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グルマン・ピュスのレストラン紀行


レスパドン (L'Espadon)

2000年2月以来の「レスパドン」ご飯。オテル・リッツのダイニングを訪れる機会はなかなかない。リッツは好きよ、大好きよ。でもこのホテルに来るときは、いつも「レスパドン」をかすめて、「バー・エミングウェイ」に行っちゃう。「レスパドン」が嫌いなわけじゃあないんだけど、他のパラスホテルのダイニングに比べるとどうしても魅力を感じない。それでも、今は季節は夏。あそこのひたすらにチャーミングなテラスご飯を一度は試したいよね、と、すごーく久しぶりに「レスパドン」に電話をする。

シャンパーニュ&アミューズテラスご飯に最適、をかなり越した暑さのパリ。ここ数日の暑さ、半端じゃない。コンコルドからプラス・ヴァンドームまでのたった3分の道のりを歩いただけで軽い脱水症状。頭がくらくらする。こんなときは、とりあえずシャンパーニュを飲まないとやってられないよ。緑いっぱいのテラスには、噴水から涼しげな音が流れている。パンくずを求めてひっきりなしにやってくるスズメたちのチュンチュン鳴く声が心地いい。パリのど真ん中にいると思えない、ナチュラルでチャーミングなテラス空間はやたらと居心地がいい。ポルトー製の花柄のナップやセルヴィエットがまた、リッツにしか似合わないかわいらしさ。あ〜いいねえ〜、いかにもリッツという雰囲気だ〜。こちらも、さすがはリッツ!とうなずきたくなるような、ベーシックで品よくホスピタリティー溢れたサーヴィスに包まれて、夏に乾杯。

どこまでもフェミニンで贅のあるテーブルセッティングを眺めているところにアミューズの登場。あ、かわいい、プレゼン。こういうの、好きよ。ちっちゃな器にフォアグラ&イチジクとサーモン&ウイキョウクリーム。添えられるミニフォークが二本あるところが、なんだかとっても気に入っちゃう。ここのお皿、好き。デコラティフなカトラリーも好き。このレストラン、ほんと、雰囲気だけは2つ星に十分なれるのに。感動はないけれどきっちりと美味なアミューズを食べながら、2000年3月以来、1つ星に甘んじているこのレストランの運命を考える。

モーリス・ギルエを招いた時に落とした星は、2年経っても戻らなかった。リッツ育ちで「ラセール」に出ていたミシェル・ロトをシェフとして呼び戻したものの、星の数は相変わらず。「フォーシーズンズ〜」をはじめ、「ル・ブリストル」、「プラザ・アテネ」が大々的にレストラン部門の評判を上げ、この秋からはついに「ムーリス」にもヤニック・アレノが入ることになりここのダイニングも確実に評判が上がるだろう。そんな中、「リッツ」はなんだか今ひとつぱっとしない。ロトの料理、食べたことない。どんなもんなんだろうね。このアミューズに関しては、別に1つ星でも2つ星でもどっちでもいい味だけど。

ラングスティヌのポワレアントレの「ラングスティヌ(アカザエビ)のロティ、フェヴェット(小さなソラマメ)とプチポワ(グリーンピース)添え」。この安いランチメニューにこんなにたっぷりラングスティヌを使ってくれるなんて、豪勢だね。質的には、たとえば「レ・ゼリゼ」でブリファーさんが使っているそれとは比べられないけれど、まあそれなり。シンプルにポワレして優しい味に、こちらも食器やレストランの雰囲気にマッチした優しい香りのつけあわせ。うん、まあ、おいしい。インパクトや感動には欠けるけれど、万人受けする料理かな。

スズキプラは、「バール(スズキ)のハーブ風味、クルジェットのカネロニ仕立てとアーティショー」。んー、いまいち。バール自体の味も今ひとつならば、魚に貼り付けたハーブとパン粉をあわせたような部分のバター臭さが私にはつらい。「ソースをすこしいかがですか?」と、それはまあエレガントにサーヴィスしてくれるメートルの言葉にうっとりと「ええお願い」なんて言ったがために、こちらもバターをベースにした私好みでないソースがたっぷりかかっちゃう。バールにバターは勘弁してほしい。ちぇー、ソースの中身まで料理名に書いてなかったからなあ、、。フロマージュ、、イマイチ?素材を見る限り、オリーヴオイルを使った南仏風かと思ってたのに。慎重にハーブバターとバターソースをよけながらバールをいただく。クルジェットのカネロニもまあまあかな。友達が食べたサン・ピエール(まとう鯛)のグリルはいい感じ。あっさりグリルにフォン・ド・ヴォーかなにかのジュを使ったソース。それを絡めたジャガイモのソテーがまた美味。こっちの方が好みだったね。

コンテ、ヴォーフォールにトロトロシェーヴルをいただき、おなかいっぱい。ドライアプリコットがおいしいなあ。どこで買ってるんだろう。

ランチの料理だけで判断するのは公平でないけれど、今日食べたものに関して言えば、やっぱり料理は1つ星かな。間違っても2つ、とは言いたくない。それに引き換え、デセールは完璧に2つ星クラスだ。2000年春からシェフ・パティシエになっているエディ・ベンガネム。就任したてのときに、一度取材させてもらってる。そのとき食べたお菓子がかなりおいしくて、以後、ずっと気にはしていたパティシエ。シンプルながらもしっかりと素材の味自体が持つおいしさを引き出していて、なんともいえないチャーミングなお菓子たち。私の神様パティシエ、ロラン・ジャナンの弟子で、その前はクリストフ・フェルデールに教えてもらった、というキャリアな以上、素晴らしいデセールを作るのは当然かもね。今年から来年にかけて開催されているパティシエのMOF(フランス最優秀職人)コンクールに出場していて、この春に行われた予選は見事通過。今は、来年2月に開催される決勝に向けて試行錯誤中だろうね。

ミルフォイユそんなエディのお菓子と久しぶりの再会。期待を裏切らないそのおいしさに、うん、これならMOF取ってもいいんじゃないかなあ、とちょっとワクワク。「イチゴと森イチゴのミルフォイユ」は、オーソドックスながらもフォイユテ生地、クリーム、イチゴのどれもがきっちり丁寧に作られている。添えられたグラス・ヴァニーユもおいしいし、散らされたアーモンドグリルがまたイケル。友達が頼んだモモとシャンパーニュクリーム、素敵に美味「モモのクープ、バラ風味のシャンパーニュのエミュルジョン」は、プレゼンもかわいければ色もチャーミング、おまけに味まで最高!これはいい。モモの甘くしっとりした味にふわりとバラの香りが漂い、シャンパーニュのすっきりとした後味が続く。見た目もテクスチャーも味もいい、レストランデセールならではの一品。3年前に食べたイチゴのクリーム菓子やカフェのミルフォイユの味を思い出す。同じ系統の、シンプルで誠実、礼儀正しい味だ。悪くないよなあ、全然。エディ・ベンガネムは、ジルちゃんやロランら、クリストフの子供弟子以後の新世代パティシエを代表する1人になるだろう。

パンくずを食べつくしたスズメたちはお昼寝の時間なのか、気づくと鳴き声はやんでいて、お客様もあらかた引き上げている。なんて居心地のいいテラスなんだろう。ずっとずっとここに座っていたいよ。でもね、そろそろ帰って、従業員たちを解放してあげよう。雰囲気完璧、サーヴィス素晴らしい、テーブルアートチャーミング、デセール最高、フロマージュまあまあ、料理ふ〜む。これが今日の「レスパドン」の感想。肝心の料理がねえ、もう少しだけよくなれば、2つ星になると思うけどな。なにはともあれ、やっぱりリッツのホスピタリティーは最高だし、エディのお菓子も素晴らしい。夏の午後のひと時を過ごすには、完璧なシチュエーションでしょう。あー楽しかった。

ven.11 juillet 2003



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