Joyeux Anniversaire, Valentine!!!
可愛い可愛いヴァランティンヌの、今日は2回目のお誕生日だ。一年前の今日、トゥールーズでマリアンヌとエムリックと一緒においわいした、一歳のお誕生日が懐かしい。もう、一年も経ったんだね、あの日から。
南にいるヴァランティンヌに思いを馳せながら、クスクスを食べに行く。久しぶりに気温が30度を超して暑い暑い。メトロの熱気にすっかりやられて、フラフラになりながら「ポーズ・カフェ」に到着。古臭くて、がらんとしていて、でも、なんかいい雰囲気のこのカフェ、この界隈らしい人々でいつもいっぱい。何とも言えず、居心地いいんだよね。冷たいマンタロー(ミント水)を飲んでほっと一息。雲一つない空は高く青く、7月最初の金曜日の今日、ヴァカンス7月組の出発日を祝福しているかのようだ。
8時半前、ようやく少し熱が地中に吸い込まれたような風にほっとしながら、すぐ側の「ル・スーク」に場所を移す。モロッコやチュニジアなど北アフリカの料理を食べさせてくれるレストランはフランスに多い。大衆レストランから高級レストランまで、数多くあるレストランの中で、「ル・スーク」は、カジュアル・モード系、というところか。いわゆるショービスの人たちではなく、普通の人でオシャレな人たちでいつもごったがえしていて、とても[西バスティーユ]っぽい感じ。
入り口に飾られた各種香辛料の香りがエキゾチック感を高めている入り口を入ると、これまた異国情緒たっぷりの洋服に身を包んだ従業員が現れて、テーブルに案内してくれる。
今日のテーブルは、入り口の両脇に一つずつある、小さな丸いテーブル。照明を絞ってエキゾチックな雰囲気の奥の方の席もいいけれど、この席、ちょっと個室っぽくなっていて、落ち着いて食べるにはいい場所なんだ。
唐辛子の利いた黒オリーヴとニンジンのマリネをつつきながら、カルトを広げる。すがすがしく冷えたモロッコのロゼ・ワインで乾杯する頃には、風も涼しくなってくる。ふう、やれやれ。ようやく今日一日の暑さが体中から逃げ出してゆくようだ。
程なく運ばれてくるのは「揚げたイワシのファルシ、トマトソース」。香辛料をたっぷり詰めたイワシのソテー。ピリッと後を引くスパイス使いが絶妙だ。
「美味しかった?」とお皿を下げに来るセルヴールに、
「とっても美味しかった。ね、中のエピス(香辛料)、なあに?唐辛子と胡椒と、、?」
「あー、それはひみつに決まってるじゃないか!」なんて言いながらも、
「クマンだろ、パプリカと、、、」なんて説明してくれる。冷たいさっぱりワインに良く合う、夏らしいお料理だ。
店内がお客様でいっぱいになり、盛んにやってくる飛び込み客に「予約は?なし?じゃあ無理です」と断る回数が頻繁になる頃、クスクスの登場。
ひきわり小麦に野菜スープをかけ、好みの肉などを添えて食べるクスクスは、北アフリカ名物。パリでもたくさんクスクスを食べさせてくれるところはあるのに、旅行時はもちろん、前にパリに住んでいた時にも食べたことがなく、私が初めてクスクスを食べたのは、なんとトゥールーズでだった。チュニジア人の友達が作ってくれた魚のクスクスは、恐ろしいくらいに美味しかった。
今夜のクスクスはプレ(鳥)。何の香辛料だろうか、黄色く茹で上げられた柔らかな鶏肉にコリアンダーがたっぷりかかっている。クスクスをスプーンでお皿に盛り、干し葡萄、これがなくてははじまらないポワシッシ(ヒヨコマメ)、それに辛味をたっぷりかけて、ニンジン、クルジェット、カブなどが入った野菜のブイヨンをたっぷりかけて、鳥を添える。鳥は柔らかく、ブイヨンの味は優しく、辛味はきちんと辛くて、干し葡萄も美味しい。
「美味しいね、美味しいね」とパクパクパクパク。お腹の中ですぐに膨れるクスクスをたくさん食べるのは至難の技なのだけれど、クスクス少な目、ブイヨンたっぷりの配合にして、野菜ブイヨンの美味しさをたっぷり楽しむ。
大きくなったお腹を抱えながら、すっかり辛くなった口の中を、甘いアラブのテ・ア・ラ・マント(ミントティー)とアマンドが主体のアラブのお菓子で調和させる。
10時半過ぎ。テーブルを2回転させる「ル・スーク」の外に、テーブルが空くのを待つ予約客達が群がり始める。帰る時間だ。青空と薄い白の月、それにきらりと光る星とが仲良くパリの空を覆っている。
バスティーユまでぶらぶら歩いて行くと、ちょうどバレエが跳ねたところで、オペラ・バスティーユからたくさんの人が出てくる。今夜の舞台は「白鳥の湖」。そんなに好きなバレエではないのだけれど、シルヴィー・ギエムが3夜だけ踊る、今夜が最終日。どうしてもチケットが取れなくって、当日並ぶ元気もなく、泣く泣く諦めた今日の公演。
そう言えば、Wさんは今夜観に来る、って言ってったっけなー。いいなー、、、。なんて思っていたら、Wさんにばったり。とてもとても素敵なバレエだったそうだ。そりゃそうだよね。世界一素晴らしいシルヴィー・ギエムだけでも価値があるのに、相手がニコラ・ル・リッシュだよ!どこに文句のつけようがあろう!?またいつか、シルヴィーの人間離れした体の動きを見られますように、と薄く光る月によーくお願いして、家路につく。
ven.2 juillet 1999