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グルマン・ピュスのレストラン紀行


ムーラン・ドゥ・ルールマラン(Moulin de Lourmarin )

ピーター・メイルの「南仏プロヴァンスの12ヶ月」で一気にその名を知られるようになったしたリュベロン地方。風光明媚、とはこの土地のために生まれた言葉だろう。低い丘陵とのどかないなか道。ふと思い立ったように身を寄せ合う美しい鷲の巣村。緑濃い森の中に伸びてゆく未舗装道路。

リュベロン地方には、魅力たっぷりの可愛らしい小さな村が点在しているが、この地方の南に位置するルールマランは、可愛らしい上に美味しい村。吹けば飛んでしまいそうな、この小さな村には、ミシュランの☆レストランと☆☆レストランが一軒ずつあるのだ。

せっかくここまでやってきたのだから、両方のレストランを試さない訳にはいかない。夕べは、☆レストランを要す、「オーベルジュ・ラ・フニエール」で、フランスきっての有名女性シェフの料理に向き合った。

atomoオリヴィエが点在する広い庭に、きれいなプールと休憩用のテント。しっかり泳いでエルヴェのところで食べた料理を消化し、夏の終わりを予感させる冷たい風がそよぐテラスで、もっちゃんのお誕生日をおゆわいした。

夕べの寒さが嘘のように暑くなる日中。知り合いのソムリエに紹介してもらった、ヴァン・キュイの醸造所をどうしても見つけられない。グルグルグルグルグルグルグルグル、小さな村の周りをあっちへこっちへ。道を尋ねると、みんながみんなちょっとずつ違うことを自信ありげに答えるのは、まあ、フランス人の証だから仕方ないか。結局時間切れ。すごすごとルールマランに戻り、お昼に予約を入れてあった、☆☆レストランに赴く。

石畳の曲がりくねった小路に立ち並ぶ、カフェや土産物屋が可愛らしい。公園では、フェット(お祭り)の準備が行われている。あれ、そこに止まっているトラック、さっき通った街で後ろについていたトラックじゃない?フェットのコンサート器材を積んでいたトラックの横に、おにーさんたちが3人。向こうもこちらに気づいたらしい。

さっき、一緒だったよね、とご挨拶して、一緒に記念撮影。
「ジュ・ヴドレ・フォトグラフィエ・アヴェク・ヴ」フランス語の宿題をすべて私にやらせていたすぴちゃんが、パリに遊びに来るようになって真っ先に覚えた言葉。「写真、一緒に撮りたいんですけれど」彼女は、この言葉一つで、いつもフランス旅行を楽しく盛り上げている。

「今夜、俺達、ここでコンサートをするんだよ。ダンスもあるし、よかったおいでよ」
「残念だけど、、、。ここでお昼食べた後、今夜はビューまで行く予定なの」楽しそうに準備を進めるおにーさんたちとチャオ!して、レストランに向かう。

「ムーラン・ドゥ・ルールマラン」。高級ホテルを兼ねたこのレストランは、2年前のミシュランで二つ目の☆を取った。たれ目の目が可愛らしいシェフは、サヴォワ(アルプス地方)出身。サヴォアの鬼才、マルク・ヴェイラの元で修行をした若者が、なぜか生まれ故郷と彼女を残して、プロヴァンスの小さな村に移ってきた。

いかにも《ルレ・エ・シャトー》らしい高級感あふれるロビーを抜けて、笑顔がきれいな受付の女性が、中庭にしつらえられたレストランに案内してくれる。

フェール・フォルジェ(鍛えた鉄)と鮮やかなタイルで作られた、いかにも南仏らしいどっしりとしたテーブルが、年を重ねたオリヴィエを囲んでいる。かーわいい!こういうの、大好きだ。突き刺すような強い日差しは、厚手のパラソルにはばまれ、その暖かな心地よさだけを風に乗せて吹いているし、オリヴィエの葉は、たくさんの木漏れ日をチラチラさせている。うちの子の3分の1しかないような、細い猫達が、庭の外れをうろつく。

頭が小さく背が高い、これまた笑顔が優しいメートル・ドテルがご挨拶にやってきて、apetirifアペリティフの注文を取る。シャンパーニュとミュスカ・ドゥ・ボーム・ドゥ・ヴニーズ、それにさくらんぼのキルシュを交ぜだ自家製アペリティフをいただきましょうか。

生のセロリやニンジン、カリフラワーに、タプナードをつけていただく。野菜って、本当に美味しいねえ、と、ポリポリカリカリ。もひとつ手にして、ポリカリポリカリ。アルコールに漬けたサクランボが泡にゆらゆらしてる、甘みが体にここちいい、つめたーいアペリティフをなめながら、大きくてとてもアーティステッックなカルトを広げる。

「たっかー!」
「いくら?私の、値段が載ってない」
「すごいよ、この値段。読もうか?アントレ、上から、280、350、269、290、330、、、」
「ひゃー、儲けてるんだあ。200以下がない?」
「っていうか、平均すると300超えるんじゃない?」

パリも顔負けのお高い料理たちに、ちょっとたじろいでいると、爽やか優しいメートルがやってくる。
「いかがですか?なにかご質問は?よければ、ムニュ・デジュネ(昼コース)のご説明をしますが」あ、よかった。昼ムニュ、あるのね。なにが出てくるんだろう。

思い入れたっぷりに、ちょっとしたアネクドートを挟みながら、料理の説明をするメートル。優しそうな笑顔がいいなあ。やっぱりセルヴィスはこうでなくっちゃ。と、なんとなく見とれているうちに、長く続いた解説が終わる。

「このような構成ですがいかがでしょうか?」適当にみんなに通訳して、このムニュを取ることに決定。フロマージュまでついて200フラン。このカルトに並ぶどの料理よりも安い値段。ア・ラ・カルトはいったいどんな料理なのかしらね。

「カルト、とっても素敵ですね」
「ありがとうございます。ルールマラン在住のアーティストによるものなんです。ちょうど今、街中のカフェ・ドゥ・ラ・フォンテーヌで展覧会をやってますので、よかったら覗いてみてください」田舎に来るといつも思う。どんなに小さな村でも、その村の中だけで、美味しい野菜や果物から素敵なアートまで、すべてがそろってる。そんな、土地土地の豊かさが、フランスって本当に素晴らしい。

「ジュ・ヴ・スエット・トレ・トレ・ボナプレ−ミディ」素晴らしい午後を過ごされますように。こぼれるような笑顔を残してメートルが去ったあとには、ちょっと若めの、勝ち気そうな視線がこれまたなかなか美しいソムリエ君の登場。

夕べ、あえて飲むのをやめ、今日の午前中に行きそびれたお酒を見つけるが、残念ながら在庫切れ。
「任せます。この地方の白。軽すぎず、ちゃんとコクがあって、腰がしっかりしたお酒」
「ダコー」

メートルと可愛いセルヴーズちゃんによって、アントレが運ばれてくる。
entrees「メロンのスープXXX風です。赤ワインで煮込んであるスープなんです。昔々、このあたりでペストが流行した際に、土地の者が、この付近の赤ワインに、シナモンやグローブ、ミントと一緒にXXX(名前忘れちゃったよ。だって、たーくさん説明してくれるものだから、覚えきれないよ)を煮出したんです。この煎じ薬を頭や手、体にかけると、病気が治った。そんなアネクドートがあるんです。ボナペティ」

ふむふむ、と頷くうちに、二つ目のアントレが運ばれる。
「XXX(ガスパッシュとかなんとかだった気がする)、香草の一種ですが、それをムースに仕立てた料理です。これがXXX」と、ムースに刺さる、草というか花というかを指し示す。メロンに飾られたラヴァンドと、ムースに飾られたXXXを取り外して、テーブルの中央においてみる。可愛いんだ。

煮詰まって成分が凝縮されたワインソースに夏味ムロン。そういえば、「このムロンは、ルールマランの村外れの農家で作られたものです」って、メートルが言ってたっけ。なんだかもう、聞いたことが多すぎて、頭が混乱してきちゃうよ。ごめん、すぴちゃんたち。多分私、メートルの説明、半分くらいしか伝えてないわ。こういう、その土地の香りがたっぷり詰まった料理、大好きだ。

4、5年前にアラン・デュカスが言いはじめた《キュイジーヌ・ドゥ・テロワール(郷土の料理、土地の料理)》っていうのは、こういうことだと思ってる。その土地の雰囲気に包まれて、その土地に生まれたものを、その土地風に料理したものを感じて味わう。

XXXのムースは、とろりとこくがあり、アマンド系の香りがふんわり広がる。例の香草が、草原でのピクニックのイメージを演出してくれる。よく作ったなあ、こんな料理。面白い。テクスチャーもプレゼンも。「エル・ブジ」っぽいな。研究した?焼きたての、まだパチパチと音がするオリーヴ・パンを一緒に口にほうり込んで、21世紀のフランス料理界を代表するエドゥワール・ルベの料理との交友を図る。

「日本からですか?」口をもごもごさせながら頷く私にメートルが続ける。
「私たちのシェフは、日本が大好きなんです。たくさん影響を受けているんですよ、日本料理に」
「アー・ボン?セ・ビアン」ようやく口が開く。
「ずっと前から、ここに来たかったんです。そうだ、今更ですけど、二つ目のマカロン、おめでとうございます。マルク・ヴェイラの影響と日本らしさが混じった料理なんですね、じゃあ。このアントレ、とても美味しいです。そして面白い。見ていてとっても楽しいな。この後の料理も楽しみだわ」

メートルが話を続ける前に、言うべきことを一気にしゃべって、おもむろに、ワイン・グラスに手を伸ばす。さっき、ソムリエ君が味見させてくれた今日のワインは、ちょっと癖がありこくがあり、まさに頼んだ通りの一本。嬉しいな、こういうワインを選んでくれるのって。

いい感じに冷えはじめたワインをすすりながら、おもむろに始まったメートル講義第3課を拝聴する。ん?第4課くらいかな、もう。お酒飲んでる時なら、いくらでも話していいよ。大好き、いろんな話を聞くのって。アントレの皿が下げられて程なく、今日の主役間違いなしのメートル再登場。さて、今度はどんな講義なのかしら。

surprise「ヴォアラ〜。シェフからあなたたちへ」笑顔のメートルが目の前に四角いお皿を置く。
「日本のカイセキをイメージした料理なんです。ムロン、ラディ・ノワール(黒大根)で巻いたXXX(あれ?なんだったっけ?)、小さなオーヴェルジヌ(ナス)のマリネ。そしてこちらは、エプートル(昔の小麦の種類)で作ったパンです」
「うっわー、きれいね。かわいいな。ご親切に、どうもありがとう。シェフにどうぞよろしく伝えてくださいね」
「ダコー、マドモワゼル」

かーわいいんだ、とにかく。キュート!しっかりお花もあしらわれてて。確かにマルク・ヴェイラ(サヴォア地方の☆☆☆レストランシェフ)の影響大。それに加え、ちょっとナルシスト気味の写真をよく目にするエドゥワール・ルベのイメージが入ってる感じ。ほんとに見た目がいいなあ、ここの料理。シェフから送られた、素敵なプレゼントに、嬉々として向かい合う。どれから食べようかな。こっちから?あっちから?パンはどのタイミングで口にしよう?

花をテーブルに積み上げ、あれこれ楽しく悩みながら、目の前の料理をつついていると、あれ?横に座ってるまっきっきーの様子がおかしい。
「大丈夫、まっきっきー?」返事なし。あんまり大丈夫そうじゃない。
「横になったほうがいい?ロビーに行く?」頷くまっきっきーを支え、すぴちゃんがロビーへ赴く。おお、すぴちゃん!たまには先輩らしいこともするんだ!?

しばらくして戻ってくるすぴちゃん。
「どお、まっきっきー?」
「ソファで寝てる。アペリティフだね。お酒弱いのに、あれ、結構強かったでしょう」
「そうだね。発砲してるし強いアルコールは入ってるし、おまけに甘目の強いワインまで混じってるし。うん、よく考えたら、まっきっきーには一番よくないカクテルだ」
「これからは、アペリティフはジュースに徹底させよう」
「そだね。ところで、従業員の人たち、面倒見てくれた?」
「くれた、くれた!とってもくれた!」

すぴちゃんの話によると、件のメートル以下、従業員達がみんなして、かいがいしく世話をしてくれたんだそうだ。セルヴィエットを持ってきてくれたり、それを濡らしてくれたり、なんだかんだと側についていてくれたらしい。夕べのホテルだったら、こうはいかなかっただろうなあ。

ふと気がつくと、すぴちゃんのお皿が空っぽ。
「すぴちゃん!?まさか、既に終わり?」
「ウィー!おわりだよ〜ん」びっくり。すぴちゃんがそんなに早く、しかも全て食べ尽くしているなんて、なかなか見られるものじゃない。もっちゃんと私、呆気に取られて、それぞれの料理を終える。

「そちらのマドモワゼルの分、おさげしてよろしいでしょうか?」メートル。
「ええ、お願いします。どうもありがとう、いろいろ面倒見てくださって」
「どういたしまして。今、見てみたら、ソファでお休みになっていますよ。お料理はどうしましょう?」
「彼女の分は、結構です。ゆっくり寝かせておくわ」

ご気分のすぐれないまっきっきーがソファで横になっている間、私たち3人は、素晴らしい体験をした。ごめんね、まっきっきー。いつかきっと、またここに来て、あの感動を一緒に味わおうね。

プラの前に口直しとして運ばれてきた料理。この小さな一皿に、味覚が完全に脱帽。多分きっと、今年口にする料理の中で、一番印象に残るものになるだろう。素晴らしくファンタスティックな作品。

courgette「クルジェット・ロン(丸クルジェット)とバジリク風味のトマト・ソルベです」メートルの、珍しく簡潔な説明とともに目の前に置かれた皿には、眩しいくらいの緑色の、コロンと真ん丸のクルジェットと、その中からはみ出ている、キラキラ光るトマト色のソルベ。恒例のお花もきちんとソルベに刺さってる。わーっかった!可愛いのはよく分かった!もう、いつどこであっても、エドゥワール君の作品を見誤ることはないよ。この可愛らしさは、君のシニアチュール(サイン)だね。フォルシェット(フォーク)を口に入れた瞬間、口をだらしなく開けたまま、思わずため息。
「は、っはっは、、、。すっごい美味しい、、、」

あっさりと下ゆでしてあるクルジェットはひんやりと、あくまでもひんやりとした温度の中に、およそクルジェット・ロンという野菜の持ちうる美味しさのすべてが、ううん、それどころか普通は隠れている美味しさまでが再現されている。

野菜をこんな風に表現できるなんて、エドゥワール君は、やっぱり天才かも。たれ目の優しそうな顔したシェフ、花や香草に囲まれた写真しか見たことがないけれど、厨房で一体どんな顔して食材に向かうんだろう。

口に入れると、日光浴をたくさんしたトマトの力強い味がパアァッと一瞬広がる。うわぁー、と思うまもなく、滑らかで冷たいテクスチャーが舌に残る。鼻から抜けるのはバジルの優しい香り。

巡り合っちゃった。一生忘れないだろうな、って料理と、たまに遭遇することがある。たとえば「ル・ルイ・カンズ」の野菜のファルシ。たとえば「ミシェル・ゲラール」のジャガイモとトリュフのヴルーテ。たとえば「ル・サンク」のチョコレート菓子。巡り合えたことを、心から感謝して味わう料理。そんな料理たちの仲間入りするような、思いきり琴線に触れる一皿。

ああ、ようやくプラの時間?しっかしまあ長いね、ここに辿り着くまでが。
「ランド地方の黄色い鶏、アプサン(ニガヨモギ)風味のクリームソースです。ガルニは、アマンド(アーモンド)風味のパルマンティエ(ジャガイモ料理)になります」

おお、ここに来てはじめて、ルールマランの匂いを感じさせないものが出てきたぞ。と思ったところに、メートルが嬉しそうに胸を張って続ける。
「このアマンドは、この近所のアマンディエ(アーモンドの木)のものです」アハハ、考えていたこと、分かっちゃった?ソースにおぼれそうな黄色い花をテーブルに救出。ではいただきます。

フランス南西部ランド。ここの鶏さんたちは、美味なので有名。パリリといい香りの皮に、弾力あるきめの細かなきれいなモモ肉。ん、おいし。☆☆レストランらしい、おりこうさんな火の通し方。アプサン風味のソースは、なくっていい。肉の味だけで、じゅうぶん完成品。アマンド風味のパルマンティエは、まーまー。これもなくてもいい。

今まで出てきた数々の野菜達に迫力負けしている感がある料理だけれど、これはこれで美味しいのよ、とっても。仕方ないよ。借りてきた猫みたいなものだもの。ランドで食べると、もっと生き生きとするんだろうな。

ふう、ようやくフロマージュ。終わりが見えはじめてきた、かな?眠り姫状態のまっきっきーを気にしながらも、フロマージュの選択に余念のない私たち。可愛いシャリオに整然とならべられた、雰囲気たっぷりのフロマージュ達から、この時期この地方で食べずしてどうする?のシェーヴル(ヤギのチーズ)を中心にあれだこれだと選び出し、緑トマトのコンフィチュールが添えられたお皿を目の前にする。

しかしまあ、よく食べるよね。相性がとってもいいんだ、ここ。アペリティフの野菜から始まって今まで、かなりの量を食べているのに、全然お腹が苦しくない状態で、夏の香りあふれるシェーヴル達を平らげ、涼しい顔してお酒を飲み干す。でもって、デセールはなにかなあ?と、周りのテーブルをきょろきょろ見回すすごさ。

今日のお酒は、私、とっても好きよ。話を聞くと、明日行く辺りにあるドメーヌらしい。
「行きたいな。連絡先、教えてくれます?」
「ええ、もちろん」と去っていくソムリエ君、わざわざドメーヌに電話して、詳しい住所やアクセスを聞いてくれる。ちょっと目元が鋭いソムリエ君。笑うと厳しさがなくなって可愛いんだ。パリに帰って「レ・ゼリゼ」にヴァカンスの報告をしに行くと、「なんだ、あいつとは友達だよ。言ってくれればよかったのに」とアラン。しまった。次回はよろしく頼むよ、アラン。

まっきっきーの様子を見に行く。なめらかな生地が気持ちいソファーに横たわる眠り姫。
「まっきっきー」とささやくと、薄ーく目を開く。
「デセールの時間だよー。食べるー?食べないー?お茶もらおうかー?」お茶、という言葉に反応するまっきっきーのために、デジレ王子さながらのかいがいしさをみせるメートルにお茶を頼む。
「すぐにお持ちします。ご気分はいかがですか、彼女?」やっさしいなあ。背が高くすらりとしたメートル。まっきっきーも、首が長くてほっそり背が高い、バレリーナ体形。2人で、ローズ・アダージョでも踊ってくれればいいのに。結構さまになると思うんだ、うん。

まっきっきーの世話は、メートル・デジレに任せて、デセールが到着するはずのテーブルに戻る。タイミングを見計らって運ばれてくるのは、desserts「セロリとフレーズ(イチゴ)のソルベ」と「カカオのクレーム」。

さすがに「ル・ブリストル」のフレーズ・ソルベにはかなわないものの、田舎らしい素朴な愛らしさを持つソルベと、こちらはお見事なセロリ・ソルベ。ヒエヒエになった舌とお腹を、ちいさなカカオ・クレームが鎮静してくれる。んー、美味しい。

昼食を楽しんだ人たちが皆引き上げ、なんとなくさびしくなってしまう中庭のテラス。静かになったのを待ち受けて、猫達はあっちへうろうろこっちへうろうろ。食べこぼしを探しているんだろうか。ああ、それなら、もっちゃんの側に行ったらいいんじゃないかな。きっとたくさん落ちてるよ(笑)。

petitsfours木の幹をスライスして作ったプレートに、にぎやかに並ぶプティ・フールが運ばれてくる。
「ロビーでお茶を召し上がりますか?」メートルの言葉に頷き、数時間を楽しませてもらった、南仏の魅力あふれる中庭を後にする。

まっきっきーを囲んで、ゆっくりとお茶の時間。珍しく、ドゥヴル・エクスプレスなんて頼んだのは、これから運転を控えているから。結構飲んじゃったもんね。これで、いつものマントのアンフュージョンなんて頼んだら、まったりしちゃって今度は私が眠っちゃう。カフェをたっぷり飲んで、酔い覚まししましょう。

ガラス越しに見える中庭では、片づけが始まっている。ひとり、またひとりと、セルヴィス陣の姿が消え、ふと気がつくと、今日のお昼ご飯を素敵に演出してくれたメートルは、私服姿で下のホテルの受付辺りを歩いてる。あ、もう帰っちゃうんだ。わー、私服姿、いいなあ。珍しい、レストランの制服よりも私服の方が素敵に見えるセルヴィスの人って。ふ、と、視線を上げてウインクをよこす。キュ〜。一気に参っちゃう。

白いシャツ、黒のジーンズにエルメスのベルトといういでたちの素敵なメートルは、強烈なウインクを一つ残して、私の視界から消えてしまった。いつかまた、彼のセルヴィスを味わえますように。

その後、小さな村をぶらぶらしながら、どこかに彼がいないかと、厳しく辺りに目を配ったのは、言うまでもありません。残念ながら、徒労に終わってしまったけれどね。タン・ピ!

リュベロン地方のあらゆる魅力に囲まれて過ごした午後。レストランのアルバムに、また一つ、キラキラ輝く素敵なページが増えました。


lun.28 aout 2000



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