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グルマン・ピュスのレストラン紀行


Le Grand Vefour(ル・グラン・ヴェフール)

「ええと、、何て言ったかしら、、、。ちょっと待ってね、、、そう、これこれ、グラン・ヴェフールよ!」
この言葉を聞いた瞬間、私の呼吸器は一瞬止まった。

K川さんからお電話を頂いたのは先週の土曜日。フラワーアレンジメントの研修旅行の最後に1日だけパリに寄るというので、久しぶりの再会にワクワクしながら、ホテルへ向かう。
掛川さんとはお久しぶりの、お嬢さんのA子ちゃんとは初めてのご挨拶をして、お昼を食べにマルリーに向かうが、何と予約でいっぱい。うーむ、お昼なのに、、。すごい人気だなあ。気を取り直して、パレロワイヤルの中のカフェに場所を移しお昼ご飯。

「ところでピュスちゃん、今夜は何か予定がある?よかったらご一緒にどう?確か、この辺りあるレストランで夕食のはずなんだけど、、」
「う〜ん、、。実は今夜、みんなでパーティーするんです。うちでの開催なのでちょっと抜けづらいかなあ」
「あらそう、残念ね」
「本当に、、。ところでどこのレストランなんですか、今夜は?」
ここでK川さんの可愛らしい声が発したのが、文頭の言葉だ。

「え?ええ??グラン・V!?ちょっと待ってください、ギ・マルタンのグラン・ヴェフールですか!!!???」
「あ、そうそう、ギ・マルタンよ。そういえば偶然お花の先生とおんなじ名前なのよね」

予感はあった。土曜日にK川さんと電話でお話をした時に、「ギ・マルタンという先生が、、、」と聞いた時、
「ギ・マルタン??あのシェフのギ・マルタンですか??」
「え?違うわよ、シェフじゃないわ。お花の先生」
「あ、そうなんですか。いや実は、同じ名前のとても素敵なシェフがパリにいるんですよ。大好きなんです。やだなあもう、どうしても食べ物の方に連想が働いちゃう、、」
「今回教えてくれる、有名なお花の先生なのよ」、と、こんな一連の会話をした矢先のことだった。

「ち、ちょっと待ってください、、、。行きたい、それ、、、。すごく行きたい、、、」
「でもお友達がいるんでしょ?」
「いや、でも大勢でのパーティーだから、私一人くらいいなくても、、、(薄情者!)」
だってだって!!一年くらい前からずっと行きたかったんだよ、「グラン・ヴェフール」。こんな機会、めったにないもん。今夜行けなかったら、またしばらく絶対に行く機会ないもの。

一ヶ月くらい前に書いた「ゴー・ミヨ」評、覚えていますか?あれにこのレストランについて少し書いています。この権威あるガイド・ブックが「今年のシェフ」として選んだのが、このレストランのシェフ件ディレクターであるギ・マルタン。

20世紀最高の料理人であり文人でもあった、と謳われたレイモン・オリヴィエの後を8年ほど前に受け継いだ、サヴォア出身の料理人。当初は、こんな若造が!と酷評を受けたものだが、天才的なその料理の腕であっという間に業界の寵児に。たれがちの可愛らしい目に甘目のマスクで、ジャーナリストのアイドルにもなってしまい、毎月必ず何らかの業界紙に、にっこりと笑う彼の笑顔が載っている。数年前からは、この、由緒あるレストランの社長にも就任し、経営手腕も高く評価されている。
ミシュラン2つ星、ゴー・ミヨはもちろん19点。こんなレストランへのお誘いを、誰が断れるでしょうか!!

7時半過ぎ、素敵に着飾ったツアーの方たちとご挨拶。あ、お着物の方がいる。レストラン、きっと喜ぶだろうな。思いもかけずに彼に会える、と高鳴る胸を抱えて「グラン・ヴェフール」に到着。

「ボンソワール」と出迎えてくれるメートルたちのその奥に、キャー!ギ・マルタンだ!!なんでこんな所にいるの?仕事しなくていいの??なにはともあれご挨拶。
「ボンソワール、ムシュ・マルタン」
「ボンソワール、マドモワゼル。ご機嫌いかがですか?」とにっこり握手。キャー!
「コート、いいですか?」とムシュ・マルタン自らコートを脱がせてくれる。キャーキャー!さすがにちょっと老けているけれど、(若い子が好きな私にとっては30過ぎはもうおじさん。40なんて、普通は問題外)やっぱり可愛い、この人。笑顔がまたチャーミングだあ。お酒も飲んでいないのに、すっかり浮かれて上の個室へと向かう。

「ね、ね、どうでした?素敵でしたでしょ、ムシュ・マルタン!?」とみんなに聞くが、「え?あ、あの人だったの?」とか「えー?ああいうのがフランスの好みなんですか?」とか今一つ反応が鈍い。素敵だと思うんだけどなあ、、。「あれだったら、お花の先生のギ・マルタンの方が素敵よねえ」「そうね、そうね、彼の方がハンサムよね」なんて人まで。まあ、なんてこと!こんな素敵なムシュ・マルタンなのに、、。「でも、私はこっちのマルタンさんの方が好きですよ」っていってくれた人に「そうでしょう!!」って大きく頷く。

そんなこんなで、賑やかに始まった夕食会。大人数の旅行なので、場所は個室、お料理もあらかじめ決まっている。
この夕食に用意された、シャトーヌフ・デュ・パプの白、シャトー・ラ・ネルスの96年がそそがれたグラスを掲げて乾杯。適温に冷やされた南のお酒は、ルーサンヌから来る甘ったるい香りが適度に引き締まり、さわやかで華やかな後味を口に残し、とても素敵。このシャトー、シャトーヌフの中でもかなりいい評価を受けている優秀な生産者なのだ。赤も確かいい評判。試してみたいな、今度。

エビのフリッターやソモン・フュメ、プルーンのベーコン巻などをつまみながら、200年以上の歴史を紡いできた「グラン・V」の過去について語るメートル・ドテルに耳を傾ける。フムフム、なるほど。

アミューズは「カブの冷たいブイヨン、ゴマを散らして」。シャキシャキと歯に当るカブの歯ごたえとだしが良く取れたブイヨン。暖かくないところが、カブをサラダで食べている感覚を引き起こして、なかなかいいのではないかしら。

epauleアントレに出てきたのは「仔羊の肩肉のテリーヌ仕立て、ハーブのソース」。赤ピーマンやナスなど、南の野菜を肩肉でくるんでテリーヌ状に仕立ててある。7時間をかけて、ゆっくりとブレゼしたらしいこのお料理は、ミントやコリアンダーを使った癖のあるソースが爽やかさを演出。でも、夏のお料理だよね、仔羊に南の野菜って。ちょっと肉の味付けが淡白ではあるけれど、中に詰まった野菜の甘み、ソースの強さと合わせればこんなところでしょうか。

プラは「丸ごとのルジェ(ひめじ)オーヴン焼き、フヌイユ(ウイキョウ)風味」。どーん、と大きなルジェが2匹、きれいに中身を抜かれて焼かれて登場。フヌイユの香りがかなり効いている。かけたソースはクルスタッセ(甲殻類)を潰してだしを取って煮詰めたもの。トロリと濃厚。添えてあったウニやカニの脳みそのペーストっぽいものがアクセントとしてとても美味しい。ルジェノなかでも高級な、ルジェ・バルベを使っているので、ルジェ自体は、ま、もちろん美味しいのだけれど、この風味豊かで繊細なルジェに、濃厚なクルスタッセソースはちょっと重過ぎる。フヌイユの香りも付き過ぎだ。この魚は、サクッ生っぽさが残るくらいにオイルとにんにくで焼き上げ、揚げたパセリをたっぷり散らすか、バターで焼いて、魚のブイヨンで仕立てたリゾットなんかを添えるたりする方が、性に合っている気もするのだけれど。オーヴンでしっかり焼く、という料理の手法は、いかにもサヴォア出身のムシュ・マルタンらしいけれど、そういう場合はやっぱり淡水魚でやって欲しかったな。

dessertやはりサヴォアから来ている、というシェフ・パティシエ(お菓子担当シェフ)によるデセールは素晴らしかった。「ニヨン産黒オリーヴのケーキ、シトロンのソルベ、オリーヴの飴がけ」。ソルベの出来も素晴らしかったが、なんせ酸っぱいものが駄目な私なので上手く評価できない。それよりも何よりも、オリーヴの飴がけに心を奪われてしまう。きちんと種抜きをされた黒オリーヴを覆う好もしげに艶やかに光る飴。オリーヴと飴ってこんなにも相性が良かったのか??とびっくりしてしてしまう素晴らしい味だ。飴、といってもこの色になる状態の飴でなくては駄目なのだろうけれど、これは本当に素晴らしい作品だ。fromageこの後に出てきた「ガトー・サヴォア」(サヴォアのお菓子。生姜とライムがちょっと効いた、シフォンケーキ。)とともに、今夜の2大美味しいのもだ。

「ガトー・サヴォア」の説明が載っている、ギ・マルタンの本を見せてもらいながら、次々と運ばれてくる、ショコラやプチフールをつまむ。と、メートル・ドテルがやって来て、
「マドモワゼル、お願いがあるのですが、、」
「何ですか?」
「あちらの、お国の衣装をお召しになっているマダムと一緒に、写真を撮りたいのですが、、」。
やっぱり着物は大人気。ご自分で染められた、という素晴らしい着物のマダムを間に、嬉々として両脇に立つメートル・ドテルとセルヴール、ポラロイドを構えるのはソムリエ君だ。マダムにサインまでしてもらって、御満悦の彼ら。よかったね。

飲んで食べて、喋って笑って、楽しい時はあっという間に過ぎてゆき、11時を回って、そろそろ帰る時間。

下へ降りて行くと、受付にはまたまたムシュ・マルタン。ただのミーハーに成り果てた私は、一緒に写真を撮ってもらって、キャー!肩を抱いてもらって、キャーキャー!たくさんお話して、キャーキャーキャー!

年末はスキーをしにサヴォアへ帰る、というムシュ・マルタン。
「スノーボードは?」
「いや、あれはさすがに、、、スキーだけ」。
かっこいいだろうなあ、スキーしているムシュ・マルタンも。スキー靴はけば、背が低いのも分からないし。

「また是非いらしてくださいね。今度は、サヴォアのフロマージュも召し上がってくださいね」とにっこり笑顔でお見送り。ええ、ええ、是非来ますとも。
今度は山の料理と、そして貴方の素敵な笑顔に会うために!

K川さん、素敵な素敵なクリスマス・プレゼント、本当にありがとうございました。


mer.9 dec.1998



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