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グルマン・ピュスのレストラン紀行


ボン(BON)

トゥール・ドゥ・フランス最終日の今日。一週間続いたお天気も、今夜から崩れるらしい。最後にもう一度テラス、って思って、1月に行って以来の「ル・サンク」に電話してみるけれど、中庭はアペリティフにしか使わない、とのこと。ちぇ。あそこの中庭もかなり素敵なんだけどなあ。残念。まあいいや、別に料理はそんなに好きじゃなかったしね。あの至福のデセールは、きっとお茶のお菓子にもなっているに違いない。今度ゆっくり、お茶しに行こう。

salleめぼしいテラスの候補が挙がらないままにうろたえる。んー、どこに行こう。中庭、テラスの素敵なレストラン、、、、。ああ、久しぶりにあそこに行ってみようかな。テラスご飯は出来ないけれど、一応お庭は素敵だし。初めての雑誌の仕事をするきっかけになった「ボン」。4月5月とたて続けに通ってから今まで、すっかりご無沙汰していた。その後どうなってるんだろう。楽しみだわ。

と、ブラリと足を向けた「ボン」は、まるでヴァカンス中かと見まごう様相。ほんとにオープンしてるの?びっくりするくらいに人の気配のない店内。受付の可愛いお姉さんの笑顔があるから営業してるんだ、と思うけど、もし彼女がいなかったら、あら、やってないんだ、って、帰っちゃうところだったよ。

「お天気の日曜日の昼下がりだし、ヴァカンスに入っちゃってるし、トゥール・ドゥ・フランスもパリだしね。ほんとに静かでしょう?」ウィンクしながらお姉さんが奥の席に案内してくれる。
「どうぞ、好きなテーブルに座ってよ」

うわあ、どこにしよう、、、。好きなテーブルをどうぞ、なんて、初めて言われちゃった。前から、座ってみたい席は山ほどある。今日は、そのほぼ全部が空いてるんだ。どうしよ、どうしよ。奥のコージーなところも行ってみたいし、ソファの中央もいいな。お庭が見える窓際の席もいいけど、一度座ってるし。あっちの暖炉の側は?そっちの黄色の鏡の前にする?結局、真ん中のソファの、お庭の見える場所に沈み込む。わーい、フカフカで気持ちいいなあ。このまま寝ちゃいそうなソファだ。ざっと見渡す限り、5,6組ほどしかお客様と4人の従業員しかいない、信じられない状態の「ボン」で、静かに楽しいお昼ご飯。

calmar「カラマール(イカ)の冷製」と「野菜のグラタン」を料理にとって、ワインはここに初めて来たときに飲んだ、ボルドーのBIOワイン。ほんの気持ちだけ微発砲したような、ピリピリする感覚が残るこのワイン、決して悪くないんだよね。相変わらず野菜の量がめちゃめちゃにgratin多い、ウサギになった気分の「ボン」料理を食べながら、光が射してきれいなお庭や、数は少なくても質はいつもと同じに素敵な客を眺めて、だらだらとした昼下がり。

こんな機会はめったにないね、と、あらゆる空間の写真を撮って、一つ一つのお部屋をゆっくり見学。いつもは200人を超える人の喧燥に包まれる「ボン」の静かな一面。音楽だけが流れる、こんな雰囲気も、このレストランなら悪くない。

toilette「ここ、ヴァカンスはないの?」
「ないわ。夏もずっとやってるわよ。また来てね」カーリーヘアのチャーミングなお姉さんが笑う。今日、えせプティ、いないんだ。エマニュエル・プティに似ている、マネージャーさん。とても優しくって、大好き。

今月号のヴォーグで「ボン」が特集され、えせプティも載ってた。本当の名前はジェームス。英国人なんだって。なんでもディオールのデフィレ(ファッション・ショー)で歩いたこともあるとか。あー、分かる気がする。背、高いし、歩く姿勢もいつもきれいだもんねえ。とっても優しくて、顔に似合わず高い声がチャーミングなえせプティ。今度遊びに来る時にはいるかしらね。

シャン・ゼリゼは、駆け抜ける自転車の応援に集まった人で賑わっているんだろうなあ。ただでさえ閑静な16区、それが一段とシンと静まり返って、いかにも夏のパリらしい、気持ちいい静けさに包まれて、界隈のお散歩を楽しむ。今日を限りに、またしばらく隠れてしまうらしい太陽へ名残を惜しみながら。


dim.23 juillet 2000



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