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グルマン・ピュスのレストラン紀行


ル・ムーリス(Le Meurice)

約束の時間にちょっと早く着く。「テーブルで待ちますか?」というアレックスの問いにかぶりをふり、入り口脇のソファーで寒いなあとぼんやりしてると、おおお〜っ、いい男が近づいてくる!
「こんな寒いとこでなにしてるの?友達を待ってる?おいで、奥のバーでおしゃべりしながら待とうよ」。ラッキー、寒さに震えてみるもんだ♪ところでシェフ、あなたはこの時間に働いてなくていいの?と思いながらも、ヤニックと2人きりで過ごすの至福のひと時。たっぷり遅れて来てくれるといいなあ〜、と願うものの、律儀な友人たちはきっちり時間通りに現れる。ああ、幸せって続かないのね、、、、。

魅力的なシワをたっぷりたたえたヤニックの精悍な笑顔とサヨナラして、清潔さと品のよさが顔中にキラキラ漂うアレックスの笑顔に再会し、テーブルにつく。馴染みのソムリエ君お勧めの、極小ドメーヌのシャンパーニュの栓を抜いて、チン!お馴染みの、ヴューコンテ&鴨マグレの燻製が入ったクグロフをつつきながら、おしゃべりに花を咲かせ、息の継ぎ間にカルトを眺めて、今年最初の「ル・ムーリス」でのゴハンを選び出す。

アミューズの白トリュフリゾット。チーズが濃いのでたくさんは食べられないアミューズ、珍しくスープじゃないものが出る。リゾット。白トリュフにセップの香り入りだったかな、確か。トリュフ、キノコ、チーズの深い深い味わいの細かなニュアンスまできっちり引き出した、超おりこうさんの一品。でも、秋にニースで食べた白トリュフのリゾットの方が私は好き。今夜のヤニックのリゾットが秀才型なら、あの夜松嶋さんが出してくれたリゾットは天才型。前者が、何度も作ることが可能な普遍的なものであるなら、後者はあの夜あのひとときにしか存在しなかったはずの何かを持った刹那的なものだった。いや、これも十分、十二分においしいのよ。でもね、体中をシビレさせてくれたあのリゾットの味が忘れられない。(またつくってね、松嶋さん♪)

黒トリュフとジャガイモのフラメンキッシュ(アルザス地方の極薄タルト)いつものことながら散々に悩んだ挙句のアントレは、ヤニックが薦めてくれた、「黒トリュフとジャガイモのフラメンキッシュ」。永遠の恋人燻製サーモンも、衝撃的な出会いを果たしたアワビとヒヨコマメと白インゲンもあきらめて選んだ割には、正直、普通の料理。ベースになる極薄のパットがちょっとつまらな。あまりにパリパリしすぎていて味が薄い?個人的には、もっとバターの香りをまとってサックリしたパットの方が、ジャガイモと黒トリュフに合うんじゃないかと思うのですが。どうでしょう、ヤニック?少なくともパットは、カミーユ君に作ってもらう方がよいのでは?黒トリュフとラットジャガイモ。おいしくないわけがない組み合わせは、もちろん味覚も嗅覚も楽しませてくれるのだけれど、あまりにも予想通りの味というか驚きや感動が足りない。贅沢な不満なのかもしれないけど、ときめきに欠ける料理はちょっぴり寂しい。

コブタちゃん。美味プラはコブタ好きの本能に忠実に、コブタのラード。ふっくらとやさしく火が通ったコブタはそのとろけそうな脂といいさっくりした肉といい、コブタのよさが凝縮されている。おいしいね〜。軽いクリーム仕立てのキャベツとの相性もよく、やさしく甘くとろける料理。好きなタイプ♪この季節になるとお約束のように散らしてある黒トリュフは邪魔。この秋、ニースとパリでアルバトリュフの魔力に完璧にやられてしまった私には、黒はしょせん邪道であり異端。もうトリュフは白しか食べたくない、とまで思うようになってしまった。

付け合せのジャガイモピュレがごっきげんな味。ただでさえバターたっぷりの濃厚ピュエに、コブタにもサラリとかけられたひたすらに濃い肉汁をたっぷりかけていただく。つややかなヴィロードを思わせるピュレの舌触りと、バターやフォンの強く奥深い香りが複雑に絡み合った、いかにもフランス料理らしいたくましくもあでやかな味わいに、口の中がとろける。とろけは頭や体にも浸透して、体中がトロンと満足する。まあこれは、ピュレのせいでなくて飲みすぎているワインのせいかもしれないけどね。いやあ、おいしいピュレです。

パイナップルとココナッツとライムのエキゾチックなおかしフロマージュはもちろんパスして(いつかこの店でフロマージュを食べる日がくるのかしら?)カミーユ君のおやつ時間。カミーユ君にまかせて選んでもらったおやつは、パイナップルとココナッツ、ライムを使ったこの冬の新作。先週会ったときに話だけ聞いててうっとりしていたおやつ。自分では絶対に選ばない組み合わせの、それほど好きではない素材が全て組み合わさったお菓子だけれど、そこはさすがはカミーユ君の味。ヴァニラをまとった暖かなパイナップルも、鮮烈な冷たさと酸味のライムソルベをやさしく包み込むメレンゲも、何もかもがおいしくて、パクパクパクと3口で食べ終わってしまう。

おまけおやつ。 ”小さな”ミルフォイユそんな私を哀れに思ったのかどうかは知らないけれど、アレックスの手下その1(名前知らない)が、友達に例の素敵なミルフォイユを作った後、「味見しますか?小さいの、つくりましょうか?」と聞いてくれる。喜色満面の笑顔を返し、ショコラムース&ヴァニラクリーム&ピーナッツ&ショコラフイタージュの組み合わせでミルフォイユをつくってもらい、ゴキゲンゴキゲン。こちらはさすがに3口では食べ終わらず、6回ほどスプーンを口に運んではおいしい!おいしい!を繰り返し、カミーユ君のおやつを満喫する幸せに浸る。

ミルフォイユの作成風景甘いものはそんなに食べられない、という友人たちの驚愕の表情を尻目に、青リンゴのソルベ、フレーズデボワのマカロン、新作のカシスクリーム入りガナッシュを詰めたショコラ、それにマロングラッセというプチフール群もきれいに平らげ、今夜もまたカミーユ君への拍手を心の中で送る。ブラヴォ〜!

と、そこに現れるボーシェフ・ヤニック。後に従うアレックスが、ムーリスカラーのきれいなパステルグリーンの箱を3つ持ってくる。
ガレットデロワ。これは8人用の大きいサイズ「ガレット・デ・ロワ。今、焼いてもらったんだ。お土産に持って帰って!」パチンとウィンク。クラッとする。これはワインのせいじゃなくて、ヤニックのせい。

食事前にヤニックとおしゃべりをしたときに、今年食べたガレット・デ・ロワの中で、カミーユ君のがダントツにおいしかった、という話をした。食べたい?焼いてもらおうか?というヤニックの言葉を冗談だと思って、ウィ、シェフ!と答えたのだけれど、ホントに焼いてもらってくれたんだー。うれし〜。今年、カミーユ君が作ったガレットは、フランジパン(アーモンドクリーム)入りの普通のタイプと、洋ナシのカラメリゼ入りの2種類。フランジパンも素敵な味わいだったけれど、洋ナシ入りがこれまた泣ける味だった。とってもヤワヤワでガレットというよりはデセール的なガレットを、この間会ったときにたっぷりもらって狂喜乱舞したっけ。その後もう一度普通のガレットをもらう機会があり、今日はカミーユ君のガレットをもらう3度目。オレンジフラワーウォーターがほんのり香るカミーユ君のガレットを、ホテル住まいだしそんなに食べられない、2人で1個でいい、、、という友人の分もいそいそともらってガレット2つを抱え、この上ない上機嫌で「ル・ムーリス」を後にする。

うっとりする料理を作ってくれる美しいヤニックも、心が躍り上がるようなおやつを作ってくれるかわいいカミーユ君も、2人とも大好き!


mar.18 jan 2005


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