昨日は、「ル・ムーリス」の新しいシェフ・パティシエ、カミーユ君の取材だった。パティスリー界の大御所、クリストフ・フェルデールが、「僕の最後にして最高の弟子!」と手放しで褒め称えるカミーユ君は、弱冠23歳。どこぞの子供?と思うような、赤いほっぺにあどけない顔をしたカミーユ君が作るデセールは、クリスが絶賛するだけあって、それはそれは見事。4種作ってもらったお菓子を、撮影しながら全て平らげ、ついでにインタヴュー時にはマドレーヌまで味見した。いとしのボーシェフ、ヤニックも撮影に顔を覗かせてくれて、幸せいっぱいの甘い午後を過ごした。
で、翌日の今日は、仕事モードを取り払い、お客様モードでおしゃれして再び「ル・ムーリス」。やっぱりこういうところは、お客様として来たいよね。
スピちゃんがお気に入りのアレクサンドルが満面の笑顔で出迎えに出てくれる入り口の横に、おお、ボーシェフ!食事の前にあなたに会えるなんて、幸先がいいわ〜。ボーシェフとビズーを交わし、また後でね〜!と手を振ってから、ようやく、アレクサンドルのエスコートで、見目麗しい贅の粋をつくしたサロンの席に着く。相変わらず、ソツなく品よくさりげなく、見事なサーヴィスをこなすアレクサンドル。ボーシェフ、カミーユ君と並んで、この店の宝だね。
かわいらしいクグロフ型に入った、鴨マグレとヴューコンテの塩味ケークをつつきながら、シャンパーニュで乾杯。コクのあるケークが美味。シャンパーニュが進んじゃって困るなあ。
この店はまだパンを自家製にしていない。でも使っているパン屋さんは、パリでも屈指の名店。パリに2人しかいないパンのMOF取得者の1人の店から仕入れている、高品質パン。お気に入りのシリアルとクリのパンをもらって、極上バターをひとかけら塗って、パクン。この国は、なんでこんなにもおいしいんだろう、と、痛感する瞬間。
本日のアミューズは、「ソリレスを入れたセップのヴルーテ」。秋の到来を告げるセップが堂々と自己主張する中にセップの濃厚な味がよくマッチ。いかにもボーシェフらしい、塩がしっかり決まった1品ですね。
アントレの、「小ぶりのアワビ、ポレンタのガレット、白インゲンソース」に感激する。ニンニクとイタリアンパセリで味をつけたアワビは、まあ、想像通りにおいしい。すごいのは、ポレンタと白インゲンという脇役の味。サックリと焼き上げたポレンタの中身はホックリクリクリ。それに絡めていただく白インゲンのピュレというかソースが、気が遠くなるくらいにおいしい。こういうソースがあるから、フランス料理は止められない。体中で感動する。
プラは、「ヒラメの骨髄添え、セップのポワレ」。お高級魚のヒラメは、そのままいただくとちょっと身がパサパサするというか、脂分が足りないな、と思うことが時々ある。そんなヒラメに、ボーシェフは、トロトロ食感の骨髄を重ね合わせて、淡白なヒラメの味を見事に彩った。ソースももちろん肉系のフォンからできたインパクトの強いもの。こうやってヒラメを食べることも出来るんだねえ、と、感心。骨髄を器にして盛り付けられたセップと白インゲン(好き♪)は、正統派にどこまでもおいしく、クラシックの高い技術をしっかり駆使する料理人の力をまざまざと見せ付けられる。しかしまあ、量は多いわね、、、、。といいながらも、人の青首鴨のロティやオマールのヴェルヴェンヌ風味もたっぷり味見する私。今夜は、お腹、絶好調!
おやつは、昨日も味見をしたミルフォイユ。すごいんだよ、カミーユ君のミルフォイユは。食べる価値もあるけれど、なにより一見の価値がある。「ショコラ、シナモン、ピスタチオ。ミルフォイユをお好みのまま」と題されたミルフォイユは、大きなシャリオで運ばれてくる。シャリオには、長さが40cmはありそうな、ザックリ軽く焼きあがったばかりのナチュラルとショコラのフイユテが積み木のように何本も重ねられている。その料理脇に、3つの味のソース、ムース&バヴァロア、それに各種ナッツの砂糖がけが用意されていて、つまり、自分で好きな味をリクエストして、好みのミルフォイユをその場で作ってもらう、という趣向。ウルトラフレッシュなミルフォイユなのだ。
昨日は、ショコラのフォイユテを食べたから、今日はナチュラル味で。クリームはやっぱり3種欲しい♪ソースは、ショコラがやっぱりいいな。ナッツも全部ね!大好きなので、たっぷりね!一つ一つのリクエストに、アレクサンドルは優しく頷き、大きなお皿に素敵なミルフォイユを作ってくれる。
見た目は巨大だけれど、嘘のようにお腹にたまらない、すばらしく美味なお菓子。軽くかぐわしいフォイユテ。風味豊かですばらしいテクスチャーのクリーム類。かんっぺきに美味なナッツ。カミーユ君に惚れるね。そしてカミーユ君みたいなパティシエを育てたクリストフにも惚れ直す。
昨日のインタヴューで、カミーユ君は、23歳と思えない、ひどくしっかりした奥深い考え方をいろいろ語ってくれた。将来が取っても楽しみにな、この2〜3年で発見した中ではピカイチのパティシエだ。ブーラヴォ!ロランやジルちゃんといった、兄弟子を超えるかもよ、これは。兄2人は、めちゃめちゃ個性が強くて、迫力ある才気ばしったデセールを作るけど、末弟カミーユ君は、痛く誠実で熟考に熟考を重ねた完璧なデセールを作る。兄2人は天才肌、弟は秀才肌?ちなみに彼らの間には、彼ら3人に比べるとちょっとだけ凡庸だけれど、なかなか頑張っているFのAやRのBがいる。クリストフは子宝に恵まれている。
綿密においしく作られたプチフールも全て平らげ、もう一度カミーユ君に拍手をしたところで、ボーシェフの登場。カミーユ君は?と聞くと、今夜はいない、と。ちぇ。まあいい、ボーシェフが側にいてくれるなら。ボーシェフと楽しくおしゃべりをしてから、アレクサンドルの笑顔に見送られて、美しきレストラン「ル・ムーリス」とさようなら。この店、来るたびに、どんどんよくなっていくね。来年、遅くとも再来年のミシュラン速報が流れた日、私はきっと花束を持ってこの店を訪れるんだろうな。
ven.10 sep. 2004