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グルマン・ピュスのレストラン紀行


[SIRHA]'99(食の国際見本市)その3

−27日−ボキューズ・ドール(二日目)

5日間続いたこのサロンも今日が最終日。ボキューズ・ドールは開催2日目を迎え、盛り上がりは最高潮。プレスと観客に埋もれた会場は熱気に包まれている。リヨンの寒さにあたって風邪を引きかけている身には、この熱気に頭ふらふら。おや、マダム・ゲラールだ。旦那様はどおこ?とゲラールさんを探すと、いたいた。コック帽に、葉っぱ付きのニンジンを飾って喜んでいる最中だ。かーわいいんだから、ゲラールさんってば。

観客席に目を移すと、今日は北欧の人ばかり。周りからはフランス語よりも、全く聞きなれない、スカンジナヴィアの言葉が耳に飛び込んでくる。昨日のカナダや南米もすごかったけれど、今日の北欧チームもすごいぞお。普段や陽気なイタリアなど、ラテンの影が全く薄れてしまうほどに、北欧パワー炸裂。マキアージュはあたりまえ、このコンクール用に作成したポスターを壁中に貼りつけ、出場者のパンフレットを配り、特製ティーシャツを着込んで、記念のピンを襟に留めて、大小の旗を振りかざしながら応援に余念がない。それにしても、さすが北欧!ボー・ギャルソンがあっちこちにいて、見てて楽しいな。

全くきちがい沙汰だよ、全く。なんなんだ、この盛り上がり方は!?ノルウェーに端を発した応援合戦は、負けじと、アイスランドがこれに立ち向かい、遅れてはならぬ、とフィンランドが後に続く。冗談じゃない、俺達を忘れるな!とばかりにこれにベルギーが加わって、会場中、国歌を歌い足を踏み鳴らしての一大応援合戦が繰り広がる。はりぼての会場が壊れちゃうよお、、。1000人位のキャパの会場は、この4日間で一番ぎゅうぎゅう。どこの国も、ほんと、小道具の用意がいい。オリンピック顔負けの準備だよ。

さて、ようやく審査員の着席。昨日の倍の盛り上がりを見せて、各国審査員が無事、各自の席に着席。おや、ピエール・トロワグロも来たぞ。

そうこうしているうちに、デンマークを皮切りに、料理がどんどん出来上がってゆく。今日の出場国は、昨日よりもレベルが高い。中国の華やかさ、ベルギーの繊細な緻密さ、ノルウェーの優等生らしい完成美、、、。もう、幾度も思ったことだが、料理の技術と言うのは、本当にすごい。普段、レストランではお目にかかれないようなものなだけに目新しく、よくもまあ考えたものだ、としみじみ感動する作品が、次々と現われ、写真を撮られ、取り分けられ、そして吟味されてゆく。あーあ、食べたいなあ。

おや、マルク・ムノーもやってきた。フランス中の今をときめく最先端のシェフたちの集まりになっちゃったなあ。ねえ、ギーは来ないの、大好きなギー・マルタンは??

午後5時。出展料理が全て終了し、記念の写真撮影会も終わって、いよいよ結果発表を待つばかりになった。我が観客席は、時は満ちた!いざ行かん!とばかりに、いよいよ素晴らしい盛り上がり。酔っ払ってる人までいて、もう大変な騒ぎ。あちこちで、ガードマンが厳しく統制している場面が見られる。

今回はブラジルを震源地として始まった応援合戦は、フィンランド、ノルウェーら北欧を通過し、ベルギーを経てカナダと合衆国に飛び火。ゴンゴンゴンゴンと床に鳴り響く足音に、今にも会場は壊れそうだ。ああもう、ウェーヴまでおこちゃったよ、、、。よーく見てみると、ノルウェーの応援団を煽動しているのは、何と偉そうなコックさん。出場者の先生らしい。ま、ね、可愛い教え子の晴れ舞台だからねえ、気持ちは分かるけどさあ気持ちは、、。自分たちの様子がスクリーンに移ろうものなら、それはもう大変。はじかれたように立ち上がり、声を張り上げ旗を振りかざす。

remiseふ、と会場が暗くなる。結果発表の時間だ。会場中から歓声が上がり、もう誰も座っていやしない。応援のおかげだろうか、こっちの気分も結構盛り上がってワクワクドキドキ。フェルニオの登場をもって、会場の盛り上がりは最高潮に達する。
「さあ、結果だ!聞きたいか!?」
「ウゥォーーーーーーーーーーーーーーッツ!!!」。
何十回と聴いた、すっかり耳に慣れ親しんだテーマ局と共に、各国の審査員と出場者の入場。続いて、このコンクールを支えたMOFのお偉方の登場。うわあ、MOFだらけになっちゃったよ、会場が。フランス料理の発展の歴史上の、偉大な人物がみんな集まっている訳だ。結構感動的なシーンだ。

いよいよ結果発表。まず初めに、このコンクールについて、もっともプロモーションを行った国、としてアルゼンチンが表彰される。続いて肉部門の優秀賞がカナダに、魚部門が合衆国に贈られる。さてこれからが本番だ。

まず、「ボキューズ・ドゥ・ブロンズ(銅)」。
「ベルジック!」
berge歓声と罵声、そして嘆息が交じり合う中、ベルギーの出場者と審査員が舞台に上がる。悔しいだろうなあ、ベルギー。お菓子も2位に甘んじた上に、料理も3位。見た目には本当に美しい料理を作ったのに、、。とくにガルニの出来は、筆舌に尽くし難い出来栄えだったのだが、、。
続いて「ボキューズ・ダルジャン(銀)」。
「フランス!」。北欧に占領されてしまったとはいえ、わずかに席を確保していた観客席のフランス人と、こちらはさすがにマジョリティーを占めていた、前方のVIPスタンドのフランス人から、大歓声が沸き上がる。ひとしきりの興奮が冷めた後、いよいよ「ボキューズ・ドール(金)」に選ばれた国が発表される。

「いつもなら毎回このコンクールを見守り、コンクールのトロフィの作成者であったセザール氏に、、」と、先日亡くなってしまったセザールへのオマージュをささげた後、「ううぅ、この封筒の中は凍えるような寒さだぞ」とSIRHAの会長が封筒の中から紙を取り出し、マイクに向かって発っした言葉は、、、、。

「ノルヴェージュ!」

norway耳をつんざく大歓声が会場中から上がり、ノルウェーの出場者が審査員と抱き合って、満面の笑みを湛えて舞台に上がる。会長からトロフィを受け取り、高々と掲げる横から、花火が上がり、続いて紙吹雪が会場を埋め尽くす。興奮した応援団の歓声が続く中、ノルウェーの国家が斉唱され、2日間に渡って繰り広げられた「ボキューズ・ドール」の幕は閉じ、5日間に渡って開催されたSIRHAの見本市もまた、2年後の開催に向けて、ひとときの眠りに就いた。

寒い寒いリヨンですっかり風邪を引き、帰りのTGVは地獄だった。熱でボーッとした頭の中を駆け巡ったのは、4日間に渡る応援団の声援と、美しすぎるお菓子と料理の残像だった。

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