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グルマン・ピュスのレストラン紀行


ル・プレ・カトラン(Le Pre Catelan)

チラチラと、帽子の細かい網目の隙間から光が落ちてくる。いーお天気ねー。今年一度もかぶってあげていなかった大好きな帽子と、この間買ったバラの花のバック持って、暑いくらいの陽気の中、今日はボワまで遠出なの。

馬車に乗っていくの似合うボワだけど、そこは殺伐とした20世紀も終わりの年。当世風にタクシー乗って、青空に白く輝く凱旋門を周り、緑がキラキラするアヴニュー・オッシュの街路樹を駆け抜けると、そこはもうボワ・ドゥ・ブローニュ(ブローニュの森)。広大なボワの中ほどにたたずむ、瀟洒な白亜の館。夏になると一度は行きたい「プレ・カトラン」で、今日はテラス・ランチです。

受付からテラスまでのロビー。ツルリンとした後頭部をこちらに向けて、コック服を着た人がお客様らしき人たちと話している。あ、あの頭は、ここのシェフ。間違いない。コック服の襟には、赤、白、青のトリコロールが飾られている。トリコロールの襟がついたコック服を着ることが出来るのは、MOF保持者のみ。職人の最高の栄誉とも言われるMOFのタイトルを、ここのシェフ、フレデリック・アントンはこの5月に取得した。嬉しいんだねー、やっぱり。おめでと、シェフ。

薄暗いロビーを抜けたそこは、光りあふれる夏テラス。3週間ぶりのお天気ウィークエンド。石畳の広いテラスには、もう人があふれかえって、初夏らしい華やかな賑わいをみせている。いいなあ、この雰囲気。やっぱり夏はテラスだよねっ!フェール・フォルジュの重みがいい感じの椅子に座って、帽子を預けて、ほっと一息。鳥の鳴き声、人の談笑、風のサラサラな音に包まれて、久しぶりのテラス・ランチが始まる。

amuseロビュションの弟子だわね、ってしみじみ思う、素敵に美味しいフォンのジュレを敷いたセロリのクリームをアミューズにいただき、ペッシュ(桃)のクレームを落としたシャンパーニュで喉を喜ばせて、カルトと向き合う。かなり説明の長いカルトをじっくり楽しんでお料理の決定。さてさて、MOF取得者となったシェフのお料理はどんなかしら?

langoustineアントレは「ラングスティンヌ(手長えび)のラヴィオリ、スープ仕立て」。アミューズに引き続き、ロビュション色の強い料理。昔、「ジョエル・ロビュション」で食べた、ラングスティンヌのラヴィオリを思い出して選んだ一品。あれも美味しかったけれど、これもなかなか。エビの柔らかな身や、歯ごたえのいいラヴィオリもいいけれど、やっぱりスープの部分が素敵だ。丁寧にフォンを取ってるんだろうなあ。味がとてもよく整ったフォンを使ってクリームを加えて作ったスープのまろやかで優しいフェミニンさが、ロビュションの味を思い出させる。

エトゥリーユ(小さ目のカニ)にかかった、夏野菜の入ったフォンも同じ美味しさだ。味見させてもらったこのカニちゃん、とっても美味しい。甘みのある肉にフォンがトロンとかかって、なんだかまあ、しっとりとした優しさあふれる料理。ブリファーさんなんか、こんな料理作るよねえ。デュカス派の人たちには間違っても出来ない香りを持つ作品だ。

turbotプラは「チュルボ(カレイ)の海苔風味」。「レ・ゼリゼ」でロベールが食べたチュルボに腰を抜かしていらい、何度か食べてきているけれど、まだあの時の美味しさに近いチュルボを食べたことがない。ガラスのお皿に乗った今日のチュルボも悪くないけれど、要は今までに知っているチュルボのイメージと同じ。「レ・ゼリゼ」で食べたあのチュルボは、違う種類のお魚みたいだった。フォンよりもクリームで食べさせるソースが、好みじゃないといえばそれまでなのだけれど、まあ、可もなく不可もなくな作品。ガルニも普通。小型の赤ピーマンの味の濃さはよかったけれど。

夏になってから多分はじめて口にするペサックの白(あれえ、名前忘れちゃった、、)は、初めこそ生意気そうな酸味が気になったけれど、時間とともに性格がよくなり、一癖ある優しいお酒になってくる。いいよね、やっぱりペサック、好きだなあ。

羊用に、と取った赤は、サン・テステフのシャトー・ドゥ・ペ。95年だったかしら?ドゥミだったからか、もうきちんと飲める状態になっている。赤いいちごのたぐいの香りを中心に、程よく木や土の香りも混じり、この地方らしいストイックなイメージに統一された、バランスの取れたいいお酒。夏にあまり飲まないお酒だったけれど、やっぱりサン・テステフはお気に入り。ボルドーの白赤、それぞれ一番好きな場所のお酒を飲んでご機嫌。

macaronデセールは、ガストン・ルノートルにオマージュをささげた、「マカロン・グラッセ」。プティ・マカロンにそれぞれ違う味のグラスやソルベを詰めた作品は、まあ、美味しいけれど、レストラン・デセールっぽくない。それこそ「ルノートル」で買えちゃいそうなお菓子。ミルフォイユやショコラのタルトも同じ傾向。

レストランの皿盛りデセールらしい華やかな美しさにかける。おかしいなあ、前はもっとお皿を駆使して素敵なプレゼンだったと思うのだけれど。ア・ラ・カルトのデセールなのにこんなもの?味はいいのだけれど、見た目がちょっとつまらなかったかな。なんてったって、前夜の「ル・ブリストル」のデセールが生々しく脳裏に残っているから、ちょっと立場悪かったよね、今日のお菓子達は。

馬鹿の一つ覚えみたいにマントのアンフュージョン飲んで、「ルノートル」らしいクラッシックなプティ・フールやショコラをつまんで、暖かなテラスの雰囲気を楽しむ。

横の大きなテントでは、誰かのお誕生会なのか、20人ほどが集まってわいわいがやがや。お誕生日用のケーキも運ばれてきて、にぎやかに宴会が続いてる。去年来たときには、結婚式のパーティーをしてたっけ。晴れたらとても素敵な場所だものね、ここは。

日が傾き、背中に太陽の光が当たる。ああ、もうこんな時間なのね。夏のテラスは時間の観念を狂わせる。そう言えば、周りのお客様もみんな引き上げている。そっか、もう帰る時間なんだ。楽しいお喋りと陽気なテラスの雰囲気で、時間が経つのを忘れちゃうね。

お料理は、大当たりとまあまあ。今日のアントレは確かに2つ星クラス。プラは、んー、相性が合わなかったからなあ、、、。パンがもう少しだけ美味しくても悪くないんだけど。あれも「ルノートル」?

セルヴィスは、確かに慇懃。無礼、とまではいかないけれど、手放しで優しいセルヴィスではない。ちゃんとしてはいるけどね。あのくらいの距離の方がいい、って言う人もいるのかもしれない。私はセルヴィスと友達になりたいタイプの人だから、ちょっと物足りなかったけど。羊のデクパージュ(切り分け)の時に使ったプラスティックのまな板と、料理を運ぶタイミングだけは、改善しておいたほうがいいと思うな。

何はともあれ、夏のテラスを語るに当たって、やはり外すに忍びないこのレストラン。ボワのお散歩やドライブとセットで、太陽が優しく微笑む日に、一日をかけてゆっくりと訪れたい。

毎年恒例の「プレ・カトラン」のテラス訪問。楽しく素敵なランチの時間を、どうもありがとうございました、Nさん。


sam.22 juillet 2000



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