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グルマン・ピュスのレストラン紀行


ラ・スリゼ (La Cerisaie)

「そういや、このすぐそばに、俺んとこの仔羊と野菜を使っていたレストランがある。今はもう、卸していないけどなぁ。あそこだ」もじゃもじゃ頭&よれよれシャツ&くたびれたジーンズで、パステルカラーも可愛らしいフルーツジュースをズズズッとすすりながら、ジェラールがつぶやいた。暑い夏の昼下がり。デュカスの店に、仔羊とトマト、ハーブを届けるに行くから、ついでにおすそ分けしてやるよ、と、ノルマンディからの嬉しい電話に狂喜して、ジェラールとランデヴー。頭のてっぺんからつま先まで、前も後ろも乗っている車も、どこからどう見ても、農民のそれ。嬉しいなあ、パリで土の香りを嗅げるなんて。たっぷりの肉、トマト、ハーブをもらって、一息ついているところだった。

「そうなの?じゃあ、行ってみようよ、シェフに会いに」
「いねえよ、こんな時間」(今は夕方17時)
「いるかもしれないじゃない、すぐそこだし」残ったジュースをズズズッしてから、店に向かうと、案の定、仕事熱心なシェフは、仕込みの最中。久しぶりの再会にがっちり握手をして喜びあう料理人と生産者を眺め、やっぱりいいなあ食に携わる人たちって、としみじみ思う。政治家や銀行家の久しぶりの再会では、こうは行くまい。(ごめんなさい、政治家さん、銀行家さん)

2人がおしゃべりに夢中になっている間、私はもちろん店の見学。20席もないだろう、本当に小さな空間にぎゅうぎゅうに詰められたテーブルと椅子。厨房はシェフ1人、客席は奥様1人。黒板に記された料理は、南西部のがっちり系。いいねえ、そそられるなあ。黒板にうっとり見とれている私を指して、ジェラールがシェフにささやく。「近いうちに、食べにくるぜ、この顔は。食いしん坊だから、覚悟しといたほうがいい」。

近いうち、ではないものの、その2ヵ月後、晴れて「ラ・スリゼ」のデビューを果たす。季節は秋。風はキンと意地悪で体が冷える。あの日、黒板に見た料理は、こんな天気の日にぜひとも胃の腑に納めたいものだった。夏に食べたい料理ではない。丁度いい季節に予約を入れたものだ、と我ながらホクホクして、小さな店の扉をくぐる。

わいわいがやがや店内うひゃあ、ギュウギュウギュウだあ。夏に来たときにはお客様がいなかったからそのギュウギュウ加減がよく分からなかったけど、こうやって、あまった椅子のひとつたりともない、満員御礼の状態でこの店を見ると、その喧騒感というか熱気というか、お客様の満足ぶりとシェフたちの忙しさぶりがムンと伝わってくる。いいねえ、どこからどう見てもおいしい空気に溢れている。

黒板に目を走らせ、舌なめずり。思わず両手をこすり合わせてしまう。いいじゃない、いいじゃない、どれもこれも、たくましくおいしそうな料理ばっかりで。お腹に気合を入れる。いただきます!

栗&フォアグラスープとカオールワイン真っ黒に輝くカオールをグビリとやりながら、まずは「シャテーニュ(栗)のポタージュ、フォアグラ入り」。くうう、秋だねえ〜。森の香りたっぷりのシャテーニュはホックリと味濃く、ブイヨンやクリームと混じってコクのあるふくよかな香り。ここに、コロコロとフォアグラのソテーが隠れていて、甘みと滋味を加える。パセリの風味が美しいアクセント。強くもなく弱くもなく、冷え切った体にどこまでも優しい、うっとりするような田舎料理。プージョランから卸している(に違いない)、これ またコクと滋味の塊のようなパンをちぎって、最後の1滴まできれいに皿をさらう。

ジビエのタルトしたて味見させてもらった、「ジビエのパイ仕立て」がまた、泣かせる味。野趣を残しながらも、全体としてはごく上品な味に仕立てている。品のある野生。いいジビエ料理って、みんなそうだよね。サクサクパイに散らしたゴマが香ばしく効いている。口直しに添えられた、黒サクランボのヴィネガー漬けに南西部の香りを思い出す。すごぶる美味!

青首鴨のロティとトロトロリンゴ続いて、「青首鴨のロティ、リンゴ添え」。ジビエの定番といえばあまりに定番の野生鴨ちゃん。カリリと潔く焼かれた皮は、脂がたっぷり乗っていたってよろしい。噛み応えがたまらない肉は、野生動物の雄々しいたくましさと高貴さを併せ持った奥深く神秘的な味。自然をそのまま体に納めてしまう、という、ジビエを食べるときならではの独特の感覚を久しぶりに味わい、体中の感覚が興奮しているのが分かる。トロトロのリンゴには甘くハチミツが効かせてあり、肉になんとも相性よく絡まる。幸せだ、、、。思わず、ワインをグビ。幸せ指数が、さらに高まる。至福だ、、、。ワインと料理。これほどまでに、互いを引き立てるベストパートナーがあろうか?

雉のポトフ仕立て野菜スープをたっぷり含ませた雉のポトフ仕立てにも、うっとりする。青首が雄々しい料理なら、こちらは繊細で女性らしい、柔らかく優しい料理。しっとりと柔らかい雉の肉はとろけんばかり。周りの野菜も口の中で溶けていく。雉もさぞかし本望だろう。ここまでおいしく料理されて、ここまで感動を持って食べられれば。

チーズ胃の調子は絶好調。ワインもなけなしで残っているし、おやつでなくてフロマージュにしよう。名前を忘れた、でももちろん南西部の山チーズに、カリンのジュレ添え。まろやかで甘く、おやつの代わりにぴったり。極上パンと極上ワインに、なんてまあよくあうこと。プルノーアルマニャック(プルーンのアルマニャック漬け)を添えたババもイケル。南西部の美味、万歳!

どれをとっても、がっちりどっしり系の料理やおやつのはずなのに、不思議と口当たりよく胃にも優しく、するりと体内に入ってしまう。量が少ないわけでもなく(確かに多いわけでもないが)、味もしっかりしているのに、不思議だなあ。ジェラールの仔羊や野菜はないけれど、それと同じレベルのいい食材を使っているのはよく分かる。いい食材を丁寧にシンプルに料理した結果が、この店には溢れている。肩の力の抜けた、がっちりしているくせに妙に体に優しい料理やおやつ。素晴らしい。こんないい店を知らずにいた自分が情けない。探せば、もっとたくさんあるんだろうなあ、ここみたいな隠れた名店が。でもまあ、それらを全て探すだけの時間も体力もお金もない。広く浅くよりも狭く深く、が私の好みにあっている。せいぜいこれから“サクランボ畑”(店名はサクランボ畑。なぜだろう?)にせっせと通いましょう。この店を教えてくれたジェラールに感謝しながら。


mar.25 oct. 2005



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