homeホーム

グルマン・ピュスのレストラン紀行


ル・ムーリス(Le Meurice)

2004年のレストラン事始は、とびっきりのいい男がいるあの店へ。いや〜いいねえ、今年最初のレストランがあのシェフの所だなんて、こりゃ、さいさきがいい♪

ソルド(バーゲン)の初日、買い物になんて目もくれず、いそいそおめかしして外に出る。久しぶりに拝む気がする太陽がサンサンと照ったポカポカ陽気。この時期のパリとは思えない素晴らしいお天気に感動。チュイルリー公園を散歩したい気持ちを抑え、オテル・ムーリスのエントランスを入る。ヤニック・アレノと彼の料理を楽しみに、「ル・ムーリス」ランチです。

9月の着任以降、パリきっての注目レストランとなった「ル・ムーリス」。そりゃそうだろうなあ。あの料理とあのシェフだもん。注目しない方が変だよね。ヤニックの体制になって早々に一度食べに来た以来。先月、カクテルパーティーでバンケット料理は食べたけれど、あれじゃやっぱり本領が見えてこないものね。久しぶりのきっちりヤニック料理にワクワクしながら席に着く。

南向きに大きな窓がしつらえられたレストランに、外の太陽が遠慮なく降り注ぐ。クラシックで豪華絢爛、落ち着いた装飾が、輝く太陽を受けて独特の趣を出している。よいね、昼間の雰囲気、これはこれで。1月初旬のランチなんて、どこのレストランも全くお客様がいないのが普通なのに、ほぼ満席。さすがだ。

ルイーズとグジェール(シュー皮チーズ包み)グジェールをお供にポムリーのルイーズをいただきながら料理選択。封筒に入ったようなチャーミングなカルトを手にとり、1月のヤニックとこんにちは。料理名を追いながら目を細めてしまう。どれもこれも、なんて気をそそる料理なんだろう。全部食べたい、、、。料理とお酒を決め、お気に入りの栗パンをもらって、一段落。運ばれてきたアミューズに向かいましょう。

セップとクリのポタージュ。絶品その1「シャテーニュ(クリ)とセップ茸のヴルーテ」。陶器の蓋が開いたとたんにフォンとセップのかぐわしい香りが鼻腔をくすぐる。ふわあ、もう、この香りだけで満足だ〜。強い味のシャテーニュとセップに負けないようキッチリと塩を利かせたヴルーテは、一皿丸々食べたら食べ疲れするかもしれないけれど、スープスプーン5口分のこの量をいただく分には完璧に美味。力強いクラシックな味を感じる。

クリーミーなヴルーテに浮かぶ白いスライス、おっきなセップの薄切りかと思ったら生シャテーニュのスライス。ひょっとして、極々浅く火が通ってるのかな?ほのかに甘いのよね。でも歯にあたるサクンサクンという感触は生だと思う。強めの味でまとめた料理にマイナスのアクセントを置くことで、とてもいい印象をつけている。ああだめだ、もうすでにじ〜んと感動してしまう。

ブイヤベースジュレ。絶品その2アントレは「ルジェ(ヒメ鯛)のポワレ、サーディンクリーム、ブイヤベースノジュレ仕立て、ラングスティヌのフリット添え」。前に食べた甲殻類のパエリヤもすごく食べたかったのだけれど、やっぱり違うのを、ね。恋しい南仏に思いを寄せて選んだ一品がこれまたいい!

ヤニックお得意の2重構造作品。スープ皿のくぼみにブイヤベースを注ぎ、透明な蓋で覆った上に、ルジェのポワレとサーディンクリーム。ブイヤベースを眺めながら、まずはルジェとクリームから。ま、これは単純なポワレ。素直においしい。アイスクリーム風に仕立てたサーディンクリームの口当たりがまろやかでよいね。

ころあいを見計らって、蓋が外されソースが注がれる。ふわりと香る海の幸とサフランの香りに、ああまた南が恋しくなってしまう。このブイヤベースジュレが絶品。ジュレといっても本当に本当にゆるいジュレ。ほとんど液体の状態なのだけれど、写真を見て分かるように、散らしたセベット(新タマネギの茎、みたいな物)やイカが下に沈まない状態。テクスチャー的にもいいけれど、これってひょっとして、視覚的な美しさを保つためにジュレ状にしているの?聞いてみよう、ヤニックに。見た目に負けず、味がまた、泣かせる。ものすごく品のあるブイヤベースのフォンにため息。何でこんなに上品な味を出せるんだろう?セベットのクキクキ(と私には思える)とした歯ざわり、柔らかなイカやカイ、各種野菜、全てがきれいにまとまって、なんともいえない雰囲気を持った料理。ああ、今さっき食べたルジェを忘れる。

蓋が開いた頃に運ばれてきた、付け合せのラングスティヌのフリットもなかなか。バジルと一緒にパットフィロでまいてサックリ揚げたラングスティヌは柔らかく甘く周りはカリカリで、シャンパーニュに最適。

いやいやいいねえ、この料理。一皿で3つも楽しみをくれる。

プラの子羊の肩をデクパージュ(取分け)アントレの感動に比べるとプラは普通。でもこれは私のせい。だって、「アニョー(仔羊)の肩肉、コンテとジャガイモのピュレ」を選んだのは、ひとえにガルニチュールの“コンテとジャガイモのピュレ”が食べたかっただけなんだもん。

アニョー、背肉以外はあまり得意じゃないと分かっていながら果敢に挑戦してみたけれど、やっぱりまあ、こんなものかなあ。食べられるしおいしいけれど、背肉のおいしさに比べると雲泥の差があるもんね。

肉、ジャガイモとコンテのピュレ期待していたピュレはさすがの味。コンテチーズの濃厚でフルーティーな香りとジャガイモの甘味、肉の焼き汁が一体となって、全然悪くない。強いて言えば、テクスチャーがもっとトロトロの方が好みだけど。

仔牛のコンフィ味見させてもらった友達の「ヴォー(仔牛)のコンフィ、おばあちゃんの野菜添え」は素晴らしい。トロットロに煮込まれた崩れ落ちそうに柔らかなヴォー、甘味が凝縮されたタマネギ、コクを添えるベーコン、全て文句なし。

おやつ時間。つい数日前から、ここ、シェフ・パティシエが変わったばかり。前の人も悪くなかったのだけれど、ヤニックの強い個性の前ではやっていけなかったのかなあ。新しいシェフ・パティシエは、オテル・クリヨンから。「ル・ブリストル」のジルちゃん、元「ル・サンク」のローラン、リッツ「レスパドン」のエディ・ベンガネムという、私がメチャメチャ気に入っているパティシエたちを育てたクリストフ・フェルデールの愛弟子カミーユが移ってきた。クリストフ曰く、“僕が今までに持った最高のスーシェフだよ、素晴らしいパティシエだ”というカミーユだけれど、今日のところはまだまだ、前のシェフ・パティシエの作品を作っている状態。しばらくしたら、カミーユ自身のお菓子を食べられるでしょう。楽しみにしてます。

キャラメルのオペラ、リンゴのタルト、ミントジュレとショコラムースというプチフールは、ごくつまらないものだけれど、デセールにいただく森イチゴとブリュレのアイスクリーム「フレーズデボワ(森イチゴ)、カリカリクレームブリュレのアイスクリーム」はなかなかの出来。さすがにこの時期のフレーズデボワは、いくらスペインから持ってきているとは言っても、5月にいただく南仏のフレーズデボワの味とは似て非なるもの。出来がよいのは、クレームブリュレアイスクリームの方。薄いクレープに包んだアイスクリームがなかなか美味。甘くクリーミーでおこちゃまな味。ジルちゃんが、秋にクレームブリュレのアイスクリームを出してくれてその味に感涙したけれど、これも同じ傾向。イチゴの味はともかくとして、構成もかわいらしいし、なかなか素敵な一皿だと思うな。

カフェをいただき、例のカカオフェーヴ型ショコラの容器に入った極薄キャラメルをつまむ。カカオ豆のお持ち帰りをまたまたリクエストしそうになるが、家でじっと私の帰りを待っている大量のショコラたちのことを思い出し、頭を振る。次回にしよう、次回に。家においしいショコラがないときに、ね。

代わりといってはなんだけれど、ガレット・デ・ロワのフェーヴをもらう。昨日1月6日は、ガレット・デ・ロワ(アーモンドクリームを入れたパイ)を食べる日。この日のゲストには、お土産にガレット・デ・ロワが手渡されたはず。一日遅れで残念。でも、ひたべったい丸型にムーリスオリジナルのイラストを描いたフェーヴはかわいらしくて、これだけで十分にゴキゲンになれるのでした。ああ、もちろんヤニックとのおしゃべりもあったしね♪目元口元の深いしわが渋くて、強い目が美しいヤニック。いやあ、いつみてもほれぼれするねえ。前から見る姿もよければ、腰の細い後ろ姿もまた素敵。5年前にリヨンで開かれた料理コンクールで一目ぼれしたヤニック。知り合いになったのは1年前からだけれど、5年前と変わらず、ううんそれ以上にいい男になっているヤニックと彼の作る料理に、私はほんと、参っている。


Mer.7 jan.2004



back to listレストランリストに戻る
back to list1区の地図に戻る
back to list予算別リストに戻る


homeA la フランス ホーム
Copyright (C) 2004 Yukino Kano All Rights Reserved.