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グルマン・ピュスのレストラン紀行


「オ・リヨネ」(Au Lyonnais)

昨年秋にオープンしたアラン・デュカスの最新レストランは、「スプーン」や「59ポワンカレ」のキッチュ・ビューティーな雰囲気の対極に位置するようなものに仕上がった。「オ・リヨネ」という名の通り、リヨン料理を提供するブション(リヨンのビストロ)。気のおけない田舎風ビストロを、デュカスがどう演出するのかを楽しみに、トコトコ出向いてみる。

salleどこにでもあるような、典型的なビストロ外観。厚いカーテンをかき分けて店内に入ると、好感度抜群のスマイルが迎えてくれる。彼の他のレストランにいるセルヴールたちと同じタイプの笑顔と物腰。素敵なタブリエ(エプロン)に身を包む彼らを見ているだけで、ここがデュカスの息がかかった場所だって分かるよね。古きよき時代のビストロの面影を存分に残して雰囲気抜群。ワイワイガヤガヤとテーブルについて、ポと呼ばれるデキャンタでamuseコット・リヨネーズのワインと、トースト&フロマージュブランベースのペーストでアペリティフタイム。短いけれど、でもどれもこれも魅力的なリヨン料理が並ぶカルトから楽しく料理を選び出す。

カルトを眺めながらも、視線はついついテーブルに流れてしまう。布袋に入ったパンも素敵だし、白地に赤のラインが入ったナップも可愛いけれど、なんといってもカトラリーが最高にチャーミング。レストラン用の普通のクリストフル製。でもね、プレゼンがめちゃめちゃいい。何種類ものタイプをごちゃ混ぜに使ってるんだ。つまり、私のは、フォークはマルリーでナイフはペルルのシリーズ。横の席は、フォークはペルルでナイフはマルメゾンといった具合。自分の前に置かれたカトラリーが好みのシリーズじゃなければ、こっそり向かいの人のと交換しちゃえ、みたいなノリ。かーわいいよねえ。デュカスのこういう遊び心って、ほんと感心してしまう。レストランは遊び場であるということを、彼はちゃんと意識している。

foiegras他のテーブルのカトラリーにまで視線を向けているところに、アントレの「ランティーユ(レンズマメ)のヴルーテ(ポタージュ)、フォアグラ添え」がやってくる。寒い冬の日にピッタリの一品だね。スープ皿には、フォアグラだけがちんまりと。熱々のランティーユヴルーテは、陶器のピッチャーにたっぷり入ってやってくる。ここが「59ポワンカレ」なら、ヴルーテを注ぐのはセルヴール。でもここは「オ・リヨネ」。ピッチャーに手を伸ばし、自分でヴルーテを皿に注ぐ。とろとろの液体が皿に溢れ、ランティーユの柔らかな香りが立ち上る。おいしそー、いただきます!

ランティーユ、好き♪フォアグラも好き♪典型的な冬ご飯。レンズマメ特有のドロリとしたテクスチャーが田舎の雰囲気をかもしながらも、味自体はあっさりとしたヴルーテは、お腹に優しい。香ばしくもトロンと甘いフォアグラに絡ませて、パクパクパクリ。ん〜、しみじみとおいしい〜。

cunnelleプラは、「カワカマスのクネル、エクルヴィス(ザリガニ)添え」。クネルは、カワカマスの身をはんぺん風に仕立てたもので、リヨン名物。エクルヴィッスは言わずともながのこの地の名産。リヨンの誇りみたいな一品だね。グラタン皿に入れられてやって来た、あっつあつのクネルをハフアフいいながらいただく。ふわりと軽いクネル、濃厚なソース、印象的なエクルヴィス。とてもよくできたおりこうさん。何年ぶりだろう、クネルなんて食べるの。こんなにおいしいものだったっけね。それともここだから?よくわからないけど、まあなんでもいいや。今ここに、おいしいものがあるのは事実だもんね。口の中をやけどさせながらクネルを堪能。

味見させてもらった、「コション(子豚)とキャベツの煮込み」もこれまた絶品。素朴な料理法で、素材のよさをとことん味わえる料理。次回はこれを!と決心。「子牛のレヴァー」のつけあわせのジャガイモソテーにもうなってしまう。美味だ〜。

料理のできのよさに比べると、デセールたちは普通かな。「プラリネ・ローズのウッフアラネージュとタルト」は、それなりにおいしいけれど、別にたいしたことはない。4種味見したデセール全てが同様の感想。んー、シンプルはシンプルでかまわないのだけれど、もうちょっと味に感動を加えてほしいかな。次回はデセールなしでいいや。

さすがはデュカスの店、というのが感想かな。一緒に手がけたのが、パリ髄一の有名ビストロ「ラミ・ルイ」のオーナーというのも頷ける。狙いすぎの感はあるけれど、かなりいいビストロだよね。なにより料理は抜群においしいし、キッチュな雰囲気も悪くない。地方料理への注目度が高い最近のパリで、もっとも注目に値する1軒だろうな。それにしても、デュカスはすごい。ロビュションみたいに感情的に愛せはしないけれど、理性的に尊敬してやまないシェフだ。ダンサーでいえば、ロビュションはカデール系、デュカスはニコラ系とでも言おうかね(笑)。

そして2ヵ月後、再び「オ・リヨネ」を訪れる。「うちで食べてけばいいのに。今夜はすごくいいブーダンを焼くんだよ」という友達の甘すぎる誘惑を必死に振り切り、レストランへと足を速める。

コションにかなり心を惹かれたにもかかわらず、やっぱり食べたことがないものを、と、poulet鶏の赤ワイン煮込みみたいなものを選んでみる。名前を忘れてしまったこの料理がまた絶品!こってりと味わい深くパンチが効いたソース、それに負けないたくましい味の鶏。添えられた、巨大マカロニのグラタンとともに、最後のソースの1滴までもをすくい取って口に運ぶ。至福!

カルナヴァル(謝肉祭)のこの季節。カフェの時間には、季節物のベニエがサーヴィスで出てくる。さっくりほっくり、頼りない甘さが素晴らしいベニエ。デセールたちよりずっといいじゃん。これ、定番でセールにすればいいのに。おかわりをねだり、ご機嫌な夜を過ごすのでした。次はいつ、来られるかな〜。


sam.18 jan. sam.15 mars 2003



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