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グルマン・ピュスのレストラン紀行


「レ・カイユー」(Les Cailloux)

バレエのない日々の無聊を慰めるため、友達に誘われて、珍しくも芝居なぞ、観に行ってみる。チェーホフの「ワーニャ叔父さん」。いやあ、芝居なんて観るの、2年ぶりくらいじゃない?なかなか面白くはあったけれど、私が感動するアートって、やっぱり音楽がらみなんだなあ、と実感してみたりする。バレエ、オペラ、コンサートにミュージカル。音楽が主役のひとつであるこれらのアートに、私はやっぱり心揺さぶられる。

さて、お芝居観た後のご飯はどこにしよう?珍しく、13区に足を踏み入れたついでに、前々から行ってみたかったイタリア料理屋さんに、遅い予約の電話を入れてみる。

13区には知る人ぞ知る、感度の高いエリアが一つある。アトリエが集まるビュット・カイユ界隈。“ウズラ丘”という名前のとおり、こぢんまりとした起伏のある一角は、背の低いのんびりとした建物が密集し、ぬくぬくと居心地のよさそうな雰囲気を漂わせている。温泉水を使ったパリでも人気のプールや、私が気に入っているハチミツやさんもこの丘の住人だ。

ビュット・カイユの中心に、「レ・カイユー」ができたのは、2000年の春先だったか。自他ともに認める、まずいイタリア料理で有名なパリの街に、すてきにおいしいパスタが食べられると、あっという間に評判になったビストロだ。“フィーリングをもって食事を楽しもう”と銘打ったフーディングの潮流にも通じ、2000年のフーディング賞でベスト・ビストロに輝いている、味だけでない何か、も持っているビストロなのだ。雨上がりの湿った石の匂いをかぎながら、人影少ない13区の裏道を辿り、広場に面した「レ・カイユー」に到着する。

decoいい。雰囲気からして、いいレストランであることが分かる。11時近く。店内に残るお客様は10組に満たず、静かになりかけている時間帯。さっぱりとした壁とテーブルを飾る、シンプルなランプや黒板がこの店のセンスのよさをよく表している。ビニールがけのカルトすらやぼったく見えないのは、この店全体に漂う、まさにフーディングな雰囲気のせいだろう。店の内装、従業員、そしてお客様。foodingそれぞれが他の二つに対して、何を求め、何を求められているのか、しっかり意識している、という感じなんだ。

さてお料理。本日のパスタが数種類並ぶ横に、ブリュスゲッタやカルパッチオ、サラダに暖かな料理など、おいしそうな顔ぶれが並んでいる。いろいろ食べてみたいけど、夜も遅いことだし、とりあえずパスタにしてみましょう。

table「ルジェ(姫鯛)とトマトソースのリングイネ」と「クルジェットとプチトマトのペンネ」を選び出して、お酒はハウスワインの白を。パンをかじりながら待ちわびること約10分。「エ、ヴォアッラー!」と、おいしそうな香りをたてながら、パスタちゃんたちがやってくる。

「おいしそー!」パクン。
「いただきまーす!」パクン。モグモグ、ゴクン。
「おーいしー!!」目を見合わせてニッコリする私たち。これはおいしいわ、とっても。まさか、パリでこんなにおいしいパスタに巡り合えるとは思わなかった。もちろん手打ちのpenneパスタは、しっかり腰があって味もある。ほぐしたルジェの身をトマトソースで和えたソースは、魚のだしが程よく効いて、この時期のものと思えない味の濃いトマトによくマッチしている。おいしいよ、おいしいったら、おいしい!しっかりした噛み応えが嬉しいペンネも、とろとろのクルジェットに、甘みが凝縮したようなプチトマトのハーモニーすばらしく、かなりの感動を持って、パスタを味わう私たちである。

デセールは、ヴァニラアイスクリームにカフェを注いだもの。なんて言うんだっけ、名前?冷たいカフェをかけているのが意外だったけれど(普通、熱いカフェをかけるんじゃないの、あれって?)、ヴァニラの皮がそのまま入っているアイスクリームは素朴でおいしく満足満足。そしてtiramisuティラミスにいたっては、その表面がチョコレート色でないことにちょっと感動しつつ、そのまろやかで軽いお味に、かなりの感動を覚える。

すっごい。感動する。信じられない。ほんとにおいしい。この夜、何度目かもう分からないくらい、これらの言葉を発したあと、私たちの口に上ったのは、「今度いつ来る?」ではなく、「明日、何時に予約する?」というセンテンス。あまりに嬉しいおいしいイタリア料理との巡り合いに、明日また、しっかり食事をしに来よう!と、サンパな兄さんたちとおしゃべりしながら、その場で翌日のテーブルをお願いしてしまうのでした。

で、翌日。

お昼にがっちりとフランス料理を食べたあとだけに、おなかがほとんど空いていないのが、かなり悲しい。それでも、トマトの赤も鮮やかな美しいブリュスゲッタに、野菜をたっぷり散らしたカルパッチオ、ツナやオリーヴ、赤ピーマンを入れ込んだシシリア風リングイネに舌鼓を打つ。これもまたハウスワインの赤をお相手に。ううぅ、おなかが苦しい、でもおいしい。9時を待たずに、満員の店内は、ウェイティングのお客様の姿もチラホラ。横のテーブルの人たちが揃って食べている、ミートボールの煮込みもおいしそうだぁ〜。お腹いっぱいで死にそうになりながらも、次に来る時にオーダーする料理を考えている私って一体、、、?

いやいや、ほんとうに評判に違わずすばらしいイタリア料理のビストロだ。どうしてもっと早くにこなかったんだろう、と、それだけが悔やまれる。これからは、気合いを入れてこの店に通おう。3月には、うちから歩いていけるところに2号店がオープンする。
「7日オープンの予定だよ」とモントリオール出身のサンパな兄さん。
「どうせだったら8日にしてよ。そしたら、私のお誕生日とオープニングを一緒におゆわい出来るもん♪」店自体が持つ雰囲気は、ビュット・カイユの本店にとても敵わないだろうけれど、少なくとも、こんなおいしいパスタが食べられるお店がご近所に出来るのは、すごく嬉しい。2月からご近所に引っ越してくる友達を誘って、2号店にもせっせと通いましょう。

パリでおいしいパスタ、ほんとうにおいしいパスタが食べられる、雰囲気も素敵なビストロの発見に、かなりの感動を味わうのでした。


mar.15 mer.16 jan.2002



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