、19点にプラスして、トック2000という、いわゆる19点のレストランの中でもより素晴らしいレストランとして、「ミシェル・ゲラール」や「オリヴィエ・ロランジェ」達と共に、取り上げられているし、脂が乗っているのね。

colvertプラは、「コルヴェール(青首カモ)のロティ、レモンソース。野菜のファルシ添え」。この季節のお楽しみ、コルヴェールに舌鼓を打つ。しょせん、カナールは鴨といってもアヒルよアヒル!野生の鴨とは似て非なる、というよりも、全く別物よっ!と、力説したくなっちゃうような、コルヴェール。ごろりと大きな固まりが優雅にデクパージュ(切り分け)されて、きれいに皿に盛られて目の前に置かれる。血を閉じ込めたまま絞めたんだろうな、という感じの、たっぷり鉄の味と、野生ならではの、噛み応えのある力強い肉。くうう、この噛んだ時の味がたまらないのよね、コルヴェールって。

前の冬に「ラストール」で戴いたコルヴェールは、血の匂い逞しく野趣に溢れた一品だったけれど、今夜のは、あの時のよりも、ちょっと優しい感じの味かな。レモン風味の味付けが、ちょっと甘酸っぱくて、優しさを出しているのだろう。ガルニのカブとキャベツの中身は、鴨のアバ(内臓関係)を叩いた物が入っている。野生のキノコのソテーがまた、薫り高くて美味しいわ。

ギシギシと歯の間で音がするコルヴェールの肉にうっとりと立ち向かっていると、小さな皿が運ばれてくる。
「鴨の腿の部分です」細かく切った腿肉を甘くソテーしたものが、サラダの上に乗っている。ちょっと甘すぎるのが残念だな。塩と胡椒、それにオレンジのチャツネでも添えてあれば素敵なのに。

ちっちゃなアミューズ達にスープにコルヴェール。この程度の料理なら、お腹にまだフロマージュの入る余裕があるわ。お酒もまだ残ってるんでしょ?久しぶりに、レストランでfromagesフロマージュにこんにちわする。冬ならではのヴァシュラン・モン−ドール、ボーフォールにルブロション。ピスタチオと葡萄が入ったパンにたっぷり付けて戴く。

96年のコート・ロティは誰が造ったのか忘れちゃったけれど、味見の段階ではちょっと刺激が強すぎるくらいの味だったが、コルヴェールの野趣に非常によく合っうお酒だ。冬味フロマージュ達にも、もちろんピッタリ。

アントレ用にと、ルドゥセットさんのピュイイ・フュメを頼んだのは、必要なかったね。笑っちゃうくらい、感動のないピュイイ・フュメだった。ああいうのはそもそも、このレストランに似合わないんだ。ギ・サヴォアのビストロ向きお酒だ。

ここのデセールは、ドゥミ・ポーションを作ってくれるので、2種類頼んでみる。素晴らしい出来のチュイルとプティ・フール達に引き続き、「カルダモン風味の紅茶のソルベ」が出た後、まずは一つ目のデセール、「クレマンティンヌ(みかん)の冷温製」。なかなか美味しいミカンのソルベにバターでソテーしたみかんが飾ってある。お皿がとっても素敵ね。あれ、でもこのお皿、ルノーがいた「ヴェルシオン・シュド」のティラミスにも使ってるわね。二つ目のデセールは、tarte「レモンのタルト、パイナップルのソルベ添え」。これは昔、ここで食べたものだ。パイナップルのソルベが美味しいね。レモンクリームが、ちょっと濃い味だな。

めまぐるしく、目の前に運ばれるお皿に、ちょっとへきえい気味。もういいよ、お皿を見過ぎた。早く、お茶にしたい、、、。と、思っている所に、
chaud「どうぞ、デセールの締めくくりに。リンゴのタルトです」と、薄く切ったタルトが運ばれてくる。ま、まだ食べるのね、、、。このタルトも前回食べてる。その時は、アヴァン・デセールだったけれど。とっても美味しくて気に入ってたよね、あの夜。柔らかな甘さがいい感じのタルト。もう少し、生地がサックリしているともっと素敵なのだけれどね。フレッシュ・マントのアンフュージョンの生臭い匂いを嗅ぎながら、極薄のショコラを口に運び、今夜のディネの締めくくり。

12時を過ぎたばかりだというのに、大半の客が引き上げているのは、外国人とビジネス客の多さの表れかしら。お料理は、以前より確かにこなれている。とても美味しいよ。でもね、やっぱり今一つ感動しないのはなぜ?コルヴェールの味もよかったし、スープも美味しかったのに。多分きっと、食器類が気に入らないせいだろう。前から、やだなやだな、とずっと思っているここの食器。ギ・サヴォアのオリジナルか、アール・ヌーヴォー調のお皿を使っている。どちらも私の好みじゃない。

カトラリーもいや。なんだか、その辺のブラッスリーで使っていそうな、つまらないデザインなのだもの。テーブルのナップにアイロンがかかっているのはグーッド!だけれども、出来れば、テーブルの上の部分だけじゃなくて、脇に垂れている部分にも線がなければ嬉しいな。蘭を中心にした花はちょっとグロテスク。もっと清楚な方が好きよ。

ロウソクは大嫌い。台はいいのだけれど、中に入っているのが、安物のアルミの器のロウソクなのが気に入らない。ビストロに置くならともかく、ガストロに置いちゃいけない、こういうのは。だったら、ロウソク置かない方がいいわよ。

ナップをさらりと膝に掛けてくれたり、気のいいおしゃべりをしたり、行き過ぎなくらい愛想のいいセルヴィスは、前回同様好感が持てる。こういうセルヴィスは、高級レストランに慣れていない人でも、安心して楽しむ事が出来るもの。欲を言えば、もう少しゆっくり喋って欲しいな。忙しいからなのか、みんな、早口なのよね。

ギ・サヴォアが最後に挨拶に来るのも、嬉しいパフォーマンス。本当にこのシェフが厨房で監督しているんだ、と、確認できるのはいいことだ。
「この本、欲しいな。ムシュ・サヴォアのサインを入れてくれる?」と、Mきちゃんがダヴィッドさんに何度頼んでも「お、忘れてた!悪い悪い、今度までにやっとくよ!」と、埒があかなかった、ギ・サヴォアの料理本を、いい機会なので購入。さすが本家!メートルに頼んで1分後には、
Pour M
Tres Cordialement
aaaaaaaaaaaaaaGuy Savoy
とデディカスされた本が持ってこられる。ちょっと早いけれど、Mきちゃんへのいいお誕生日プレゼントが出来たわ。

ひゃあ、やっぱりたか〜い!思わず、声が出ちゃったラディションを眺め、もう一杯マントのアンフュージョンを飲んで、タクシーを呼んでもらう。すっかり人が少なくなった店内は、暗く柔らな照明に包まれて、ようやく落ち着いた雰囲気を醸し出している。

そうだなあ、やっぱりここは、ビジネスレストラン。カップルで来るよりも、接待に使いたいレストランだ。まあでも、外国人に絶対優しい、という、ムシュ・サヴォアのポリシーがあるから、安心して人に薦められるレストランでもあるけれどね。

美味しかったです、ごちそうさまでした。


r.11 jan.2000



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