9月30日 ヤニック&カミーユ:
レストランの入り口で人を待ちながらカルトを眺める。呆けたように口あけて、よだれをたらさんばかりにしているところに、相変わらず苦みばしった凛々しい笑顔で(と私には思える)ヤニック登場。あーだこーだと料理解説してもらっているところに、同席者到着。ウィルフリッドに私たちのエスコートを譲って、ヤニック退場。
シャンパーニュ&鴨マグレとヴューコンテ入りクグロフで乾杯!
ムールだかなにかの貝が入ったラヴィオリ入り甲殻類スープが今夜のアミューズ。このアミューズは、ヤニックの過去の飛び切りアミューズ群の中においても、トップクラスの見事な作品。貝の濃厚な風味に軽やかなクリームのエミュルジョン。色味も味もアクセントになっているほうれん草。いつも思う。このアミューズにこそ、ヤニックの実力が余すところなく詰まっていると。
女の子2人のディナーにヤニックは気をよくしたのだろうか?サプライズ!と、テーブルに運ばれたのは、ラングスティヌのタルタルとカヴィアに、タラマと青リンゴのジュレを添えた、軽やかで美しいアントレ。うれし〜、ちょっと気になっていたんだ、これ。カヴィア入りタラマを下敷きに、トロトロに甘いラングスティヌとカヴィアが重なっている。ウィルフリッドの手下が、銀の器から、フルフルと今にも溶けてしまいそうなジュレをよそってくれる。なんとまあ、きれいなこと。
味?その美しさに呼応している。エビの甘み、カヴィアの甘み&塩味、タラマの塩味が一体となって見事なヨード香をかもし出す。それにあわせる、なんとも形容しがたい、とろけるような食感と凛とした爽やかさにヴェルヴェーヌの香りを添えたジュレがまたすごい。全てを一緒に口に入れたときに、口内が感じている感動は、これはもう、食べないと想像がつかないはず。思わずため息。
カルトを見た瞬間、アントレはこれ以外にない!と一瞬で私の心を捉えたのは、ナスの薄焼きに、ブーダン、セップ、リンゴを添えたもの。これでもか、とばかりに好きなものが組み合わさってる。この間、ブリファーさんの所でも、ナスをパレットにして様々な食材を盛り付けた料理を食べた。ブリファーさんのが、ファンタジー感あふれてめくるめくおいしさだったのに比べると、ヤニックのそれは、威風堂々と輪郭のはっきりしたおいしさ。ブーダンの香ばしくも甘い風味、旬のセップのなんともジューシーで繊細な香り、名残のナスのトロトロ感、ブーダンのお約束リンゴの酸味でアクセント。ミニナスの薄揚げは、味というより飾り的かな。お見事です、何もいうことありません。
アントレ2つの見事さにハハ〜ッという感じで下がった頭は、プラを迎えて、床を覆う見事なモザイクについちゃいそう。ヤニック・アレノのクラシックにかける意気込み、ここに見たり!みたいな、リエーヴル・ア・ラ・ロワイヤル。本格的な冬を迎える前に一度は食べたい、野趣あふれる野うさぎの濃厚な煮込み。下手な店で食べると、肉の香りが気になったり、ソースがギスギスしていたりなので、いい店を選んで食べたい、年の瀬のご馳走だ。何十時間煮込む、って言ってたっけ?荒々しさを全て優しくそぎ落とされ、とろけるようにホロホロとなった、でも決して、野生のたくましさを失ってはいない肉の繊維一本一本にまで、料理人の魂がこもっている。絹のようになめらかな深い色のソースは、この世のおいしいエキスを全て詰めたよう。濃厚かつデリケートで柔らかく、繊細でありながら雄々しい。フランス料理はソースに尽きる。こういう料理を食べるとしみじみ確認する。この手の手間隙かかった重厚なソースが敬遠されて久しいが、こういうクラシックなソースこそ、フランス料理の基本なのだと思う。サクリとポワレしたフォアグラを添えたのがまたブラヴォ!フォアグラの甘い甘みが、野うさぎにねっとり絡み付いて、ソースの強さを緩和している。すごい!すごい!!すごい!!!体も心もググググググッと高揚する。
高揚をさらに高めてくれるのは、我らがカミーユ君のおやつ。いつもながら、とてもアヴァン・デセールとは思えない上質の、マカロンやグラスデセールをパクパクしながら、主役の登場を待つ。秋の新作がたくさんあるからと、4皿もおやつがテーブルに並ぶ。うわ〜い、おやつがたくさんだ〜!どれから食べ始めてよいのやら、あわててしまう。
ポムポムポムと名づけられたリンゴ(ポムはリンゴ)尽くしのおやつは、ソルベ、あめ、コンポートなどなどにリンゴが変身。悪くないけど、基本的にリンゴのおやつ、そんなに好みじゃないから。
ピンクグレープフルーツのソルベマカロンは、キュートでよい感じ。丁寧に飾られたイチゴやヴェルヴェンヌだったかロマランだったかのソルベがあわさって、全体的な色のトーンがとってもカワイイ。爽やかで奥ゆかしくて、素敵だ〜。
洋ナシのキャラメリゼにキャラメルアイスクリームが乗ったお菓子は、カミーユ君のパティシエとしての基本的実力を満喫できる。洋ナシの煮かたのすばらしさ、洋ナシとアイスクリームをつなぐごく薄チュイルの質の高さ、そしてキャラメルアイスの見事さ。リンゴ同様に洋ナシも大好きな食材ではないけれど、うなるね、あまりの見事さに。
でも、今夜私の心を一瞬にして捉えて、他3種のおやつを多少なりともかすませたのは、カフェショコラと名前がついた1品。ヤニックは、ティラミスみたいなもんだ、って言っていたけれど、まあ確かにそうなのかなあ。まず形が素敵。細長いショコラムラング(カミーユ君はムラングお上手)を積み上げた板と小さなショコラの板で囲いを作り、中にはマスカルポーネやその他クリーム(なのかな?)。ふんわりクリームの上に、カフェアイスクリームを添えている。感動的に軽いムラングは歯の間でサククククと崩れ落ちる。トントンとスプーンでショコラの殻を破ると、閉じ込められていたクリームがトロロロロ〜と流れ出る。嘘みたいに軽く、そして風味豊かなクリームに幸せいっぱい。そして極めつけはカフェのアイスクリーム。カフェの香りの魅力を神業的に閉じ込めたすばらしき冷たいクリームにうっとりするばかり。久しぶりに、カミーユ君のクリエーションに心ときめく。
中にプラリネを詰めた焼きたてのミニフイタージュもたっぷり平らげ、お茶をすすって、悦楽の時を終える。なにからなにまで、全くもってすばらしかった、ムーリス3本立てのデビュー。
10月11日 カミーユ:
今宵もまた、シャンパーニュとクグロフのあと、例の貝のラヴィオリとヴルーテで宴が始まる。ラヴィオリがちょっといけてない。前はもっとなめらかな舌触りだった。おいしいけどさ。今夜はヤニックがいないんだ。モスクワに行っちゃっている。寂しい。
寂しさを紛らわすために、秋の至福の香りを満喫する。この間来たときに、横のテーブルでこぞってこれを食べているのを見て、次はぜひ!と心に誓っていた、アルバ産白トリュフのリゾット。リゾットが入った皿に続いて、ゴロンと大きな白トリュフが恭しげに運ばれ、白手袋をはめた手が目の前でハラハラとスライスしてくれる。もっと!もっともっと!もっともっとスライスしてちょうだい!!
お味のほうは、普通だった(笑)。いやもちろんおいしい。すごくおいしいけど、強烈においしくはなかった。黒いいとことは似ても似つかぬ白さんは、“強烈”に、ほとんど暴力的においしくなくっちゃイヤだ。ちょっと香りが薄いというか、官能性にかける。もともと、リゾットで味わうよりパスタで味わうほうが好きなのかもしれない。去年、ル・サンクで、頭がクラリとするような白トリュフパスタを食べたのが恋しい。
続く仔牛のロティ、セップのニンニクパセリソース詰めは、この間、散々セルヴール君に勧められた料理。ニンニクパセリが詰まったセップのベニエ、に惹かれて、今夜試してみる。その、セップちゃんは、確かになかなかよろしい。ちいさなセップの中をくりぬいて、サラリとしたニンニクパセリソースを詰めて、衣を軽くつけてフライ。プシュンとあふれる緑のソースの香りがたまらない。フライにすることによって、セップの香りがちょっと薄れてしまうような気がするけど?仔牛は、そつなくおいしいけれど、ミルキーさというか甘みが弱いかなあ。全体的に肉にインパクトがない。上品すぎるというか、、、。前回のリエーヴルが強烈だっただけに、印象が弱くなっちゃうね。
プチフールに続くおやつは、前回食べなかった残りの新作、ショコラのお菓子を試す。香辛料が効いた固めのビスキュイに濃厚なショコラをかぶせてヴァニラアイスクリーム(だったと思う)。お味は見事だけど、ビスキュイがちょっと固くて、ナイフの音が立ってしまう。やっぱり私は、離乳食系が好き。この間食べた、カフェショコラみたいな、ね。アツアツのプラリネフイユテをほおばって、ディナーの終了。
まあまあ、だったかな。時々あるんだ、ムーリスって“まあまあ”が。“飛び切り”の時が本当に飛び切りになるので、まあまあも許せるんだけれど。ヤニックの料理もカミーユ君の料理も、味や見せ方がヴァラエティー豊か。食べてみると、同じ人の作品、と思えないものがカルトには混合している。その中から、私が好きなヤニックとカミーユ、というのを見つけ出すのが、このレストランでのポイントなのね、きっと。
10月14日 ヤニック:
ランチなので、サクッと、ね。とはいっても、例のごとく、鴨&コンテのクグロフと、これで3度目になる貝のラヴィオリはお約束。今日のラヴィオリは、3度の中で一番。なんとまあかぐわしい海の幸の香りなのだろう。
ラングスティヌのカネロニがお味見用に運ばれてくる。とてもヤニックらしい、軽やか&華やかなアントレ。ヤニックのアントレは、本当にごく華やかで美しく、なんだ、モダンなセンスたっぷりの軽系料理の職人じゃない、と一瞬錯覚する。
そんな幻想を抱いたままプラに臨み、その一転した迫力にタジタジになるお客様を、私は何度も見ている。つまるところ、ヤニックは、飛び切りのクラシック料理人なのだ。今日は、ヤマウズラをいただく。この季節、やっぱりジビエを堪能したいものね。内臓をペーストにして肉にべっとりと塗りつけたヤマウズラは、ワイルドで血気盛んで、生前の獰猛ぶりが伺える。獰猛なのかなあ、ところで?知らないや、ヤマウズラがどういう生態なのか。それはさておき、まるで、森の中のうっそうとした茂みをついさっきまで目つき悪くうろついていたかのような、生命力を感じる肉に脱帽。ジビエのすばらしさを堪能させてくれる。
プチフールに続くおやつは、もちろんカフェショコラ。わーいわーい!と、まずはショコラムラングを一本つまむ。ん、んん?軽さが足りない、、、。空気より軽いんじゃない!?と思うようなすばらしいはずのムラングに、ほんのちょっぴり湿気を感じる。おかしい。こんなはずはない。前に食べたのはもっと軽やかでもっとサクサクしていた。全体的な味はよいのだけれど、ムラングの質感がちょっと悲しい。案の定というかなんと言うか、カミーユ君は味覚週間の講師に呼ばれて外出中。クスンクスン。カミーユ君がいないムーリスはイヤだ。ヤニックがいないムーリスもイヤだ。この間、ヤニックがいないときは、やっぱり味がいまひとつになってたし、今までも、シェフ不在のときには、料理もおやつも味が崩れるのを感じてきた。最後の詰めが甘くなるというか、エッジが鈍くなるというか、凛とした迫力に欠けるというか。
まとめ:
ル・ムーリスには両シェフがそろっているときに行こう。ハンサムヤニックとカワイイカミーユ君のビズーももらえるしね!
そして秋が深まった11月、再度ムーリスにこんにちは。アミューズに続く、小さな貝類とお米のエミュルジョン、アワビ、リゾット(今度はいい香りだった、白さん)、スズキ、鹿は、ヤニックの存在のおかげで(&にも関わらず)、ステキ、ふむふむ、ふうん、、。に分かれた。洋ナシのコンポートとカフェショコラは、ちょっと力が抜けてる。絶対いない、カミーユ君、今夜厨房に。数日後、道ですれ違ったカミーユ君を問い詰める。ゴメンネ、休んでた、だって。休まないで、お願いだから。
30 sep. 11 et 14 oct. 2005