キャッキャッキャ!ギのところに行っちゃった。いいよね、お誕生会だもんね。せっかくだから華を添えたいもんね!で、12月の思いがけない掛川さんのご招待に続き(掛川さん、本当にありがとうございました。)、ギ・マルタンに会いに(おいおい、“の料理を食べに”じゃないの??)「グラン・ヴェフール」に行っちゃった。
日中は観光客で賑わうパレ・ロワイヤルも、夜になるとうって変わってシンと静まりかえり、人気もない。カツカツと回廊に響く靴の音が耳にうるさい程だ。暗く沈むパレ・ロワイヤルの中で、そこだけ柔らかな光を灯している「グラン・V」が見えてくる。キャッキャ!ギはいるかしら?いるよね、いるよね、きっといるよね!
ヴォワチュリエ(車係)君がドアを開けてくれる。と同時に奥からメートル氏が微笑みながら近づいて来て「こちらへどうぞ」。コートを取ってくれるのがとってもお上手。この間はギがちょうど入り口にいてコートを脱がせてくれたっけ。ギじゃないのはブーブーだけど(あたりまえだよ。ギはシェフなんだからね!)さすがは「グラン・V」のメートル氏。とても気持ちのよいコートの取り方だ。
「どうぞこちらへ」と案内されたのは、二つに区切られたサルの小さい方。パレ・ロワイヤルに面した二つのテーブルのうちの一つ。「今夜のあなたがたのテーブルは、バルザックでございます」と、ちょっと慇懃な別のメートル氏がテーブルの解説。
「コクトーもユゴーも通った、歴史ある私どものレストランのテーブルには全て、縁の著名人の名前がついております、云々、、、。では、詳しくはこちらをご覧ください」と、テーブルにある小さなパンフレットを指す。
クラシックで豪華絢爛、そしてちょっと排他的。これが私にとっての「グラン・V」の内装。豪華な天井、鏡がきらめく壁、装飾的な飾り皿。同様に豪華絢爛な、例えばモナコの「ルイ・ケーンズ」なんかが、もっともっと開放的で、ただただロココ王室調なのに比べ、「グラン・V」には何とも言えない当時のパリの文化的でスノッブ、そして排他的な側面を感じる。華やかでアイドル系のシェフ、ギ・マルタンとのイメージがどうしても結びつかない。
彼がこのレストランに来て、もう8年目になるというのに、あの、愛想のいい可愛らしいギと、この文化の香りたっぷりの芸術家に愛されたレストランのイメージがいっちしない。ギ・マルタンの前任、偉大なレイモン・オリヴィエの影がどうしてもちらつく。仕方ないか、レイモン・オリヴィエは存在感がありすぎたものね。
サヴォア(アルプスのあたり)出身のギのレストランの名物は、何といってもレマン湖から運ばれてくる淡水魚。オンブル・シュヴァリエというソモン系の魚が特に名高い。この、パリのレストランではなかなかお目にかかれない高給淡水魚を是非!と思ったのだが、荒れっぱなしのアルプス、レマン湖での漁もままならず、オンブル・シュヴァリエはじめ、淡水魚は全滅という有り様の今夜の「グラン・V」。ちぇー、残念だな。楽しみにしてたのに、、、。
気を取り直して、「ソル(舌平目)のソテー、シトロン・コンフィ」をプラに、「グルヌイユ(カエル)のソテー、赤玉ねぎソース」をアントレに持ってくる。
カエルちゃんは美味しい。細い足を手掴みで、柔らかなお肉にかじりつく。添えてあるパセリの揚げ方に、レストランの底力を感じる。振りかけてくれたにんにくチップスはここの名物。とてもとても美しく焼けている。横に運ばれたフィンガーボールで指を洗って、ボールに美しく掛けられていたセルヴィエットでチョコチョコ、と指を拭く。フィンガーボールを下げに来た、慇懃メートル氏、乱れていないセルヴィエット一瞥するなり、このセルヴィエットをお使いください!!といわんばかりに、私の目の前に、フィン
ガーボールを置き直す。
はいはい、分かったよ。グシャグシャにすればいいんでしょ、セルヴィエットを。指を洗い直し、セルヴィエットでゴシゴシ。満足げに頷きながら、ボールを持って去って行く慇懃メートル氏。
お酒も美味しい。前回来た時に飲んだ、とても上出来のシャトーヌフ・デュ・パプのミレジム違いを試す。「このドメンヌ、とってもとってもいいんですよ!素敵でしょ、僕のお気に入りなんです!」と優しい笑顔のソムリエ氏も絶賛のこのお酒、ちょっと甘ったるいローサンヌがきりりと引き締まって、前回より厚味がある。一年の熟成の差か。かなり冷たくして飲んで美味しいお酒だ。
プラのソルは、うーん、いまいちかなあ、、。火を通しすぎちゃって、身が少しゴムっぽくなっちゃてる。ソースに仕立てたシトロン・コンフィの酸味は完璧。ガルニ(付け合わせ)のクルジェットのファルシも野菜の味がエレガントでとてもイケてるのだけに、ざーんねん。あーあ、やっぱりオンブル・シュヴァリエが食べたかったなあ。
「時々あるんですよ、淡水魚がない日が。当日、電話で確認して下さるのが、一番いいんですが、、」と慇懃でないメートル氏。
「でもでも、当日電話して、ありますよ!って言われたって、もうコンプレ(満席)でしょう、、」と私。
「うーん、確かにそうですねえ、ハハハハ」とおとぼけメートル氏。
「ところで、今夜はムシュ・マルタンは?」
「シェフですか?厨房にいますよ」
「後で、挨拶に回ってくれるかしら?」
「うーん、それはないと思います。明日の朝も早いので、中が終わったらすぐに帰ってしまいますよ。お会いになりたいですか?」
「なりたい!なりたい!」
「ダコー。じゃ、シェフが帰る時、お呼びしますよ」
「ありがとー(りかちゃん風にイントネーションをつけて読んで)」
オンブル・シュヴァリエは食べられなかったけれど、サヴォアのフロマージュは食べよう。名物のフロマージュは、普通のフロマージュのプラトー(お皿)と別に、サヴォアのフロマージュだけを乗せたプラトーもある。まずはサヴォア・プラトーから、ブルビ(ヒツジ)のコンテとルブロションもう一品(名前、忘れちゃった)。
続いてその他フロマージュ・プラトーが運ばれる。
「あれ、何でこっちにボーフォールがあるの?ボーフォールタイプのフロマージュって、他の地方にもあるんだ?」
びっくりして、フロマージュを切ってくれるセルヴール聞いてみると
「あのね、、、あっちのプラトーに乗りきらなかったんです、ただ単に、、、。」
あ、そ。このボーフォールが、飛びっきり美味しい。ブルビのコンテもウッキャーものの美味しさ。普段はあんまり食べないハードタイプのフロマージュにうっとり。やっぱり土地から直送されてきたものは美味しいよ。久しぶりに、体調絶好調のままフロマージュを堪能。口当たりの良いお酒も段々まわってきたし、気持ちいいなあ。
アヴァン・デセールのお時間。ここのアヴァン・デセールは勿論ガトー・サヴォワ。この間、とってもお気に入りになったこのガトー、今夜もとっても美味しい。カネル(シナモン)を効かせただけのちょっと重めのシフォン・ケーキに過ぎないのだが、これが私は大のお気に入り。
まずは薄い一切れ。京子があんまり好きじゃない、というので、京子の残りももらう。
「とっても美味しかった。大好きなんです、ここのガトー・サヴォア」
「ありがとうございます。よかったら、もう一切れいかがですか?」
とおとぼけメートル氏。
わーい、ありがとー(ここもりかちゃん風に)。京子の分もまたもらって、嬉々としてこの素朴なお菓子をほおばる。
「ところで、ムシュ・マルタンはまだ帰ってないですよね?」
「いますよ。大丈夫、ちゃんとお呼びしますから」
とおとぼけメートル氏。よろしく頼むよ。デセールの「ノワゼットのお菓子、カラメルのグラス添え」のグラスをつついている時に、おとぼけメートル氏がやってくる。
「シェフが帰ります。どうぞこちらに。」
バイバイ、カラメルのグラスちゃん。君はとっても美味しいけれど、ギの方がもっと美味しそうだもん。ウキウキと足取りも軽く、玄関の方へ向かう。
キャーキャーキャー、ギだ!!!ギに再会した喜びにお酒の良いも手伝って、ますます頭がくらくらしてくる。
「ボンソワール、マドモワゼル。お元気ですか?」
「(キャー)こんばんわ、ムシュ・マルタン」
「いかがでしたか、今夜は?前回は確か、2階でしたよね?」
「覚えてました?嬉しい!美味しかったです。レマン湖の魚がないのが残念でしたけど、、。」
キャッキャ、ギとおしゃべり。相変わらず素敵なギだけど、今夜はものすごく疲れた感じで、頭もぼさぼさ。長すぎる前髪が真ん中から分かれて、後で写真を見た京子をはじめ友達曰く「カッパみたーい!」そんなことないのにさ!
ま、そりゃ確かに、ちょっと髪型はイケてなかったけどさ、、。でもそんなの関係ないもんね!少し位髪型が変だって、ギ・マルタンは素敵なんだい!
ギとの会話にボーッとなって席に戻ると、グラスが溶けかけながらも健気に私を待っててくれてる。ごめんね、グラスちゃん。せっかく美味しかったのに、、。
お茶飲んでプティ・フール食べる頃、日付が変わってお誕生日が終わる。久しぶりにギ・マルタンに会えた、とっても素敵なお誕生日だ。
lun.8 mars 1999