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グルマン・ピュスのレストラン紀行


ジャマン(JAMIN)

「ジャマン」と私のハネムーンは続く。ハネムーン、というよりは、一方的な熱愛か?まあどうでもいいや、そんなこと。とにかく、私はこのレストランを愛している。心底。これが大切。

9月に久しぶりに訪ねた「ジャマン」で、このレストランの美点を再確認した。これからはまた、きっちりとブノワ・ギシャールの料理を食べよう、そう決心して、夏の終わりの夜、店を出たっけ。

食に関する決意は守るんだよね、私。感動的な記憶が薄れないうちに、再び「ジャマン」のテーブルを取る。

冷たい雨がザアザア降る1月の夜。この季節、春が恋しくて恋しくて、いつもとても切ない思いに囚われる。こんなときこそ、極上料理で景気をつけなくてはね、と気持ちを盛り上げながら「ジャマン」に到着。

「いらっしゃいませ、マダム・カノ。新年明けましておめでとうございます。たくさんの幸せとおいしいものを!」いつも変わらぬ笑顔のメートルが出迎え、テーブルに案内してくれる。あ、あれ?このテーブル?

予約時、お気に入りのテーブルを指定したのだけれど、既に常連に抑えられていた。大好きなそのテーブルの前ににこやかに立つメートルに???の視線を投げる。

「この席を予約していたお客様が、昨日急にキャンセルを入れたのです。だったら、ぜひマダム・カノに、と」

嬉しい?嬉しい?ねえ、嬉しい?と問いかけんばかりのこぼれるようなメートルの笑顔に、こちらも飛びきりの笑みを返す。
シャンパーニュアミューズの、ミニパイ「メルシ・ボク。すごく嬉しいわ」こういう、なにげない優しさ。会話の一言を抑えたサーヴィスに、参っちゃうんだよね。すでにすっかりご満悦状態で、シャンパーニュのグラスを掲げ、トムとベーコンのミニフガスに舌鼓を打つ。

カルトを開く。あ、体裁、変わった。今までは口頭で説明していた“本日のムニュ”が一枚の紙になってカルトに挟まれている。臨場感たっぷりの説明、好きだったんだけどな、パフォーマンスとして。ちょっぴり残念。どうしてこうまで毎回魅力的なのかしら?と不思議なくらいに私のツボに入るムニュは、今夜もまたよい感じ。前回はア・ラ・カルトだったし、今夜はムニュで行きましょう。

エレガントなソムリエ氏とワインの打ち合わせを神妙に済ませ、食事を楽しむ準備は完了。では、いただきます。

フォアグラフラン&ラングスティヌヴルーテ。濃い香りと味が絶品!アミューズは、「フォアグラのロワイヤル、ラングスティヌのヴルーテ」。ギシャールさんお得意のフォアグラのフラン、だーい好き。これがアミューズに出てくるときは運がいい。ヴァージョンがいくつかあるみたいで、今日は初めて食べる、ラングスティンのヴルーテをかぶせたもの。コクがあってしみじみと味わい深いフランに、これまた強烈な芳香を持ったラングスティヌのスープが、威風堂々とした味を作り上げている。精密で真剣に作られた料理、というイメージ。力強い味で量はそんなに食べられないけれど、アミューズの量として最適。いきなりギシャールさんの力量を鮮やかに見せ付けられ、体が震える。

海の幸とキノコをたっぷり使ったコクのあるスープ「キノコと海の幸のコンソメ」が今夜のアントレ。風味豊かなキノコと新鮮なイカやホタテ、ムールなどのエキスが凝縮されたコンソメの滋味深いことといったら、、、。軽く火を通した甲殻類の舌触りも絶妙で、五臓六腑に染み渡る旨さ。たまらないね。コリアンダーを散らし、ちょっぴりエキゾチックな味わい。

スズキちゃん。魚はバー(スズキ)。程よく焼いて、軽いバターソース。バターが嫌いな私には、正直、ちょっとバタ臭くて、なるべくソースをよけながら、スズキをおいしくいただく。「このバターソース、絶品!」と友達が言っていたので、きっとよい出来なのでしょう。理解できずにちょっと悲しい。付けあわせはニンジンのフォンダン。軽くクミンの香りを効かせて、これまたちょっぴりエキゾチック。とは言っても、あくまでもクラシックで奇をてらわない料理がギシャールさんの味。極々軽い、隠し味程度のエキゾチズムだ。

仔羊。付け合わせのアンディーヴにブラヴォ!お肉のアニョー(仔羊)がこれまたイケル。バーにアニョーという私の2大お気に入り素材を重ねてくるなんて、ギシャールさん、好き〜。

パット・フィロかな、ごく薄のパットに包んだアニョーは、パットのカリカリ感と肉のジューシーさが程よいコントラストを見せていてよいね。

肉はもちろんおいしいのだけれど、付け合わせが完璧だ。2種類の料理法で仕立てたアンディーヴ。オーソドックスなカラメリゼと、ごく浅く茹でたか蒸したかした、色のついていないアンディーヴ。カラメリゼの香ばしさと甘味が重なった味はもちろん美味なのだけれど、もう一つの色をつけずに火を通したアンディーヴが絶品。コリコリともシャキシャキともつかぬえもいえぬ歯ごたえといい、軽い苦味がグレープフルーツを彷彿とさせる味といい、それはもう、素晴らしい!の一言に尽きる。ギシャールさんへの尊敬を再び新たにする。

サン・ネクテールやモン・ドール、ロックフォールらかわいいフロマージュちゃんたちを愛でて、お楽しみのデセール時間。シャリオににぎやかに載るお菓子たちをあれこれ吟味し、ミルフォイユ、タルト・オ・ショコラ、タルト・シュクレ、それにお約束のパンプルムースのタルトをノミネート。ほんとは全種類食べたいところだけれど、一応やめておこうかね、それは。横には、グラス・ヴァニーユ、グラス・マント、それにソルベ・マングーを添えてみる。

前回は、パンプルムースもの、ソルベがあってタルトがなかったけど、今回は逆。ちょっと甘いけれどフェティックに愛しているパンプルムース・タルトに嬉々とし、誠実なショコラのタルトにうなずき、素朴な砂糖菓子に笑みをこぼし、この世で最高のミルフォイユと思っている「アルページュ」のそれを超える!?と思わせる見事な出来のミルフォイユに恍惚となる。ミルフォイユ、ひたすらに見事絶品、このミルフォイユ。素晴らしい!友達に味見させてもらったリンゴのタルトがこれまた、感類もののおいしさ。くうぅ〜、泣かせるなあ、この新作タルト。次に巡り会ったら、絶対たくさんもらおう。グラス類は、あいも変わらずひどく出来のよいヴァニラは完璧、ソルベでなくグラスに仕立てたミント味は、ソルベに比べまろやかで優しい味でこれまた目を見張る出来。マンゴー味は、おいしいけれどまあ普通かな。

狂ったように膨れ上がったお腹をさすりながらミントのアンフュージョンで胃を落ち着ける。いや〜、今夜もまた、食べに食べたね。この店に来ると、たかが外れたように美食にうつつを抜かしてしまう。やけに相性のよい味とギシャールさんの誠実で緻密な、いかにもロビュションの弟子らしい見事な手腕に感動しながら、おいしく幸せなときを過ごす。

フェミニンなサロンお客様があらかた引けたサルで、メートル氏とはじめて、長々とおしゃべりを楽しむ。ギシャールさんのこと、日本人のシェフ・パティシエのこと、ロビュションのこと、「ジャマン」というレストランのこと、パリのいろいろなレストランのこと、メートル氏がここに引き抜かれたときの逸話、、、。最後にはマダム・ギシャールも加わり、楽しいガストロノミー談義が果てることなく続く。

「ジャマン」への恋心をさらに募らせ、店を後にする。この店は本当にいいレストランだ。

「ロビュションがここにいた時代がこの店が一番輝いていました」とメートル氏は言う。残念ながら私は、その時代のロビュションを知らない。たった一度だけ経験したロビュションは、既にレイモン・ポワンカレに店を移してからだった。当時の「ジャマン」がどれほど稀有な店だったか想像すら出来ないが、愛弟子ブノワ・ギシャールが引き継いだ「ジャマン」も、料理、サーヴィス、雰囲気ともに十分すぎるくらいに素敵なレストランだと、私は心から思っている。


Jeu.22 jan. 2004



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